ミニレビュー

“Wizard”の最新作、「FALCON2」をさっそく聴いてみる

Noble Audioの完全ワイヤレスイヤフォン「FALCON2」

23日に発表された、Noble Audioの完全ワイヤレスイヤフォン「FALCON2」。完全ワイヤレスの人気モデル「FALCON」の後継機種という事で、どんな音に進化しているのか気になる人も多いだろう。さっそく実機を聴いてみたので、ファーストインプレッションをお届けする。

詳細は、掲載しているニュース記事を参照していただきたいが、簡単に特徴を紹介しよう。発売日は10月30日で、価格はオープンプライス。店頭予想価格は13,900円前後、初代「FALCON」登場時が16,800円前後だったので、より求めやすくなった。「あらゆる角度でFALCONを上回る、完全ワイヤレスイヤフォンの理想を体現する」と掲げられた、かなり力が入ったモデルだ。

左が「FALCON」、右が「FALCON2」。イヤフォンの筐体形状などはほぼ同じで、「II」という表記を見ないと見分けがつかないレベル
「FALCON2」には「II」と書かれている

最大の進化ポイントは、心臓部のSoCに、Qualcommの最新世代チップ「QCC3040」を搭載している事。高性能化、低消費電力化が進められており、左右のイヤフォンそれぞれにデータを伝送する「TrueWireless Mirroring」にも対応している。Android/iOSどちらのデバイスと接続時も利用可能だ。

また、接続安定性も強化。新しいSoCと高性能なアンテナを搭載するだけでなく、イヤフォンを装着した時に、アンテナの位置や角度が最適になるよう工夫したり、内部アンテナ基板の配置にも工夫するなどしている。これらの工夫は第二世代「High Precision Connect Technology」と名付けられている。

Bluetoothのコーデックは、SBC、AACと、最新のaptX Adaptiveをサポート。通信環境に合わせ、279kbpsから420kbpsの間でビットレートを自動的に調整し、接続の安定性を高める。新しい圧縮アルゴリズムによる可変ビットレート方式も採用しているので、最高品質時はaptX HD同等となる24bit/48kHzでの伝送が可能だ。FALCON2の開発にあたり、Qualcommと連携。QCC3040のファームウェア開発にあたり、カスタム実装によりaptX Adaptiveに対応したそうだ。

他にも細かい点だが、例えばゲーム利用時にはレイテンシーを重視して遅延を抑えたり、音楽プレーヤーと連携した場合は音質を優先といった機能も備えている。

アクティブノイズキャンセリング機能は搭載していないが、外音取り込み機能を新搭載している。左ハウジングのボタンを一度押すと、外の音がスルーでイヤフォンから出力される。試してみるとやや高域が強調されたような音だが、駅のアナウンスなどは聞き取れるだろう。

充電ケースのデザインも奥行きがあるものに変更された。高速充電や無線充電に対応している。

充電ケース
ケースは右の初代と比べると少し大きくなった
充電ケースは無線充電にも対応。写真の無線充電パッドは「NEST」
付属のイヤーピースはePro audio製のTWS用「Horn-Shaped Tips」。独自のホーン形状構造を採用している

音質面はどう変化したのか

特徴はこのあたりにして、音を聴いてみよう。音質面でのポイントは、初代FALCONで採用している「Dual-layered Carbon Driver」、通称DLCドライバーは、新モデルでも同じものが採用されているという点だ。

ドライバーのPET樹脂の上にカーボンファイバー層を重ねた、特殊な二層構造を採用したダイナミック型だ。グラフェン塗装を施したPET樹脂のドライバーユニットと比べても、歪みを約二分の一に低減したというものだ。

ドライバーは同じだが、その他の部分が進化した。前述の通り、SoCにQCC3040を搭載し、このコンビネーションにより、ドライバーの性能をさらに引き出したという。特に高域の再生周波数帯域が拡張され、低域は20Hzから、高域は24kHzまで再生できるようになった(従来は20Hz~20kHz)。

また、これが一番大事なポイントと言えるが、新モデルでも“Wizard”ことジョン・モールトン氏によるチューニングが行なわれている。

アコースティック・ダンパーによって空気の流れを調整する、アコースティック的なチューニングだけでなく、DSPによる音響特性の調整も実施。その組み合わせで、理想の音を追求した。初代FALCONユーザーからのフィードバックも踏まえた音になっているというので楽しみだ。

“Wizard”ことジョン・モールトン氏

音を聴いてみる

昨年登場した初代FALCONは、完全ワイヤレスイヤフォンの世界に、ピュアオーディオのサウンドを持ち込んだ代表的な製品の1つと言える。有線のハイエンドイヤフォンの世界で定評のあるNoble Audioのサウンドを、そのままワイヤレスで完全再現……というのは流石に難しいが、ピュアオーディオらしい自然で情報量の多いサウンドを、完全ワイヤレスでも実現。それが人気モデルになった大きな理由だ。

改めて初代FALCONを聴いてみても、「よく出来た完全ワイヤレスだな」という印象は変わらない。低域から高域まで見通しの良いワイドレンジなサウンドで、細かな音が聴き取りやすい高解像度さもある。

それでいて、中低域にはしっかりとパワーと厚みがあり、ロックやポップスの疾走感のある楽曲を迫力たっぷりに、JAZZのアコースティック・ベースも肉厚に描写してくれる。パワフルさがありながら、低音がボワボワと膨らみ過ぎず、適度なタイトさを維持しているところも、Noble Audioらしいチューニングだと関心するポイントだ。

FALCON2

そこで、FALCON2に変更すると、音がガラッと変化する。まず感じるのは、パワフルに押し寄せていた中低域の盛り上がりが抑えられ、よりフラットなバランスになった。これにより、低域から高域まで、さらにワイドレンジになったと感じる。また、中低域に隠れ気味になっていた高域が見やすくなり、音が広がる空間が大幅に広く、奥も深く見通せるようになった。

「Official髭男dism/Laughter」を再生。青空に飛び立つような雰囲気の、開放的な楽曲だが、FALCON2で聴くと、その開放感がさらに突き抜ける。初代FALCONも決して、音がこもったり、閉塞的な音のイヤフォンではないのだが、初代を“広めの部屋”とすると、FALCON2はもはや“壁の無い屋外”のように音が広がる。これは非常に気持ちが良い。

それでいて、低音が抜けてスカスカした音にはなっていない。初代と比べ、中低域の膨らみは抑えられるが、低域自体はしっかり出ており、迫力はまったく負けていない。むしろ、よりタイトに、深く沈み込むようになった事で、低域に“凄み”が出ている。

また、低域から高域にかけて、音楽全体の解像度も上がっている。これにより、低域のベースを1つとっても、「グォーン」と音が沈むだけでなく、ベースの弦がブルブル震える様子が、高解像度化により、見やすくなっている。

「米津玄師/感電」の冒頭は、ドラムやコーラス、ベースだけでなく、様々なSEが弾け飛ぶような賑やかなスタートだが、そのSEの1つ1つの音がよりクリアに、シャープに聴き取れるのはFALCON2の方だ。

「宇多田ヒカル/花束を君に」のようなシンプルな女性ボーカル楽曲でも、サビの、吐息と共に広がる音場の広さが、FALCON2の方が圧倒的に広く、深くなっている。そこに展開するピアノやボーカルの生々しさにも、初代からさらに磨きがかかった。

ドライバーは初代と同じという事だが、新たなSoCとチューニングによる進化で、完全に“別モノ”に進化した。FALCON2で、初めてFALCONの音を聴く人はもちろんだが、初代モデルを既に使っているというユーザーも、さらに“Noble Audioらしい音”になったFALCON2のサウンドを、一度試聴すると、その進化ぶりに驚くだろう。

山崎健太郎