トピック

手の届く価格で満足度もデカい! Polk Audio「ES」シリーズで始めるホームシアター

Polk AudioのSignature Eliteシリーズでシアターを組んでみた

今年もたくさんの良い映画が公開された。特に「ゴジラ-1.0」は邦画ながらもドルビーシネマやIMAX上映も行なわれ、国内はもちろん海外でも大ヒットとなっている。あの迫力ある音響に「今の映画ってすごく進歩しているんだな」と感じた人もいるだろう。そんな立体音響技術であるDolby Atmosだが、今ではハリウッド作品だけでなく邦画やアニメでも採用されることが増えている。もちろん、パッケージソフトや動画配信でもDolby Atmos音声を採用。自宅での映画鑑賞でもDolby Atmosが楽しめるのだ。

ホームシアターというと、部屋の中にたくさんのスピーカーを置くとか、天井にもスピーカーを設置する必要がある、当然コストもそれなりにかかるなど、「自分には無理」と考えてしまう人は多いかもしれない。だが、決してそんなことはない。無理をすることなく手軽に楽しめるホームシアターの夢を叶えてくれるのがPolk Audioだ。

手頃な価格で良い音を楽しめるSignature Eliteでシアターを

Polk Audioは1972年に設立されたアメリカのスピーカーブランドで、リーズナブルな価格で優れた音を楽しめるスピーカーとして知られている。そのポリシーは、“家庭内での最高のリスニング体験をリーズナブルな価格で提供すること”。創立以来、いつも最新技術の研究開発を行なっておりさまざまな特許技術も持つメーカーだが、決して超高額な製品を作ることには興味がないようだ。コストパフォーマンスの高さという点ではぜひ注目したいメーカーだ。

そんなPolk AudioのSignature Eliteシリーズは、Polk Audioとしてはミドルクラスとなるモデル。ポリプロピレンにマイカを加えた軽量・高剛性なウーファー、40kHzにおよぶ超高音域の再生も可能な2.5mmテリレン・ドーム・トゥイーターを採用している。

また、ES50のようなフロアー型のモデルでは、一般的なバスレフポートよりも歪みや乱流を抑え、しかも約3dBも出力を高めたパワーポートを採用。底面にポートを備えたダウンファイヤー型だがスタンド部分に音を四方に放射する構造を備えている。

このように数々の最新技術が盛り込まれており、安価な価格が特徴のスピーカーと思っていると、ドライバーユニットはもちろん、頑丈なエンクロージャーの作りなど、かなり手の込んだ作りとなっていることがわかる。

今回の取材ではD&M本社の試聴室で実施。フロント用に「ES50(4万8,400円/1台)を2台、サラウンド用に「ES20」(5万7,200円/ペア)、センターが「ES30」(4万2,900円/1台)、サブウーファーに「MXT12」(4万9,500円/1台)、ハイトチャンネル用のイネーブルドスピーカーに「ES90」(6万6,000円/ペア)を使用した。

フロントがフロア型「ES50」、センターは「ES30」
サラウンドはブックシェルフ「ES20」を使用
ハイト用のイネーブルドスピーカー「ES90」
サブウーファー「MXT12」

これらによる5.1.2ch構成で最新のサラウンド音響を試してみるというわけだ。ちなみにスピーカーの総額は31万2,400円。

AVアンプには、筆者の好みでマランツの「CINEMA 70s」(実売約10万7,910円)を選んだ。

マランツの「CINEMA 70s」

薄型でスリムな7chパワーアンプ内蔵モデルで5.2.2chの再生が可能だ。背の低いスリムな形状はリビングのテレビ台などにもすっきりと収まるし、デザインも美しい。予算の問題だけでなく、リビングスペースで日常的に使える手軽さも意識している。もちろん、8K/60Hzや4K/120Hzに対応する最新のHDMI入力を備えHDR信号など最新のフォーマットにも対応するし、音楽配信サービスやインターネットラジオなどが楽しめるネットワークオーディオ機能「HEOS」も盛り込まれている。

HDMI出力はeARC対応なので薄型テレビと接続すればテレビ側の音声も受け取れるし、便利な連動操作も可能と最新の機能が盛り込まれている。このほか、Blu-rayディスク再生にはBDレコーダーのパナソニックDMR-ZR1を使用している。

UHD BDの再生はゲーム機のPS5でも行なえるし、安価なプレーヤーもあるのでそれらを選ぶといいだろう。このPolk Audioを中心とした構成でどんな音を楽しめるのかを確かめてみよう。

サブウーファー不要とさえ思える重厚な低音。ステレオ再生も迫力たっぷり

まずはフロント用のES50だけを使ったステレオ再生でPolk Audioの音の実力を確認してみた。

ES50だけを使ったステレオ再生

AVアンプでピュアダイレクトを選択し、純粋なステレオ再生で「岸辺露伴は動かない/岸辺露伴ルーブルへ行く オリジナルサウンドトラック」を聴いた。

このアルバムは菊地成孔によるもので前衛的な演奏がなかなか面白い。岸辺露伴シリーズらしい不条理さを伴う楽曲ばかりだ。冒頭からコントラバスのボディ感たっぷりの音が不気味に鳴る「六壁坂(I)」などを聴くと、予想以上に厚みのある低音が力強く鳴る。13cmウーファー×2で大口径というわけではないがローエンドまでしっかりと伸び、胴の鳴りも豊かな量感でしっかりとボディ感が伝わる。パーカッションがスリリングなリズムを刻む「ザ・ラン」は低音がたっぷりでもキレのいいリズムは鈍らずキビキビと鳴る。個々の音の分離もよいし、音場の広がりも十分だ。

音が前に出てくるような感覚のある威勢の良い鳴り方はまさにアメリカンサウンドという感じだが、決して勢いだけで大味な鳴り方はしない。アコースティックな楽器だけでなく電子楽器やノイズまで織り交ぜた楽曲をきちんと描き分けるし、休止符の静寂やドンと力強く音が出るときの勢いもいい。Hi-Fiスピーカーで求められるような解像感の高さ、広がりだけでなく奥行きもある音場などもしっかりと表現できているから、豪快とも言える力強い鳴り方でも荒っぽくならずに迫力たっぷりに音楽を楽しめる。

これはなかなか良いスピーカーだ。素直にそう思う。音楽などを聴いてもじっくりと聴き込める情報量を持ちつつ、ノリノリで音楽に浸れる楽しさもある。そして、ステレオ再生のままで、UHD BDの「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」のチャプター1を見てみる。これは前作での物語をヒロインが回想する場面で激しいドラムソロとともに主人公との出会いを振り返る。バスドラムの深みのある低音はサブウーファーも鳴っているかのような迫力だし、スネアドラムの連打の小気味よさはキレ味が鋭くどれだけやかましく叩いていてもヒロインのダイアローグが聴きづらくなるようなことはない。この定位の良さと音のクリアさも見事だ。

音場はステレオ再生でも本来のDolby Atmosの空間感がきちんとわかるし、左右のスピーカーの間にドラムセットを叩くヒロインがいる様子が広がりすぎることなく定位している。

アクションシーンも見てみたが、スパイダーマンらしいスピード感のある動きは前後の移動感まで感じる。音としては後ろにまで広がるわけではないが、前方主体の奥行きのある空間感はあるので、サラウンド音声らしさもしっかりと出る。これは位相特性がしっかりとしたスピーカーならではのもの。中低域も厚みがあるしサブウーファーもいらないほどの重低音も出るので、スピーカー2本でも立派にホームシアターと言ってしまいたくなるほど。

5.1chはスピーカーの“つながりの良さ”に感心。シームレスな空間をきちんと再現

センタースピーカー、サラウンドスピーカー、サブウーファーを加えた5.1ch再生にチェンジ

今度はセンタースピーカー、サラウンドスピーカー、サブウーファーを加えた5.1ch再生だ。同じく「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」を見てみたがアニメ版ならではの実写映画以上に空間感や移動感などを強調したサウンドデザインがよくわかる。たとえば、無心にドラムをたたくヒロインをバンドメンバーが制止し、悩み事があるなら相談に乗るよと声をかけるのだが、この声が右や左から聞こえてくる。「聴きやすさ重視で声はすべてセンタースピーカーから出す」というような安易なサウンドデザインを本作はしない。後ろから迫る敵の声はちゃんと後ろから出てくる。当然、すべての音がそうだ。そのため、音に包まれるとかVR的な感覚を超えてアメコミの誌面の中に入り込んだような感覚になる。この感じが違和感なく再現されたのには驚いた。

まず、個人的には20畳を超えるような広い空間でもない限りセンタースピーカーは不要と考えている。本作のように右から左へと移動しながらセリフを言うとき、真ん中あたりだけ声がセンタースピーカーのある下から聞こえることがあるからだ。しかし、今回のシステムでは、作品を見ていて左右の水平移動で音の定位が不自然に上下することがない。各スピーカーの音がきちんとつながっていてシームレスに音が移動する。これは“スピーカーのある場所から音がしない”とか“音離れが良い”などと表現される高級スピーカーを使って、しかも入念なセッティングをしないと出ない音だ。

こういう音がきちんと出るからセンタースピーカーの本来の意味である、“主人公のセリフが明瞭に力強く聴こえる”“画面から出てくる音の厚みや実体感が増す”という効果がよく伝わる。これは見事なもの。

そして、サラウンドスピーカーは個人的な希望では同じES50で揃えたかった。これはステレオ再生で左右のスピーカーを同じもので揃えるのと同じ理由。音の繋がりの良さに関わる部分だ。しかし、ブックシェルフのES20でもきちんと音が伝わる。だからスパイダーマン特有の糸を伸ばしてビルの谷間を移動するような場面で、前から後ろへと通り過ぎるさまざまな音がきちんと移動する。強いて言えば暴走するトラックのような重低音は後方へ移動すると低音が足りなくなるのがわかるが、それもごくわずか。ES20もなかなか低音の鳴りっぷりがよく後方の音の厚みの不足をあまり感じない。

5.1chのまま「ミッション・インポッシブル:デッドレコニング PART I」も見た。旧型のフィアット500でローマの街を駆け巡るカーチェイスはカン高い音を立ててキビキビと走る様子が気持ちいいし、重厚な装甲車で後を追う敵役たちが他の車を蹴散らすときのゴツい響きも迫力たっぷりだ。予告編でもおなじみの崖の上からバイクごとジャンプする場面は、単気筒エンジンを高回転まで回したときのヒステリックなエンジン音もリアルだし、ジャンプした直後の無音がしずかだ。直前までガンガンに出ていた音がスッと無音になるときに無駄な余韻というかざわつきがないので、高所に放り出されたときの思わず息を呑むような感じがよく出cる。そして直後には強い風のうなりと絶叫するように会話をする声が力強く鳴る。このダイナミックな音響も100点満点の迫力だ。

5.1chというのは現代のサラウンド音響の基本のようなもので、5.1chがきちんと再生できているシステムならばDolby Atmos作品だって十分に楽しめる。とはいえ5.1chでここまで立派な音が出ると、これで天井からも音が出るようになったらどうなっちゃうんだろうと思うはずだし、当初は天井スピーカーは無理と思っていた人でさえどうやって天井のような高い位置にスピーカーを設置するかを検討してしまうのも確かだ。ホームシアターの沼もなかなか深い。

イネーブルドスピーカーで、家庭でも手軽にDolby Atmosを実現

いよいよDolby Atmosだ。今回はハイトスピーカーとしてイネーブルドスピーカーのES90を使用する。これはスピーカーユニットが斜め上を向くように配置されたスピーカーで、音を天井に向けて放射し天井からの反射音として高い位置の音を再現する仕組みだ。ES90はそのためにシリーズに追加された新製品で、もちろんDolby Atmosの認定も受けている。

イネーブルドスピーカーのES90を追加

要するにイネーブルドスピーカーを使えば、天井のスピーカーを設置する必要がない。しかも設置位置はフロントスピーカーやサラウンドスピーカーの上に置けば置き場所が増えることもない。天井への取り付け工事をする必要がないので、賃貸住宅などでも実現できる方法だ。

しかもES90は、ES60/ES55/ES20に適合するサイズになっており、ESシリーズの両端がラウンドした形状に合わせた底面になっている。ES50の上にES90を重ねるとラウンド形状がぴったりとフィットするし、ゴム系の素材になっているため簡単にずれるようなこともない。

ES90の底面は、ES60/ES55/ES20に適合するサイズと形状になっており、スピーカーの上にピッタリフィットで設置できる

天井のスピーカーを吊り下げるのが理想とすると、イネーブルドスピーカーに良いイメージを持たない人もいるかもしれないが、天井に吊り下げるために小型軽量のスピーカーを使うくらいならイネーブルドスピーカーの方が良い場合もある。なぜならスピーカーサイズをそれなりに大きくすることができるため。ES90はシリーズ共通の2.5mmテリレン・ドーム・トゥイーターと13cmマイカ強化ポリプロピレンウーファーによる2ウェイ構成。形状こそ特殊だが普通のスピーカーとして使える実力がある。これと同じ規模の2ウェイスピーカーを天井の設置するのはそれなりに本格的な工事が必要だ。

なかなかハードルが高い天井スピーカーだが、イネーブルドスピーカーを使うようにするとかなり容易に実現できる。同じシリーズで同じドライバーユニットを使っているから音の繋がりの点でも安心だ。

これでDolby Atmos対応の5.1.2ch構成が完成だ。これで「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」を見てみよう。もちろん、高いところにあるべき音が高いところから聞こえてくる良さはある。それ以上に感じるのは空間の一体感だ。

5.1chが円柱の筒の中にいるイメージと考えると、5.1.2chは半球状のドーム内にいるイメージだ。そしてDolby Atmosはそのドームのどこにでも音を定位させ移動させることができる技術だ。そういう特長もあり空間の再現力が一気に高まる。これまでは前後とか左右といったイメージで感じていた音の移動がまさしく自由自在な音の移動になるし、これは現実に自分で感じている方向感や移動感に近い。だから、その場所に居る感じがますます強まるのだ。スパイダーマンでのビルの谷間を自由に移動する感覚、ミッション・インポッシブルで高所からジャンプする感覚がまさに体感的なものになる。

また、ローマでのカーチェイスは街中の大通りだけでなく狭い小路や地下鉄の路線内にまで行くが、その場所による空間の広さや狭さがよくわかるのも映画の面白さがよくわかる理由。この空間感があるからクライマックスのオリエント急行内でのアクションがより緊迫感のあるものになる。

ES90で感じたのは天井からの音もしっかりと中低音が充実しているので空間感が軽くならないこと。設置のしやすさを優先して小型のスピーカーを吊り下げるとただ音が出ているだけで空間感が物足りないことがあるが、そういう不足をあまり感じない。理想を言えば後ろのES20の上にもES90を重ねて5.1.4chにグレードアップしたくなるくらいだ。ともあれ、これで現代最先端の立体音響はほぼ完成だ。

ES20の上にES90を重ねることも可能だ

ステレオ再生からスタートして、映画の音の歴史を振り返るのも一興

Polk Audioによる5.1.2chのホームシアターは家庭環境としてはかなり満足度の高いシステムだ。スピーカーだけで約30万円。AVアンプやケーブルなどなどを入れると40~50万円に迫る予算が必要になる。決して手頃な価格とは言えないと思う人もいるだろう。だが、一応のゴールである5.1.2ch環境を、“今すぐに”実現する必要は決してない。

ステレオ再生でも案外サラウンド感が得られるのはすでに述べたが、音楽再生も含めてまずはステレオ再生から始めるというのは良いと思う。そこから徐々にグレードアップをして5.1.2chに到達すればいい。

こんな話をするとなんとも気の長い話と感じるかもしれないし、筆者のようなおじいさんは3-1方式(信号は2チャンネル)のアナログマトリックスのドルビーサラウンドの頃からホームシアターをやっていて、ドルビーデジタルの5.1ch、6.1ch、7.1ch、そしてDolby Atmosと体験してきている。軽く30年くらいはやっている。その30年をお金の力でショートカットしてもあんまり面白くない。と思う。

ステレオ再生の時には3-1方式のドルビーサラウンドの音源も試してみればどうか? 最近は普及の名作が4K化、Dolby Atmos化されて発売されているが、そうしたパッケージにはオリジナルの2チャンネル音声も収録されている。昔のオリジナル作品をオリジナルに近い音声で楽しむというのも面白いし発見もある。

センタースピーカーを追加したらセンターだけでモノラル音声の映画を聴いてみよう。これもなかなか面白い。5.1chが実現したらいよいよドルビーデジタルやDTSの出番だ。「ジュラシックパーク」や「マトリックス」がなぜあんなに大ヒットしたのかその理由がわかるはず。こうしてグレードアップをしながら映画の音響の歴史を辿ってみると映画がもっと面白くなる。こんな楽しみ方をしていたらあっという間に10年が経つ。

だから慌ててDolby Atmosに追いつく必要なんてない。まずはできるところからスタートして存分に楽しみながらグレードアップしていけばいい。途中で休憩したっていい(途中でやめちゃってもいい)、長く続けるからますます面白くなる。趣味というのはそういうものだ。

Polk Audioによるシステムは軽く10年は飽きずに映画や音楽を楽しめる実力がある。10年以上かかる趣味というと若い人には果てしなく長いと感じるかもしれないが、始めるならば早ければ早いほどよい。そのぶんもっと長く楽しめるから。迷っている時間の余裕などない。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。