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アバター2はどう撮影した? 家庭用3D/HFRは「ソニー・パナの仕事」

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』で製作を務めたジョン・ランドー氏

ジェームズ・キャメロン監督と共同で製作を手掛け、『タイタニック』や『アバター』などの大ヒット作品を生み出してきたのが、プロデューサーのジョン・ランドー氏だ。12月16日より全世界同時公開される『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター(アバターWOW)』のワールドプレミアツアーで来日した彼に、最新作での撮影手法や家庭用3D/HFRについて話を聞いた。

24fpsまたは48fpsにするかは、シーンごとに手動で決定

――『アバターWOW』をドルビーシネマで試聴しましたが、ハイフレームレートのシーンがとても効果的でした。『ホビット』や『ジェミニマン』にあったような問題も、24fpsと48fpsが適切に組み合わされていて、完全に払拭されていたと思います。個人的にはもっと48fpsのシーンが見たかったくらいです。

そこで質問なのですが、24fpsと48fpsの配分はどのように決めたのでしょうか? 例えば、ローレゾリューションの48fps版を試写しながら、フレームレートを落とす場面を選択していったのですか?

ジョン・ランドー氏(以下敬称略):いいえ、違います。まず我々がハイフレームレートを使うか否かの判断には、2つの尺度を設けています。

まず1つ目ですが、もしそれが水中のシーンであれば、すべてハイフレームレートを使います。なぜなら、その方が“水中にいる”という感覚を、より現実的に感じられるからです。

ジョン:それからもう1つは、ストロビングの有無によって決めます。例えば、キャラクターをクローズアップで撮るような構図の場合は、48fpsは適当ではないと思います。表情が人工的に見えてしまい、むしろマイナスの効果があるくらいかもしれません。でも走っている場合だったり、走っているところをカメラが追っているようなカットはどうでしょうか? 24fpsだと、ストロビングが出てしまうような場合でも、ハイフレームレートであれば、その心配はありません。

私たちはショットの中のアクションを見ながら、そしてまたカメラの動きがどうなっているかを確認しながら、それぞれのショットに対し、24fpsにすべきか、48fpsのままにするかを決めました。

――ということは、プリビズの段階で選んでいるという事ですか?

ジョン:私たちはプリビズは行ないません。ライブアクションはすべて48fpsで撮影しています。ただ、先ほどもお話しした通り、クローズアップの場合に関しては48fpsを使いません。

それから、私たちは本番の撮影時にバーチャルカメラを用いますが、場面を編集する際にWētā FX(旧Wetaデジタル)のところへ渡して、「このショットは48、このショットは24、このショットは48...」というように、どちらにするのかということをショット毎に指示を出しています。

※注:バーチャルカメラとは、位置センサーの付いた液晶モニターのこと。監督がこれを持って移動すると、その場所から見えるはずのCGキャラクターが、CGの背景にリアルタイムでコンポジットされ、動画で表示される。これによってパフォーマンス・キャプチャー作業時に、完成映像を予想しながら、仮想カメラの適切なポジション決めや、俳優の演技への指示を行なう(大口)

(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

――水中での動作を読み取る“水中パフォーマンスキャプチャ”についてお尋ねします。この技術は、オリンピックに出場する競泳選手などの動作解析にも使われていると思いますが、水中から見上げた水面に、動作を読み取るための“マーカー”が反射してしまうと思います。この課題をどのようにクリアしたのでしょう?

ジョン:水面に、何千というピンポン玉のような小さなボールを浮かべ、水中タンクに“ふた”をしました。そうすることで、下から上を見上げてもマーカーの反射が起きないようにしました。

その様はまるで、水の上に巨大なシルクスクリーンが浮かんでいるようにも見えますが、実際にスクリーンを浮かべてしまうと水中にいる役者に危険が及びます。でも小さいボールであれば、マーカーの反射も防げますし、役者はボールを通り抜けて、容易に水面に出ることができます。

(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

流体シミュレーションも新たに開発。気泡や灰、火の粉まで再現した

――同じくパフォーマンス・キャプチャーについてお尋ねします。パンドラの先住民であるナヴィと人間とでは身体のサイズが異なりますよね。両者が触れ合ったり、重なり合うような場面は、どのようにしてスケールを合わせたのですか?

ジョン:それには、いくつかの方法があります。1つは、“ナヴィ・スケール”と呼ぶヒル(傾斜)と“ヒューマン・スケール”と呼ぶヒルを使うものです。傾斜の角度がそれぞれ違っていて、歩幅が変わってきますよね。これは、一緒に歩いているシーンなどに用います。

もう1つは、劇的にサイズが異なるような場面ですね。例えば、キリ(ナヴィの少女)とスパイダー(人間の子供)が対話する場合は、小さい演者の顔にモニターを付けてもらいます。そのモニターには、スパイダーを演じるジャック・チャンピオンの顔が表示されます。そしてキリ役のシガーニーはそのモニターを見て演じるわけです。そうする事で目線、アイラインを揃えます。

ジョン:そして今度は、ライブアクションシーンの場合です。例えば、人間がナヴィと話している場面だとしましょう。テニスボールをポールの先に取り付ける……なんてことはしませんよ。

では、どうするかというと、私たちは“ケーブルカメラシステム”を用いました。これは、フットボールの試合が行なわれるスタジアムに設置されているような、カメラだと思ってください。そのケーブルカメラシステムにモニターとスピーカーを取り付け、ナヴィの頭がここにあるだろうと思われる場所にセットするわけです。

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

――例えば、サイズの異なるキャラクターが抱き合うというような場合はどうするのですか?

ジョン:ブルースーツを着た演者をアップル・ボックス(日本で言う箱馬)の上に立たせ、ブルースーツの演者にハグをしてもらいます。そしてそのハグをしている腕の部分をCGの腕に置き換える。置き換えるのはヒューマン側ではなく、ボディサイズの大きなナヴィ側です。仮にキリとスパイダーであれば、キリの方にブルースーツを着てもらう訳です。

――水や波といった流体(fluid)シミュレーションはもちろんのこと、特に炎のシミュレーションが非常にリアルで驚かされました。これまでのCG映画の中でも、どれよりも凄いと思います。何か特別な開発をされたのでしょうか?

ジョン:そりゃもう、膨大な数を開発しましたよ(笑)。視覚効果を担当したWētā FX社のFXヘッドにジョナサン・ニクソンという人物がいるのですが、彼が水や炎のシミュレーションを開発してくれました。

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

ジョン:私たちがいつもチャレンジしたのは、実際の世の中で参照できるものを描くこと。ただ大きな波を描くだけではなく、最も小さな、水中の気泡のようなものまで描くわけです。炎も同様です。ただ大きな炎を描くだけでなく、炎が風で舞い上がるときに、小さな灰や火の粉も一緒に舞う様も、現実の例から見て描くようにしました。実際に炎のテストを行ない、その様子と、作った映像とがマッチングできるようなクオリティに仕上がっているか否かをチェックしています。

注:まず、流体シミュレーションで驚かされるのが、RDA(資源開発公社)のISV(惑星間輸送機)の着陸シーンだ。炎が津波のように拡がって行き、パンドラの森を地獄に変えていく。また海面や海中の水の挙動がリアルなのは当然だが、そこに降る雨の波紋やキャラクターたちの肌を伝って流れていく様子など、細かい所まで実に繊細に描写されている。さらに海底で舞い上がる土煙や、水中爆発の泡なども一つ一つ丹念に描かれ、一瞬たりとも不自然さを感じさせない(大口)

――どうしてもCGのキャラクターに注目がいきがちですが、スパイダーやRDAの人々など、実写の人間キャラクターの3D撮影も重要だと思います。新たな3Dリグの開発などは行ないましたか?

ジョン:リグはもう全部、すべて新しいものを開発しました。ハンドヘルドでの撮影も多く、従来よりも軽量化する必要がありました。それから、リグのダイナミクスやコンバージョンもすべて新しいものとして造りました。

――ジェームズ・キャメロンが3D/HFRに取り組もうと考えたきっかけには、ユニバーサル・テーマパークの『T2 3-D: Battle Across Time』での経験が関係しているのでしょうか?

ジョン:最初の『アバター』で、3Dを始めるインスピレーションになったのは、そのアトラクションだとはいえると思います。

――例えば将来、「アバターWOW」をソフト化する際、家庭でも4K・3D・HDR・HFRが体験できるようなシステムを開発する計画はあるのでしょうか?

ジョン:そうですね。それは、ソニーさんやパナソニックさんが考えて頂くような問題だと認識していますよ。

ジョン・ランドー(製作)

本作プロモーションで2度目の来日。『アバター』の1作目では、キャメロンとのミクロネシア旅行で3D撮影のアイデアが膨らんだことで、その数カ月後に東京のソニーへ向かい、カメラの開発を進めた。『アリータ:バトル・エンジェル』では原作者の木城ゆきと氏の元を直接訪れ、コンセプトアートをプレゼン。ジェームズ・キャメロン監督とは『タイタニック』以来の盟友。

Proflie: 1960年、米ニューヨーク生まれ。『ミクロキッズ』(89)、『ディック・トレイシー』(90)などで共同製作に名を連ね、20世紀フォックス映画の副社長に就任。『トゥルー・ライズ』(94)をきっかけにキャメロン監督のその後の作品『タイタニック』(97)、『アバター』(09)で彼と共同で製作を手がける。『ソラリス』(02)、『アリータ:バトル・エンジェル』(19)もキャメロンと共同製作。

阿部邦弘
大口孝之

1982年に日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター。EXPO'90富士通パビリオンのIMAXドーム3D映像『ユニバース2~太陽の響~』のヘッドデザイナーなどを経てフリーの映像クリエーター。VFX、CG、3D映画、アートアニメ、展示映像などを専門とする映像ジャーナリストでもあり、機関誌「映画テレビ技術」、WEBマガジン「CINEMORE」、劇場パンフなどに寄稿。デジタルハリウッド大学客員教授の他、早稲田大理工学部、女子美術大学専攻科、東京藝大大学院アニメーション専攻、日本電子専門学校などで非常勤講師。