レビュー

ガチなハイエンドメーカーが完全ワイヤレスを作るとこうなる、Noble Audio「FALCON」

完全ワイヤレスイヤフォンの勢いがスゴイ。売れ行きと共に店頭での存在感が大きくなり、通販サイトで検索すれば見きれないほどの製品数。新製品も毎日のように登場しており、「そろそろ買おうかな」と思っている人も多いだろう。ただ、これだけ数が増えるとまさに“玉石混淆”状態、どれを選べばいいのか困るのも事実。そんな中で注目の新製品が、クラウドファンディングが10月14日18時まで実施されている、Noble Audio初の完全ワイヤレスイヤフォン「FALCON」だ。

Noble Audio初の完全ワイヤレスイヤフォン「FALCON」

AV Watch読者ならNoble Audioと聞いて「お! マジで!?」と思う人も多いだろう。“Wizard”ことジョン・モールトン博士が手掛ける、あのハイエンドイヤフォンブランドのNoble Audioだ。

この時点でもう“音が良さそう”だが、Noble Audioと言えば10万円以上のイヤフォンもラインナップにゴロゴロ存在する高級ブランド。「でもお高いんでしょう?」と身構えてしまうが、「FALCON」はオープンプライスで店頭予想価格は16,800円前後と、Noble Audioとしてはかなりリーズナブルだ。

先に結論から言ってしまうが、この「FALCON」、価格は抑えられているが、音質はちゃんと“Noble Audioクオリティ”で、かなりというか、メチャ音がいい。なんというか「ガチなハイエンドイヤフォンメーカーが完全ワイヤレスを作るとこうなるのか」と感心するモデルに仕上がっている。

その「FALCON」だが、Makuakeにおいてクラウドファンディングが10月14日18時まで実施されている。10月下旬に家電量販店などでも一般販売がスタートするが、クラウドファンディングの支援者には一般販売よりも早いタイミングでの納品になる見込みだ。

さらにクラウドファンディングでは先着1,000人で、イヤフォン本体に加え、片耳分のイヤフォン本体を落としても新品と交換してもらえる紛失安心補償サービス(通常8,000円)が、1回分無料で利用できる「【約32%お得】紛失安心補償サービス無料コース」などをラインナップしている。「買いたいけど落としたら怖い」という人はこっちを選ぶのもいいだろう。

「FALCON」

そもそもNoble Audioって?

イヤフォンマニアにはお馴染みだが、Noble Audioに軽く振り返っておこう。2013年10月にジョン・モールトン博士によって設立されたメーカーだ。イヤフォンを専門に手がけており、海外でも多数の賞を受賞するなど、世界的に人気がある。

“Wizard”ことジョン・モールトン博士

ジョン・モールトン博士は、中学生のころから音響製品に興味を持ち、その後、聴覚学の博士号を取得して聴覚学の講師となった。難聴の診断・治療や、予防、リハビリ、補聴器の調整などを行なう専門家として、さらに蝸牛インプラントの外科助手としても活躍していたそうだ。

そして、タイの補聴器会社に勤めていた2008年頃に、会社のラボで作成した幾つかのカスタム・イヤフォンの写真を、アメリカのヘッドフォン関連コミュニティであるHead-fiに投稿。その魔法のような技術が話題となり、“Wizard”という愛称が定着。その後、Noble Audioを設立した。

そんなNoble Audioでは、カスタムイヤフォンも存在するが、ユニバーサルではピエゾドライバーを含む6基のユニットを搭載した最上位「Khan」(オープンプライス/実売268,000円前後)などのハイエンドモデルから、2万円以下で買える「EDC Velvet」など、幅広いラインナップを備えている。イヤフォン好きなら、かつての伝説的なモデル「Kaiser10」(K10)を思い浮かべる人もいるだろう。

つまり、超高級機だけを手掛けるのではなく、価格を抑えて買いやすいモデルを作るノウハウを持っているブランドというのが、注目ポイントだ。

ピエゾドライバーを含む6基のユニットを搭載した最上位「Khan」

音質だけでなく仕様も最新のFALCON

完全ワイヤレスイヤフォンと言えば、音質面だけでなく接続性も重要だ。FALCONは、最新のQualcomm製SoC「QCC3020」を採用。送信側デバイスから親機側イヤフォンを経由して子機側までデータをブリッジして伝送する「True Wireless Stereo(TWS)」方式に加え、左右イヤフォンへそれぞれデータを伝送する「TrueWireless Stereo Plus(TWS+)」にも対応。TWS+対応スマホと組み合わせると、接続がより安定し、音の遅延も少なくなる。

……というのがお決まりの説明だが、ご存知の通り、TWS+に対応したスマホはまだまだ少ない。それゆえ「TWS+対応のスマホを持っていないと途切れまくりなのでは?」と思われるかもしれないが、接続安定性自体は向上しており、実際に使ってみるとそんな事はない。

また、FALCONはBluetoothデバイスとの接続安定性を高めるアンテナ設計技術「High Precision Connect Technology」も搭載している。「多くのサプライヤーとの交渉とサンプルの評価を経て、優れた安定性を誇る完全ワイヤレスイヤフォンの開発に成功した」という。

試しに、TWS+に対応していないGoogleのスマホ「Pixel 3 XL」とペアリングし、スマホをケツポケットに入れ、町中を歩いてみてもまったく途切れない。電車内でも同様だ。より過酷な環境をと、人間も電波も大量に飛び交う新宿駅のホームへ。端から端まで行ったり来たりしてみたが、ほとんど途切れない。

唯一途切れたのは、満員の山手線が減速しながら入ってきた瞬間に、ホームで立って電車を待っているBluetoothイヤフォンを着けた人の横を通った瞬間だけ。「プッ、プッ」と2回ほど一瞬音が途切れたがすぐに復帰した。

その後、駅の地下通路なども歩いてみたが途切れたのはホームでの一瞬だけ。よっぽど過酷な状況でない限り、安定して音楽が楽しめると言っていいだろう。

コーデックは、SBCに加え、AAC、aptXに対応している。

バッテリの持ちも良い。消費電力を抑えたQCC3020と、イヤフォン本体に内蔵されている高性能バッテリーにより、最長10時間の連続再生が可能だ。左右のマスタースワップ機能も備え、電源を入れるごとにバッテリー残量の多い方をマスターイヤフォンに自動的に切り替えてバッテリーの片減りを防止する。

充電ケースは、FALCONを約3回充電できる可能。累計で最長40時間の音楽再生ができる計算だ。

イヤフォン本体と充電ケースは高速充電に対応。イヤフォン本体は最大1時間で満充電、充電ケースは1.5時間で満充電できる。充電ケースに入れたイヤフォンは満充電になると自動的にスリープモードになり、未使用時の充電ケースのバッテリー消費を抑えている。個人的には、充電ケースの充電端子がUSB-Cである事も嬉しい。

充電ケースの充電端子はUSB-C

イヤーピースにもこだわり。実は完全防水

完全ワイヤレスイヤフォンで怖いのは落下。それゆえ、装着安定性は大切なポイントだ。FALCONは、ePro audio製の「Horn-Shaped Tips」というイヤーピースを採用している。

ePro audio製の「Horn-Shaped Tips」というイヤーピース

このイヤーピースは、完全ワイヤレスイヤフォンに最適化された形状に設計されているそうだ。普通のイヤーピースと比べ、少し平たい形状なのだが、試しに装着してみると耳穴の中での固定力が強いようで、確かに抜けにくい。もちろん耳穴にマッチするサイズ選びは入念にしよう。左右の耳で適正サイズが違う事もよくあるので、「左がMサイズだったから右もMで」と単純に決めない方がいい。

イヤーピースの素材にも特徴がある。シリコンだけでなく、グラフェンが配合されている。グラフェンを最適な分量で配合することで、従来製品よりも柔らかいシリコンを使用することが可能になり、快適な装着性と長期間の耐久性を両立したという。

また、音質面でも工夫がある。コンピューターモデリングと試聴を繰り返して開発されたという、ホーン形状ノズルになっており、音波をより効率的に外耳道に送ることができるそうだ。

さらに、イヤフォンを水没させてもすぐには故障しないIPX7の完全防水設計になっているという。水中ではBluetoothの電波が届きにくくなるので、これを着けて水泳をするわけにはいかないが、例えば、万が一イヤフォンが水の中に落下しても問題ないわけで、これは安心感に繋がるポイントだ。

ハウジングのフェイスプレートには誤操作を防ぐために、あえて物理ボタンを搭載。音量の調整、再生、一時停止、曲送り、曲戻し、通話への対応などが操作できる。長押しでSiriを呼び出すことも可能だ。

なお、iOS/Android用に、年内を目処にアプリも提供予定。ボタンの機能割り当ての変更や、イコライザー機能などを実装予定という。

“Wizard”ジョン・モールトン氏がチューニング

注目の音質面では、多くのハイエンドイヤフォンを手掛けてきた“Wizard”ジョン・モールトン氏がチューニングしているのが最大のポイントだ。

FALCONには「Dual-layered Carbon Driver(D.L.C. Driver)」というユニットが搭載されている。これは、完全ワイヤレスイヤフォンで使われる事が多いグラフェン・ドライバーの欠点を克服したという、新しい構造のドライバー。

振動板の樹脂層の上に、カーボンファイバー層を重ねた特殊な二層構造となっており、グラフェン・ドライバーと比べて歪みを約1/2に低減。さらに、伸びやかな高域表現を可能にするという。

この新開発ドライバーの特性を生かすため、アコースティックダンパーによるチューニングに加え、DSPによるドライバーの特性の調整も実施。物理的なチューニングと信号処理によるチューニングを組み合わせて、音作りをしているわけだ。

音を聴いてみる

一聴して、すぐにわかるのが非常に空間表現が広いという事だ。ボーカル+ピアノ伴奏など、シンプルな曲をかけると、音が広がっていく様子が奥までよく見える。完全ワイヤレスイヤフォンは、筐体内部にアンテナやバッテリーなど、様々なパーツを詰め込むためか、音場が狭く感じる機種もあるがFALCONはこれに当てはまらない。

イヤーピース・Horn-Shaped Tipsの遮音性が高い事もあり、静かな空間の中で細かな音もよく聴こえる。SN比が良く、電車内でもクラシックがしっかり楽しめる。空間表現の広さ、細かな音の描写などに、グラフェン・ドライバーと比べて歪を大幅に低減したというD.L.C. Driverの効果を感じる。

それにしても、この音でIPX7の完全防水設計というのは驚きだ。閉塞感、ヌケの悪さなどはまったく感じられない。

全体の傾向としてはワイドレンジかつニュートラルなバランスで、中低域が盛り上がったり、膨らんだりしない。モニターライクな音作りで、どんな音楽でも自然に聴かせてくれる。ハイエンドイヤフォンメーカーらしい“通好み”な音だが、ナチュラルなので、多くの人が好ましく感じるだろう。

Amazon Music HDで「あいみょん/マリー ゴールド」を聴くと、女性ヴォーカル、ギター、ベースなどが粒立ちよく、クリアに、1つ1つの音の境界線が明瞭に描写される。低域も音圧豊かに迫ってきて、気持ちいいサウンドだ。それでいて、勢いよくこちらに迫ってくる音の後ろに、その音の余韻が波紋のように広がっていく奥行き描写も聴き取れる。ベーシックな再生能力の高さが好印象だ。

御存知の通り、完全ワイヤレスイヤフォンではソニーの「WF-1000XM3」が人気だ。あちらのほうが、FALCONより1万円ほど高価だが、個人的に音質面ではFALCONの方が好みだ。WF-1000XM3も良い音なのだが、中低域がやや強く、味が濃い。FALCONの方が描写がナチュラルで、中低域の音の動きもよく見える。飽きがこない音というか、買ってしばらく使ったあとでも「ああ、いい音だなぁ」と実感する瞬間が何度も来る音だ。

初の完全ワイヤレスなのに高い完成度

Noble Audioとして初の完全ワイヤレスだが、スペック面、ドライバーの新しさ、バッテリー持続時間など、様々な面でバランスがとれており、初なのにとても“こなれた”印象を受ける、完成度の高いイヤフォンに仕上がっている。使っていて大きな不満もなく、カラーバリエーションも欲しいなと思うくらいだ。

Noble Audioらしい音質、そして使い勝手で約16,800円というのは、かなりお買い得なイヤフォンと感じる。確かに、巷には5,000円を切るような完全ワイヤレスイヤフォンも存在するので単純に“安い”とは言いにくく、価格帯としてはミドルハイクラスかもしれないが、聴いている時の満足感は間違いなく価格以上のものがある。

完全ワイヤレスイヤフォンというと、どうしても「搭載チップが何か」とか「バッテリー持続時間がどうだ」とか、スペック的な部分に注目してしまうが、音を聴く製品としてやはり音質が最も重要。そして、この音質こそ、イヤフォンメーカーとしてのノウハウが最も発揮される部分でもある。そういった面で、「ガチなハイエンドイヤフォンメーカーが作ると、完全ワイヤレスでもやっぱり違うな」と感じさせてくれるモデルだ。

(協力:エミライ)

山崎健太郎