小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第708回:遂に“頭だけ”になったウェアラブルカメラ、暗闇撮影もOK! パナソニック「HX-A1H」
第708回:遂に“頭だけ”になったウェアラブルカメラ、暗闇撮影もOK! パナソニック「HX-A1H」
(2015/4/22 10:00)
棒状アクションカム登場
アクションカムはスポーツの器具などに固定するという使われ方が多いが、パナソニックはウェアラブル方向に強くシフトしてきた。その結果、カメラヘッドは小さく、紐付きでモニタとバッテリを備えた本体に繋がるというスタイルとなった。
さらに全社をあげて4K化に取り組んでいるため、昨年登場した「HX-A500」は、“4K/30pが撮影できる最安カメラ”としてのインパクトも大きかった。次はどこに行くのかと注目されていたわけだが、5月21日に発売される新モデル「HX-A1H」は、ボディサイズはほぼ「HX-A500」のカメラヘッド部と同サイズに抑えたまま、全部の機能をこの中に詰め込んだ。店頭予想価格は3万円前後だが、すでに通販サイトの予約では3万円を切っているところもあるようだ。
もちろん、たったこれだけのボディに収めたがゆえに、最上位モデルHX-A500と同等の機能というわけにはいかない。しかしこのサイズ感や棒状の形で、何か新たな使い方が考えられるかもしれない。
今回はまだ発売が先ということで、試作モデルをお借りしている。画質に関してはほぼ最終ということだが、動作挙動などは最終の製品版とは異なる可能性もあることをあらかじめお断わりしておく。
「HX-A500」や前モデルの「HX-A100」をご存じの方は、「これで紐付きじゃなければなぁ」と思った方もいらっしゃるだろう。小型軽量の棒状となった新モデルは、どういった使い勝手になるのだろうか。さっそく試してみよう。
シンプルかつコンパクト
ではまずボディから見ていこう。色はオレンジとブラックがあるが、今回はオレンジをお借りしている。
以前のモデルをご覧になったことがある方は想像できると思うが、丁度カメラ部分の根元からケーブルをちょん切ったような形だ。マウントアクセサリの都合もあって、背後が絞られた形状になっている部分もそのままである。
まず前方から見ていこう。レンズはF2.8の単焦点で、画角はワイドモードで約150度、スタンダードモードで約120度となっている。最短撮像距離は30cm。
撮像素子は総画素数約354万画素、動画の有効画素数は、フルHDワイドモードで287万画素。スタンダードモードの画素数は資料にないが、読み出し範囲を狭くしているはずなので、おそらく220万画素ぐらいではないかと推測する。残念ながら今回のモデルは、手ぶれ補正は搭載しない。
レンズ前のガラスカバーは、外せるようになっている。このカバーを交換することで、赤外線撮影も可能だ。標準カバーは色がついており、これで普段は赤外線をカットしているのだろう。赤外線用のカバーは、透明のガラスである。ほとんどのビデオカメラは、レンズ内部に赤外線カットフィルタを内蔵しているものだが、これを敢えて外せるようにすることで、赤外線撮影もやってしまおうということのようだ。
ボディの上部には3つのボタンがあるだけ。真ん中のモードボタンで記録モードを切り換える。長押しするとWi-FiがONになる。一番上はRECボタンだ。その上にある3つの穴は、マイクである。
動画記録はMPEG-4 AVC/H.264のMP4で、最高フルHD/30pまで。ビットレートも15Mbpsまでと、最近のハイビットレート傾向からするとちょっと物足りない。撮影モードとしては、動画、スローモーション(ハイスピード録画)、静止画の3モードがある。
解像度 | フレームレート | ビットレート |
1,920×1,080 | 30p | 15Mbps |
1,280×720 | 60p | 15Mbps |
1,280×720 | 30p | 9Mbps |
848×480 | 30p | 4.5Mbps |
解像度 | フレームレート | ビットレート |
1,280×720 | 60p Rec/30p Play | 9Mbps |
848×480 | 120P Rec/30P Play | 4.5Mbps |
モード | 解像度 |
ワイド | 2,176×1,224 |
スタンダード | 1,920×1,080 |
背面はネジ式のキャップになっており、ここを外すと充電用microUSB端子と、microSDカードスロットがある。背面のキャップを穴あきのものに変えると、USBケーブルを接続したままにできる。外部バッテリで給電しながら動かしたり、USBカメラとして中継に使うなど、小型固定カメラとしても使えるように考えられている。
またスティック状の拡張バッテリ「VW-BTA1-K」もユニークだ。カメラボディと全く同じ太さの筒状バッテリで、カメラ背面のキャップを外して取り付ける。本体内蔵バッテリーの連続撮影時間は約75分だが、これを追加するとさらに90分延長できる。
ヘッドマウントの「VW-HMA1」は同梱するが、HX-A500に付属のものと若干構造が違っている。前モデルではベルト位置から少しさがった位置にカメラが来るよう、短いアームでマウント部が接続されていたが、今回のヘッドマウントはベルト部の真横にマウントがある。より目線に近い位置での撮影を意識しているようだ。また、カメラを左側にも右側にも、どちらにも取り付けられるようになっている。
別売アクセサリとしては、赤外線ライトとカメラを同時にマウントできるツインマウント「VW-TMA1」がある。リングを回すことでベルトが締まるという構造で、真ん中に三脚穴がある。懐中電灯型の赤外線ライトとカメラを並べて固定できる。あるいはカメラを2台セットして、前後を同時に撮るという使い方もあるだろう。
また本機は同社製のワイヤレスワイプ撮りに対応したビデオカメラ(HC-WX970M/W870M/W570M)と組み合わせることで、ワイプの子画面用カメラとしても使用できる。
思いのほか画質は良好
では実際に撮影してみよう。今回はフルHD/30p/15Mbpsで撮影している。映像のモニターはスマートフォンと同社製アプリ「Image App」が必要だ。Image Appの現バージョンは、まだ正式にHX-A1Hに対応していないが、最低限の機能は使えるようになっている。
まずはいつものように自転車のハンドルにマウントして撮影してみた。当日は非常に風の強い日で、マイクが盛大にフカレている。アクションカムの場合音がフカレまくるのはある程度仕方がないところなのだが、別売のアクセサリとしてウインドジャマー「VW-WJA100-H」もある。ライオンのたてがみみたいでかわいいヤツなので、これを付けるとウケるだろう。
画質としては、やはりビットレートが15Mbpsしかないことで、細かいディテールは若干誤魔化している感じもあるが、全体的にはシャッキリしているので、見やすい映像となっている。
手ぶれ補正がないのがどれぐらい映像に影響するか、いつもの悪路走行でテストしてみた。ワイドモードの時は画角が広いこともあって、ブレがあってもあまり気にならない。ローリングシャッター歪みの影響も軽微だ。一方スタンダードモードでは、画角が一回り狭くなることもあって、ブレの影響が大きい。またローリングシャッター歪みの影響もワイドより目立つ。
周辺の歪みは、当然スタンダードモードのほうが端の方を切るので、影響が少なくなる。一方振動の大きい状況での撮影では不利になるので、その辺を考えてモードを使い分けたほうが良さそうだ。
ヘッドマウントを使っての撮影も試してみた。歩きで近所を散策してみたのだが、やはり手ぶれ補正がないので、歩行の振動がダイレクトに映像に現われる。立ち止まっている状態では、視線とほぼ同じものが撮れるので、体験イベントなどの記録として撮影するにはいいだろう。
ただこのヘッドマウントは、後ろから挟み込むだけなので、いくらカメラが軽量だとはいっても、次第にずり落ちてくる。頭部の前面に取り付けて固定するゴムベルトも併用すればガッチリ固定できるのだが、そこまでやると見た目がかなり大仰な感じになってしまうのが難点だ。装着している本人の負担も大きい。頭部に着けるなら、帽子などに挟んで固定できるクリップマウント(VW-CLA100-K)のほうが自然だろう。ちょっとした固定台にもなりそうだし、むしろ標準でこちらのほうを付属して欲しかった。
小型軽量という事で、市販のクワッドコプターで空撮できるか試してみた。使用した機体は、昨年10月に発売されたばかりの「RC EYE One Xtreme」だ。元々GoProも持ち上げられる機体なので、100gぐらいは上がる。本機は重量が45gで、拡張バッテリを付けても約98gだ。
専用マウントがないのでガムテープでくっつけただけだが、軽々と上がった。ジンバル機構もなにもないので、機体の姿勢の影響をモロに受けてしまうが、まっすぐドリーやクレーンアップするだけなら、そこそこいけそうだ。風のない日を選んで飛ばしたのだが、天候があまり良くなくて残念だった。
「手の中カメラ」の可能性
手軽に撮影できるということで、ノーファインダで静止画を撮影してみた。最短距離30cmということだったが、20cmぐらいまではそれほどフォーカスも外れた感じがなく撮れるようだ。ノーファインダで草花や動物のちょっとしたマクロ写真がパッと撮れるのは、広角パンフォーカスカメラならではの魅力だろう。
続いてスローモーションモードを試してみた。解像度は720pで、秒間60コマを撮影する。再生は30pなので、2倍速スローが録画できると言うことになる。
お馴染みのネコとスーパーボールだが、どうもまだオートホワイトバランスの精度がもう一つなのか、映像がかなり緑に転んでいる。まだ最終ファームウェアではないので、製品版では改善されるだろうと期待する。また今回は追加の照明を使用しなかったので、S/Nはあまりよくない。他のカメラでも追加照明無しではだいたいこれぐらいだったので、特に感度が悪いわけではない。
棒状のカメラは、正面から見れば手の中にすっぽり入っているので、近づけてもそれほど警戒しないようだ。近くで様子を撮るカメラとしては、使いやすい。ただ棒状であるがゆえに、水平をいつも注意していないといけないのが難点だろうか。
では同じ条件で赤外線撮影を試してみよう。過去ビデオカメラとしては、一部に赤外線撮影対応のものがあったが、アクションカムではあまり聞いたことがない。
標準のガラスカバーを外すと、RECボタンの周囲が青色に点灯する。赤外線フィルタがOFFになっているということを表わしているようだ。赤外専用のガラスカバーは素通しのガラスなので、取り付けてもRECボタンは青のままだ。録画を開始すると、通常どおり赤に点灯する。小型ボディだが、こういうところの演出に手を抜いていないところは好感が持てる。
現場は照明を消して、上の部屋からわずかに漏れてくる光で多少見える程度の明るさである。赤外線ライトとカメラを一緒に持って撮影してみた。人間の目にはスーパーボールはほとんど見えないが、ネコの世界ではこれぐらいの暗さは普通のようで、的確にボールを追ってくる様子が撮影できた。
今回使用した赤外線ライトは、細身の懐中電灯タイプで、正面から覗き込んでもほとんど光を感じないが、カメラの映像を見るとそこそこの光量があるようだ。もう少し強いライトを使えば、画角が広いので、リモート監視の暗視カメラとしても使えそうである。
総論
乗物やスポーツ器具に取り付けるのであれば、重量や形はそれほど問題にならないが、体にくっつけるとなるとやはり軽さは重要だ。その点では、ケーブルレスでこのサイズ感というのは、ウェアラブルカメラとして重要である。空気抵抗の少ない形という点でも、有利に働くケースもあるだろう。
その一方で、本機のマウントアクセサリはほとんどがボディの後ろに噛みつくようなスタイルなので、横や上下から力が加わったときに外れやすいという弱点がある。さらに紐付きではなくなったことで、ダイビングの最中に外れたら海底まで沈んでいってしまうようなことにもなりかねない。手ぶれ補正もないので、あまり激しいアクションには向いていないという事かもしれない。
日常使いという点では、イベントの様子や何かの体験の様子を手放しで撮影するという用途には向いているだろう。公式サイトでは子供の目線で撮影という用途を想定しているが、現実問題としてこういうものを喜んで付けてくれる子は希だろう。大抵は嫌がるか、変な方向に向けて役に立たないか、どこかでなくしてくる可能性が高い。
画質面ではもう少し高ビットレートのモードが欲しいところだが、おそらくバッテリが小さいために録画時間との兼ね合いか、放熱が追いつかないといった制限ゆえの事ではないかと推測する。実際に画質を見れば、それほど問題ではないが、手ぶれ補正が付けられなかったのがつくづく残念だ。昨今注目のカメラは、どれもインテリジェントで効きのいい手ぶれ補正がカメラのトレンドになっており、そこに背を向けるとは大胆である。言い換えればパナソニックは手ぶれ補正の次世代技術トレンドに乗り遅れており、図らずもそこの弱さが露呈したとも言える。
サイズを凝縮したことで、当然落ちる機能はある。それを踏まえて、この形と軽さを生かした使い方を見つけられるかがポイントであろう。
HX-A1H (オレンジ) | HX-A1H (ブラック) |
---|---|