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超小型アンプ、マランツ「MODEL M1」で麻倉怜士の巨大スピーカーJBL「K2 S9500」は鳴るか!?
- 提供:
- マランツ
2024年9月20日 08:00
なんと小さな、プリメインアンプだろう。マランツ「MODEL M1」(154,000円)の横幅と奥行は、いずれも20cmほど。システム製品のミニコンポより小さいぐらいのコンパクトさだ。しかもボディは背面以外は黒だから、色的にも凝縮して見える。軽いのにも、びっくり。2.2kgだから軽々と、どこにも持ち運びできる。ポータブルアンプと言っていい。
ここまでの叙述では、音的にはまったく期待できそうにも、ない。オーディオでは、大きさと重さはクオリティの正比例関数だ。部品サイズとその中味の充実度、さらにレイアウトの余裕……などのさまざまな要因があろうが、いずれにせよ、大きくて重いは善で、軽薄短小は悪だ。となるとM1は悪か? と思って、マランツ試聴室で開催された試聴会に参加してみたところ、また驚いたことに、それはまったくの杞憂だった。意外にも、試聴室のB&Wの大型スピーカーが朗々と鳴ったではないか! この小ささ、軽さで、どうしたことだ。
俄然、このウルトラコンパクトなMODEL M1に興味を持った私は、自宅の巨大なJBLの「K2 S9500」スピーカーで鳴らしてみたくなった。
MODEL M1とは?
K2は手強いスピーカーだ。クラシック音楽からポップス、シャズ、そして映画の台詞、効果音まで、ソースに合わせ、その世界を深く耕し、深く聴かせる類い希なる表現力を持つK2はまた、“鳴らしにくいスピーカーの代表格”である。
私の場合も、さまざまなパワーアンプを経て、現在のZAIKAの「845プッシュプルアンプ」に辿り着いたという経緯がある。そのK2を軽薄短小のMODEL M1は鳴らせるか……は、面白いチャレンジではないか。というのも、MODEL M1は何十年にも渡る、マランツのデジタルアンプ開発の歴史から得られたエッセンスを投入した現代アンプであり、そのマランツの努力を検証するという意味もあるからだ。
K2で聴く前に基本的な技術内容を押さえておこう。
もともとMODEL M1は、「フルサイズのプリメインアンプに匹敵する音質をできるだけ小さい筐体で」というコンセプトで開発したそうだ。
ポイントとなるのは、オランダのAxignというコンパクトで高出力なClass Dアンプを採用している事。モジュールで出来上がったものを搭載するのではなく、基板や採用パーツからマランツがこだわり、白河工場で内製している。マランツの高級CDプレーヤーに採用している独自「MMDF(Marantz Musical Digital Filtering)」フィルターも実装している。
また、2chアンプなのだが、内部にClass Dアンプを4ch分、BTL接続で搭載している。これが、小さくても100W(8Ω)、125W(4Ω)を実現している秘訣。アンプでは電源部も重要だが、ここもマランツらしく、瞬時電流供給にこだわった作りになっている。
機能としてはネットワーク再生対応で、HEOSを搭載。Amazon Music HD、AWA、Spotifyなどが再生できるほか、LAN内のNASなどに保存した音楽ファイルも再生できる。
HDMI ARC/eARCに対応するのも特徴で、テレビとHDMIで接続し、テレビ番組や映画をMODEL M1に接続したスピーカーから再生できる。手軽なホームシアター機器としても注目というわけだ。
JBL K2をMODEL M1で鳴らす
まず私のUAレコードの「情家みえ・エトレーヌ」から「チーク・トウ・チーク」(SACDのCDレイヤー)。CDプレーヤーはLINNの「CD12」で、アナログ接続で聴いた。このディスクは私がプロデュースした楽曲であり、冒頭を聴けば即座に、そのシステムの実力が分かる。
MODEL M1で鳴らしたK2はヴォーカルの表情が明るく、情家みえの声の甘く、美しい部分が丁寧に再現されている。しっかりとしたピアノ、量感のあるベース、明瞭なドラムス……、と、はっきり、くっきりとした、ハキハキした音調だ。
普段使っているZAIKAのアンプに比べると、低音のキレや、ヴォーカルの深さなど、やや物足りないものの、明確な音運びでスピードが速い。なにより、これほど、大きなスピーカーシステムなのに、だれることなく、ちゃんとドライブしているではないか。解像感は非常に高い。音のディテールまで、しっかりと照明を当て、その質感や存在感を明確に示すという現代的な描音方法には、この値段を考えると、感心してしまう。
中域の情報量の多さ、特に耳にもっとも印象的なヴォーカル帯域のヴィヴットさ、ヌケの良さが、十分に伝わってくる。まず、「チーク・トウ・チーク」で、MODEL M1が、軽薄短小なのに、しっかりとした駆動力を有することが分かった。
次ぎにジャズの名作、アート・ペッパーの「ユービド・ソーナイス・トゥ・カムホーム・トゥ」(CD)を聴く。音の塊感がスパークする。右のピアノ、左のサックス、中央のベースと見事に分離した音場の空間感がクリアに奏される。アート・ペッパーのサックスの切れ味の鋭さ、ディテールまでの音運びの敏捷さ、ねちっこい粘りの質感を、MODEL M1はK2から見事に引き出している。レッド・ガーランドのピアノの踊るようなスウィンギーな運指、ポール・チェンバースのベースの雄大さと音の塊感、フィリー・ジョー・ジョーンズのドラムスソロの明確さ、鮮明さ、重さの質感……という、本作を愉しむ音的な記号性が、明瞭に再現されている。
オーケストラ作品も聴こう。イギリスDECCAの歴史遺産的な名盤を2枚再生する。いずれも人口に膾炙した傑作だが、SACD盤が最近、タワーレコードからリリースされ、素晴らしい出来映えなので、使った。
まずDECCAの録音能力が最大限に発揮された天下の名盤、エルネスト・アンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団のファリャ:「三角帽子」(1955年録音)。聴きどころは「序奏部」冒頭のティンパニのハイスピードの雄大さ、トランペットとホルンの突進感、メゾ・ソプラノのテレサ・ベルガンサの妖艶な響きと、突き抜け感、さらにカスタネットの切れ味……と、多数ある。
MODEL M1 + K2は、まさに本作が欲しているスペインの色彩感を、ひじょうにクリアに、ベールを剥がしたような鮮明さで、見事に表現させた。冒頭の左に位置するティンパニの連打、続くセンターやや右の金管の躍動、センター位置のメゾソプラノの包容感、左右に拡がる男性コーラスの力強さ。まさに、鮮明でカラフルなデッカサウンドの極致だ。
ロイ・ウォレスの手になるデッカの天下の名盤が、現代的な音の記号性を被って、甦ったという印象。2曲目「午後」の第1ヴァイオリンの妖艶な表情、低弦のおどろおどろしさ、ピアノの低弦の弾み……も、見事に再現。8曲目「終幕の踊り」の華麗な音色感、ハイスピードな音展開。高彩度な色彩感……、ファリャの世界を痛快に描くアンプだ。
アンセルメのもうひとつの名盤、コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団を振った「The Royal Ballet; Gala Performances」(1959年録音)も聴いてみよう。エンジニアは、ケネス・ウィルキンソンだ。躍動感、弦の歌いの明るさ、低弦と高弦のオブリガード合戦、ワルツのリズムの闊達さ、会場の豊かなソノリティ……、デッカの最高傑作と言われる、本作の美味しい部分をくっきりと鮮明に聴かせてくれる。オペラとバレエの専門オーケストラ、バレエ音楽に抜群に強い指揮者、当時世界最高峰のデッカの制作・録音陣という組み合わせがが成した、奇跡の名作をMODEL M1+K2はまさに現代的な音の質感と解像度を伴って、見事に甦らせた。
現代録音では、アール・アンフィニの椿三重奏団によるチャイコフスキー: 「偉大な芸術家の想い出に」。椿三重奏団は、ピアニスト高橋多佳子、ヴァイオリニスト礒絵里子、チェリスト新倉瞳による花の名を冠する女性ピアノトリオ。
冒頭の右チャンネルのモルト・ビブラートで朗々と歌わせる新倉瞳のチェロの濃密なエモーション、それに左から応える礒絵里子のヴァイオリンの切なさ、その右と左のやりとりの深さ、さらにセンターの高橋多佳子のピアノの切ないオクターブ奏……と、情緒てんめんにて、エスプレシーボな記号性を見事に語るアンプだ。録音時の特別に蓋を外したピアノを中心に、ヴァイオリンとチェロが空間的に寄り添う濃密な音場感を、細部までの情報性と時間的な切れ味のシャープネスで、K2が持つ広大なリスニング音場に見事に再現している。チャイコフスキー的な憂愁も明確に感じられた。
最後に、HEOSでも何曲か聴いたが、クリアでニュートラルなサウンド。LINNのCD12と比べると少しスケールは小さくなるものの、MODEL M1の素直なサウンドとHEOSのマッチングは良好だった。
価格を考えると、驚きを禁じ得ない
これが約15万円のプリメインアンプの音なのか? もちろん、私のリファレンスの845プッシュブルアンプでの音楽的、音像的、音場的な深み、意味合いという領域とは次元は異なるが、逆にあるべき音をすべて明瞭に引きだし、明確なアーティキュレーションを与えて、この大きなスピーカーから空間に勢いよく散りばめさせるという再生力には、軽薄短小と価格を考えると、驚きを禁じ得ない。
古今東西、鳴らせないスピーカーの代表ともいえるK2を、ここまでの高情報量で聴かせるのだから、どんなスピーカーにも対応できよう。
今回は実験的に、超大型のK2で聴いたわけだが、実際には、本アンプの姿形に適した、ヨーロッパ系の質の良いブックシェルフ・スピーカー……例えばELAC、DALI、B&Wなとでは最高に鳴るに違いない。すでにHEOSでネットワーク対応しているが、将来的に同サイズのCDプレーヤーも欲しくなった。