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「レグザNo.1」の真相。テレビ専業で“攻める”TVS REGZAのこれから

4K液晶レグザ「Z740XS」シリーズ

「テレビが売れている」。

昨年から、こんな話を様々なところで聞く。どのメーカー関係者に尋ねても、テレビの販売台数は前年度よりも伸張しており、「コロナ禍による巣ごもり需要に加え、10年前のエコポイント時に購入したユーザーの買い換えもあり、販売は活況」と口を揃える。年間500万台まで落ち込んだテレビの販売台数は、2020年は630万台にまで回復。この基調はしばらく続くとみられている。

こうした状況下において、特に売上を大きく伸ばしているのが、レグザだ。

家電量販やネットショップでの実売データを基に集計を行なうBCNランキングによれば、2021年3月1週における液晶テレビのメーカー別販売台数シェアでは、レグザが21.2%と初の首位を獲得。“16年間破られていなかった首位ブランドの交代劇”ということもあり、同ニュースは大手新聞社にも取り上げられた。

偶然にも、販売シェア1位となった'21年3月は、レグザブランドが誕生してちょうど15年目にあたる。そしてこの15年を節目に、レグザを展開してきた東芝映像ソリューションは「TVS REGZA」へと名称を変更し、テレビブランドの名を社名に冠した唯一の映像機器メーカーとして、新たな一歩を踏み出すことになった。

カンパニーロゴも「REGZA」となった

レグザ、そしてTVS REGZAの今後を尋ねるべく、TVS REGZAの取締役副社長であり、マーケティング本部長も兼任する中牟田寿嗣氏にインタビューを実施した。レグザの現状や社名変更の狙い、今後の海外戦略、そして現在開発中の15周年記念モデルなどについて話を訊いた。

レグザの復活は、商品力とマーケティングの両輪の成果

TVS REGZA株式会社 取締役副社長 営業本部・マーケティング本部担当役員 マーケティング本部長 中牟田寿嗣氏

中牟田氏(以下敬称略):ご承知の通り、レグザは今年の3月で生誕15周年を迎えました。2020年は新型コロナウイルスの影響により、生活や仕事のスタイルが大きく変化しましたが、自宅で、大きな画面でエンターテインメントを楽しむアイテムとして、やはりテレビは欠かせないという事に、改めて気付かされたタイミングでもあったと思います。

その中で我々のレグザは液晶テレビにおいても、そして有機ELテレビにおいても、大きな売上を残すことができました。4K有機ELの売上は非常に堅調で、特に55型が大きな伸びを記録しました。店頭においては、55型よりもさらに大きい65型、77型を積極的に提案する機会が増えたと聞いています。全体における有機ELテレビの販売比率も高まっていまして、新しいテレビを買う場合は“有機EL、サイズは55型以上”が当たり前になったなと実感しています。

嬉しいことに、今期はテレビ事業を10年振りに黒字化することができました。国内市場だけで、しかもテレビビジネスだけで黒字に転換するというのは容易なことではありませんでしたが、これもひとえに、多くのレグザファンが支えてくださった結果と受け止めています。

思えば、2020年のレグザは“攻め”ていた。

クラウド上にある映像調整データバンクをダウンロードし、視聴中のコンテンツに最適なパラメータを反映させるという、業界初の自動画質調整「クラウドAI高画質テクノロジー」を4K有機EL「X9400」「X8400」、4K液晶「Z740X」「M540X」シリーズに投入。有機ELにおいては、初の77型も加えるなど、顧客のニーズに対し幅広い4Kモデルをラインナップした。

4K有機ELレグザ「X9400」「X8400」シリーズ
4K液晶「Z740X」シリーズ

4Kモデル以外にも注力。中小型の2Kゾーンでは、フルHD機でありながら、あえて4Kテレビ用の高性能映像回路を搭載。2Kの中では他社と比較して高価格にはなるが、専用プレーヤー並みのサクサク操作を実現したスマートテレビ「V34」シリーズを秋に発売。低価格で勝負する他社とは違う、“2Kテレビでも画質や処理速度に手を抜かない姿勢”が支持されている。

そしてブランドのイメージキャラクターには、実に6年振りとなる福山雅治氏を起用。色鮮やかな煙幕の中から颯爽と現れる福山氏のテレビCMは“新生レグザ”を強く印象付けるものだった。しかし、冒頭で記したシェアトップ奪取の要因は、こうした商品ラインナップやプロモーション以外にも理由があると中牟田氏はいう。

中牟田:もちろん、我々がもつテレビ技術には絶対の自信を持っていますし、2020年も満足していただける商品を提供できたと考えています。

ただ、本音を言えば、社内の体制が大きく変わるゴタゴタの中で、流通や顧客との繋がりが希薄になり、メッセージをしっかり伝えることができない時期がありました。そこで2019年、設計・開発から先の部分、つまりレグザをもっと広く展開するためのインフラと営業体制を再構築したわけです。スタッフを拡充し、量販店などの売り場でも、きちんとお客さまにレグザの特徴をお伝えできるような体制を敷きました。

シェア拡大の要因は、営業やマーケティングの活動が実を結び、お客様にレグザの魅力がより伝わった結果。テレビ市場の伸びが巣ごもり需要というワードで表現できるなら、“レグザの復活”は、レグザならではの商品力と、新体制のマーケティングという両輪が揃った成果と言えると思います。

これまでのレグザは、映像品質や機能に一際熱心なコアなユーザーであったり、クリエイターと呼ばれるようなプロの制作者などを中心に、高い支持と評価を集めてきたイメージがある。シェアが拡大したことで、そうしたユーザー層に変化は起きたのだろうか。

中牟田:有り難いことに、レグザは本当にコアなファンに支えられているなと感じています。映像制作に携わるプロの方々からも、そして映画やゲームを高品位に楽しみたいと願うこだわりあるユーザーからも、変わらず支持をいただけています。

ですが、コアな層だけではシェアはなかなか拡がらない。“プロやコアなユーザーはレグザを使っている”という事例をできるだけ分かりやすいメッセージで発信し、“自分もそんなレグザを使いたい”という新規のファンを開拓する必要があります。

今回でいえば、2Kの中では他社と比較して高価格なスマートテレビ「V34」が大きな功績を果たしたと考えていて、4K有機ELはすぐには買えないけれど、高スペックでネットも高画質に楽しめるテレビが欲しいと考えるユーザーの心を掴むことができました。シェア20%のイメージとしては、ピラミッドのてっぺんに分布していたレグザユーザーを徐々に下へ下へと拡げることができたという感じでしょうか。

ただ、マーケティングという面では、レグザならではの悩みもあるようだ。

中牟田:レグザの技術・開発のチームは、ギミックや見た目の派手さで勝負するのではなく、オリジナルの映像をいかに自然でリアルに再現するかということに専念してきました。そうした姿勢や技術は、今でも業界随一と自負しています。

今年発表のZ740XSに搭載した「ナチュラル美肌トーン」などはその典型的な例です。この機能では、撮影環境の影響を受けて不自然に感じる人肌を補正し、自然な肌の色にコントロール、リアルで美しい表情を再現することを目指しました。ただ、これを店頭でパッと理解していただくのは、なかなかハードルが高い(笑)。

ただ私は、技術陣のそんな姿勢が“レグザらしさ”の一つだと思っていますし、これからも彼らが作り上げる本物志向を大事に伝えていくべきと考えます。これはマーケティングチームの最大の課題であり、やりがいでもありますね。

タイムシフトマシン4K液晶レグザZ740XSシリーズ

テレビ専業メーカー「TVS REGZA」。開発やサポートは従来通り

レグザの大きなトピックといえば、開発から販売までを担う東芝映像ソリューションがレグザ生誕15周年に合わせて、社名を「TVS REGZA」へと変更したことだろう。

レグザという馴染みある名称がそのまま社名になったことについては、シンプルで自然な流れなのかなとは感じつつも、日本初のカラーテレビを誕生させた“東芝”の名称が社名からなくなることに、寂しさがないわけではない。もしかしたら、これまでの開発体制やものつくりの方向性まで変わってしまうのではないかと、不安がよぎったのも事実だ。

しかし、中牟田氏は「心配は御無用」と話す。

中牟田:仰るように様々な御懸念の声があることを聞いていますが、社名以外は何も変わらないのです。TOSHIBAというプロダクトブランドも、これまで通り製品に残ります。開発の部隊も変わらずに、次のレグザを開発中ですし、製品のサポートも従来通りです。

また社名から東芝という表記がなくなることも、影響はないとする。

中牟田:社名の変更に際して様々な意見がある中で、最終的に「TVS REGZAで行こう」と背中を押すことになったきっかけの1つに、ブランドの認知度調査があります。それは液晶テレビにおけるコーポレートブランドとプロダクトブランドの認知度をそれぞれ測ったもの。その結果、“東芝”というコーポレートブランドでは他社よりも順位が低かったのに対し、プロダクトブランドでは“レグザ”が1位でした。

わたしは長らくソニーに在籍し、VAIOやAV機器のマーケティングや営業を行なっていましたが、外部から見ていた時にも、レグザは強いブランドパワーを持っていると感じていました。

数年前にわたしが営業本部長として着任した際も、営業スタッフの前では「AV機器メーカーのブランドでファンという言葉が付くのは“ソニーファン”だけだが、テレビのブランドでファンが付くのは“レグザファン”だけだ。我々の使命はレグザを多く提供するだけでなく、レグザファンを1人でも多く作ることにある」と鼓舞しました。

手前味噌ではありますが、レグザにはそれだけの固定ファンがいると思っていますし、TVS REGZAという社名もレグザだからこそ実現できました。我々はテレビブランドの名を社名に冠した唯一の“テレビ専業メーカー”であり、どこよりも長くテレビのこと考えて作っていますから、これからも必ず良い結果を残せると自信を持っています。

AV Watch読者であれば説明不要だと思うが、レグザがここまで固定ファンを掴むことができたのは、商品力や福山雅治氏を起用したマーケティングという側面だけでなく、よい意味でテレビらしからぬ、まるでカメラやピュアオーディオのような趣味嗜好品の如きマニアックさが、レグザに内包されているからだろう。

もちろん、他のブランドもシリーズ毎に性能や機能を高めてはいるのだが、レグザはこだわりのレベルがすこし異なる。

特に、放送番組のクオリティ向上に対する熱量は尋常でなく、2020年モデルにおいては、番組個別、もしくは番組ジャンルに応じてパラメータを自動で最適化するというレベルにまで到達した。表向きは“クラウドAI高画質テクノロジー”という名称になってはいるが、そのパラメータとは、高画質技術開発を担当するレグザの名物技術者がコロナ禍の中、自宅に閉じこもり、放送されている番組の傾向と品質をひたすら1つ1つチェックして作成した執念のデータである。

クラウドAI高画質テクノロジー
ネット動画ビューティPRO

またネット動画に対しても、ただ対応するだけでは物足りず、YouTubeやNetflixなど、サービス会社毎のコーデックや画質傾向を踏まえた上で高画質処理を個々に適用している。ほかにも、地デジ番組を全録するタイムシフトマシン機能や、業界最多の7入力HDMI、外部スピーカー端子、そして一般ユーザは到底使わないであろうプロユースの情報表示など、レグザのマニアックな、お家芸的機能は数多い。

中牟田氏もレグザの強みを次のように話す。

中牟田:外部から来た時に感じたのは、開発部隊の皆が高い技術を持っていて、なおかつひとりひとりが拘りを持った濃い集団ということでした(笑)。

そして何より、彼らは当初から“表示デバイスがなんであろうと、画質は半導体が決める”という思想でテレビを開発していました。ブラウン管であろうと、液晶だろうと、有機ELだろうと、どのようなデバイスであろうとも、我々の画質処理エンジンで高画質なテレビを生み出せるという強い信念を持っています。この映像エンジンがテレビを司るという考え方は、他社にも少なからず影響を与えたと思っています。

レグザエンジン Cloud PRO

中牟田:もう一つは、日本のテレビ文化に対するこだわりです。タイムシフトマシンなどはその典型例。グローバルが配信という流れになっても、放送視聴や録画といった日本のテレビ文化を尊重し、テレビにしっかり機能に落とし込んでいます。

こうした部分にリソースをあてられるのも、レグザの良さでもありますし、コモディティ化しがちなテレビに対するレグザなりの答えなのかなと。愚直で熱心に励む開発者らの姿やその濃密な思いに触れると、やはりマーケティングの部隊は、彼らの思いをしっかり伝えることがレグザのファンを拡げることに繋がるのだと改めて思いますね。

なお、社名がレグザになったことで、競合しない他のブランドとコラボレーションしやすい環境が生まれたとのこと。

「まだ実験的な段階」としながらも、一部の販売店ではハーマン・インターナショナルが取り扱うスピーカーとレグザを組み合わせ、外部スピーカー出力を使った店頭デモを実施。多くの来場者に、音質の重要性とレグザの魅力を伝えることができたという。こうしたコラボは、反響を見ながら、今後もさまざまなところと続けていくようだ。

レグザ(TOSHIBA-TV)を再び海外に。次期レグザは「あれもこれも入る」

TVS REGZAとなり、新たに挑戦しようとしているのが“海外市場への本格参⼊”だ。

ここ数年は日本市場での“レグザの復活”に資源を集中してきたが、今般新たに海外事業部を設け、前述のTVS REGZA技術陣の拘り、熱い想いを世界に向け発信して行く事とした。

先ずは第一弾として、昨年10月から中国市場にTOSHIBA-TVの新機種を導入。今年度は従来から日本ブランドの好感度、影響力が強いアジア地域を中心にTOSHIBA-TVを積極展開して行く。

中牟田:3⽉下旬に上海で開催された家電⾒本市「AWE」(Appliance & Electronics World Expo 2021)に出展し、中国で発売した4K有機ELレグザや8Kなどを展⽰しました。現地の来場者には、私たち長年蓄積し更に進化したTOSHIBA-TVの画質や⾳質、機能を体験してもらいました。

家電見本市「AWE」での様子

中牟田:AV業界は撤退や縮小という暗いニュースが多いのですが、我々は日本での勢いをさらに加速させて、金額シェアや有機ELでのシェアNo.1を、そして海外ではもう一度我々の商品を広く使っていただけるよう、テレビ専業メーカーとして精一杯邁進して行きたいと思っています。

4K液晶「Z740XS」シリーズ

最後に、今後発売を控える15周年記念モデルについて尋ねた。第1弾としては先日、4K液晶テレビ「Z740XS」シリーズが発表・発売されたが、それに続く第2弾、そして第3弾はどのような内容になるのだろうか。

中牟田:現段階では、なかなかお答えするのが難しいのですが、一言申し上げるとしたら「え、こんなにラインナップ出していいの?」と驚かれると思います。少し時間をいただきますが、シリーズも、サイズも増やします。モデル数は、他と比べてもかなりの数になると思っています。

特定のゾーンに絞るというよりも、お客様のニーズがあるサイズや、そして他にはあったけれど今までレグザが用意できていなかった機能を全方位的に取り込むイメージです。

もちろん、高画質な映像処理エンジンやタイムシフトマシンなどのレグザオンリーの機能はキープしながら、あれもこれも入りますから、2021年は迷わずレグザからお選びいただけるようになります(笑)。是非これからもレグザにご期待いただきたいですね。