ニュース

BS 4K8K試験放送が終了、45万人以上が体験。12月の新4K8K衛星放送へ課題も

 放送サービス高度化推進協会(A-PAB)は、NHKとの時間分割による4K/8Kの「BS試験放送」を7月23日で終了。放送時間の実績のほか、12月1日から開始する新4K8K衛星放送について、今後の計画などを説明した。

試験放送の終了案内画面

 23日に終了したBS試験放送は、4K8K放送の受信機器開発促進や技術検証を目的に、2016年からNHKとA-PABがBS 17chで開始したもので、NHKは8Kと4Kの番組を、A-PABは4K番組を編成。受信には専用チューナを使用し、全国のNHK放送局で視聴できるようにしていたほか、CEATEC JAPAN/Inter BEEなどのイベント、オリンピックなどのパブリックビューイングでも活用された。

 2018年12月1日からは、BS/110度CSによる実用放送の「新4K8K衛星放送」が開始。NHKや民放キー局のほか、ショッピングチャンネルや、有料のスカパー!、WOWOWなども参入する。開始予定のチャンネルはA-PABのサイトでも案内。視聴の方法などについては、これまでの記事などでも掲載している。

新4K8K衛星放送の周知広報チラシ(6月1日時点の内容)。各チャンネルのロゴや、受信方法などを案内

NHK上映では合計45万人が視聴。約1,100時間の放送で得られた知見

 23日はA-PAB最後の番組となった「里山の風景」の後、A-PABによる告知案内が13時57分から表示され、試験放送終了となった。以降はNHKの試験放送に切り替わり、18時には4K8K試験放送が完全に終了となる。この17chは、12月からの新4K8K衛星放送では3チャンネルとして利用されるため、12月1日の放送開始までは、技術試験や運用訓練などに活用される。

総務省 情報流通行政局長の山田真貴子氏(左)とA-PABの福田俊男理事長(右)

 試験放送中に提供された番組数は、NHK、日本テレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、フジテレビ、WOWOW、東北新社の8社合計で4K番組が96タイトル1,105時間40分、そのうちHDR対応の4Kが39時間48分。NHKによる8K番組は10タイトル30時間、HDR対応の8Kが9時間50分。4K8Kのメイン/サブチャンネル合計で106タイトル、1,135時間40分(A-PAB枠の終了告知6分含む)となった。

 視聴者数は、NHKが公表したパブリックビューイングの来場者数が合計45万人(各地域放送局を除く)。そのうち、平昌オリンピックは11万人、2018 FIFAワールドカップロシア大会は22万人としている。日本ケーブルテレビ連盟による、CATVの試験放送対応STB設置台数は7,991台(6月末)。

終了したBS試験放送の編成内容

 4K HDRの効果検証については、同一タイトルのHDR版とSDR版を同時比較視聴することで、HDRの特徴である光と色彩の階調を捉える力や、場所の空気感、昼間/夜間の光景の違いなどを検証。大画面テレビで中核となり得る表現技術の効果を確認したという。

 また、4K制作の手法としては、1つの4K番組のなかで2Kカメラやモノクロ収録などの過去映像を一部に活用したケースで「過去の様々な映像は、年月を経た素材感や深みを感じる画になった。2Kアップコンバート映像を大画面で使用すると差異は認められた」としている。2K収録した映像を4つ配置した番組では、「4K制作されたCGなどを組み合わせ、4K制作することで高画質感が確保される」とまとめている。

 8Kカメラ1台の映像から切り抜いて4Kで使用した番組では「編集の工夫により多数カメラで撮影したような効果が見られた」と説明。iPhoneの4Kカメラ3台で収録した番組も制作され、「変換に時間が掛かることや、収録ストレージに問題はあるものの、画質的には十分視聴に耐える。収録の際の取り回しが容易」と報告している。

 そのほか、音声や映像モードの異なる番組の連続編成や、短尺番組の連続編成も可能なことを検証したという。

 A-PABは放送事業者や受信機メーカーと協力し、事前検証用のテストストリーム(放送波を介さずに受信機などの機能を検証するための放送データ)を370本作成。受信機メーカー約50社へ配布し、本放送に向けた機器開発に貢献したという。

周知広報へ総務省やA-PABの取り組みと課題

 今後の周知を拡大を目的に、今後の計画などが発表された。今後放送される、推進キャラクターの深田恭子さんが出演の映像として、現在量販店などで上映されているPR動画をリメイク。15秒版と5秒版のスポット映像を作成、8月よりBSで放送予定。その映像を放送に先駆けて報道陣に公開した。

深田恭子さんの映像を公開

 総務省 情報流通行政局長の山田真貴子氏は、「魅力を伝えるために重要なのは映像を観ていただくこと。新たな放送の受信にはチューナなども必要になり、アンテナ交換が必要な場合もある。先月から一部メーカーでチューナ内蔵テレビが発売されているが、しばらくはテレビ売場に色々なタイプのテレビが混在するため、国民視聴者に混乱が生じないよう、徹底した情報提供が必要。魅力あるコンテンツを提供するため、関係者の取り組みに期待したい」と述べ、総務省としても「CATVの光(回線)化や、電波漏洩対策など、受信環境整備に取り組む」とした。

総務省 情報流通行政局長の山田真貴子氏

 A-PABの福田俊男理事長は、試験放送の終了について「終わりではなく始まり。JEITA(電子情報技術産業協会)の発表では、4Kテレビは1月~5月の平均に比べ、6月は5割増しと聞いている。2020年には50%を超えるまで普及させるという目標を念頭に置いて活動しており、厳しい状況にあると認識しているが、これから本番に向けて周知広報なども本番となる。2000年から始まったBSデジタルや、地デジ移行での試練を活かす」としている。

A-PABの福田俊男理事長

 「新4K8K衛星放送」という正式名称に対し、開始後に(“地デジ”などのような)サービス名称や愛称などは予定しているかという質問に対しては、A-PAB福田理事長は新たな愛称などについての計画はないことを説明し、「“地上デジタル放送”は長いから地デジという愛称になった。今回の4K8Kという言葉は既に存在していたので、分かりやすくするために、正式名称は“新4K8K衛星放送”とした。今後は「4K8K BSCS」といった形で分かっていただけるようになるのでは」とした。

 また、現在放送されている「BS右旋」と、12月から追加される「BS左旋」の2つがあり、左旋は受信側の設備変更が必要な場合があるなど、視聴者にとっては分かりづらい状況も課題の一つとされる。

 土屋円 専務理事は「今までの経験からすると、右旋/左旋と説明しても、受け入れていただけないのは明らかなので、別の方法を考えたい。各社から発売されるチューナは、右左旋ともに受信可能だと聞いている。そうした中で、受信できるチャンネルで分けて説明するのも一つの方法では。重要なのは、売場の説明員の方々が説明しやすいかどうか。『どうすれば観られるの?』という(一般客からの)シンプルな質問に対し、分かりやすい販促の材料を提供できるようにしたい」とした。

 現時点で決まっている計画として、放送事業者の編成内容が固まってきた段階で、毎月のイチオシ番組や、編成テーブルなどを記載した「番組ガイド」を製作。店頭などで11月以降に配布することを検討している。

 また、イベントではCEATEC JAPAN(10月16~19日、幕張メッセ)でJEITAと共同展示や、テレビ関連機器と放送事業者の“準備がほぼ完了”をPRする。11月14日~16日のInter BEE 2018でも展示を予定。

 A-PABのホームページでは、受信機メーカーによるチューナ内蔵テレビや外付けチューナなどの発売情報を告知。放送開始までのカウントダウンも表示するという。情報提供の場として、各放送事業者の放送現場を記者などに説明する巡回バスツアーも検討。そのほか、市場を把握するために、年2回程度の実態調査を継続して行ない、定量的なデータの確保/分析を実施する。