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年末商戦を迎え、各社の薄型テレビ新製品が市場に投入された。2011年のデジタル放送完全移行に向けて、本格的な普及期に入ったデジタルテレビ。激しい競争の中、価格下落が進んでいるが、各社各様のアプローチで差別化を図っている。 プラズマと液晶に加え、12月1日には世界初の有機ELテレビ「XEL-1」をソニーが発売。表示デバイスについても新たな動きが生まれている。さらに、CEATEC JAPAN 2007では、各社が独自の薄型化技術をアピールするなど、新たなテレビのスタイルを各社が模索している。 AV機能にこだわったフラッグシップモデルを中心に、2007年のテレビ冬商戦モデルの特徴や、傾向を振り返ってみよう。 ■ 主戦場は40型台に。大型化は一段落 薄型テレビ市場の基本トレンドともいえる「大画面化」。プラズマは、コスト競争力の高い50型以上でのアドバンテージを訴えてきたほか、液晶パネルの製造メーカーも第7~8世代などの大型製造設備の稼働により、従来はプラズマの領域だった40型以上でシェアを拡大している。
特に液晶テレビにおいては、ボリュームゾーンの30型台の価格下落が激しいこともあり、サイズアップで単価の向上を目指すメーカーが多い。シャープやソニーなど、パネルを内製しているメーカーは、特に積極的に大画面化を訴えてきた。 この年末商戦も40型以上の大型製品を積極的に各社がアピールしている。特に液晶テレビについては、昨年までは37型までをラインナップの中心にしていたメーカーも、今年は40~46型に力を入れている。フルHDモデルの上位モデルに関しては40型台が主戦場となった。
プラズマにおいては、50型以上の製品のラインナップを各社が拡充する一方で、人気を集めたのは42型で初のフルHDプラズマとなるVIERA「TH-42PZ750SK」。また、コントラスト2万:1を謳うパイオニアKUROシリーズなど「映画のため」を、より一層鮮明にアピールしているのも、今シーズンのプラズマの特徴だ。 大画面化という大きな潮流は、今年の年末商戦にも反映されている。しかし、各社が想定したペースには届いていないようだ。たとえば、シャープは、2007年の出荷見込みの900万台のうち、当初は40型以上の割合を40%と見積もっていたが、上期の実績では20%。年末商戦ではさらに大型化が進んでいると思われるが、「年間を通じて40%は難しい」と予測している。上期の実績でも昨年の5%から比べると、20%と大幅に増加しているものの、強気の予測は後退しつつあるようだ。 とはいえ、大型/フルHDの高付加価値製品を中心に展開する戦略に大きな変更はない。ソニーマーケティングでは、「昨年は40型を提案していたが、今年は46型が満足サイズ」と昨年より1サイズアップを訴えている。数の上では小型モデルが多いが、フルHDモデルを中心とした上位機種で、特に液晶テレビにおいては、40型台が主戦場といえる。 ■ 各社が「薄型」へ向かう。デバイス超えたトレンドに 夏以降盛り上がりを見せているのが各社の薄型化技術。シャープが8月に「未来のテレビ」としてプレゼンテーションした52型で厚さ20~29mmという薄型液晶テレビを皮切りに、10月のCEATECにあわせて、日立やビクターなどの各社が薄型化技術を披露している。
しかし、これらはあくまでCEATECに「参考出展」されたもの。そんな中、日立は他社に先駆けて薄型の「Wooo UT」シリーズを製品発表し、32型の「UT32-HV700」を12月より発売する。チューナを外付けとし、ディスプレイ部の厚さを35mmにまで削減。薄型軽量を生かした壁掛けや、スタンド設置などの「レイアウトフリー」をアピールしている。
日立によれば、新開発のフレーム機構やファンレス冷却機構、薄型電源などの開発によりディスプレイ部の薄型化を実現。バックライトは、通常の液晶テレビと同様にCCFL(冷陰極蛍光灯)を採用しているが、新方式の拡散板を開発することで、光源とパネルの距離を短縮してもムラのない映像表現が可能となったという。 ビクターでも、薄型テレビ実現のための技術として、新しいバックライト技術の開発などを表明しており、各社とも薄型化に向けた様々な技術を蓄積しているようだ。薄型競争が本格化するのは、2008年になってからだと思われるが、プラズマにおいても日立が1月のCESの出展を予告するなどの動きを見せている。同様に松下電器でもプラズマの薄型化を進めていることを大坪社長が示唆するなど、主要メーカーのほぼ全てが薄型化を目指す姿勢を明らかにしている。 そして薄型化というトレンドを象徴する製品ともいえるのが、11月下旬よりソニーが販売開始した世界初の有機ELテレビ「XEL-1」だろう。11型/960×540ドットパネルを搭載した小型テレビで、20万円と高価ではあるものの、3mmという圧倒的な薄さや、高いコントラスト表現力、印象的なデザインなど年末商戦向けテレビの最注目製品といえる。 さらに、国内メーカーに留まらず、SamsungやLGなどの海外メーカーでも薄型テレビの開発を進めており、世界的な流行の兆しを見せている。大型化に並ぶ、薄型化競争というトレンドのスタート地点として、2007年の年末商戦は位置付けられそうだ。
【10月23日】日立、チューナ外付け/薄さ35mmの液晶テレビ「Wooo」 ■ 22型でフルHDなど、パソコン対応を強化した製品も登場 薄型テレビの世帯普及率が上がり、リビング向けの需要が一段落したため、各社が力を入れているのが、「2台目」の需要を狙った20~30型程度の中型テレビ。豊富なカラーバリエーションやデザイン性、パソコン連携をアピールする製品が増えている。
20型台の画面サイズでは、パソコン用ディスプレイとの併用という点も重視したい。PC用ディスプレイでも、24型で1,920×1,200ドットなど高解像度の製品が増えており、三菱電機やナナオ、アイ・オー・データ機器などが、PCだけでなくAV機能にもフォーカスした製品を投入。人気を集めている。 そうした流れもあり、テレビ側においても、PC利用を積極的にアピールした製品が増えている。その代表例と言えるのがシャープの「AQUOS Pシリーズ」だ。AQUOS Pでは、パネルメーカーの強みを生かして、テレビ用としては初という26/22型のフルHDパネルを新開発。PC用ディスプレイではアスペクト16:10/1,920×1,200ドットパネル採用製品が多いが、AQUOS Pはアスペクト比16:9/1,920×1,080ドットのテレビ用パネルという点も、テレビ利用を重視する場合はアピールするポイントだろう。
また、ナナオも、1,920×1,200ドットパネルを採用し、地上/BS/110度CSデジタルチューナを搭載した液晶テレビ「FORIS. HD」を展開。3系統のHDMIを備え、24p入力に対応するなどの映像系だけでなく、50mm径のフルレンジユニットを斜め下向きに配した新開発のスピーカー部など、音にもこだわった本格的製品。新しい小型液晶テレビ/ディスプレイの形を提案している。 パソコンとの連携という点では、30型以上の製品でも各社が力を入れて取り組んでいる。シャープや東芝、ソニーなどが、パソコン表示用の専用モードを搭載し、PC連携を訴求。特にシャープはDVI端子を搭載した製品を多くラインナップにそろえている。単なるテレビ放送の受像機ではなく、多目的ディスプレイとしての幅広い利用シーンに対応できる製品が増えている。
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■ 上位機種では「当たり前」になった液晶テレビの倍速駆動 フルHD化の進行とともに、液晶テレビ市場の2007年の大きなトレンドとなったのが、液晶特有の残像感を低減する倍速駆動技術。通常60コマの映像から、新たに中間フレームを作りだし、120コマで表示することで、人間の目で知覚してしまう網膜残像を排除するという技術だ。 2006年までは、演算処理能力やパネルドライバなどが無いため、倍速対応していたのはビクターのWXGAクラスの製品などの限られていた。しかし、2007年に入り、フルHDモデルでの導入が進み、2月に発表されたシャープの「AQUOS Rシリーズ」を皮切りに、2007年は、ほぼすべての大手テレビメーカーが倍速対応を果たしている。
上記の表のように、各社のフラッグシップモデルにおいてはすでに標準装備といえる倍速機能。初期の製品では、特定のパターンにおいて補間エラーが発生する製品もあったが、ノウハウが蓄積されてきた最新作においては、完成度は向上しているようだ。 動きベクトルの検出方法や、予測エリアの制御など、各社が独自のノウハウを生かして、残像低減を図っているが、その違いを一意に比較するのは難しい。また、倍速駆動に必要となる中間フレーム生成を色再現やノイズ低減に生かしたり、120コマのうち5コマ同じコマを打って24フレームの映画的な映像再生を目指すなど、単純な残像感の低減だけでない、より上質な映像表現のための方法として、倍速の仕組みが位置付けられてきたようだ。それ故に単純に倍速の良し悪しを見極めるというよりは、トータルな絵作りの中の好みにあわせた選択が可能になってきた、ともいえるだろう。
□関連記事 ■ HDMIだけじゃない。地道に進化する「リンク」機能 松下電器の「VIERA Link」が先鞭をつけ、シャープの「AQUOSファミリンク」とともに、レコーダのシェアアップに寄与していたHDMIリンク機能も、各社が対応してきた。ソニーは「ブラビアリンク」、東芝は「レグザリンク」、三菱は「REALINK(リアリンク)」といずれも直球のネーミングで、テレビ/レコーダの連携をアピールしている。
しかし、単純なレコーダ連携にとどまらず、リンク機能対応のサウンドシステムを各社が発売するなど、各社がリンク機能のシステム展開に力を入れている。今シーズンのリンク機能の各社の差別化ポイントともいえる。 松下電器のVIERA Linkでは、PLCアダプタやドアホンの映像をVIERAに表示し、DIGAで来客の画像を録画するなど、それぞれの関連機器の特徴を生かした「リビングの情報ディスプレイ」化に取り組んでいる。 一方、東芝の「レグザリンク」では、自社のレコーダ「VARDIA」との連携はもとより、オンキヨーやヤマハなどAVメーカーのアンプやラックとの連携を強化。パートナー企業の製品の力を利用した連携の魅力を訴求している。また、最上位モデルのZ3500シリーズに搭載しているUSB HDDやLAN HDDへの録画機能や、DLNA対応によるネットワークサーバーからの映像ストリーム再生なども「レグザリンク」と位置づけ、HDMI連携だけでない幅広い連携をアピールしている。 シャープもAVシステム連携を拡充。ソニーもデジタルカメラやネットワーク連携機能などをアピールしているほか、ネットワークSTB「BRX-NT1」との連携機能を搭載するなど、それぞれの周辺機器との連携を強化している。
各社がそれぞれの思惑に基づき強化を進めるリンク機能だが、メーカー間の互換性という点では、課題も残る。HDMI連携については、HDMI CECと呼ばれる規格をベースにしているのだが、基本的にはメーカー間の互換性が無い。編集部で試した限り、REALINK対応の三菱REALから、DIGAのGUI操作が行なえるなど、かなりの機能連携が可能な製品もあるが、大抵の場合、電源連動以上の操作ができない製品が多い。各社がサポートの対象とするのは、自社製品との連携のみだ。このあたりは、今後、各社でいい解決策を見つけてほしいところだ。 ■ 選択肢の増えた今シーズンのテレビ選び 10bit対応など液晶パネルの高品位化やx.v.color対応などの高色域化など高画質化に向けた各社の取り組みも進んでいる。また、ソニーのBRAVIAシリーズで採用した無線リモコンなども、新しいテレビの在り方を提案するユニークな試みだだろう。 価格的にも、50型以上のフルHD液晶テレビが30万円台に、40型液晶でも20万円台で各社のフラッグシップモデルが購入できるようになるなど、昨年以上に下落が進んでいる。昨年の実売価格から考えれば、1~2サイズ大型の製品が同じ予算で手に入る環境になりつつある。 設置環境や使い方によって、テレビ選びの最適解は変わってくるが、薄型化やパソコン対応などの提案が、ユーザーに新しい選択肢を与えている。ある意味、贅沢な悩みが増えたともいえそうだが、利用方法や、重視する方針をしっかり決めた上でテレビ選びに取り組みたい。 □関連記事 ( 2007年12月6日 ) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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