トピック

自宅でいい音で録音したい! マイクの種類や部屋の調音でどう変わる?

橋爪徹氏のスタジオで録音の基礎を教わった

行き当たりばったりで始まったAV WatchのYouTubeチャンネル。録音や動画の練習がてら始めたのが“編集後記動画版”だが、動画やラジオ番組など作ったことがない素人同然の我々。案の定、ボソボソ喋りで声は通らず、音は割れ、なんか部屋の反響音やノイズも聴こえるなどなど問題は山積みである。さて、どうしたものか。

そこで、弊誌でもおなじみのオーディオライターで音響エンジニアとしても活動している橋爪徹氏に協力を仰ぎ、我ら素人がぶち当たった壁がどのような原因で発生しているのか、まずは宅録を想定して、マイクの種類、オーディオインターフェイスの設定、部屋の防音/調音対策について実践形式で教えてもらった。

とりあえず録ってみた

一般的な住宅で綺麗に声を収録するためには、何処に気をつけて、何を用意すればいいのだろうか。問題点を洗い出すために、まずは普通のリビングルームに、筆者が実際に使っている機材をセッティングして声を録音してみた。

使用したのはオーディオテクニカのコンデンサーマイク「AT2020」と、ヤマハのオーディオインターフェイス「AG06MK2」。マイクの設置位置も適当で、床にあぐらをかいたまま喋ってみた。

オーディオテクニカ「AT2020」
ヤマハ「AG06MK2」

「マイクと自分の距離や置き方なんもわからん。とりあえずコンデンサーマイクにはポップガード付けとけという知識だけ得た。とりあえずやってみよう」といったような状態だ。ぱ行などの破裂音や呼吸音を抑えるポップガードを装着しているほか、詳しくは後述するが、音量は適切に調整している。

青空文庫に公開されている太宰治「走れメロス」の一文を読み上げたのが以下の音源だ。収録にはフリーソフトの「Audacity」を使っている。収録した音声はイヤフォン、ヘッドフォンで聴くと違いがわかりやすい。

めちゃくちゃな状態で収録

マイクは顔の前ではなく、少し横にズレた場所に設置したのだが、ある程度しっかり声を拾っている。声自体は繊細な音でとらえられている。橋爪先生によれば、これがコンデンサーマイクの特徴ということだ。しかし、声だけでなく、それが周囲に反響する音や、部屋のノイズなども収録されてしまっている。「声を拾ってはいるけど、これを流すにはちょっと」と言ったような、明瞭度の低い声だ。

使っているオーディオテクニカのコンデンサーマイク「AT2020」は、「狙った音だけを捉える単一指向性」とされているが、実際に収録してみると思った以上に周りの音も良く拾う、ということがわかる。

我々と同じ様に、テレワークやゲームのボイスチャットなどの機会が増えて“もっと良い音で声を届けたい”と考えている人は多いだろう。ネットで“声が綺麗に収録できるマイク”を調べると、「XLR接続のコンデンサーマイクが良い」と書かれている事が多く、手頃なオーディオインターフェイスとセットで買った人もいるはずだ。筆者と共に橋爪先生のレクチャーを受けている山崎編集長も同じような状態なのだが、どうやら、“買って適当に置いた”だけではダメなようだ。

オーディオインターフェイスの設定も大事

ここから橋爪先生にアドバイスをもらいながら正しい位置に修正。マイクは自分の目の前20cm程度の位置に置き、高さは口と同じ高さに。視線の先に原稿が表示されるようにして、なるべく声を出すことだけに集中できるようにした。

コンデンサーマイクは口の高さに合わせ、15~20cm程度離したところに置く

このとき姿勢についてもアドバイスをもらった。股を開くのがポイントということで、床に直接座っている場合は、あぐらや、正座から足を開いた状態……いわゆる「女の子座り」や「ぺたん座り」といった座り方をして、しっかり股関節を広げ、肺の下あたりから声を出すイメージで発声するのが基本。そして、できるだけ猫背にならないように、少し胸を張るイメージで発声すると良いとのことだ。

股関節が硬い筆者はあぐらで録音に臨んだ

そして、AG06MK2の設定も見直す。基本的にゲインはMAX近辺にしてしまうとホワイトノイズが急激に増加してしまうため、目安はそのノイズが気にならないMAXの1メモリ前付近にした方が良いとのことだ(AG06MK2の場合)。そして、Audacityの録音メーターを観ながら、一番大きな声が出たときのピークが-10dBから-8dBあたりになるようにゲインを調整する。

収録中は、ゲインは基本固定にして、微調整はレベルツマミで行なう。調整したレベルツマミは、マイクを差し込んでいるチャンネル1のツマミ。よく見ると、メモリが太い箇所がある。これがレベルを上げても下げてもいない「0」になる。基本は0に合わせて、必要に応じて微調整すれば良いそうだ。

画像だとわかりにくいが、ゲインはMAXの1メモリ前、レベルツマミはメモリが大きくなっている位置に合わせる
Audacityのメーターを見ならが声を出し、ピークが-10dBから-8dBあたりになるように設定する

音声を録るときには、ヘッドフォンを繋いで、自分の声を確認しながら収録する。このときのヘッドフォンの音量は、自分が声を出したときに体から響いて聴こえてくる自分の声よりもヘッドフォンの音が少し大きくなるように設定すると、自然に発声できるとのことだ。

筆者は自分の声の返しを聴きながら話すのは苦手だったのだが、今回教わった音量に設定してみると、すんなり収録することができた。

さて、マイクの設置位置と発声のアドバイス、オーディオインターフェイスの設定も整ったところで、実際に録ってみた音声が次の動画だ。収録場所とマイク、インターフェイスは先ほどと同じく防音/調音対策無しのリビング、AT2020、AG06MK2を使っている。

なお今回は、配信などリアルタイムで音声を届ける状況ではなく、エフェクトなどを録音後にかけることを想定して、コンプレッサーやEQなどの機能は全てOFFの状態にしている。

リビング×コンデンサーマイク

聴き返してすぐにわかったが、先ほどのめちゃくちゃな配置環境と比較して声の明瞭度がだいぶ上がった。一方で、声が反響している様子もよりわかりやすく録れているように感じる。

ネットで検索すると「音質を取るならコンデンサーマイク」といった内容の記事や動画をよく見かけるので、「なるほど、じゃあコンデンサーマイク買うか」と購入してしまうと、この反響問題に激突する。まさに山崎編集長がこの問題に悩まされているとのことだ。

また、音量を大きめにして聴くとわかりやすいが、エアコンの稼働音をがっつり拾っている。調べているだけだと「単一指向性を選べば周りの音はそこまで拾わないよね?」と思いがちなのだが、コンデンサーマイクは前述の通りそもそも感度が強めのマイクなので、周囲の雑音も想像以上によく拾う。

お掃除モードの運転音を奏でているエアコン

つまり、“リアルな音質で選ぶならコンデンサーマイク”というのは間違っていないのだが、感度が高いが故に部屋の反響や、PCのファン、エアコンの動作音も拾ってしまう。なので、真価を発揮するためには、「部屋の環境をある程度整えてあること」が前提となるわけだ。

反響やノイズをあまり拾わないダイナミックマイク

では、「部屋を防音/調音しましょう」となるわけだが、そんなに簡単に環境を整えられない……という人が一般的だろう。

橋爪先生によれば、そんな時に便利なのが、反響や周囲の雑音をある程度カットして声を届けてくれるという「ダイナミックマイク」。オーディオテクニカのダイナミックマイク「AT2040」に切り替えてみた。

オーディオテクニカ「AT2040」

先ほどと同じくマイクの高さを口の高さに揃え、距離はコンデンサーマイクよりも少し近づいて15cmくらいの距離を取っている。本来、ダイナミックマイクは至近距離で話すものなのだが、今回は音質重視で少しマイクとの距離を取る方針になった。そのため、音量が少し小さめになっている。

リビング×ダイナミックマイク

コンデンサーマイクの時と同じくらいの大きさで聞こえる程度に音量を合わせると、ダイナミックマイクで収録した音声の方が部屋の反響音とエアコンの駆動音が少なく感じると思う。比較用に今までの3つの動画をつなげたものも用意してあるので、聴き比べてみてほしい。

めちゃくちゃ→コンデンサーマイク→ダイナミックマイクを比較

防音/調音の対策ができない、とりあえずオンライン会議や友達と通話しながらゲームしつつ、いずれ配信もしたいからオーディオインターフェイスとXLR接続のマイクを買おう、と思っているのであれば、まずはダイナミックマイクを試してみる方が良さそうだ。

部屋の防音/調音環境を整えるとどれくらい変わる?

調音/防音対策が施されている橋爪先生の収録部屋

こうなると気になるのが、“環境を整えた部屋で、コンデンサーマイクの性能を発揮したらどのような音になるのか?”という点。そこで場所を調音/防音対策が施されてた橋爪先生の収録ブースに移動、マイクをコンデンサーの「AT2020」に戻した。読み上げは山崎編集長にバトンタッチしている。

なお、橋爪先生の収録ブースは、もともとウォークインクロゼットだったスペースに吸音材を貼り付けて作られたもの。中に入ると音が全く響かず、非常に“デッド”な空間だ。

リビングと防音室を比較

同じ機材なのか? と思うくらい、収録ブースで録った声の方が明瞭で力強く聴こえる。収録ブース内にPCも持ち込んだため、かすかにPCのファンの音が入ってしまってはいるが、それ以外の雑音や反響音が大分抑えられたこともあり、この時の声が一番実際の声に近いと思う。

とはいえ、こんな防音部屋を作ったり、防音ブースを設置するのはハードルが高い。

橋爪先生によると、そんな場合は、部屋の反響を抑えるために家具や物を積極的に置くのが良いとのこと。

また、マイク近くの壁だけに注目せず、声が反射して戻ってくる背中側の壁や空間にも注目。そこに丸めた布団やぬいぐるみを置いたり、ポールハンガーを設置して毛布をかけるなどすると、背中の壁で反射して戻ってくる声を抑える効果もあるそうだ。

カーテンも吸音効果が期待できる。化繊よりもシルクの方が雑味が少なく、優れた音響特性が得られるとのこと

防音/調音についての詳しい内容は別記事でも紹介している。

筆者と山崎編集長で声質がかなり異なるため、再度筆者も防音室で収録することに。次の動画は先ほどのリビングで収録したものと防音室で収録したものを比較できるようにしている。

編集 野澤の声でリビングと防音室を比較

筆者の声では、部屋の響きがなくなったことでさらに声の低い部分が強調されていて、リビングで収録した音声と比較すると違いがよりわかりやすいかもしれない。

良い環境×高級マイクでどれくらい変わる? ソニー「C-100」で録音

反響を抑えた収録ブースで、コンデンサーマイクで録音した声のクオリティを実感したわけだが、こうなると、「もっと高価なコンデンサーマイクで収録したらどうなるのか?」も気になってくる。

というのも、筆者の持っているAT2020(実売12,980円)はオーディオテクニカのコンデンサーマイクの中でも入門モデルなのだ。そこで、橋爪先生が所有しているソニーのコンデンサーマイク「C-100」(実売172,568円)をお借りして収録してみた。AT2020とは価格が1桁違うマイクだ。

ソニー「C-100」

マイク性能の比較のため、オーディオインターフェイスは引き続きAG06MK2を使い、AG06MK2のマイク入力に接続して収録した。

AT2020とC-100を比較

やはり値段が違うだけあり、声のクオリティはだいぶ違う。わかりやすい違いは低域のノイズの少なさ。SN感が上がって声に締まりが出たように感じる。また、声の高い部分もしっかり拾っているため、AT2020でやや強調されているように感じた声の低い部分が軽減されて聴き取りやすくなった。

だからといって、「とにかく高価なマイクを買おう!」というのも落とし穴だ。C-100は感度が非常に高く、ノートPCのかすかな駆動音もしっかり拾ってしまうほか、声が割れないようにゲインを調整するのも、より繊細な配慮が必要になる。このマイクを防音/調音対策のしていない場所で使うと、声以外の様々な音を、より多く拾ってしまうだろう。

予算に余裕があれば、マイクやオーディオインターフェイスだけでなく、部屋の防音/調音環境の整備にも注力した方が、購入した機材の実力を発揮できる。逆に、それをしないのであれば、ダイナミック型マイクの方が使いやすい事もあるだろう。このあたりのバランスを考えながらの製品選び・セッティングが重要と言えそうだ。

野澤佳悟