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楽器好きおじさん、マランツ「MODEL M1」×Polk Audioで人生初“本格オーディオ”に陶酔

スマートフォンさえあれば自由自在に音楽を楽しめる現在。イヤフォンやスマホ内蔵スピーカーは毎日使っているが、本格的なオーディオで聴いたことがないという人も多いだろう。かくいう筆者(38歳)も、学生時代から楽器好きとして音楽に親しんでいたが、本格的なオーディオは未経験。そんな私が、生活の中にホンモノのオーディオを取り入れてみたら見事なゴキゲンライフになった、という話をしたい。

正直に言うと筆者は、ホームオーディオについては“見ないフリ”をしていた。何であんなに機器が大きいのかもわからないし、集合住宅ではさほど音量も出せないだろうし、そもそも家にいたら他の誘惑が多い。そんなこんなで、音楽を聴くのは満員電車の中でイヤフォンを使うのがメインで、家にはPC用のアクティブスピーカーを置く程度だった。

……という会話をなにげなくAV Watch編集部としていたところ「じゃあ、ちょうどホットな製品があるので“ホームオーディオ初体験”してみましょうよ。いつ機材を受け取れますか?」という展開に。数日後、小さな箱が1つと、大きなスピーカーが2本届いた。


    【試用機材】
  • アンプ兼ネットワークプレーヤー:マランツ「MODEL M1」(154,000円)
  • スピーカー:Polk Audio「Signature Elite ES50」(ブラック/1台48,400円)×2

まずは設置。眺めてカッコよさに震える

バナナプラグと初対面

もちろん、本格的なオーディオ機材を設置するのは初めて。電源ケーブルのないスピーカーがまず新鮮だ。スピーカーケーブル先端のプラグが「バナナプラグ」という名称だと知るところから始まった。

Polk Audio「ES50」の背面。バイワイヤリングという専門用語は一旦スルーして、金色のジャンパープレートというものを装着したままスピーカーケーブルのバナナプラグを突き刺した

そして、マランツMODEL M1のなんとシンプルなことか。

本体重量2.2kg。箱の中身は本体とケーブルだけで、リモコンも同梱されていなかったことには驚いた。“ピュアオーディオ=巨大なアンプ”のようなイメージを持っていたので「この黒い箱1つで他は何もいらないの?」と心配になるほどシンプルだ。

いやしかし、これぐらい潔いのが新時代のオーディオ機器という感じがして嬉しい。説明書の案内もIoTデバイスのように、専用アプリをダウンロードするところまで。つまり、完全にネットワーク前提なのだ。製品カテゴリも「ワイヤレス・ストリーミング・アンプ」と表記されている。

MODEL M1とiPhone 14 Proのサイズ比較。コンパクトだし質感も高い

アプリ接続から……もう音が出た

MODEL M1は電源ケーブルを接続するとスタンバイ状態となり、電源ボタンもない。接続状況に応じて前面のステータスランプの点灯や色でフィードバックがあるだけ。点灯・点滅の仕方も品があって美しい。

佇まいはシンプルそのもの。これで大型のスピーカーシステムも十分に鳴らすパワーがあるというから驚き
本体前面下部にランプを搭載。この光り具合でステータスを確認する。

接続手順はiPhoneにインストールした「HEOS」アプリに従って、背面のCONNECTボタンを押したり、家のWi-FiネットワークのSSIDを選んでパスワードを入力するだけ。たとえば最初に提示された接続方法が上手くいかなくても、「次へ」を押すとすぐに別の接続手段が案内されるので、安心感がすごい。

初回の接続手順。電源を接続するところから、イラスト付きで各手順を案内してくれる。とてもわかりやすい
接続設定はアプリ画面に従って進める。本体操作は背面のCONNECTボタンを押すだけだった。

設定らしき設定が完了したので、ということは……!と思い、iPhoneの「ミュージック」で音楽を再生し、下のストリーミング先ボタンをタップすると「Marantz MODEL M1」の文字が出現。あっさりとAirPlay経由で音が出た。ホンモノのオーディオから。

おおー、感動! 本格的なオーディオ機器なのに、iPhoneからの使い心地はポータブルBluetoothスピーカーなどとも変わらないのが新鮮だ。

AirPlayの送信先に「Marantz MODEL M1」が出現。もちろん「ミュージック」に限らず「YouTube」アプリなどでも普通に使える

つい嬉しくなって、しかし冷静を装って、「お借りした機材を受け取りました」「とりあえず音も出ました」と編集部にメールで報告。設置した様子の写真を添えたところ、「そうか、M1小さいからイスにも置けるんですね。思いつかなかったです」との返信。なるほど。何か棚の一つでも買わなきゃいけないかと思っていたけれど、むしろこのままにしてみよう。

設置完了。オーディオ機材ってカッコいいなー。ちゃんとした棚がなかったので、とりあえず硬いイスの上に置いた。雰囲気でエレキギターとギターアンプも並べた。ドヤ顔

いざ再生!

今回お借りしたスピーカーは、Polk Audioの「ES50」というトールボーイ型。「鈴木さんはドラムやベースも演奏するから、低音が大事でしょう」という編集部のレコメンドだ。

Polk Audioは1972年にアメリカで創業。学生3人が「学生でも買える音のいいスピーカーを」というコンセプトで製品作りを始めたという経緯があるそうだ。アメリカでは高いシェアを持つというのに「創業50年も経って、何故いま話題なの?」と思ったが、日本に再上陸したのが2020年らしい。現在もコストパフォーマンスの高さが人気の理由だそうで、なんというか日本経済の時流……いや要するに私のお財布事情にマッチしている気がする。

ES50。お値段的には2本で8万円ぐらいと手頃な部類だが、ふと目に入るウッドの仕上げもいい感じだ
マグネット式のサランネットを外してみた。スピーカー構成は上から2.5cmのツイーター、13cmのウーファー×2

直接の比較対象はないけれど、聴いてみると確かに低音がたっぷり出て、大らかさと味があるように感じられる。寺井尚子「ホット・ジャズ」を再生すると、ウッドベースのスローアタックな低音が生々しく迫る。少しふくよかなコレぐらいが「イメージの中にある生演奏の音」という感じで好きだ。

バイオリンの高音域も低音があることで迫力が増すし、ドラムもタイコ類の胴鳴り、金物のアタック部分にある低音が下支えすることで体感としてのリアルさを増し、よりホンモノっぽく自然に聴こえる。そう、イヤフォンや小径のPCスピーカーとは別格の「体感」という言葉がふさわしいと感じる。

カラーは「ブラック」。グレー基調でモダンな印象だ
シャンパンゴールドっぽい色にも新しさを感じる
底部。「パワーポート」という特許技術を用いたバスレフポートが備わる

高域は情報量をカリカリに出すタイプではなく、必要十分な情報を爽やかに再生する。これが実にリラックスできて心地よい。この環境でしばらく音楽を聴いていたら、これまで何年も不満もなく使っていた仕事机のPCスピーカーが「なんか高音が硬くてキツいなあ」と気になりはじめてしまった。低音だけでなく、やっぱり、本格的なスピーカーは高音も違う。

ギターアンプも最近はAI技術を活用したモデリングやキャビネット・シミュレーションといったデジタル技術が優秀だが、究極的には10インチなり、12インチのスピーカーユニットを鳴らさないとホンモノの音飛びや弾き心地は得られないので、この物理はとても理解できる。

Amazon Music HDも聴いてみる

「HEOS」アプリからAmazon Musicのハイレゾ音源にアクセス。「ULTRA HD」と表示されている

しばらくAirPlayを聴いていたが、このオーディオを使っていると「ロスレスやハイレゾの音源も聴きたい」という気持ちになってくる。そこでAmazon Music HD(30日無料体験)に登録してみた。

この場合、AirPlay 2とは異なり「HEOS」アプリからAmazon Musicにアクセスすることになる。

とりあえず何らかの音楽を即再生できるiOSの「ミュージック」アプリとはUI設計も違い、HEOS経由では「あのアルバムを聴こう」という気持ちになってから探しに行くので、これがまたちょっぴり儀式的で楽しめる。アプリ自体の動作はごくスムーズだ。

iPhoneの「HEOS」アプリ。聴きたい曲が決まっている場合は、右下の検索タブにキーワードを入力するのが早い

ここで即座に「やっぱハイレゾは違うぜ!」と感動できるとカッコいいのだが、筆者の耳はまだそこまで肥えていなかったようで「なんか違うような気がする」という感じだったのだが、それよりも、本格的なオーディオで聴いたことでの新たな発見はあった。

それは“ステレオの空間演出”だ。

筆者が“ギタリストありき”で好んで聴く1960~70年代の音源には、楽器や歌がL/Rチャンネルのどちらかに偏って配置されたステレオ音源がよくある。イヤフォンやPCスピーカーのように、耳の近くで聴くと違和感しかなかったのだが、オーディオでスピーカーから離れて聴くと、眼の前に楽器やミュージシャンが出現し、見事な空間演出をしてくれる。「これがステレオか」と改めて実感できる。これでジミヘンのスタジオ盤も積極的に聴きたくなる。

本格的なオーディオ、超・前向きに導入検討

最初にホームオーディオと聞いて、それこそ真空管アンプを温めたり、接続機器の電源を正しい順番でオンにしていくような“お作法”の習得から始めなければいけないのかと思っていた。

しかし実際に使ってみたMODEL M1は、電源ボタンのひとつも押す必要がない。イスにふんぞり返ったまま手元のiPhoneからAirPlayでサクッと音を鳴らしたり、そのままYouTubeも再生したり、この高音質をガンガン普段使いできるプロダクトだった。これだけ大胆にオーディオ的な“お作法”を削ぎ落とせるのは、オーディオ機器の本質である「音質」に強い自信があってこそだろう。それだけで、筆者にとってはMODEL M1を選ぶ理由になる。

マランツMODEL M1の背面。HDMIケーブルでテレビと接続すると、テレビのリモコンでMODEL M1の入力切り換えや音量調節もできたりする。詳しくは以下の記事で

気軽に使えるのに、お気に入りのアルバムを高音質ストリーミングで聴くときには「30分」でも「1時間」でもない、「アルバム1枚」という昔ながらのタイム感を楽しんでいる自分に高揚した。

高音質な再生環境だと、いつもの音楽も“ながら”では聴けないぐらいに没入してしまう。今さらながら、これを体験できてよかったと思うし、こうして記事執筆が終盤になると、もうじきこれらの機材も片付けてお返ししなければいけない。なんと寂しいことか。

一応、最後にお金の計算をしてみる。マランツMODEL M1が154,000円、Polk Audio ES50が1本48,400円×2、しめて250,800円。実売では約21万円くらい。20万円といったらソレナリの金額だが、どうだろうか。筆者としては、既存の趣味に使う予算を一度こっちに回して、新しい世界をもっと知りたくなった。

筆者と同じ本格的なオーディオ未体験、もしくは場所の都合などで離れてしまったという方も、こうした普段使いしやすい最新機材に注目してみてはいかがだろうか。

音楽を聴きながらギターをつま弾いたりして、オシャレも気取れる空間になりました
鈴木 誠

ライター。デジカメ Watch副編集⻑を経て2024年独立。カメラのメカニズムや歴史、ブランド哲学を探るレポートを得意とする。インプレス社員時代より老舗カメラ誌やライフスタイル誌に寄稿。ライカスタイルマガジン「心にライカを。」連載中。日本カメラ財団「日本の歴史的カメラ」審査委員。趣味はドラム/ギターの演奏とドライブ。 YouTubeチャンネル「鈴木誠のカメラ自由研究」