小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第808回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

秒20コマ無音連写に高速AF、ソニー「α9」の“動画性能”を試す

新しいαの頂点

 4月21日、突然という格好でα“1ケタ番”の最上位モデル「α9」が国内発表された。このタイミングで発表ということは、当然その翌日からプレスカンファレンスがスタートする「NAB2017」を見越した発表、と考えるのが普通である。だが大方の期待を裏切る格好で、ソニーのプレスカンファレンスではα9に関する言及はなかった。

α9

 筆者もプレスカンファレンス後にソニーブースをくまなく探したが、α9の展示はなかった。そもそも実機の展示はNABでは予定していなかったようだが、会期後半にはブースにあったという話も聞いた。大々的ではなく、ごく一部での展示に留まったようである。

 そんなこともあって、動画関係者の間では新しいαシリーズの正体、特に動画性能がよく分からないという状況が続いている。そこで今回は、静止画ではなく動画カメラとして、α9のポイントを押さえておきたい。

 ミラーレスαの最上位モデルとなるα9の実力を、早速テストしてみよう。

大きく変わったボディ

 これまでミラーレスの最上位シリーズであるα7は、初代α7、α7S、α7Rとシリーズを拡張し、さらにそれぞれがMarkIIに進化するという具合で、α7と名のつくカメラだけで6モデルある。

 ボディとしては、初代3シリーズが同じデザイン、MarkIIシリーズからまた新デザインと、大きく2タイプに別れるが、α9は当然α7とは全く別モデルであることから、そのデザインはα7シリーズともα7 IIシリーズとも違っている。

 まず軍艦部だが、α7シリーズの左肩は機能が何もなく、ストンとしていた。一方α9は左肩に連写モードとAFモード切り換えのための同軸ダイヤルが付けられた。先に正体を明かしてしまうと、α9は連写スピードがウリなので、連写モードをダイヤル化したというのは納得できる。

左肩にダイヤルが付いたα9
連写モード、AFモードにアクセスできる

 右肩のボタン、ダイヤル類の位置はα7 IIシリーズと共通だが、撮影モードダイヤルの内容は違っている。パノラマ、シーンモードがなくなった代わりに、プリセット呼び出しが2つから3つに増え、さらに動画のスロー&クイックモードが加えられている。

ダイヤルの撮影モードが見直された

 背面ボタンの配置は大きく変わった。AFモード切り換えが軍艦部のダイヤルに移動したため、そのスペースにジョイスティック状のマルチセレクタが付けられている。本機は設定によりスクリーンのタッチによるタッチAFも可能だが、そのポジションの微調整などに使えるほか、メニュー操作にも利用可能だ。他社のカメラからの乗り換え組も違和感なく、という事なのかもしれない。

マルチセレクタ搭載の背面

 そのほかカスタムボタン3が左側に移動している。動画として大きな変化は、録画ボタンの位置だろう。従来機では右肩の横のほうにあったのだが、動画撮影者には押すとカメラが揺れる、静止画撮影者には間違って押しちゃうといった不満点があった。今回はビューファインダの脇に移動している。押しやすいかと言われるとここもまた微妙な位置ではあるが、ボタン自体は大型化しているので、使い勝手は向上したと言える。

3型TFT液晶モニターは上下のチルトのみ

 メモリーカードスロットも、大きく変わった。α7シリーズでは1スロットだったが、α9では2スロットとなった。デュアル記録やコピーなどができるが、SDXC IIに対応しているのは下のスロット1のみで、上のスロット2はSDXC止まり(ただしメモリースティックデュオ兼用)となった。

ついにαもデュアルスロットに

 反対側の端子類も、かなり変わっている。まずカメラ本体にEthernet端子が付いたのは強力だ。最高約100Mbpsで、指定したFTPサーバにファイルをアップロードできる。これまでコンシューマ向け機能として、Wi-Fiによるスマホアプリへのファイル転送やカメラコントロールに力を入れていたが、LANケーブル直結でファイル転送というソリューションは、やはり連写によって大量のファイルが発生するカメラならではの配慮だろう。

このボディにEthernet端子搭載

 Ethernetの下にはフラッシュ接続端子がある。さらに液晶側には、マイク端子とイヤフォン端子、Micro HDMIとマイクロUSB兼用のマルチ端子がある。ケーブルを挿したままでの撮影用として、ケーブルガードを付けることもできる。

HDMIとマルチ端子のケーブルガード
バッテリも大型化された

 またバッテリのフタは簡単に外せるようになっており、拡張グリップが付けられる。さらに縦撮り用グリップ兼拡張バッテリも発売される。

ホールド感を向上させるためのグリップエクステンション。これを付けると三脚には付けられなくなるので要注意
バッテリースロットに差し込むスタイルの、縦位置グリップ。グリップ内にバッテリーが2つ入る

 撮像素子は、35mmフルサイズで有効2,420万画素のExmor RSセンサー。最高ISO感度409600のα7S IIには負けるが、その半分の204800というのはなかなか立派な数値だ。ただし動画ではそこまでは使えず、最高は102400までとなる。

α9のポイント、35mmフルサイズのExmor RSセンサー

 AFは693点もの撮像面位相差検出と、25点のコントラスト検出を併用するファストハイブリッドAF。撮像面位相差検出範囲は93%となっており、よほど画面の端っこでない限りはAFが効く事になる。

 動画の録画コーデックは、XAVC S、AVCHD、MP4の3タイプ。この中で4K撮影が可能なのはXAVC Sのみだ。ビットレートも最高100Mbpsなのは、本体4K記録が可能なα7 IIシリーズと変わらない。

解像感の高い描画性能

 では早速撮影してみよう。今回使用したレンズは、「Vario-Tessar T* FE 16-35mm F4 ZA OSS」、Gレンズの「FE 24-70mm F2.8 GM」、同じくGレンズ「FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS」の3本だ。

 α9の4K撮影では、いったん6Kで撮影したのち、リサイズして4Kフォーマットに収めるという方法をとっている。この方法のメリットは、縮小することで解像感が上がるのはもちろんのこと、S/Nの向上にも有利だということだ。

 ただし4K/30P撮影においてのみ、HD撮影と比べると画角が1段狭い。24PではHD、静止画と同じ画角なので、6K読み出しで縮小処理を行なうのは、4K/24P撮影のみではないかと思われる。30P撮影ではワイド端16mmスタートのズームレンズがあったので不自由はなかったが、24mmスタートだけではちょっと狭く感じるだろう。

4K撮影時の画角
HDおよびハイスピード撮影時の画角
静止画撮影時の画角

 今回のサンプルは4K/30pで撮影したが、実際に撮影した映像を4Kテレビで見てみると、細かいディテールがぼやけることなく鮮明に表現されており、本機搭載センサーの潜在能力の高さを感じさせる。

解像感の高さはさすが最上位モデル
発色、フォーカス精度も高い

 手ぶれ補正は、レンズ内補正に加えて、ボディ内だけで5軸手ぶれ補正を行なう。上下左右のシフトのほか、ヨー、ピッチ、ロールで5軸だ。静止画では最高5段ぶんの手ぶれ補正能力を謳うが、撮影者が歩くような派手な手ぶれまで補正できるわけではない。

手持ちで歩行時の手ぶれ補正テスト。時折カクンと動く部分が、補正値の限界を超えたところだstab.mov(24.74MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 動画の場合、AFは多点であるという事よりも、むしろカバー範囲の広さと、秒間60回にも及ぶAF演算回数が生きる。いつものようにモデルさんにこちらに向かって歩いて貰ったが、かなり画面の端まで行っても完全にAFが動作している。手前の接近ギリギリまで完璧にフォローするAFは、デジカメ動画時代になって久しぶりに見た気がする。

AFは画面の端まで完璧にフォロー
af.mov(35.15MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 AEにも新モードが追加された。「画面全体平均」と「ハイライト重点」だ。画面全体平均は、常に画面全体の明るさを平均的に見る。

 動画の場合、露出が変動するという事は常にありうるわけだが、このアルゴリズムは動画でも有効だ。今回は明るい風景から手前のシルエットになっているモデルさんへのパンを行なってみたが、特に暗くなった状況に過剰に引っぱられる事もなく、いい結果を残している。

AEの新モードは動画でも使える
ae.mov(117.10MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 一方ハイライト重点では、常にハイライト部分が飽和しないように暗いところは逆に落としにかかるわけだが、暗すぎるとAFも動作できず、フォーカスが付いてこないのがわかる。

 そのほかスポット測光も、標準のほかに「大」が選択できるので、中央部を広く測光するという使い方ができる。

 ただ、動画の露出に関しては、α9には致命的な欠点がある。α7 IIシリーズに搭載されている「ピクチャープロファイル(PP)」がないのだ。動画撮影では、このPPの中にS-Log2やS-Log3といったログガンマの選択モードがある。しかしPPそのものがないので、ガンマカーブの選択ができないのである。なるほど、これではNABで発表しないわけだ。動画派の人はここで「ハイ解散」となるだろうが、ほかにもいい機能があるので、最後まで読んでいただきたい。

センサーの威力を100%引き出す

 今回搭載のExmor RSセンサーは、テクノロジー的には先週お伝えした「Xperia XZ Premium」搭載のものと同じだが、35mmフルサイズセンサーとしては、α9搭載のものが世界最大となる。

 高速メモリが積層されており、ハイスピード読み出しが可能なところがポイントで、α9でもハイスピード撮影が可能だ。Xperia XZ Premiumでは0.2秒ながらも960fps、ただし720pでしか撮影できなかったが、α9では120fpsながらもフルHD解像で、秒数無制限に撮影できるのがポイントだ。24fpsで再生すれば5倍速、30fpsで撮影すれば4倍速スローとなる。

 今回は24fps撮影でスロー撮影をしてみたが、相変わらずAFは動作せずMFになってしまうので、接近する被写体のスロー撮影は難易度が高い。

スロー撮影のサンプル
slow.mov(81.38MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 一方で本機は、静止画の連写機能向上がセールスポイントでもある。電子シャッターを駆使して、6K解像度の写真が毎秒20枚連写可能になる。メカシャッターを使う連写に比べて、4倍もの連写性能だ。

 これもテストしてみた。操作は簡単で、連写ダイヤルを高速連写モードにして、シャッターボタンを押しつづけるだけだ。電子シャッター音を出す事もできるが、全くの無音で高速連写もできる。音楽会撮影など、音が出てはまずい場所での撮影に威力を発揮するだろう。

 動画撮影者としても、6K連番の動画素材が手に入るということになる。フレーム速度が20fpsになってしまうのが難点ではあるが、拡大してHDに切り出して使うような、エフェクティブな撮影では使える場面もあるだろう。

6K連番画像を拡大してHDサイズに切り出し。ここまで拡大しても十分な解像感がある
6K.mov(22.26MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 今回はセンサー感度も上がっていることで、夜間撮影に強い点もポイントとなる。「α7S II」のレビューでも同じ事をやったが、夜間撮影でISO感度を倍々で上げていって撮影してみた。撮影条件は同じで、シャッタースピード1/60、F8で、ISO 100から順に2倍に上げている。

ISO感度サンプル
iso.mov(134.78MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 今回は4Kで撮影したが、サンプルではフルHDに縮小している。このため、S/Nとしては2倍以上上がっている事になるが、ISO 12800~25600ぐらいまでは実用かなという感じだ。一方4KではISO 6400ぐらいが実用範囲だろう。絞りとしてはまだまだ開けられるので、6400止まりでもかなり明るく撮影できるはずだ。

目視ではこれぐらいの暗さ
フルオートではこれぐらいで撮れる

 なお4K解像度での夜間撮影については、実写サンプルのほうで確認していただきたい。

4K解像度での動画サンプル
sample.mov(210.69MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

総論

 スチルカメラとしては久々のα一桁最上位モデル登場ということで、注目度が高いわけだが、動画撮影性能はどうなのかあまりレビューもなく、よくわからない点が多かった。今回動画カメラとして撮影してみて、静止画機能向けにアップデートされた部分は動画にもかなり使えることがわかり、一安心である。

 スロー&クイック撮影も、専用のダイヤルモードができて撮影しやすくなった。動画ボタンの位置変更など、動画に対する「優しさ」も感じられる。ただその反面、これだけの性能を持ちながら、S-Logなどログガンマ撮影に対応していないというのは、びっくりだ。

 もっともα9は、いわゆる“プレーンなα”という意味である。α7シリーズのように、SやRといった展開が今後考えられるのかもしれない。そのときにはまた、ログガンマ撮影可能といった拡張もされる可能性はあるだろう。あるいはα9も、ファームウェアアップデートでPPが搭載という可能性も、と期待したい。

 ただ、価格的にはボディだけで54万円前後するカメラであり、一方α7SIIは現時点で実売33万円前後である。動画撮影者としては、今この段階でα9を買うのは、賭けである。

 将来このボディとセンサーをどのようにチューニングしていくのか、今はまだそのベースが見えてきただけだ。当然、α7シリーズではできなかったことをやってくるはずで、その道が見え始めるまでは辛抱することとしよう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。