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LE Audio“ハイレゾ・マルチch対応”の規格化推進へ。Bluetoothセミナー開催

Bluetooth東京セミナーで行なわれた、ソニーの関正彦氏による講演

Bluetooth Special Interest Group(Bluetooth SIG)は10月30日、Bluetoothの最新技術とイノベーションを解説するセミナーイベント「Bluetooth東京セミナー 2024 ~ Shaping the Future of Connected Experiences ~」を東京都内で開催し、Bluetoothの最新の市場動向と技術発展について紹介した。このなかでソニーの講演も行なわれ、登壇した関正彦シニアネットワークテクニカルマネジャーは「LE Audioは普及期に入っている」と紹介。またLE Audioのハイレゾ対応についても言及した。

LE Audioは「低遅延」「LC3コーデック」「マルチストリーム」「ブロードキャスト」などの機能を備えたBluetoothオーディオの新標準規格。2022年7月にすべての仕様確定が完了しており、ソニー「WF-1000XM5」や「LinkBuds S」、JBL「TOUR PRO 2」など、LE Audioをサポートする製品も市場に増えてきている。

ゲームモードでより低遅延・高音質通話。ソニーも対応製品を検討

関正彦氏

「広がる Bluetooth LE Audio ワールド – Auracastから、次世代のLE Audioまで」と題して講演を行なったソニーの関氏は、「低遅延でなにが便利かと言うと、例えばテレビのようなユースケースで、音と画のズレが少なくなります」とLE Audioの特徴を紹介した。

「(LE Audio登場前の標準規格)Bluetooth Classicでは、かなり遅延が大きかったので、その分たとえば画像のバッファなどでうまく(映像と音声を)合わせるような工夫をしていましたが、LE Audioではそういった工夫もあまり必要なくなるので、こういった映像系では低遅延が役に立つと思います」

「また(Bluetooth Classicの)A2DPではSBCというコーデックを使っていましたが、LE AudioではLC3(Low Complexity Communication Codec)というコーデックを新たに採用しています。SBCと比べて圧縮率が高く、音質的にはSBC同等以上という技術です。帯域をあまり食わないので使いやすいコーデックになっています」

「マルチストリームは、完全ワイヤレスイヤフォンがわかりやすい利用例ですね。左右独立でストリームしつつ、高精度の同期が可能になります。ブロードキャストは、同じコンテンツを複数の人に楽しんでもらうことが可能になる技術です」

このうち低遅延という特徴の活用例として、ゲーム用途に適した低遅延オーディオ伝送を規定した新規格「GMAP(Gaming Audio Profile)」も紹介。これは30ms以下の伝送遅延を実現可能にしたもので、ステレオ音声通話にも対応。ゲームプレイ中でも高音質チャットが楽しめるようになる。

関氏は「こちらは2023年11月にリリースされた、出来立ての規格なので普及していくのはこれからだと思いますが、規格化が終わったのでソニーとしても対応製品の導入を検討している形です」と明かした。

ブロードキャストについては「Auracast」のブランド名称で展開が進んでおり、例えばスマートフォンで音楽を聴いている人が、イヤフォンを外すことなく駅や空港のアナウンスを聞ける「パブリック ブロードキャスト」、自分のスマホから友達のヘッドフォンに音楽をシェアする「プライベート ブロードキャスト」などの用途が想定されている。

LE Audioは普及期「将来的にはClassic Audioを置き換えたい」

スループットの向上や帯域拡張を活かした機能の搭載などが議論されているという

また、関氏は今後のLE Audioに関する展望についても紹介2Mbpsから最大約8Mbpsまでのデータスループットの向上や、帯域拡張によるハイレゾコーデックへの対応、4chや5chなどのマルチチャンネルサラウンドへの対応など、Bluetooth SIGが規格化を進めているものを挙げ、ソニーとしてもこれらふたつの規格化を推進していくとコメントした。

ソニーが考える次世代仕様に関するスライド

「現状のLE Audioで実装されているTMAP 1.0ではCD並みの音質と高音質通話は実現されています。先ほど規格化が進んでいると言った(約8Mbpsへの)帯域拡張によって何ができるのかを考えて、規格拡張を検討しています。ハイレゾ、サラウンドサウンドなどはBluetooth SIGでも議論が進んでいますので、これは引き続き推進してまいります」

「さらに新しいユースケースとしてワイヤレスマイクやEC/NR制御とった機能拡張、それから例えばマルチポイント接続などのユースケースにおいて、安定性向上を図るためのQoSとコーデック設定の制御にも取り組みたい。そして、さらなる低遅延化にも取り組んでいきたいと考えています」

Bluetoothオーディオ機器の出荷台数は増加傾向で、2028年にはLE Audio対応機器が8割を占めるという市場予測も

関氏は、現在Bluetoothオーディオストリーミング機器の市場は、約80%を“旧Bluetoothオーディオ規格”にあたる「Classic Audio」のみをサポートしている製品が占めており、残り20%がLE Audioのみをサポートする製品、両方をサポートする“Dual Mode”製品で構成されているが、この割合が'28年には逆転するという市場予測を紹介しつつ、次のように述べた。

「これからBluetoothのClassic Audioというものは、LE Audioにどんどん置き換わっていく、置き換えていかなければならないと考えています。LE AudioとClassic Audioの両方をサポートするのはベンダーにとっても大変だと思うので、これからどんどんLE Audioを推進していきたいと考えています」

「特に今のLE Audioで実現できていない機能として、音声認識や電話帳表示、メッセージ表示など、特に車載機器で多く使われている機能が、Classicでは実現されていても、LE Audioでは実現できていません。これが車載機器でのLE Audio対応の障害となっている部分だと考えているので、こういったものに対応していって、将来的にはLE Audioに完全に置き換えできるところまで持っていきたいと考えています」

「繰り返しになりますが、LE Audioは普及期に入っていて'28年にはBluetoothオーディオ機器の80%がLE Audio対応になります。Auracastも市場に広がっていきますし、GMAPによりゲーム用途の導入を増えると考えられます」

LE Audioは「次の20年のオーディオ革新をサポート」。会場には「Cear pavé」も

ロリ・リー氏

関氏の講演前には、Bluetooth SIGのAPAC&中国担当シニアディレクター、ロリ・リー氏によるBluetooth最新情報に関する講演も行なわれ、Bluetoothデバイスの年間総出荷台数は今後5年間で8%の年間平均成長率が見込まれていること、Wi-Fi、携帯電話回線などほかの無線通信機器と比べても年間出荷台数が多く、毎年成長を続けていることを紹介。

さらにLE Audioは「次の20年間のオーディオ革新をサポートできる」技術であること、LE Audioの機能のひとつであるAuracastは、ソニーやJBL、ゼンハイザー、サムスンなどに加え、コクリア、リサウンドなどの補聴器メーカーからも対応製品が登場していること、Auracastを利用できる公共施設は'30年までに250万施設になる見込みであることなどが紹介された。

また会場には、各社のLE Audio対応製品が展示されたほか、Auracastに対応したキューブ型スピーカー「Cear pavé」(シーイヤーパヴェ)を手掛けるシーイヤーもブースを展開。Cear pavéはクラウドファンディングで2億円を超える支援を集め、現在は支援者向けに製品を出荷している段階とのことで、12月頃には一般販売を行なう予定だという。

また講演開始前にはCear pavéを使って水の流れる音や祭り囃子の音をサラウンドで流すデモンストレーションや、Auracastを使って講演の同時通訳の音声を流すデモンストレーションなどが行なわれた。

会場に展示されていたLE Audio対応のイヤフォンや補聴器
JBL「TOUR PRO 2」
ソニー「WF-1000XM5」
ゼンハイザー「ACCENTUM True Wireless」
会場では「Cear pavé」のデモも
「Cear pavé」のスケルトンモデル
講演の同時通訳をAuracastで配信するデモも行なわれていた