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DALI、ペア1,500万円のスピーカー「KORE」。超弩級でも「DALIの音」
2022年10月4日 11:00
ディーアンドエムホールディングスは、デンマーク・DALIのハイエンドスピーカー「KORE」を10月26日に発売する。完全受注生産で、価格はペア1,500万円(税抜)。
一切の制約を取り払い、技術を結集して開発したというモデル。「これまでのDALI製品の頂点に立ちながらも、これまでのDALIの方向性の延長として」開発されており、「音楽の世界をさらに深く“視る”ことのできるスピーカーとして40年近くにおよぶDALIの全てを結集した」とのこと。
DALIはこれまで、1990年代半ばのに「MegaLine」、1988年には「DaCapo」、1992年には「SKYLINE」など、超弩級モデルを展開。1987年の「DALI 40 SE」や2002年の「EUPHONIA」シリーズなど、一見オーソドックスなデザインであっても、複雑なカップルド・キャビティによる低音負荷や世界初のドームとリボンのハイブリッド・ツイーターなどの重要な革新的技術を備えたモデルを登場させている。
今回の「KORE」のルーツは、2008年に構想され、2011年にプロトタイプが完成したハイエンドスピーカー「EMINENT ME9」にある。このスピーカーは、プロトタイプが完成したものの、当時の世界的な金融不安が原因でプロジェクトが中止に。しかし、その美しさが好評であったため、その工業デザインが、KOREの重要なリファレンスポイントになったという。
また、KOREの開発にあたり、自社での製造能力を拡大。より多くの部品を現地で調達することでデンマークの企業を活用することを目指している。筐体にはアルミダイキャスト、構造用複合材、セメントベースの樹脂複合材が使われているが、これらはすべてデンマーク中央部にあるDALIの生産施設から容易にアクセスできる場所にあるサプライヤーから調達している。
エンクロージャーは、薄い板を多数張り合わせ、プレスで曲げ加工を施した高強度なものになっている。湾曲した28mmのバーチ積層板のコアと、4mmのウッドコンポジットパネルで構成しており、「パネルの共振を完全に抑制する」という。さらに、湾曲したエンクロージャーのシェルを、厚さ30mmのバーチ積層板のフラットなフロントパネルに取り付けるという組立技術も採用。シェルの前縁を20mmほど引き離し、それを解除してフロントパネルをロックしている。
エンクロージャーのカーブしたシェルと角度のついたシェルフは、平行面を作らないための工夫で、定在波の共振を回避している。
このエンクロージャーを作るにあたっても、デンマークの家具産業で長い歴史を持ち、高い評価を得ている曲面ウッドパネルの専門メーカーに投資。その技術を用いる事でKOREの持つ優雅な曲線美を可能にした。「地元のサプライヤーであれば、品質も良く、配送も確実で、コミュニケーションも容易」だという。
ミッドレンジとツイーターを取り付けているバッフルはアルミダイキャスト製。共振のない構造を実現するために、複数の成形シリコンマスダンパーを反ノード位置に取り付け、鋳物を機械的に不活性化させている。
次世代のSMCと“バランス駆動型”
ドライバーはすべて新開発。5ドライバー構成で、11.5インチのSMCドライバーを使ったウーファー×2と、7インチのSMCドライバーを使ったミッドレンジ×1、35mmのソフトドームツイーター×1、リボンツイーター×1を搭載する。
仕様としては4ウェイだが、正確には“3ウェイ + 0.5ウェイ + 0.5ウェイ”と表現できる構成になっている。
2つのウーファーは、筐体の一番上と一番下に搭載しているが、上のウーファーの再生周波数は早めに落ち、ミッドレンジと繋がっているのは下のウーファーとなる、周波数をずらしたいわゆるスタガード方式。これは音像を自然にするための工夫だ。上側のウーファーは、低音放射をリスニングルームの床から快適なリスニングポジションに向けて放出するために、少し傾けて取り付けられている。
ドームツイーターの上の周波数はカットしておらず、リボンツイーターはそれを超えると高い周波数から、ドームツイーターの高音域にかぶさるように繋がっている。リボンとドームツイーターを組み合わせている理由は、狭くなるドームツイーターの指向性を、リボンによって補うため。
これらのドライバー開発にあたっては、1,200個の部品を新たに開発。ウーファーとミッドレンジには、新世代のSMCを使っている。
SMC(Soft Magnetic Compound)は、磁気回路に用いている技術。磁気回路に砂鉄を使うのだが、鉄は磁気を通すだけでなく、電気も通してしまう。そこで電気抵抗の高いものにする工夫を行なうのだが、SMCでは、砂鉄の一粒一粒に化学的なコーティングを施している。これにより、高い透磁率と、低い導電率を実現している。
ウーファーとミッドレンジの磁気回路には、このSMCの“第2世代”を採用。従来と比べて2.5倍導電性、鉄の約25,000分の1の導電率となり、「ヒステリシス、磁束変調、渦電流をさらに大幅に低減し、損失と歪みのさらなる低減を実現した」という。
なお、搭載しているネットワークのチョークコイルにもこのSMCを活用しているとのこと。
ウーファーとミッドレンジのSMCドライバーは“バランス駆動型”になっている。一般的なドライバーでは、振動板を前に押し出す力は強いが、後ろに戻す力は弱い。そこで、“デュアルボイスコイル”を採用。これは、ボビンに巻き付けた線材が2つあるもので、1つが右巻き、1つが左巻きになっている。
このデュアルボイスコイルと組み合わせる磁気回路は、通常のドライバーの磁気回路の下に、もう1つ磁気回路を追加したような構造になっており、振幅して、一方のボイスコイルが磁界の内側へ移動すると、もう一方のボイスコイルが外側へ移動するような配置になっている。
このような構造にする事で、プラス側に10mmまで動いた時と、マイナス側に10mmまで動いた時で、どちらも駆動力が変わらないという。メカニカルな限界は±15mmだが、それを超えて減衰したとしてもドライブは可能。
一般的なシングルボイスコイルでは、音量が大きくなり、ボイスコイルの動きがその長さとマグネットのトッププレートの厚みによって作られる限界に近づくと、歪みが増加する。ツインボイスコイルでは、この非直線性を2つのボイスコイルの形状が補完し合うことで打ち消せるという。
振動板にも工夫があり、大口径ウーファーでは、強度を高めるために木材繊維で強化されたハニカムサンドイッチ・ペーパーパルプ・ダイアフラムを搭載。適度な固有ダンピングを持ち、剛性を保ちながら、過渡信号に瞬時に正確に反応できるようになったという。
同じくバランスドライブのSMCミッドレンジドライバーには、軽量な紙パルプ振動板を採用。高剛性ベント付きチタンボイスコイルフォーマー、非線形ダンピングを最小限に抑えるために特別設計されたサスペンションシステムも組み合わせている。振動板にはエンボス幾何学構造を持たせており、これには剛性を高め、共振を抑える役目がある。
ソフトドームツイーターが35mmと大型なのにも理由がある。通常のユニットでは、液冷のためにギャップ部分に磁性流体が入っている。しかし、粘度のある流体によってダンプされてしまう事を回避するため、大型ドームツイーターを開発。その周波数帯域の消費電力を低減。これにより、熱放散のために磁性流体を使わなくて済んでいるという。
台座は精密鋳造された樹脂複合材料で製造。クロスオーバーネットワークもここに収納しており、ドライバーから十分に離すことで、ウーファーとインダクター間のクロストークの可能性を回避した。
インピーダンスは4Ω。感度は89dB@2.83volts。外形寸法は448×593×1,675mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は160kg。
音を聴いてみる
ペア1,500万円の超弩級スピーカーという事で、「どんなに強烈で、凄い音が出てくるのだろう」と身構えていたがのだが、音が出た瞬間に、良い意味で裏切られる。非常に自然で、ストレスが無く、聴いていて緊張しない、「DALIの音」なのだ。
だが、決して“眠い音”というわけではない。音の分解能は凄まじく高く、ボーカルの口の中まで見えそうなほど細かな音まで克明に描いてみせる。地を這うようなパイプオルガンの強烈な低域も、余裕を感じさせるほど低く、豊かに再生してみせる。こうした再生能力の高さは、さすが超ハイエンドスピーカーだと圧倒される。
しかし、聴いていて体がこわばるような緊張感は無く、音はどこまでも高解像度なのに、穏やかさを感じる。これは非常に面白い。
思えば、他社の超ハイエンドスピーカーには、非常に剛性の高いエンクロージャーに、キャラクターが少なく、トランジェントや分解能が高いユニットを多数取り付けたものが多い。それらの音は、鮮烈と言っていいほどズバズバとハイスピードで、カッチリしたサウンドだ。
KOREは、それらと同レベルの分解能や、それらをも超えるような低域再生能力を持ちながら、硬さやキツさといった“ガチガチ感”が一切ない。もの凄い音が鳴っているのだが、それを聴きながら本でも読もうかなという気分にもなる。
フォーカスが甘く、分解能が低いスピーカーに対して「おだやかな音」「ホッとする音」と表現する事はあると思うが、KOREにはそれが通用しない。「猛烈な情報量がありながら、ホッとする自然な音」という新たな次元に到達している。この音は“ハイエンドオーディオを聴き慣れた人”こそ、衝撃を受けるだろう。10月28日、29日、30日に東京国際フォーラムで開催される「2022東京インターナショナルオーディオショウ」にも出展されると思われるので、ぜひ一度聴いてみて欲しい。