小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1016回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ソニー、1型センサー搭載「Xperia PRO-I」でシネマ&ビデオ撮影

1型センサー搭載、「Xperia PRO-I」

プロ機化するXperiaの系譜

Xperiaが汎用機としてのスマートフォンから離脱し始めたのは、2019年の「Xperia 1」からだったように思う。発表された当初、2019年2月のMWC19では、ソニーらしいハイエンドモデルとして紹介されたが、同年4月のNABでシネマ撮影時のスタッフ用モニタとして利用するというソリューションを展示し、業界に衝撃を与えた。さらにシネマ撮影用アプリ「Cinema Pro」を搭載し、映像制作ツールとしての第一歩を踏み出した。

同年9月に発売後、10月には 「Xperia 1 Professional Edition」が登場した。その後下位モデルをはさみながら、2020年5月には「Xperia 1 II」、そして2021年2月に「Xperia PRO」が発売され、名実ともに「プロ機」が誕生した。20万超えのスマートフォンだが、HDMI入力を備え、カメラモニタになる。さらに5Gミリ波対応で、HDMI入力された映像をライブ配信も可能にするなど、スマートフォンのアーキテクチャを使った映像周辺機器といった格好だ。

そして2021年12月に発売されたのが、今回テストする「Xperia PRO-I」だ。他社でもハイエンドモデルはセンサーを大型化してカメラ性能を上げてくるのがトレンドとなっているが、Xperiaで1型(対角線15.8mm)センサーを初めて搭載したのが本機という事になる。ソニーストアでの価格は198,000円。

シネマだけでなく、Vlogなどの映像作品用として新カメラアプリ「Videography Pro」を搭載し、いわゆるビデオ作品にもプロレベルで対応できる。昨年末から写真のレビューは多く出ているが、動画性能に関してはまだあまり記事がなく、期待している方も多いだろう。1型センサーの実力とともに、シネマとビデオ両方の実力をテストしてみよう。

さりげない佇まいのボディ

まずスマートフォンとしてのスペックだが、サイズは約72×約166×約8.9mmで、ディスプレイは約6.5インチ、有機EL 21:9の120Hz駆動HDRワイドディスプレイを搭載。重量約211gで、CPUにQualcomm Snapdragon 888 5G Mobile Platformを搭載。内蔵RAMは12GB、ストレージは512GBとなっている。また外部メモリーとして最大1TBのmicroSDXCに対応する。

カメラは中央部1列に配置

Xperia PROにあったHDMI入力はないが、底部にあるUSB-C端子はUSB Video Classの映像ストリームの入力に対応する。「外部モニター」アプリを使用すると、USBストリームが出せるカメラやスイッチャーからの映像を本機に表示させることができる。

USB Video Classの入力にも対応するUSB Type-C端子
外部入力を受け付ける「外部モニター」アプリ

ボタン類はすべて右側で、ボリューム、電源、クイック起動ボタン、シャッター/RECボタンがある。耐水性はIPX5/IPX8、防塵性はIP6X。

ボタン類はすべて右側

肝心のメインカメラは3つ。うち24mm広角のみ、RX100 VIIで搭載のものと同等の1.0型 Exmor RS CMOSセンサーとなる。また測距用として3D iToFセンサーを搭載する。

カメラは上から16mm、24mm、50mm
カメラ画角
(35mm換算)
有効画素数F値
超広角16mm約1,220万画素2.2
広角24mm約1,220万画素2.0
標準50mm約1,220万画素2.4

センサーサイズが違っても有効画素数がすべて約1,220万画素に統一されているのは興味深い。広角24mmは、1型センサーを搭載とはいえ、フル画素を使っているわけではなく、2,010万画素のうち中央部の1,220万画素を使用する。したがって実効センサーサイズは1型と呼ばれる対角線15.8mmよりだいぶ狭いエリアしか使っていない事になる。ただ、広いセンサー領域は手ブレ補正に利用されるということなので、無駄というわけではない。

また24mm広角カメラは、絞りを搭載する。開放2.0のほか、4.0への切り替えが可能だ。インカメラも搭載しており、有効画素数約800万画素/F2.0となっている。

24mmカメラをF4に絞ったところ
インカメラは上部左寄りに配置

さらに今回は、「Xperia PRO-I」専用アクセサリ「Vlog Monitor」もお借りしている。シューティンググリップに組み合わせて使用するモニターとスマホホルダーのセットで、いまのところ動作するのがXperia PRO-Iのみ。対応アプリはVideography ProとPhotography Pro。Cinema Proには対応しない。Vlog Monitorはスマホの3つのカメラ全てで使用でき、グリップの「C1」ボタンで切り替えできる。

【お詫びと訂正】記事初出時、“Vlog Monitorは24mmカメラ使用時のみに対応”と記載しておりましたが誤りでした。全てのカメラで使用できます。お詫びして訂正します。(1月6日14時)

「Vlog Monitor」と付属ホルダー
右側に輝度や反転スイッチ
左側にUSB-Type C型入力と電源、マイク入力

従来リア側のカメラで自撮りする場合は、自分の姿をモニターすることができないが、このモニターを使うことで「メインカメラで自撮り」を実現するわけだ。価格はソニーストアで24,200円と、それほど高くない。

ホルダー背面にモニターがマグネットでくっつく

ディスプレイとしては約3.5インチ/16:9、HD解像度の液晶モニタである。本機のUSB-C端子とINPUT端子を付属ケーブルで接続する。スマホホルダーの背面にマグネットがあり、Vlog Monitorをくっつけて固定できる。

既発売のシューティンググリップとの組み合わせ

またマイク入力端子もあり、ここに接続した外部マイクをVideography Proで収録できる。Power端子にモバイルバッテリーなどの電源を接続すると、Vlog Monitorへ給電しつつ、Xperia PRO-Iへも電源供給できるなど、単なるモニターではなく拡張端子にもなる設計だ。なおバッテリーは搭載しておらず、外部給電しない場合はXperia PRO-Iから電源が供給されることになる。

新機軸「Videography Pro」のポイント

本機には、撮影用カメラアプリが3つ搭載されている。写真撮影用の「Photography Pro」、シネマ動画撮影用の「Cinematography Pro」、ビデオ動画撮影用の「Videography Pro」だ。RX100 VIIと同等のセンサーを搭載ということで写真画質への言及は多いが、動画としても大きな変化があるところである。

XDCAMのコンセプトを元に開発された「Videography Pro」

Cinematography ProはXperia 1から搭載されており、機能的な部分は過去記事を参照されたい。一方のVideography Proは、UIやメニュー構成がCinematography Proとは異なっているので、整理しておこう。

まずCinematography Proの標準画面は、ディスプレイ部の横に設定可能なパラメータが並んでおり、それ以上の設定は右上の「三」マークをタップしてセッティング画面を呼び出すスタイルだ。またフレームレートはプロジェクトごとに管理されており、フレームレートが混在できないように設計されている。

Cinematography Proの撮影前画面
Cinematography ProのSettings画面

また撮影を開始すると、モニターエリアが拡大し、メニュー部が隠れるようになっている。

Cinematography Proの撮影中の画面

一方Videography Proは、撮影前の標準画面は、デジタルズームとMF切り替え時のフォーカスレバーがあるだけで、シンプルに見える。

Videography Proの撮影前画面

右肩にあるMENUと「三」マークは、それぞれ別のメニューが展開する。MENUは2ページに渡っており、1ページ目がレンズ切り替えや絞り、フレームレートなどが設定できる。プロジェクトという概念はなく、フレームレートは都度変更が可能だ。

MENUの1ページ目

MENUの2ページ目はホワイトバランスやISO感度、オーディオ設定などがある。

MENUの2ページ目

「三」メニュー内にはISOリミットやマイクの切り替えなどがある。

Videography ProのSettingsメニュー

録画中もメニューエリアが消えず、撮影前と同じモニターエリアで撮影する。撮影中もISO感度やシャッタースピードなど露出に関わるパラメータは可変でき、ホワイトバランスなども録画中に変更できる。撮影を止めずに設定変更できるのは、業務用カムコーダらしい設計だ。ほとんどの人は、Cinematography Proよりもこちらのほうが使いやすいだろう。

Videography Proの撮影中画面

フレームレートで使い勝手が異なる

では実際に撮影してみよう。本機は3カメラ搭載であるが、やはりメインである24mmカメラの使い勝手が気になるところである。3つのカメラの画角は以下の通りで、Videography Pro、30p、手ブレ補正ONで撮影している。

16mm
24mm
50mm

16mmのみ若干青みが強い傾向があるが、画素数的にはどれも約1,220万画素なので、24mmだけ画質が変わる感じはない。

フレームレートは23.98から119.88まで選択できるが、これが可能なのは24mmのカメラだけで、他のカメラは解像度によって撮影できるフレームレートが変わる。

16mm24mm50mm
23.98HD/4KHD/4KHD/4K
25HD/4KHD/4KHD/4K
29.97HD/4KHD/4KHD/4K
59.94HDHD/4KHD
119.88×HD/4K×

撮影していて気づいたのは、24mmのメインカメラは、4K解像度でフレームレートを変えると、画角が変わることだ。59.94fpsになると広角になり、119.88fpsでは逆に狭くなる。レンズは単焦点なので、撮像面積が変わるということだろう。

119.88はプロセッサ側の画像処理速度の関係で、画素数を落として撮影するというのはよくあるパターンだ。一方59.94で逆に撮像面積が増えているのは、このフレームレートのみ、別のハードウェア処理が使えるのかもしれない。4K撮影では一概に約1,220万画素ですよとは言えないようである。

23.98~29.97fps
59.94fps
119.88fps

1台で2タイプの動画撮影が可能

では実際に撮影してみよう。1台のスマートフォン内に2つの動画カメラアプリがあるということで、両方を撮り比べてみたい。Videography Proのほうは3,840×2,160/29.97pのF4で、Cinematography Proは3,840×1,644/23.98pのF2.0、カメラLookは「VENICE CS」で撮影している。

前半はVideography Pro、後半はCinematography Proで撮影

まったく同じ時間に同じカットを撮影しているが、雰囲気はかなり違う。Videography Proはスッキリ感が高く、ビデオカメラ的な絵作りなのに対し、Cinematography ProはLogで撮れるわけではないがLookの効果もあってしっとり感のある絵になっている。

手ブレ補正は両方ともONだが、補正力が異なる。24mmカメラの場合、Videography Proのほうは光学と電子の手ブレ補正を併用する「FlawlessEye対応のハイブリッド手ブレ補正」で、補正力が高い。その反面、画角が少し狭くなる。Cinematography Proでは手ブレ補正のON/OFFで画角が変わらず、光学補正のみのようだ。なお他のカメラ2つは電子手ブレ補正のみである。

光学絞りは2段階が利用できる。F2とF4では露出的にはだいたい2段、4倍ぐらい違うわけだが、被写界深度としては当然違いは出るが、劇的に変わるほどでもない。センサーサイズはスマートフォンにしては大きいとはいえ、実質1型以下なので、元々開放でも深いボケは期待できない。どちらかと言えばシャッタースピードを抑えるために使うという感じだろうか。

Cinematography Pro、F2で撮影
Videography Pro、F4で撮影

今回採用されたExmor RSの1型センサーは画素が大きいため、低照度時のSNに貢献するとされている。そこでいつものように夜景撮影をしてみた。4K/29.97でシャッタースピード1/30、F2でISO感度を100から順に倍にあげていったが、たしかに最高値でもSNは悪くない。ただαシリーズやZV-E10などではISO感度をもっと上げられるのに対し、本機ではHDR OFFで6400までしか上げられないのは残念なところだ。

夜間撮影サンプル。ISO感度は6400が最高値

119.88fpsのフレームレートを使ったスロー撮影も、本機の見どころの一つだ。4K解像度で23.98p再生だと5倍速スローという事になる。スマートフォンで4Kスロー撮影はなかなかないスペックだ。

4K/5倍速のハイスピード撮影

音声収録については、本体の左右(横位置)にステレオマイク、加えてメインカメラ側にモノラルマイクがあり、カメラアプリ内で切り替えられるようになっている。両方のマイクで集音をテストしてみた。

Settingsにマイク設定がある
マイク性能のテスト

ステレオマイクは、特にメイン側へ向けて指向性があるわけではなく、後ろも含めて広く集音するようだ。一方メインカメラ側のモノラルマイクは、本来ならばカメラ方向の集音性を強化するものだろうが、実際にはモニター側の集音性のほうが良好で、低音までよく拾える。カメラ側は低域がカットされ、音声が固いのが気になる。Vlogなどで撮影しながらしゃべるケースでは、マイクの向きは反対だが、モノラルマイクに切り替えたほうが良好な結果が得られるだろう。

【お詫びと訂正】記事初出時、マイクの説明に誤った部分があったため、修正しました。(1月19日)

総論

スマートフォンに期待するものの一番大きな部分は、やはりカメラということなのだろうか。昨年は大型センサー搭載して話題になったシャープ「AQUOS R6」が昨年の本連載のカメラ系記事で1番読まれたものとなった。

そして大型センサーを初搭載したXperia PRO-Iがどんな絵を見せてくれるのか、これもまた期待が大きいところだ。カメラ専用アプリを3つも用意するなど、プロからコンシューマまで幅広く手掛けるカメラメーカーとしての知見を集めた作りは、実質スマートフォンの形をしたカメラとも言える。まあ本当にカメラが欲しいなら普通にカメラを買えって話ではあるのだが、ほぼ1日中手にしているスマートフォンで本気の撮影ができるというところに価値がある。

一方で1型と言いつつもかなり有効画素を絞っているところもあり、フルで1型の領域を使っていないところは、誤解を生みやすいところである。またせっかくの高感度センサーも、ISOがあまり上げられないというのは残念であった。

一方でVlog向けの「Vlog Monitor」は、自撮りにはほぼ必須と言える。なぜならば、本機搭載のカメラ専用アプリではインカメラへ切り替えができず、普通に画面を見ながらの自撮りができないからである。もちろんLINEやInstagramなどのアプリをインストールすればインカメラにも切り替えられるのだが、Videography Proで自撮りする際にはあったほうが断然便利だ。

2019年の「Xperia 1」が出たときは、デジタルシネマ対応が一つの大きなテーマになっていたわけだが、それから2年でコンシューマのVlog市場が成長したことで、ハイエンドスマホも方向性が変わってきた。Vlogに使えるカメラは沢山あるが、スマートフォンでオールインワンというのも一つの考え方である。

スマートフォンというアーキテクチャを利用した、スマートフォンを超えるもの。それがXperiaのPROシリーズという事だろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。