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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

【年末特別企画】

Electric Zooma! 2004年総集編
~今年も結構タイヘンでしたSpecial~


■ 口上

 インターネットのニュースサイトがこれほど注目されるようになる以前、筆者はいろんな雑誌に原稿を書いていた。だがクリエイター系雑誌なんて、連載を持っていても大抵1年足らずで廃刊になったりするもんだから、今まで長期連載という経験がなかったのである。そんな中、2001年から始まった当「Electric Zooma!」は、来年3月で5年目に突入しようとしている。これもこれもひとえに読者諸氏がAV WatchならびにZooma!を飽きずに読んで頂いてるからであり、大変ありがたいことである。

 製品の評価というのは、こう見えてもなかなか気を使う仕事なんである。良いところを取り上げるのはもちろんだが、悪いところも同様に取り上げることになる。筆者のスタンスとしては、なぜそこが良くないのかの理由と、僭越ながらどうすれば良くなるのかのアイデアぐらいまでは、常になんとかひねり出しているつもりだ。少しでも良い製品を世の中に出して頂きたいという心づもりなのだが、各メーカーの皆様にも概ね暖かく受け入れて頂けているようである。

 2004年という年を振り返ってみると、全体的には景気回復傾向に支えられ、また夏にはオリンピックのような大きなイベントもあって、AV機器市場は比較的好調に推移したのではないかと思う。だがその一方で台風や地震などの自然災害で大きな被害も出て、そうそう浮かれてばかりはいられない年でもあった。

 さてそんな激動の2004年、この年末もまたElectric Zooma!で扱った製品を中心に、今年発売された製品を振り返りながら、今のトレンドを総括してみよう。



■ ビデオレコーダ篇

パイオニア「DVR-620H」

 やっぱり最初に来るのは、ビデオレコーダの大躍進だろう。既にマニアックなAV機器ではなく、一般家電として売れ筋商品の地位を築いたのが、今年の特徴。家電大国ニッポンの大手メーカーも相次いで参入を果たし、競争は激化の一途を辿る。Zooma! でも今年1年、レコーダの記事は全体の3割を超えた。

 昨年までのレコーダは、EPGの有無が主な差別化要因であったが、今年は6月にパイオニアが、8月に東芝が普及モデルにEPGを搭載したことで、レコーダがなんらかの番組表機能を持つのは当たり前という時代に突入した。


 今後注目されるのは、それ以外の差別化だ。ソニー「スゴ録」やビクター「快録LUPIN」の、再エンコード時に2passエンコードしてしまうという発想は、「HDD録画→DVD保存」という一連の流れの中で破綻のない高画質化を目指した技術として評価できる。同じくMPEGエンコード技術では、NECが再エンコードではなく、ハードウェアを使って最高で7倍速、平均では6倍速程度で高速にビットレート変換を行なう「高速レート変換」を打ち出してきたのは面白い。

ビクター「DR-MH50」 ソニー「RDR-HX90」 NEC「AX300」

パイオニア「DVR-720H-S」

 そのほかのトレンドとしては、キーワードによる自動録画機能を搭載するメーカーが増えたことは興味深い。先陣を切ったのはもちろんCoCoon時代から搭載しているソニーの「スゴ録」だが、パイオニアがこの冬モデルで「気がきく! 録画辞典」という機能で、キーワードから連想して録画するという機能を搭載した。

 人間の興味や好奇心といった抽象的な部分をアルゴリズムで分析し、先回りして動いていくという技術は、レコーダに限らず、今後の家電業界全体のテーマとも重なる。それと同時に、レコーダとは自分が指定したものだけが録画される機械ではなくなったことが、これからのテレビ文化にどのような変革をもたらすのか、興味は尽きない。

 もう一つのトレンドは、マルチチューナの復権だろう。以前ソニーがCoCoonでダブルチューナを搭載していたが、東芝RDが今年8月に鳴り物入りで「W録」を発売し、一気に注目が集まった。松下も普及モデルでダブルチューナ機を発売し、追従の構えを見せている。

東芝「RD-XS53」 松下「E220H」

 現在の状況は、自分が知らないものまで発見してくれる自動録画機能付きのシングルチューナ機か、録りたいものを自分で把握して確実に録るダブルチューナ機かという展開になっている。ユーザーは、自分のテレビに対するアプローチをしっかり決める必要があるわけだ。来年あたりはその両方を搭載するモデルも出てくるのだろうか。

 また今年は、各メーカーがみんなで繋がろうとするホームネットワーク構想が、DLNAという形で具体化し始めた年でもあった。CEATEC 2004に設えられたDLNAのブースでは、競合メーカーのマシンと人材が一堂に会し、接続デモを行なっていたのは、新しい時代の幕開けを感じさせた。対応機種はまだまだ少ないが、これに乗る、乗らないの判断もまた、差別化要因となるだろう。

 その反対に、対決の構図が決定的となったのが、Blu-rayとHD DVDのHD記録メディアだ。現在Blu-rayは、ソニー、松下、シャープから実機が出ているが、来年にはHD DVDでも実機が登場することだろう。かつてのβとVHS、DVD-R/RWとDVD+R/RWのように、できることがほとんど同じでメディアに互換性がないという永遠の闘争は、過去の例から見てもおそらく決着を見ないまま、製品化が進むと見ている。

松下「DMR-E700BD」 シャープ「BD-HD100」

イーネットジャパンの「PVR-80HD」

 その一方で、果敢に家電業界に挑みつつも、散っていったレコーダ達を忘れてはならない。HDDを入れ替えて使えるという衝撃の機能で登場した「いーでじ!!」の「PVR-80HD」は、最終的には全品回収となった。バージョン2となる製品を発売予定としていたが、その後同モデルのバージョン2が出たという話も聞かないまま、現在は第二弾として「PVR-1200HDD」が発売されている。

 今度の「PVR-1200HDD」はUSBで外部HDDが増設できるようだが、さすがのAV Watch編集部も懲りたのか、「買いました」との連絡はまだない。いーでじ!!のサイトでは、「その他ディスクレコー」というジャンルに分けられて、もしかして「ダー」まで至ってないヨというのを我々に警告しようとしているのか、その微妙なニュアンスがとても気になるところだ。

 そしてもう一つ、後日自分でHDDを入れることでハイブリッドレコーダになるという触れ込みでデビューしたクイックサンの「QV-5000PVR-J」も、つい先日「HDD対応ファームウェアの開発を断念」というニュースが飛び込んできた。希望者には返金に応じるということで、Watch編集部でもどっかに埋まっていた箱が引っ張り出されている。

 PCの技術があれば、そこそこ録画できる機材は作れる。だがPCと違って、「現時点できっちり動いてナンボ」という線は譲ってはいけないようだ。そう言う意味では、同じ先物買いでも何回かのアップデートで着実に機能を追加していったPSXなんかは、さすがにちゃんとしてたよなぁと妙な感心をしてしまう。

クイックサンの「QV-5000PVR-J」 ソニー PSX「DESR-7100」


■ ビデオカメラ篇

 ビデオカメラ市場は、大幅な伸びはないものの、堅調に推移している手堅い市場だ。もはや10万円以下のエントリーモデルでも機能的に大きく見劣りすることもなく、いい具合に枯れて(成熟して)きている。そんな中、DVDに録画するカメラも地道に人気が上がってきてるようだ。

日立「DZ-MV580」 ソニー「DCR-DVD101」

 製品が先行したのは日立だが、ソニーのハンディカムシリーズとしてDVDカメラがデビューし、それにつられる形で売り上げも伸びているという。ハンディカムの神通力未だ衰えずといったところだろうか。実はDVDカメラは、日本よりも米国での人気が高い。来年早々のCESでは、次期モデルも見ることができるかもしれない。

 一方でDVカメラのほうは、各メーカーともプログレッシブ撮影機能が搭載され始めてきた。30pや24pなどのプログレッシブ撮影は、一昨年パナソニックの「AG-DVX100」に搭載されたことから火が点いたが、今年はソニー、キヤノンなどからもプログレッシブ撮影対応カメラが出た。

ソニー「DCR-PC350」 キヤノン「XL2」

 元々はVシネマを撮るようなユーザーが飛びついた機能だが、一般ユーザーでも既にテレビがインターレース表示のものが少なくなってきているわけだから、自分で撮る映像はプログレッシブのほうがメリットは大きい。DVD化する時もプログレッシブでOKだ。今後もこの傾向は進むだろう。

ソニー「HDR-FX1

 またDVカメラでは、ソニーからHDV規格策定後初のカメラが出た。ハイビジョンクオリティが堪能できるハイエンドモデル登場ということで、プロ・アマ両方からも大いに注目が集まっている。来年はHDVカメラがどこまで下のレンジに伸びていくのか、これもまた目が離せない動向の一つだ。

 今後の課題はHDベースの編集環境の確立と、SDにおけるDVDのような存在の、保存・回覧メディアの立ち上がりだろう。いろんなタイミングが複雑に絡み合っているが、コンテンツのスタート地点であるカメラは、思い切って先行すべきだと思う。

松下のDVCPRO P2カム1号機、AJ-SPX800

 テープで撮らず、メモリやHDDに撮るビデオカメラも徐々にモノになってきている。この分野で先行するのはD-Snapのパナソニックだが、実はプロ用ビデオカメラも、既にSDカードに撮るラインナップが出てきている。P2というフォーマットのカメラだが、今後はコンシューマ市場を狙ったモデルも出てきそうな感じだ。

 またデジタルムービーとして、デジカメ側からの参入も相次いでいる。三洋のXactiは、今年順調に次期モデルをリリースした。さらにペンタックスからもMPEG-4が撮れるビデオスタイルのカメラが出てきたのには、驚いた。ソニーもサイバーショットのラインナップで、動画に力を入れたモデルをリリースしてきた。

三洋「Xacti C4」 ペンタックス「オプティオMX4」 ソニー「DSC-M1」

ビクター「Everio」

 その一方で、HDDに撮るビデオカメラが出てきたのは新しい試みだ。テープやDVD以外のメディアを考えるならば、メモリよりはランニングコストはいい。今後は「小さいビデオカメラ」だけじゃない、HDDなりの新しいアドバンテージが欲しいところだ。



■ ポータブルデバイス篇

クリエイティブの「Zen Portable Media Center」

 小さくて高機能、というのは、コンシューマ機には欠かせないキーワードだ。今年は夏頃から徐々にポータブルAVプレーヤーが出始めてきて、価格的にも5万円前後と、なかなかイイ感じになってきた。変わったところでは、フォトストレージをベースにマルチAV機能を搭載したエプソンのP-2000といったものも登場した。流派としては、DivXを始めとするMPEG-4系と、Windows PMCベースのWMV系に分かれるが、今のところハードウェア的な能力では、DivX系のほうが優勢のようだ。だが統一されたOSやGUIがないため、各機種ごとに使い勝手が大きく異なるという難点がある。


NHJ「MPM-201」 iriver「PMP-120」 エプソン「EPSON P-2000」

 そして12月に発売されたソニーのPSPは、動画再生機能もアリということで注目を集めた。作りの割には本体価格がかなり安いこともあって、かつてPS2がDVDプレーヤーのデファクトスタンダードになり、一気に普及したのと同じように、ポータブルAV機のデファクトスタンダード的なイキオイを感じさせる。

 ただビデオプレーヤーとしては、再生が独自フォーマットであったり、媒体がメモリースティックDuoでなければならないなど、不自由な点も多い。

 そんなおり、突然任天堂がゲームボーイアドバンスSP用MPEG-4/MP3対応ポータブルSDカードAVプレーヤーを発表した。表だってPSP対抗措置とは言わないが、PSPに対する過剰なまでの動画再生機能への期待感に、牽制の意味はあるだろう。今後はケータイまで視野に入れつつ、ポータブル機での動画再生はちょっとしたブームになりそうな気配だ。

ソニー「PSP」 任天堂「プレイやん」(仮)


■ 総論

 今年取り上げた記事をざっと見てみると、昨年までに比べてPC系の割合がだいぶ少なくなっている。これまで新しいデジタルAVソリューションは大抵PCから生まれてきたものだったが、普及タームに入って次第にノンPCデバイスだけで完結するようになってきたのが、今年の動きだったと言えるだろう。

 来年はやはり地デジ受信エリアが5割を超えてくることもあって、テレビとレコーダの話題は盛り沢山になるだろう。テレビは注目のSEDが商品化されるようだし、リアプロも見直されてきていることから、なかなか面白いことになりそうだ。

 レコーダはいろいろ事情が複雑で、従来のDVRはもちろん、新たなBDやHD DVDのレコーダの登場によって、デジタル放送のコピーワンスという制限に、改めてユーザーの評価が下されることになるだろう。また現状ではコンテンツ保護の方法が決まらないことで、デジタル放送に関しては蚊帳の外にあるPCだが、来年以降の巻き返しに期待したい。

 では2004年のElectric Zooma!は、これにて終了である。来年もまた、よろしくお付き合いのほどを。

□Electric Zooma!バックナンバー
http://av.watch.impress.co.jp/docs/backno/zooma.htm
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(2004年12月22日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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