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B&Wの新スピーカー「700 S2」を聴く。特に注目はペア32万円「705 S2」

 ディーアンドエムホールディングスから、11月に発売される英Bowers & Wilkins(B&W)のスピーカー「700 S2」シリーズ。人気の「CM S2」シリーズの後継機種だが、最上位「800 D3」シリーズの技術を豪快なほど大量投入し、中身はほぼ別物に進化。でありながら、ブックシェルフの「707 S2」はペア15万円からと、価格の上昇も小幅に抑えられているのが特徴だ。その試聴レポと、それを通じて編集部が“特に注目”と感じた「705 S2」をピックアップしたい。

ブックシェルフ型、左から「705 S2」、「706 S2」、「707 S2」

「700 S2」シリーズの特徴

 詳細は、700 S2シリーズのニュース記事を参照していただきたいが、「700 S2」シリーズをざっくりと説明するならば、「CM S2の箱を使いつつ、800 D3に近い仕様のユニットを搭載したスピーカー」と言える。

「700 S2」シリーズ

 例えば、ミッドレンジには、800 D3で開発された「コンティニュアムコーン」を搭載。軽量で剛性の高いケブラーと同じ織物だが、素材と構造を工夫する事で、“ケブラー臭さ”が出ないようにして、より色付けの無いサウンドを実現。

 ウーファにも、800 D3のユニットと素材は若干異なるものの、断面形状を変化させる技術を活用した「エアロフォイル(翼型)コーン」を投入。

左から「705 S2」、「706 S2」

 ツイータも流石に800 D3のダイヤモンドドームは使えないが、アルミニウム製ドームにカーボンを物理蒸着させた新開発のものを搭載。B&Wのスピーカーでお馴染み、ちょんまげのような“ツイーター・オン・トップ構造”のモデルに関しては、その筐体を無垢のアルミニウム切削に変更するなど、ミドルクラスとは思えないほど“本気”な仕様になっている。

“ツイーター・オン・トップ構造”の「705 S2」。ツイータの筐体は無垢のアルミニウムからの切削だ

どんな音なのか

 CM S2シリーズの後継が700 S2であるが、その進化がどのくらいのものかを聴いてみた。比較は一番小さな2ウェイブックシェルフ「CM1 S2」(ペア128,000円)と、その後継となる「707 S2」(ペア15万円~)だ。「707 S2」は、25mmカーボンドーム・ツイータと、130mm径のコンティニュアム・コーンのミッド/バスを搭載している。

 「CM1 S2」を再生すると、サイズからは想像できないほど、広大な音場が広がる。点音源に近い小型スピーカーならではの描写で、実に気持ちがいい。低域から高域のバランスも良好で、最も低価格な製品とはいえ、CMシリーズの人気を頷かせる実力派モデルだ。

従来モデルのCM1 S2

 「707 S2」に切り替えると、音が出た瞬間……いや、正確には音が出る前の静寂の部分から違いがわかる。SN比が圧倒的に良くなっており、まったく無音の空間から、ズバッと音が現れ、スッと消える。逆に言えば、707 S2を聴いた事で、CM1 S2の音には、音のまわりに余分な音がまとわりついていた事がわかる。

「707 S2」に切り替える

 この感覚は、800 D3シリーズを聴いた時の驚きとまったく同じだ。以前、シリーズ最上位「800 D3」を試聴した感想に「音が出る前の静けさが、さらに静かになり、その何も無い空間からスッと音が立ち上がるスピードが鮮烈だ。音像の周囲の静けさ、奥行きの深さ・広さも唖然とするほど」などと書いたが、その記憶が「707 S2」を聴いていると鮮明に蘇ってくる。

 これは、切り替えて音が出た瞬間に、恐らく誰もが実感できるほどの大きな差で、“進化の度合い”が凄い。D+Mシニアサウンドマネージャーの澤田龍一氏はこの違いを「洋楽を聴くと、英語がよく聴き取れる」と笑うが、確かにその通りで、音場が静かで、音像によけいな音がまとわりつかないので、輪郭を強調しているわけでもないのに、1つ1つの音が非常に明瞭に聴き取れる。

ブックシェルフの最上位機「705 S2」

 次に、700 S2シリーズの中でステップアップ。「707 S2」から、“ツイーター・オン・トップ構造”となるブックシェルフの最上位機「705 S2」(ペア32万円~)に切り替える。ユニット口径はツイータが25mm、ミッド/バスのコンティニュアム・コーンが165mmだ。

 ミッド/バスのユニットが大きくなった事で、広い試聴室に難なく音が広がる。「707 S2」はかなり頑張って音で満たしていた印象だったが、流石に「705 S2」は余裕が感じられる。

 前述の“無音部の静けさ”や“音の明瞭さ、SN比の良さ”といった特徴は、707 S2とまったく同じだ。705 S2ではさらに、低域の沈み込みが深くなり、音楽に迫力が出る。それでありながら、低域の分解能は非常に細かく、明瞭さは低域から高域まで一貫している。

 さらに705 S2が凄いのは、音場の広さと、そこに定位する音像の立体感だ。搭載しているツイータで707と705を比べると、サイズや振動板はまったく同じであり、705ではそれをキャビネットから取り出し、上部に乗っかった砲弾型筐体に移しただけと言える。しかし、音の違いは大きく、女性ボーカルでは音像にしっかりと厚みを感じ、立体感がアップ、より生々しく聴こえる。音像の背後に広がっていく響きの余韻も、705の方が明らかに深い。

 ペア15万円と、32万円で価格が倍以上違うので当たり前ではあるが、この差は決して小さくない。

 最後に、700 S2シリーズの最上位となるフロア型の「702 S2」(1台30万円)も聴いてみよう。ツイータが25mm径、ミッドレンジが150mm径、ウーファが165mm径×3基という構成。音の傾向としては、これまでの707、705と同じだが、流石に中低域の音圧、沈み込みの深さが別物。ピアノソロを聴くと、響きの音圧が量感を持って押し寄せてくるが、その中でも左手の動きが明瞭に分解している。さらに、ペダルを踏む「クン」という低い音もしっかりと聴き取れる。

 広大な音像はどこまでも広がる印象で、それを区切る壁はまったく感じられない。だが、音像のサイズなどは大型スピーカーなので大きくなりがちであり、人によってはブックシェルフの705 S2の方が好ましいと感じる場合もあるだろう。

700 S2シリーズの最上位となるフロア型の「702 S2」

要注目は「705 S2」

 オーディオ歴が長い人にはお馴染みだが、一昔前、B&W憧れのスピーカー「Nautilus 800」シリーズの世界を、ペア約30万円で楽しめるモデルとして、ブックシェルフの「Nautilus 805」が人気を集めていた。

 現在は800 D3シリーズの「805 D3」がラインナップされているが、価格は1台44万円~、つまりペアでは88万円~と、完全に“違うクラスの製品”になっている。

 その点、“ツイーター・オン・トップ構造”でペア32万円の「705 S2」は、「最上位800 D3シリーズに近いサウンドを、約30万円で体験できるスピーカー」と言え、かつての「Nautilus 805」を彷彿とさせる立ち位置に感じられる。要注目機だ。

「705 S2」

山崎健太郎