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アイキューブド、“筆で描く”動絵画展を開催。信号処理技術を結集

動絵画技術を使った「春光」

アイキューブド研究所(I3研究所)は30日、最新の映像処理技術を使った「動絵画展」を開催。“筆で時空間に絵を描く”ような処理手法を目指した、独自の動絵画技術を用いた4つの作品を披露した。

同研究所は、ソニーのHDテレビなどに搭載されていた映像信号処理技術「DRC(Digital Reality Creation)」を開発した近藤哲次郎氏が立ち上げた、映像処理技術の開発・研究を行なう企業。これまでにシャープの「ICC PURIOS」(LC-60HQ10)に採用された統合脳内クリエーション技術ICCほか、大映像空間向けISVC/ICSC、それら技術を統合したI3Cなどを開発、発表してきた。

シャープ、ICC技術搭載の4K次世代液晶TV「ICC PURIOS」

アイキューブド研究所のビジョン

動絵画(Animated Painting)は、信号処理を極限まで高めることで原信号が持つポテンシャルを徹底的に引き出き、従来とは異なる映像体験を提供する事を目的に開発された、同社の新技術。ベース技術は2019年3月に発表されているが、今回の展示会では、複数ディスプレイによるパノラマ感を目指した“動絵画II”へとアップデートされている。

展示会の開催について、同社説明員は「動絵画は我々が持つ技術を総動員し、ICCからI3Cまでのリアルタイム処理技術とは全く異なる技術アプローチを採り入れた信号処理体系。“信号処理を徹底的に追い込むと、ここまでの映像が作れる”ということを体感してもらうべく、1日限定でお披露目することになった」という。

会場には、4つのブースに全12台の4K液晶ディスプレイ(65型と27型)を設置し、「春光」「漆黒」「海原」「朝来」と名付けられた4つの動絵画作品が展示されていた。

「春光」は、満開の桜の木を描いた作品。「咲きこぼれる花びらの1枚1枚や、無限の青空に大木の後ろ枝」が見どころという。近藤氏は「映像は画素で描写するものだが、絵画は筆で線として描いているので“点(画素)”が存在しない。点が見えてしまうとノイズになってしまう。例えば、この作品の花びらを間近で見ても点が見えない。つまりノイズが一切無い。それは“筆で時空間に絵を描いている”から。時間方向に筆で描く(ように信号処理する)事を我々は“動絵画”と呼んでいる」と解説する。

また、左右・中央から見た時の枝の見え方の変化や遠近感もポイントと説明。

「このディスプレイは3Dや両眼視差などの仕掛けは一切無いが、桜の木が立体的に見えるように感じていただけるはず。現実世界でこのような風景で見た時、木の幹にピントを合わせると、人の目の水晶体が厚くなり脳に“幹は手前”という情報、そして後ろ枝にピントを合わせた時は目の水晶体が薄くなって脳に“奥”と情報を伝える。動絵画では、目の水晶体を動かすようなある描き方……例えば、この花びら1枚1枚の距離など全て計算して描くことで、遠近感のある絵を描くことができる」(近藤氏)と話す。

会場で使われていたディスプレイは全て液晶方式だったが、デバイスに依存する技術ではないとのこと。「絵画と一緒で、紙が変われば書き方を変える必要がある。だから、書き方を変えれば、有機ELディスプレイでも同じことはできるし、パネルの善し悪しはほぼカバーできる。そのことを示すために、あえてローエンドの安いパネルでデモを行なっている」(近藤氏)とアピールした。

拡大写真

「漆黒」は、魚やサンゴの岩が置かれた水槽を描いた作品。3台の27型4Kディスプレイには、それぞれ異なる漆黒世界が再現されており、光空間の表情がポイントという。「撮影した映像には水槽の反射光も映っているが、すべて信号処理で消している。オリジナルの信号は“材料”として、全て描き直している」(説明員)という。

「漆黒」
テイストの異なる3種類の漆黒世界を表現

「海原」は、外房総のとある浜辺を描いた、3枚の65型4Kディスプレイからなる作品。そして「朝来」は、白鳥や鴨が佇む明け方の池の様子を描いた、5枚の27型4Kディスプレイからなる作品。「春光」や「漆黒」のような、1つのディスプレイで完結するものと違い、「海原」「朝来」では複数のディスプレイを並べながらも、まるでつながっているかのような映像を描くことで現実の空間を再現することを狙ったもの。

「海原」

「『海原』と『朝来』は、新しい技術“動絵画II”を使った作品。どちらも、4Kカメラを撮影場所に並べて収録した素材を使っているが、同じことを他の信号処理で再現しようとしても、この作品のように1枚の絵画のようには見えないはず。動絵画IIは、複数のディスプレイを並べた場合でも、鑑賞者がまるで1枚のつながった絵画のように見えるように高度な処理をしているのがポイント」(説明員)という。

「朝来」

動絵画の技術は、11月30日19時まで東京都大田区にある「ライフコミュニティ西馬込」で公開されている。住所は、大田区西馬込2-20-1。