小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1017回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

Shokz骨伝導イヤフォン最上位はどこまで進化した?「OpenRun Pro」

AfterShokzからShokzへ

精力的に骨伝導イヤフォンをリリースしているAfterShokzが、昨年末にブランド名を変更、今後はShokzと短くなることを発表した。そして年明けの10日、新製品の「OpenRun Pro」がGREEN FUNDINGにて先行販売が開始された。直販価格は23,880円だが、超早割では19,999円、早割では20,298円で販売されている。

筆者がShokzの骨伝導イヤフォンを初めて聴いたのは、2018年発売の「TREKZ AIR」であった。それ以前も骨伝導製品は時折試していたが、あくまでも通話に使うためのものであり、音質としてはAMラジオみたいな感じだった。しかし「TREKZ AIR」は高域特性に優れており、明瞭感が高かった。音楽を聴いてもきちんと内容がわかる点で、スポーツ用としてはもっぱらこれを愛用するようになった。

2019年にはハイエンドモデルとして「Aeropex」をリリース。これをベースに、テレビ視聴用としてトランスミッタとセットになった「AS801-ABT01」や子ども向けの「AeropexPlay」などを展開してきた。

Shokzの知名度が上がったのは、2020年10月発売の「OpenComm」からだろう。ブームマイクを搭載し、今なお続くリモート会議用のヘッドセットとして大きく注目を集めた。筆者の周りでは何人も購入している。

骨伝導イヤフォンは、耳穴を塞がないために周囲の音も聞き取れるというので注目されたが、これまで音楽的な音質面ではあまり評価されてこなかった。技術革新により、中高域特性はかなり向上してきているが、低域がどうしても不足しており、音楽を鑑賞するにはちょっとバランスが悪かった。

しかし年明けに発売された「OpenRun Pro」は、新技術により、これまで以上に深みを感じさせる重低音再生を実現したという。名前に“Run”とあるようにスポーツ用途を意識した製品ではあるが、2019年に登場したAeropexの後継機種として紹介されているところから、実質これが新たなフラッグシップモデルとなる。音楽的なバランスが良ければ常用イヤフォンとしての使い方もできるはずである。

今月10日よりクラウドファンディングが開始された「OpenRun Pro」パッケージ

今回はいち早くサンプルを入手できたので、早速試してみよう。

見た目の違いは少ないが……

OpenRun Proは、今回のクラウドファンディングではブラックとブルーの2色展開。公式サイトにはベージュとピンクも紹介されているが、これは将来的に発売が予定されるカラーだという。手元にあるのはブルーだが、青というよりは緑に寄ったシアンといったカラーだ。

OpenRun Proブルーモデル

前フラッグシップのAeropexと比べると、アーム部の作りなどはそれほど大きく変わっていないが、ツートンの色の使い方が上手くなった。

メインとも言えるトランスデューサ部分は、Aeropexよりもだいぶ薄型になった。また前後と上下にメッシュ状の開口部があり、設計が大きく変わったことがわかる。このあたりが第9世代の新技術となる「Shokz TurboPitch」という事だろう。そのかわり防塵防滴機能が若干下がり、IP67からIP55へと仕様変更されている。

メッシュ状の開口部ができたトランスデューサ部
Aeropex(黒)よりも薄型化された

コミュニケーションに特化したOpenComm以外のShokz製品でも、通話性能の評価が高いところだが、今回はマイクの位置も変更されている。Aeropexでは側面と背面にあったものが、OpenRun Proでは前面と側面になっている。通話性能は後でテストしてみよう。

マイク位置も若干前寄りに変更された

トランスデューサを繋ぐアームの根本は、基板とバッテリーになっている。この部分も若干奥行きが短くなっている。充電は専用のマグネット端子で行なうが、この端子の位置が後部に変更された。そのかわり、操作ボタンが少し大きくなっている。なお充電専用ケーブルはAeropexと同じである。

根本のバッテリー/基板部は若干小さくなった
充電端子の位置が変更され、ボタンが大きくなった

バッテリー容量は145mAhから140mAhと少し減ったが、消費電力が少なくなり、最大使用時間は8時間から10時間に伸びている。またフル充電時間も半分の約1時間となり、5分充電で1.5時間使用できるクイックチャージにも対応した。

専用ポーチも付属しており、以前のようなシリコンの袋ではなく、型枠に入れて保護するタイプになった。また以前同梱されていた耳栓は、今回は付属しない。耳栓をすると低音が増強するという特徴があったため付属していたものだが、今回は方式が変わったことで同梱されなくなったようだ。

キャリングポーチは型枠にきっちり入れるタイプに

より「音楽的」になった音質

では早速音を聴いてみよう。今回はAeropexと同じ楽曲を再生して比較している。

Aeropexは非常に高域特性が良く、ヌケの良い、きらめくような高音が魅力のモデルだった。その一方で、低域はかなり遠くから鳴っているような印象で、全体的にはハイ上がりの特性だった。

一方本機OpenRun Proは全く別の音作りとなっている。高域の抜けが抑制された代わりに、中低域のバランスがよくなり、全体として非常に音楽再生に向いた特性となった。

抜けるような高音が失われたのは残念だが、そのかわりベースラインやバスドラがきちんと追えるようになり、音楽的なバランスの取れた音だ。注目の低域は、底から這い上がってくるような重低音はないが、十分認識できるレベル。Aeropex以前のモデルしか聴いたことがない人なら、きっとびっくりするだろう。

その秘密は、新しく2基のCoreCushion(低音エンハンサ)を内蔵したトランスデューサ設計にある。従来のShokz製品は、トランスデューサ部分が密閉されていた。一方OpenRun Proは各所に開口部があり、いわゆるオープン型の設計になっている。密閉されていないために空気の出入りが自由であり、低音の大きな振動もエアに邪魔されなくなったことが大きいのではないだろうか。

実際にイヤフォンを頭から外した状態で聴いてみると、OpenRun Proのほうが明らかに音漏れが大きい。とはいえ、離れた場所からシャカシャカ聞こえるようなものではなく、よほど接近しないと聞き取れない程度だ。

ただ実際には、この外に漏れ出る音は耳穴を通って鼓膜でも聴いているはずである。つまりShokz TurboPitchテクノロジーは、鼓膜振動と骨伝導のハイブリッドで聴かせるという技術なのではないだろうか。

そこで毎度おなじみサザン音響のサムレック君に、双方を聴き比べてもらった。サムレック君に骨はなく、頭部は外郭のみの空洞である。耳の周りはシリコン製のベースになっており、骨伝導が伝わる構造にはなっていない。内部のマイクは多少振動も拾えるはずだが、トランスデューサーの外に漏れる音がメインになるはずだ。

同じ音源を使って、AeropexとOpenRun Proから漏れ出る音を録音してみた。再生はiPhone 12 miniで、音量はどちらも同じである。音源はYouTubeライブラリのフリー音源でQuincas Moreira氏作「Morning Mist」だ。

ダミーヘッドでの再生比較

本来ならば漏れ出る音のみが記録できればよかったのだが、トランスデューサの性能が高いため、振動音も少しマイクが拾っているようだ。だが双方の漏れ出る音の聞こえ具合はまさにこんな感じで、これに骨伝導の解像感の高い音がプラスされると想像していただければ、参考になるのではないだろうか。

集音性能も向上

今回のOpenRun Proからは、設定用アプリが提供される予定だ。執筆時点ではまだ日本向けのアプリがダウンロードできないが、イコライザの変更、ペアリング選択、言語選択、ファームウェア管理などができるようになる。

日本でも公開予定の専用アプリ

ただアプリを使わなくても、本体だけである程度の操作は可能だ。イコライザの変更は、両方のボリュームボタンの長押しで、スタンダードとボーカルモードへ切り替え可能。ボーカルモードは、人の声の帯域にフォーカスするもので、サウンドとしてはAMラジオっぽくなる。音楽をバランス良く聴くなら、スタンダードモードのほうがいいだろう。個人的にはベースブーストモードも欲しかったところだ。

言語切替は、電源OFFの状態から電源ボタン(音量+)を長押しし、ペアリングモードに入ったら左側のマルチファンクションボタンをダブルクリックすると、順に切り替わる。内蔵言語は、中国語、英語、日本語、韓国語の4つだ。

Shokzは聴くだけでなく、リモート会議などでの通話用としても使われるようになってきている。普通のワイヤレスイヤフォンも大抵は通話機能を持っているものだが、それらよりも良好に通話できると評判が高い。

特に今回はマイクの位置も変更されたことで、集音性能面で変化があるのか気になるところだ。そこで交通量の多い道路際で、集音テストをしてみた。

OpenRun ProとAeropexを比較。両モデルとも通話時のノイズキャンセル機能を搭載しているが、周囲のノイズをキャンセル能力としては同じぐらいである。だが音質面では、OpenRun Proのほうが低域までバランスが良く、肉声に近い感じに聞こえる。それに比べて、Aeropexは音量は高いが、かなり高域に寄っており、言葉としての明瞭度は高いものの、本来の声質とは違って聞こえる。OpenRun Proは、通話面でもレベルが上がっているようだ。

新旧モデルの通話音声比較

総論

Shokzの成功を見て、骨伝導イヤフォンに参入するメーカーも出てきており、市場としては広がりを見せつつあるところである。だが音質面では未だ、Shokzが高い評価を受けている状態は続いている。

元々は耳を塞がずに音楽が聴けるとして、スポーツ用途としてスタートしたわけだが、普段遣いでも周囲の音が聞けたほうがいい派の人たちに認知されてきた。その最新フラッグシップということで注目を集めるOpenRun Proだが、性能的にはきちんと進化しており、音楽リスニング用としても十分楽しめる音質となっている。

昨今、通常のイヤフォンでは低音重視傾向が強くなっており、そこからするとさらに低音が欲しいところではあるが、骨伝導にはトランスデューサを耳穴に近づければ、それだけ低音が増してくるという特徴もあり、聞こえ具合を装着法でカバーできる。加えて“どこからともなくちゃんとした音が聞こえてくる”不思議な体験は、一聴したら忘れられないだろう。

価格的には従来製品よりも若干上がったところだが、第9世代のジャンプアップは小さくない。イヤフォンは“ノイキャンで遮音”の方向から“骨伝導でオープン方向”まで、振り幅が非常に大きく広がってきた。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。