小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1015回
Electronic Zooma! 2021総集編 “薄い”サウンドバーから1型スマホまで
2021年12月28日 09:30
20年目のElectric Zooma!
例年この時期にお送りしている総集編だが、今年はAV Watch20周年、本連載も1000回突破と、年末に限らずいろいろ過去を振り返る機会の多かった年となった。
今年のAV機器業界は、面白い新製品も沢山登場した中、半導体不足により製品供給がうまく行かなかったりと、欲しいのに買えないといった状況が顕在化した年であったように思う。こうした傾向は来年まで続くと見られており、ほしいと思ったらとりあえず初期ロットを抑える、みたいなアクションが必要になりそうだ。そうした中では、いち早く製品を試す本連載のようなレビューが貴重な情報源になるわけで、より率直に、皆さんの判断材料となる情報を提供していくというスタイルでやっていければなと思っている。
さて今年1年で本連載が取り上げた製品をジャンル分けすると、カメラ×15、オーディオ×15、制作・HowTo×10、アクセサリ3、レポート×2、特集×3という結果になった。カメラの中にはスマートフォン×2、ドローン×2を含む。昨年はオーディオ製品のほうが多いという逆転現象が起こったが、今年はカメラ系も面白い製品が多く、オーディオと同数となった。
では早速ジャンル別に、今年のトレンドを振り返ってみよう。
オーディオ篇
例年だとカメラ篇から始めるところだが、今年の本連載のビューランキングでは、オーディオ製品が上位を占めており、関心の高さを伺わせた。
オーディオ製品ではトップ、全体では2位となったのが、ヤマハのサウンドバー「SR-B20A」の記事であった。
ぺったんこ”でも音が広がるサウンドバー、ヤマハ「SR-B20A」
今年はApple Misicも空間オーディオ対応となり、Dolby Atmosの認知度も高まったところだが、本製品はDolby Atmos非対応で、バーチャル3Dサラウンド技術「DTS Virtual:X」をメインに据えた製品。注目はやはり26,800円前後という価格の安さだろう。スピーカーを上向きに設置し、高さを抑えた設計も良くできていた。
第3位となったのはソニー「WF-C500」の記事。同じく今年発売で話題をさらったソニー「WF-1000XM4」との比較である。1000XM4も大いに注目されたモデルで、ビュー数ランキングとしては7位。C500はそれを上回るビュー数であった。
ソニー、約1.1万円の完全ワイヤレス「WF-C500」を「WF-1000XM4」と比較
ついにLDAC対応、“完全ワイヤレス最高峰!?”ソニー「WF-1000XM4」
C500は1000XM4と比べてノイズキャンセリングなし、LDAC非対応、着脱センサーなしだが、音質的には1000XM4と変わらず、大幅に小型化・低価格化された。6月に発売された1000XM4は、高い完成度で話題をさらったモデルだが、長らく供給不足で買えない状況が続いていた。10月ごろには解消されたが、そこまで待たされるともはや物欲も薄れる。そのタイミングでの発売となったことで、注目が集まったのではないだろうか。
4位も同じくソニーの360RA専用スピーカー「RA5000/3000」の記事。RA5000は2019年に試作機として展示されていたが、ほぼそのままの形で製品化された。
やっと来た360 Reality Audioスピーカー! ソニー RA5000/3000
さすが専用設計だけあって、360RAの再生は素晴らしかったが、Dolby Atmosに対応しないのが残念だった。一方で2D音源を「Immersive AE」によって立体化できる機能があり、ソースを選ばず常時立体音響が楽しめる作りになっていた。
一方で音楽ストリーミングサービスでは、今年Apple Musicがハイレゾと空間オーディオの配信に参入したことで、勢いがついた。加えてハイレゾ再生では1000XM4がLDACに対応したことで、いろんなタイミングが合致した。LDACもソニーだけではなく、他社でも採用が広がりつつあり、音質に自信のあるメーカーの参入が相次いだ。ソニー以外のLDAC製品を特集したこの記事も、9位にランクインし、関心の高さを伺わせた。
空間オーディオ、ハイレゾ、ロスレスなど、今年はストリーミングサービス側の環境が整った年だった。ソフト側が普及し始めたことで、来年はハード側も忙しくなりそうだ。
カメラ篇
カメラ系で一番ビューが多かったのが、シャープ「AQUOS R6」の記事である。1インチセンサーを搭載し、18万円以上する「Leitz Phone 1」の姉妹機ながら価格が数万円安いということで、本連載ランキングの中では5位となった。
1型カメラ + ズミクロンの衝撃、シャープ「AQUOS R6」で撮る
すでに10万円超えのスマートフォンは珍しくなくなったが、1インチセンサーはまだ珍しい。これまでシャープのスマホでカメラ性能が話題になったことがなかったが、ライカ監修ということで注目が集まった。
実際に撮影してみると、写真はたしかに単焦点コンパクトデジカメ的な面白さがあるが、動画撮影時のAFアルゴリズムなどはもう少し経験値が足りないように思えた。一方ディスプレイの出来は素晴らしく、そこはさすがシャープのお家芸である。
一方で今年は、シネマカメラのレビューも人気が高かった。少し専門的すぎるかなと思ったのだが、「Blackmagic Pocket Cinema Camera 6K Pro」が8位に、ソニー「FX3」が14位に、パナソニックの「BGH1」が17位に入っている。
価格破壊“6Kカメラ”Blackmagic Pocket Cinema Camera 6K Proの実力
ソニー、Cinema Line最小機「FX3」。α7S IIIとの違いは?
これらのカメラに共通して言えるのは、高いコストパフォーマンスである。これまで高価な専用機レベルの映像が、デジタル一眼と変わらぬ価格で買えるという、一種のパラダイムシフトを起こした製品群である。ビュー数から考えてもデジタルシネマ系のプロユーザーだけが見に来ているとは思えず、ネット配信系のライトユーザーもかなり興味がありそうと思える数字だった。
ネット配信と言えば、VLOGCAMの記事は強い。ソニー「ZV-E10」と「ZV-1新ファーム」の記事が11位、12位で並んだ。
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ソニー、VLOGCAM「ZV-1」が進化。目的が変わってきた“コンデジ”のゆくえ
ZV-E10は個人的にも購入したが、写真に動画にリモート会議にといろいろ使えるカメラである。ZV-1のファームアップもUSBストリーミング対応であり、カメラの用途の一つに「LIVE配信」が加わった、象徴的な事例であった。
今年意外に豊作だったのは、アクションカメラではないだろうか。GoProは例年新モデルを出してくるが、「Insta360 Go2」も「DJI Action 2」も面白いカメラだった。従来の強力手ブレ補正、強力水平維持以外にも、ハードウェアの作りとしても、GoProクローンではない軸ができ、それぞれ別の方向へ向けて進化し始めている。
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スポーツ動画にとどまらず、VlogやLIVE配信など、こちらもまた用途が変わってきている印象だ。集音性能も上げてくるなど、デジタルカメラとは出発点が違っても、次第にゴールは同じ、といった事になってきている。
人気の高いアクセサリ篇
オーディオ篇、カメラ篇と見てきたが、実は今年最もビューを集めたのは意外な製品だった。第1位は、AnkerのAndroid TV端末「Nebula 4K Streaming Dongle」である。AmazonのFire TV Stick 4K Maxと連続レビューだったのだが、こちらも6位に入るなど、ストリーミング端末がこれほど上位に入るのは珍しい。
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やはり巣ごもり需要はここでも健在で、低価格でパッと買えて楽しみ無限大みたいな製品は魅力が高いということだろう。
なお今年は映像制作やライブ配信に使える機器やHowTo記事として、マイクやスイッチャーなども取り上げたが、やはりまだパイが小さいのか、ビューとしてはそれほど伸びなかった。ただ他にない記事でもあり、長く読まれる記事になるだろう。今後もそうした「刺さる記事」を書いてみたいと思う。
総論
そんなわけで激動の2021年も本稿で終了である。今年はAmazonとAppleが音楽ストリーミングサービスを大きく牽引したわけだが、逆に言えばオーディオのトレンドはこの2つを押さえていれば十分といった格好になってきている。その影で来年3月には 「mora qualitas」 のように、すでにサービス提供の終了を決めたところもあり、ストリーミングサービスは共存できるほどのパイが残っているのか、他のサービスの行く末も気になるところだ。
カメラに関しては、相変わらずミラーレス一眼は勢いがあるところだが、半導体不足と需要の伸びが合致せず、なかなか欲しい商品が手に入らなくてがっかりしている人も多いことだろう。半導体も量産に入っているとはいえ、すでに納入先が2~3年先まで決まっているような状況では、「足りないから売ってくれ」のような簡単な話ではない。
部品調達に手間取れば、うまく初期ロットを購入できた人が高値で転売するといったアクションが目立つようになるかもしれない。中古品がぐるぐる世間を回っているだけではメーカーは儲からないわけで、2022年はメーカーにとっても市場コントロールに頭を悩ませる年になりそうだ。
またビューランキング全体を見てみると、低価格商品にビューが集まっているのも気になるところだ。先が見えない感染症との戦いで経済の縮小が止まらない中、娯楽ハードウェアにかけるお金がだんだん少額になり、最終的にはライフラインであるスマホと、サブスクネットサービスにどんどん巻き取られている現状も、色濃く見えてきているように思う。2022は、顕在化した課題をどのようにクリアするかが問われる年になるだろう。
さてそんなところで、2021年のElectric Zooma!を終了としたい。皆様良いお年を!