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JBLやAKGなどが集まる世界最大級オーディオメーカー・ハーマン、その裏側と“次の一手”

ハーマンインターナショナルと言えば、大型スピーカーからヘッドフォンまで手がけるJBLや、モニターヘッドフォンでお馴染みのAKG、デザイン性に優れたHarman Kardonなど、ハイエンドから身近なポータブル機器まで開発する世界最大級のオーディオメーカー。長い歴史を持つブランドが並ぶ一方、スマートスピーカーにいち早く参入するなど、フットワークの軽さも印象的だ。

Headphones & Wearablesの VICE PRESIDENT, General Manager Pascal van Laer氏

彼らはどのような考えで製品開発をしているのか、ブランドごとの違いはどこにあるのか? JBLやAKG、Harman Kardonなどのヘッドフォンやウェアラブル製品の製品企画・戦略を担当するPascal van Laer氏、JBLとHarman Kardonのワイヤレススピーカーを開発したAndy Tsui氏に話を聞いた。

Smart Audio部門の VICE PRESIDENT, General Manager Andy Tsui氏

多くのブランドを抱えるハーマンは、どのように製品を作っていくのか

Pascal氏によれば、多くのブランドを持つハーマンが、近年特にフォーカスしているのがJBLとAKGだという。2つのブランドはターゲットとしているユーザー層が異なり、JBLは「18歳~25歳、音楽と共に、ライフスタイルにも関心を持っている人。JBLはライブのステージ用スピーカーも手がけているが、パワフルで元気があり、エネルギッシュなサウンドが特徴。それをコンシューマーにも届けるブランドだ」と言う。

防水Bluetoothスピーカー「JBL XTREME2」
ロングセラーを続けるJBLモニタースピーカーの新モデル「4312G」

AKGは、レコーディングスタジオで使われるプロ用モニターヘッドフォンがお馴染みのブランドだが、その流れを汲み「オーディオファン向け、プロ向け。フラットなリファレンスサウンドを重視し、デザイン面でもメタル素材をふんだんに使うなど、質感や耐久性にもこだわっている」とのこと。

AKGのヘッドフォン「K550MKIII」

Andy氏はHarman Kardonの特徴を「成熟した大人向けの製品をテーマにしています。デザインや仕上げにもこだわっており、音のクオリティも含め、製品トータルで上質な体験をしていただく事を目指しています」と説明する。

Harman Kardonのスマートスピーカー「Allure」

気になるのは、“新製品の作り方”だ。Pascal氏によると、JBLのピュアオーディオ関連は別として、ポータブルオーディオに関しては、“JBL専門のエンジニア”、“AKG専門のエンジニア”という分かれ方はしておらず、その製品に適したエンジニアが、チームを組んで開発するという。エンジニア同士の交流も活発で、「社内でのテクノロジーを結集して作れるのが強み」だという。

一方で、製品のデザイナーはJBL担当、AKG担当と、ブランドごとに分かれているそうだ。

Pascal van Laer氏

Pascal氏はハーマンに在籍する前、Philipsやギブソンで働いていたそうだが、「ハーマンのように自由に皆がディスカッションし、各ブランドの製品を作り上げていく光景は(他社では)見たことがありません。一方で、ファブリック素材やカラー、ボタン類などのパーツや、起動音など、揃えた方がユーザーの利便性が高くなる部分はJBLとAKGで共通化しているところもあります」。

“JALとAKG、どちらのブランドの製品として新製品を開発するか?”を決めるのは、「ユーザーのニーズが全て」だという。

「例えば、AKGのヘッドフォンはクリエイターが仕事場で使う事が多く、アンビエントアウェア(周囲の環境音の聞こえやすさを調整する機能)が重要です。仕事中に話かけられても反応できたり、頭から外すと再生が一時停止、装着すると再開される機能も便利です。一方で、ストリートで使われる事が多いJBLのヘッドフォンでは、そういった機能が求められていない機種もあります。また、同じJBLでも、スポーツ用イヤフォンではアンビエントアウェア機能を入れたりもします。ジョギング中に、接近する車の音に気づきやすくするためですね。一番大切なのは“どのような機能が求められているか”という点。それを実現するため、臨機応変に技術を活用しています」。

サードパーティとしていち早くスマートスピーカーを投入

そんなハーマンの製品開発で、近年インパクトがあったのがスマートスピーカーだ。AmazonとGoogleが、昨年自社のスマートスピーカーを投入し、現在に至るまで話題となっているのはご存知の通りだが、ハーマンはサードパーティとしていち早くJBL「LINK 10」やHarman Kardon「Allure」を投入した。このタイミングで投入するためには、かなり前から“スマートスピーカーが来る!”と判断していたのだろうか。

JBL初のスマートスピーカー「LINK 10」

スマートスピーカーは、ユーザーの声を認識して様々な事ができる製品だが、Andy氏は「ユーザーがそれを使って最終的に何をしているのか」が重要だと語る。「皆さんはスマートスピーカーを使って音楽を聴いたり、ビデオを観たりしている。つまり“サウンド”からは離れられない製品だというのがわかります。Google、Amazon、マイクロソフトさんは、テクノロジーメーカーとして知られ、信頼を集めていますが、オーディオの世界では我々も消費者の皆さんから信頼を得ているメーカーです。それゆえ、スマートスピーカーは我々と親和性が高い製品だと考え、早急に商品化しました」。

開発には困難もあったとAndy氏は振り返る。「Googleはソフトウェアのメーカー、我々はアナログなハードメーカーでしたので、お互いの理解を深めるのは苦労したところですね。それを乗り越えて完成したのが、JBL初のスマートスピーカー・LINK 10です。しかし、その開発で互いに信頼するパートナーとしての関係が構築できましたので、以降のLINK 300、LINK 500といった製品は、比較的順調に開発できました」。

「具体的な商品戦略はお話できませんが、今後も様々な展開を考えています。よりオーディオの品質にこだわったモデル、ディスプレイ付きのモデルなども検討はしています」(Andy氏)。

JBL LINK 500

パートナーとして良好な関係を築いているというハーマンとGoogle。しかし、GoogleやAmazonは、スマートスピーカーを戦略的な低価格で展開している“ライバル”でもある。Andy氏は「安価で販売されると、ビジネス的に困るという事も無くはないです」と苦笑いする。だがその一方で、「スマートスピーカーはまだ登場したばかりの製品です。商品が広がり、多くの方に理解が広がるという利点もあります。我々はその中で、オーディオメーカーとしてより良いものを出していければと考えています」。

Andy Tsui氏

光るスピーカーや、肩乗せ型など、インパクトの強い製品も

伝統のピュアオーディオから、最新のスマートスピーカーまで手がけるハーマンだが、円柱型スピーカーの側面全てにLEDライトのイルミネーションを備えた「JBL PULSE」や、肩乗せのウェアラブルスピーカー「JBL SOUNDGEAR」など、ユニークな製品も手がけている。

肩乗せのウェアラブルスピーカー「JBL SOUNDGEAR」

Pascal氏は「SOUNDGEARはまさに、新領域を開拓する製品の第1弾として開発した製品」と紹介。Bluetooth受信に対応し、31mm径スピーカー×4基と、バスブースト用ユニットも備え、ウェアラブルスピーカーながら、本格的な低音をパーソナルな空間で楽しめるのが利点だと言う。

PULSEシリーズの新モデル「PULSE 3」

「Pulseは、耳で音楽を聴くだけでなく、それと同じくらい“音楽を目で楽しめるか?”をテーマに開発されました。サウンドで光り方が変わるなど、細かい部分にもこだわりました。ニーズに合わせた製品を作ると先程お話しましたが、パーティーやピクニックをより楽しんでいただける製品だと思っています」とAndy氏。

と、ここでAndy氏が「楽しみ方の1つ」として、PULSEシリーズの新モデル「PULSE 3」を取り出した。従来機よりも防水性能がパワーアップし、IPX7に準拠。水辺やプールサイドでも使え、万が一の水没にも対応できるのがウリだ。

上部に低音を増強させるパッシブラジエーターを搭載

上部に低音を増強させるパッシブラジエーターを搭載しているのだが、そこになんと、コップの水をかけるAndy氏。すると、振動するパッシブラジエーターに押され、水が噴水のように吹き上がる。それだけに留まらず、残った水の粒が、まるで踊るように跳ね回る。まるで音に合わせて動くグラフィックイコライザーのライトを、水の粒で表現したような光景だ。PULSE 3はイルミネーション機能もあるので、キャンプやパーティーなどの余興として披露すると、盛り上がりそうだ。

「PULSE 3」の上からコップの水をかけるAndy氏
パッシブラジエーターの上で、水滴が生き物のように踊る!

「領域としては、サウンドバーにも注力していきます」とAndy氏。テレビの薄型化により、画面は大きくなりましたが、音質は低下しました。オリンピックなども見据えて、テレビを良い音で楽しめる魅力を、もっと消費者に伝えていきたいと思っています」。

Pascal氏は、「ポータブル機器では、ノイズキャンセリング、ハンズフリー通話、アンビエントアウェア、この3要素が今後も重要だと考えています」と語る。「消費者の利用スタイルも10年前と比べると変化しており、“ノイズキャンセリングは飛行機に乗る時に使うもの”だった時代から変化しています。例えば、子供向けのヘッドフォンとしてJR300、JR300BTも発売しました。耳への悪影響を防ぐため、ボリュームを最大85dBに制限するヘッドフォンです。付属のシールで好みのデザインにする楽しみもある。今後もニーズに合わせた製品を手がけていきたいですね」とPascal氏。来年1月にラスベガスで開催される「CES」でも「新しいものをお見せできると思います」と笑顔を見せた。

サムスンとのシナジーも

ハーマン・インターナショナルは、2016年に韓国のサムスン電子に買収されており、現在はその傘下にある。買収後の変化について聞くと、Pascal氏は「これまでよりも、より多くのノウハウを活用できるようになった事が大きいですね。ポータブル領域でもシナジー効果が生まれており、例えば、スマートフォンのGalaxyシリーズにAKGのイヤフォンが付属したり、Galaxy Note9のスピーカーをAKGがチューニングするなどが、その例です」。

Andy氏は、「Bluetoothスピーカーは、スマートフォンのために誕生した製品と言えます。もちろん、ヘッドフォン、イヤフォンもスマートフォンで使います。サウンドバーはテレビのための製品ですし、ハーマンとサムスンは、もともと非常に親和性が高かったと言えると思います」と語った。

最後に、両氏に日本市場や日本のユーザーに対する印象を聞くと、Pascal氏は「音質だけでなく、品質にも非常に厳しい目を持っていて、だからこそ、日本の皆さんからの声が我々にとって非常に参考になります。我々にとってのマーケットとしても2番めに大きな国であり、とても重視しています」。

Andy氏も「“完璧”を求める方が多く、また、様々な機能を使いたいという声が多いですね」と頷く。「そうした声には、私も賛同する部分もあるのですが、メーカーの立場としては全てに応えるのは難しい部分もあります。ただ、我々も哲学を持って製品を作っており、それが日本の皆さんの哲学と、マッチしていければ素晴らしい事だと考えています」。

山崎健太郎