トピック
「我々は日本のTVメーカーと次世代パネルを開発中だ」。液晶TVパネル世界2位TCL CSOTインタビュー
2025年6月27日 08:00
世界最大級のパネル製造企業「TCL CSOT」を傘下にもち、液晶テレビの世界シェア第2位を誇るグローバルブランドが「TCL」だ。
6月上旬、中国・広東省にあるTCL CSOT工場とTCL本社を巡るメディアツアーに参加し、パネル・テレビ開発に携わるメンバーや事業責任者らから新製品や日本市場での今後の戦略などについて話を聞くことができた。その模様を全3回にわたって取り上げる。
今回は、TCL CSOTの工場見学に続くインタビュー編となる。
TCL CSOT技術企画センターでセンター長を務める周(シュウ)氏のほか、TV・業務用ディスプレイ、そしてLEDディスプレイの開発責任者らが合同インタビューに応じてくれた。現在、日本のテレビメーカーと次世代パネルを共同で開発していることや、引き続き印刷式OLEDテレビの量産に向けて開発を進めていることなど、興味深い話を聞くことができた。
5,000分割で他社の10,000分割と同じ明暗効果を作ることができる
――他社と比べ、TCL CSOTの強みはどこにあると考えているか。
周氏(以下敬称略):我々は液晶から有機ELまで、あらゆる技術とパネルをソリューションとして提供できることが強みであると考えています。
液晶と一言で言っても、独自のHVAパネルからIPS方式も含めた様々な種類のパネルを量産することができます。もちろん全ての技術を把握することも大切ですが、何よりも“消費者の目線”や“市場環境”を分析しながら商品ラインナップを増やし、様々な選択・提案をできるような体制にすることが重要だと考えています。
有機ELに関しては、一般的な蒸着方式と、我々が量産を開始した印刷方式があります。スマートフォンなどの小型は蒸着が主流ですが、中小型、そして将来は大型でも印刷方式が生かせると思っています。
周:液晶は、我々が注力をしている技術の1つです。HVAパネルにおいては、ネイティブコントラスト比で7,000:1を実現しました。そして、ローカルディミングの技術も向上させています。同じインチサイズで他社が10,000分割の製品を投入してきたとしても、我々の最新パネルであれば、5,000分割で同等の明暗効果を作り出せると考えています。日本で今年発売する「C8K」の性能にも自信を持っています。
――日本市場に向け、特別な製品や戦略の計画はあるか。
トニー:我々は日本のメーカーと戦略的パートナーシップを組み、ハイエンドな製品を一緒に開発していきたいと考えています。日本の有名なテレビメーカーさんとも良好なビジネスパートナー関係を築くことができていて、そのテレビメーカーのハイエンドテレビの大部分のパネルは、弊社のものが採用されるまでになっています。
市場では、反射が少なく、コントラストが高く、そして応答速度やリフレッシュレートに優れるパネルが求められています。我々が行なってきたパネル開発・戦略は間違っていなかった。我々はいま、先ほどのテレビメーカーと次世代のパネルを開発中であり、今後さらにその技術を進化させて行く方針です。
テレビだけでなく、ゲーミングモニターの市場も重要です。これからもリフレッシュレートを高めたパネルを開発し、業界トップのシェアを狙いたいと考えています。
ミニLED/マイクロLEDディスプレイの分野に本格的に取り組む
――ディスプレイ技術の進化にどのようなビジョンを持っているのか。
陳:昨年我々は“APEX”という戦略方針を掲げました。Aは驚きを意味するアメイジング(Amazing)です。我々はより高いコントラスト、より広い色域、より高いリフレッシュレートの製品を開発し、ユーザーへアメイジングな画質を提供するべく今後も技術革新を進めます。
陳:Pはプロテクティブ(Protective)です。ディスプレイは毎日接するものですから、ユーザーに安全でなければなりません。人の目は自然な光が最も疲れにくとされていますから、太陽光のような、自然な光を再現できるのが理想です。具体的には、刺激的なブルーライトを抑制し、反射を抑え、チラつきなどを軽減し、目に優しく快適な映像を再現することを心がけています。
Eはエコフレンドリー(Eco-friendly)の意味です。まず製造プロセスにおいては、できるだけ太陽光パネルで電力を補ったり、リサイクルできる素材は再利用するなど、環境に優しいシステムを採り入れています。
そしてユーザーの使用においては、省エネであることが重要です。先月開かれた「SID Display Week」(最新ディスプレイの研究・開発者が集まる展示会)では、85型サイズで欧州の省エネ性能認定「A級」を世界で初めて獲得するパネルを展示しました。この省エネパネルは、ソフトウェアとハードウェアを工夫することで、前世代比40%以上もの電力効率改善を実現しています。
最後の“X”は、限界のない、無限の想像力を持って、未来を切り開いてゆく我々のビジョンを表しています。テレビだけでなく、引き続き様々な分野に、最新で優れたパネルを提供して行きたいと考えています。
――現在どのような分野に注力して技術開発しているのか。
陳:特に注力して技術開発しているのがLEDディスプレイです。
数年前、我々はLEDディスプレイに特化した部門を起ち上げました。ここで言う“LEDディスプレイ”とは、LEDを液晶の光源として利用するものではなくて、LEDチップそのものをRGBのサブピクセルとして使う自発光型のディスプレイを指します。
このLEDディスプレイは、今後も進化が見込まれる次世代の技術であり、画質・輝度の面でも高いポテンシャルを持っています。ですからTCL CSOTとして、ミニLEDディスプレイ、そしてマイクロLEDディスプレイの分野に本格的に取り組んでいきます。
Explore the brilliance of#TCLCSOT's#MLEDlineup at#SID#DisplayWeek2025! Our cutting-edge displays are engineered to elevate your experience. Keep an eye out for an in-depth look at the transformative tech behind these innovations in our upcoming video!#DisplayTechpic.twitter.com/L7MPV3P4Cv
— TCL CSOT (@TCL_CSOT)May 14, 2025
陳:ミニLEDディスプレイはOLEDと比べて輝度に優れ、寿命も長いのが特徴です。現在様々なメーカーがミニLEDディスプレイ、マイクロLEDディスプレイを研究・開発しています。今はまだ100型を超えるような超大型サイズであったり、業務用に使われるようなものに限られていますが、このまま技術が進めば、マイクロLEDもより身近になり、さらに高品質な製品が出てくることが予想されます。
陳:TCLでは昨年、4K163型のマイクロLEDテレビ(163X11H Max、日本未発売)を海外でリリースしました。このマイクロLEDパネルの生産も中国で行なっており、今年からマイクロLEDの生産ラインも本格的に稼働させるつもりです。
「テレビ向け印刷OLEDの量産をしない」という考えはない
――テレビ画面の4隅にある“黒い縁(ベゼル)”を限りなく排除した「Virtually ZeroBorder」はどのように実現したのか。
周:ZeroBorderも消費者のニーズから生まれた発想です。従来、黒い縁はテレビを動かすのに必要な基板やパーツを収めるスペースになっていました。またテレビを設置した外的な環境……例えば湿気などからパネルを守る役割もあったわけです。
周:まずは電気回路を設計から見直し、パネル周辺のパーツを半分以上削減しました。また、パネルを水分から如何に守るかという点についても、様々なサプライヤーと議論・検討し、べセルがほとんど無い状態でもテレビの使用に影響のない素材と筐体構造にたどり着きました。そして、それを安定して生産するべく、製造工程でも見直しを行なうことで、ようやくZeroBorderという、真にベゼルのないパネルを作ることができました。
――独自パネル「HVA」は従来のVAパネルと何が違うのか。
周:まずHVAパネルは、高いコントラスト、広い視野角、そして低反射であるというのが特徴です。一般的なVAパネルは、ネイティブコントラスト比が5,000:1ですから、HVAは40%高い、7,000:1を実現できています。ではこうした特徴をどのように実現したか?というと、材料の選定であったり、設計の見直しによるものです。
ミニLEDバックライト技術の課題としてハロー現象(光漏れ)が挙げられますが、これがパネルの素材によるものなのか、ミニLEDバックライトの位置によるものなのか、原因の可能性を一つ一つ検討する必要があります。HVAパネルはバックライトも大きく見直すことで視野角性能も大きく改善することができました。
――HVAパネルは現在TCLのテレビのみに搭載されているが、TCL CSOTとして外販する予定はあるのか。
トニー:TCLだけではなく、今後はほかのテレビメーカーにも提供する予定です。ただ、一番早く(最新パネルを)使えるのはやはりTCLだけ、ということになります。だいたい半年から1年。それくらいの時間が経てば、他社にも供給されるようになると思います。
HVAパネルは品質でグレードが分かれていて、最も高品質なものがCrystGlow WHAVパネルになります。少し高価にはなりますが、高画質なテレビをリリースしたいと考えているメーカーには十分採用してもらえるクオリティに仕上がっていると思います。
――先ほど「日本のテレビメーカーと次世代のパネルを開発中」との発言があったが、“共同開発”と言う理解で正しいか。
トニー:その理解で間違いありません。まず我々は顧客から「こうゆうものが欲しい」というオーダーを受け取ります。そのオーダーを見ながら我々はどう実現するか? 最適な材料は? 等を考え、顧客と協議しながら最終的な製品を作り上げていきます。
――印刷式OLEDについて。テレビ向けの、大型パネルの量産は計画しているか。
周:現状、印刷式OLEDパネルは中小型の利用を想定しています。ただ「テレビ向けの大型を量産しない」という考えはありません。先月開催された展示会(SID Display Week)においても、65型8Kの印刷式OLEDパネルを披露しました。需要を見ながら、引き続き検討していきたいと思っています。
#TCLCSOTis setting new standards at#DisplayWeek2025with our latest#IJPOLEDinnovations! From mobile to TV, we're giving a sneak peek at some groundbreaking displays. Stay tuned – more exciting details on the IJP OLED family bucket are coming soon!#SID#DisplayTechpic.twitter.com/dvJlS6hK00
— TCL CSOT (@TCL_CSOT)May 14, 2025