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ハイレゾ&超低遅延へ。ソニーが次世代のLEオーディオ解説、Bluetoothセミナー

Bluetooth東京セミナー2022

Bluetooth SIG(Special Interest Group)は2日、最新技術やイノベーションを解説するオンラインセミナーイベント「Bluetooth東京セミナー2022」を開催。ソニー技術者の講演では、「LEオーディオ」(LE Audio)の概要と技術説明が行なわれたほか、今後の進化として、さらなる高音質化(ハイレゾ化)や30ms以下の超低遅延化、ヘッドフォンセンサーデータの活用等を目指す新しい仕様の策定を進めていることが披露された。

LEオーディオは、完全ワイヤレスイヤフォンやスマートフォン、テレビなどに搭載が見込まれる新しいBluetooth音声規格。従来の音声規格(Classic Audio)を再定義するものとして2020年1月に発表され、今年7月に、プロファイルを含むLEオーディオのすべての仕様策定が完了した。

Bluetooth「LE Audio」仕様完成。対応製品は数カ月で登場へ

LEオーディオは、さらなる高音質、低遅延を目指す

LEオーディオは、従来とは異なる新しい音声コーデック・伝送方式を用いることで、高音質かつ低遅延を実現しているのが特徴。

その標準コーデックとして採用されたのが、「LC3」(Low Complexity Communication Codec)。独フラウンホーファー研究機構が中心となって開発した最新の音声コーデックで、A2DP標準コーデックの「SBC」(Sub Band Codec)と比べ、“SBCの半分以下のビットレートで音質向上できる”とされる。

アイソクロナス転送による、低遅延化も実現。A2DPでは非同期だったが、オーディオデータをインターバル毎に時間同期で送ることで、60msec(規格上)程度まで遅延を抑えた。

またLEオーディオでは、左右独立伝送のマルチストリームに新対応。QualcommのTWS+やAirohaのMCSyncなど、これまでは各社独自方式だった左右独立伝送を標準規格化した。

さらに多人数に同時伝送できるブロードキャスト機能も追加。これによって、テレビから複数のヘッドフォンに同時伝送して、同じコンテンツを複数人で楽しめるようになることはもちろん、劇場や店舗、広場や駅・空港といった場所で多くの人へ“放送”できるようになる。

ヘッドフォンやスマホなどがLEオーディオ対応するには、Bluetooth 5.2以降で採用された2つの機能「LE Isochronous Channels」と「Enhanced Attribute Protocol(EATT)」が必要になる。例え製品のBluetoothバージョンが5.2以降であっても、この2つの機能がなければ、LEオーディオは楽しめない。

プロファイルも新たに定義され、スマホやヘッドフォン、スピーカー、テレビなどのストリーミングなどが対象の「TMAP」、スマホやテレビから補聴器へストリーミングする「HAP」「HAS」、公共ブロードキャストのストリーミングを定めた「PBP」などが用意された。

LEオーディオで新たに定義されたプロファイル
TMAPでは、オーディオやQoS設定値などが定義されている。上図の左(CT設定値)は主に通話、右(UMR/BMR設定値)は音楽用途の設定定義を示したもの。Bitrateは片チャンネルの数字となる

講演したソニーの関正彦氏は、「我々は初期よりLEオーディオの規格化活動に参画し、早期の仕様策定完了を目指して活動を推進してきた。最初の提案を行なったのが2016年で、'17年には“LE High Quality Audio”という名称で新規活動提案書をBluetooth SIGに提出。ソニーがATAWGの議長となって活動を推進し、今年『TMAP』プロファイルをリリースすることができた」と、足かけ5年の活動を振り返った。

そして、LE Audioの更なる進化に向け、新しい仕様の策定を目指した活動も進めていることを明かした。

1つ目は、ゲーム機器への応用。30ms以下のゲームとチャットの同時通信を実現するもので、現在の半分以下となる30ms以下の目標遅延時間を掲げているという。

2つ目は、ヘッドフォンセンサーデータの活用。ワイヤレスヘッドフォンに仕込まれたセンサーから装着者の動きを把握し(ヘッドトラッキング)、そのデータを空間オーディオ再生に生かす……などを想定。

そして3つ目が、スループットのさらなる向上。帯域を拡げることにより、ハイレゾ伝送を含む更なる高音質化に加え、多チャンネル伝送の実現、そして再送回数に余裕が生まれることによる接続安定性のさらなる向上が期待できる、と述べた。

Bluetoothは世界で最も使われる無線技術。完全ワイヤレスは'26年に6億台出荷へ

セミナーでは、Bluetooth SIGでチーフマーケティングオフィサーを務めるケン・コルドラップ氏も登壇。

「今年末にはメンバー企業数が3万9,000社近くに達する予定で、製品出荷台数も堅調に伸びている状況。今後数年のうちに、年間70億台超の出荷数が予想される。Bluetoothは世界で最も使われている無線規格であり、Wi-Fi製品よりも約35%、セルラー通信よりも約150%以上多くなっている」と、Bluetooth市場を説明した。

今後数年のうちに、Bluetooth製品の出荷数は年間70億台超へ
Bluetoothは世界で最も使われている無線規格、とアピール

LEオーディオについては、「高音質・低遅延・低消費電力などの性能向上により、完全ワイヤレスイヤフォンの年間出荷数が2026年には6億台に達するという予測の実現もまったく難しいことではない」とコメント。なかでも、ブロードキャスト機能に関しては、「私たちのオーディオ体験と世界とのつながり再び大きく変える可能性がある」と評した。

Bluetooth SIGは、ブロードキャスト機能を「AURACAST」(AUgmenting Reality through Audio broadCASTing)という名称でブランディングする。TVからBTヘッドフォンなど、家庭における暗号化されたブロードキャスト機能のみの対応でも、AURACASTを必ず名乗る必要はない、とのこと

また、小売店舗の棚にあるラベルをBluetoot技術で電子化する“電子棚札”(ESL=Electric Shelf Label market)や、車や自宅のデジタルキーにおける更なるセキュア・高精度化、LEオーディオの高データレート化、6GHz帯を含む免許不要の中周波数帯でのBluetooth活用など、現在進行中のプロジェクト(50以上)を挙げ、「Bluetoothは、今後も技術力を高め続ける」とアピールした。