レビュー

有機EL REGZA「X910」冬の画質進化。なめらかさを増した地デジと色彩感豊かなHDR

 今春に発売された東芝の有機ELテレビX910シリーズ。有機ELパネルを採用したことをはじめ、画面への没入度を高めるために、スタンドも最小限とした大胆なデザインとし、スピーカーの見えないインビジブルタイプながらも可能な限り音質を追求した「有機ELレグザオーディオシステム」など、あらゆる面で最高峰を目指したモデルだ。

筆者自宅の視聴室にある55X910。今ではすっかりメインのディスプレイとして活躍しており、写真の位置で常設されている

 有機ELテレビは、今年に入って、東芝、ソニー、パナソニック、LGなど、各社ともそれぞれの技術を結集したモデルを投入している。その画質はいずれも完全な黒の再現ができる高コントラストや直視型ならではの視野角の広さなど、そのポテンシャルの高さが実感できる。

 なかでも国内メーカーの先陣を切って発売された東芝のX910シリーズは、独自の超解像技術を結集した「OLEDレグザエンジンBeauty PRO」を搭載。精細感の高い映像を作り上げた。有機ELの登場を待ち望んでいた筆者もさっそく購入したことは以前お伝えした通り。

 しかも、発売から数カ月経った5月30日には、動画配信サービス「DAZN」への対応と、HDMI入力での「HDRフォーマット(HLG方式)」への対応を果たす機能アップデートが行なわれた。こうした機能アップデートは、他社でもよく行なわれるが、東芝ではこのときに画質のアップデートも盛り込んだ。ひとつが「地デジBeautyPRO」への対応、そして暗部再現性の最適化というものだ。

 これにより、深く締まった黒と暗部の階調性が向上し、有機ELらしいコントラストの高い映像でより質の高い映像が楽しめるようになった。「地デジBeautyPRO」では、地デジ放送の視聴時に、さまざまな超解像技術のパラメータを最適化し、地デジ特有のノイズを抑えながら、精細感の高い映像が再現できるようになった。多くの人が視聴する地デジ放送の再現性と映像表現力については、数ある有機ELのなかでも東芝がもっとも優れたものと感じている。これは、ユーザーである筆者だけではなく、多くの人も同じ印象を持つに違いない。

 X910シリーズのアップデートは、上記のほかにいくつかの機能アップデートや不具合の改善などが行なわれてきたが、12月中旬にも新たなアップデートが行なわれる。まずは12月1日にスタートするスカパー!の新サービス「スカパー! ハイブリッド」に対応する。これはテレビ番組表から、BSや映像配信などの伝送路を問わずにスカパーの各番組を再生できるという新サービスだ。

 これに加えて、2回目となる画質アップデートも盛り込まれる。

 画質アップデートの内容は、
(1)地デジやBSなどの放送コンテンツのさらなる高画質化
(2)Ultra HDブルーレイや4K動画配信サービスで採用されているHDR10方式のコンテンツの高画質化
(3)放送系で採用されるHDR方式の「HLG(ハイブリッド・ログ・ガンマ)」での高画質化

 今回もなかなか多岐に渡った内容だ。

 開発チームの協力のもと筆者宅の55X910を一足先にアップデートしてもらい、じっくりと体験したので、その内容と画質の変化を解説する。ただし、(3)HLG方式の高画質化については、今回はスケジュールの都合上体験できていない点はご了承いただきたい。

【12月11日追記】
アップデート提供開始され、HLGの画質も確認したため、記事最後にHDR放送のインプレッションを追加しました。

地デジ放送のノイズ感をさらに抑え、奥行き感のある映像が楽しめる

 まずは、地デジやBSなど放送コンテンツのさらなる高画質化についてその印象を紹介しよう。その内容は、1,440×1,080や1,920×1,080解像度の映像には含まれないはずの超高周波のノイズ処理を最適化し、輪郭の不自然な強調感やS/Nを向上し、放送コンテンツの画質を向上するというもの。

 現在のテレビ放送は、来年の12月に開始される4K/8K放送に合わせて、NHKをはじめとしたテレビ放送各社が4K環境を導入してきている。試験的に4Kカメラを使って撮影や制作し、放送では2Kだが、同時に4Kそのままのコンテンツも制作するといったことが行なわれている。

 特にこうしたコンテンツの場合、2Kにダウンコンバートして放送用コンテンツを制作するため、オリジナルに比べて劣化する精細感をエンハンスする処理が行なわれるようだ。実際、大画面テレビにおける4Kテレビの販売台数は2Kテレビより多くなっており、多くの家庭で4K解像度のテレビで2K放送を見ている現状を考えると、放送局側でより精細感のある映像を楽しめるような画作りをすることは自然なことだ。

 詳しく説明すると、広々とした景色を映したような映像、特に空撮やドローン撮影などを行なったと思われるもので、遠景の細かなテクスチャー部分でチラチラと動き、ノイズのような見づらさがある。これは、筆者も自宅でのテレビ視聴で気になっていた部分で、地デジ放送特有のノイズ感の顕著な例だと思っていたが、東芝の画質設計を担当する技術陣もX910でテレビ放送を見ていて気付き、その原因を探ったところ、前述のような制作時点での映像エンハンスの影響だとわかったそうだ。

 このため、地デジやBSなどの放送視聴時は、こうしたフルHD解像度を超える高周波信号の映像処理を最適化した。シャープネスの効きを調整したほか、各種の超解像処理でもノイズ感を目立たせないようにし、映像がギラつくような不自然さを抑えている。

 こうした処理は、内蔵チューナでの放送視聴時、外付けHDDを使った録画番組の再生時はもちろん、DLNAネットワーク経由でのBDレコーダの録画番組の再生でも適用される。そしてHDMI経由の外部入力での映像にも対応する。外部入力からの映像では、1,440×1,080ドットの信号はBDレコーダなどの送り出し側で1,920×1,080に変換(アップコンバート)されて出力されるし、コンテンツフラグも「放送」というようなフラグはないので判別が難しい。そこで、同時に送り出される音声信号に注目。日本のテレビ放送で採用されているAAC音声を持った映像を放送コンテンツと判別している。

地デジ放送の信号情報(詳細)を表示したところ。解像度が1440×1080となっており、音声もAACであることがわかる。外部入力の場合、AAC音声であれば放送コンテンツと判断する
映像設定の画面。ここでコンテンツモードを「放送」とすることでも、今回のアップデートで加わった映像処理が適用される
コンテンツモードの一覧。いちいち「放送」に切り換えなくても、「オート」のままでも音声がAACの場合には自動判別される

 このほか、コンテンツモードを「放送」とすることでも同様の映像処理になる。BDレコーダの設定によっては、音声出力がPCMに変換されてしまうこともあり、HDMI経由からの入力でうまく動作しない場合は、多少面倒だがこれを使うといいだろう。

 筆者の自宅でも、オンエアを直接視聴するほか、BDレコーダで録画したテレビ放送を、55X910が持つ「メディアプレーヤー」機能を使ってネットワーク経由で視聴している。

「メディアプレーヤー」機能で、ネットワーク接続されたBDレコーダやNASのリストを表示したところ。常用しているBDレコーダが表示されている
ネットワーク経由でBDレコーダ内の録画済みリストを探し、番組の再生が可能。映像処理も放送コンテンツと同様の処理が行なわれる

 解説はここまでとして、実際の映像を見てみよう。まずは超高域成分のノイズ感が目立ちやすい、ドキュメント番組を見てみた。空撮を多用して美しい山並みを映したものだ。かなりの遠くまで見晴らしのいい映像が、今まで以上にすっきりと見えるようになったことに気付いた。山の輪郭や稜線、山に映えている樹木の葉が茂った様子など、今までならばチラチラとしたノイズの動きが抑えられ、ざわつきのない見やすい映像になっている。不自然なチラつきがないのでより自然な印象になる。

 たまたま放送していたゴルフの試合を撮影した番組では、ティーグラウンドからコースの全景を映した場面で、思った以上に奥行きが増していると感じたことだ。コースの両側の立ち並ぶ針葉樹が手前は鮮明で、奥にゆくほど少しずつぼやけていくが、その様子が実にきめ細かく描き出されていた。

ネットワーク経由で再生したテレビ番組の映像信号の詳細。DLNAでは映像のデータがそのまま送られてくるので、映像や音声の情報は放送そのままだ

 今回の画質アップデートは、放送局側での画作りや制作段階で生じる補正とテレビ側での画質補正が重畳して過剰な補正になってしまうのを抑えるものなので、情報量や精細感を高める方向ではない。だが、ノイズのチラつきが減り、映像のS/Nが高まったことで本来の映像の奥行きがきちんと再現できるようになった。結果として映像の奥行きが向上したような印象になる。

 有機ELテレビに限らないが、優れた実力を持つ薄型テレビでは、フォーカスの合った被写体を精細に描くだけでなく、焦点を外れてぼやけ気味になった部分もしっかりと情報を表現できるので、レンズのぼけ味も再現できるし、奥行き感も表現できる。もともと55X910はBDやUHD BDでは奥行きの豊かな映像を再現できていたが、こういう奥行きのある表現が地デジ放送でも楽しめたのは驚きだった。

 このほか、ドラマでは、映像全体にきめが細かくなったような質感の向上を感じた。情報量自体が増えたわけではないが、背景の映像の不自然なチラつきが減ったこともあり、登場人物のフォーカス感が際立つようになった。また、基本的にはHD解像度の情報量を持つ映像信号を4倍の解像度で丁寧に描き直したことで、デジタル的な精細さとはひと味違う、質の高いアナログ映像に似た柔らかい感触の映像になったことも好感が持てた。

 オーディオ再生でのハイレゾ音源も、人間の可聴帯域を超えるような超高域情報まで再現するのだが、より高域が強調されたシャカシャカした音になるどころか、高域の伸びがスムーズで感触としては柔らかになっていく。この「シャカシャカ」が高域のノイズ成分であるとか、デジタル特有の音の硬さの要因で、ハイレゾ音源になるとこうした不自然さがなくなっていき、本来の音が再現されるようになる。これと同じようなことが映像においても起きているわけだ。

UHD BDのHDR映像で、より忠実度の高い色再現を実現

 もうひとつの画質アップデートが、4K Ultra HDブルーレイ(UHD BD)などで採用される4K HDR映像での色再現の改善だ。対象となるのは、HDR規格で制作されたコンテンツで、HDRのレンジ変換特性が「ST2084」となっているもの。UHD BDや動画配信サービスでのHDR方式(HDR10)のコンテンツが対象になると考えていいだろう。

 つまり、同じHDRでもレンジ変換特性が異なる「HLG方式」(スカパー! 4Kが採用。SDRコンテンツと互換性があるので、4K/8K放送など放送系コンテンツで採用される方式)については、今回のアップデートの対象とはならず、HLG方式のHDR映像では画質向上などの効果はない。HLG方式が一挙に増える'18年12月の4K/8K放送の開始以降、こちらについても何らかの画質アップデートがあるのではないかと期待している。

 東芝の薄型テレビの画作りはオリジナル映像に限りなく忠実であることが最大のテーマで、X910シリーズの映像設計はさらにそれを推し進め、映像制作の現場で確認用として使われるマスターモニターの画質を目標としている。もちろん、マスターモニターと家庭用のテレビは画作りの方向性がそもそも異なるところもあるし、価格にしてヒト桁違う価格のマスタモニターそのままの画質というわけにはいかないだろう。特にHDRにおける高輝度情報の再現や色情報の再現は、使用するパネルの特性による違いもあるし、仮に同じ処理をしても同じ結果は得られない。同じ(あるいは限りなく同じに近い)結果が得られるように異なった処理をすることが必要だ。

 そういったわけで、マスターモニター画質を目指しながらも、アプローチの仕方は異なり、結果としてマスターモニターの再現とは方向性が異なってしまう部分も生じる。

 今回はそのひとつである色再現の改善が行なわれた。具体的にはマゼンタからシアンの色の再現でやや赤みが強まる傾向だったので、赤みを抑え、より忠実な色再現ができるようになったという。

 画質アップデートの開発時に確認したというコンテンツのひとつ「ラ・ラ・ランド」で映像を確認してみた。終盤近くで、ヒロインはかつての恋人が経営しているジャズクラブに足を踏み入れるが、入り口付近での青いネオンライトが、店内に入るとマゼンタのネオンライトに切り替わる。そのときのそれぞれの色の変化や色の移り変わりが、かなりイメージが変わっていた。

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 第一印象としては、色の派手さが抑えられ、やや落ち着いた色になったと感じる。ブルーやマゼンタも華やかな色はしっかりと出ているが、派手すぎない。そして、そんなライトを浴びたヒロインの表情の肌の色がよりスムーズになる。大げさに言うとペンキを浴びたような真っ青な感じから、陰になる部分を中心に青みを増した感じにお化粧をした感じという変化で、つまり青い光を浴びた肌の感触がよく出るようになった。青色も濃紺や紫に近い色は赤の成分が含まれるので、青色の再現自体もよりすっきりとしたものになるのだろう。

 そしてマゼンタの照明を浴びる場面でも、ど派手なピンクというよりも肌の血色が良くなったような質の良いピンク色の光が当たった感じになる。もちろん、肌の感触や陰影もよりよくわかる。

 また、パーティで出会ったふたりが、遠くに街の景色が広がる路上でタップダンスを披露する場面の夕景のシーンを見たが、遠くの山並みはまだオレンジ色に照らされていて、カーテンが降りるように青い夜空へと変わっていく、美しい映像だ。

 もともと「ラ・ラ・ランド」は、ハリウッド映画の黄金時代がストーリーの中心ということもあって、当時の映画のようなやや派手めの色彩で撮影されており、色の変化や濃淡はかなり濃い口だ。

 そんな青からオレンジ色への色の推移が、実にスムーズなものになった。赤みが抑えられたというよりも、色の階調がきめ細かくなって、より自然な夕景に近づいた印象だ。ダンスを踊るふたりの肌の色も、より自然な色合いになっている。これについては、青からマゼンタの赤みを抑えることで、色の階調がスムーズになり、結果としてよりきめ細かな色が再現できるようになったものと思われる。

 このほか、日本各地の美しい夜景を収録した「4K夜景」も映像設計の開発陣がチェックしたもの。ここでの「神戸」のチャプターでは、港の景色が夕景から夜景に変わっていく様子を見たが、オレンジ色の夕景が実になまなましく、それが青へと推移していく様子も実にきめ細かい。

 こちらも一見すると、落ち着いた色になった印象だが、見慣れてくるとむしろ色の数は増えているようにも思う。すっかり夜となった景色では、街の灯りが暖色系の白熱灯だったり、寒色系のLEDだったりする微妙な白の色の変化まで際立ったと感じる。見慣れた日本の景色でもあり、筆者も訪れたことのある神戸の夜景は、派手さや華やかさではなく、実際の色がリアルに再現されているのだとよくわかる。

 ちょっと面白かったのは、実写に比べると色がくっきりとしていて、色数は決して豊富とは言えないアニメでも、よく違いが出ていたこと。アニメのHDR映像は決して多くはなく、Netflixで配信されている「BLAME!」や、UHD BDで発売されている「機動戦士ガンダムサンダーボルト ディセンバー・スカイ」(今夏劇場公開された続編もUHD BDで発売予定)などがあるが、特に「BLAME!」ではマゼンタ系の色で描かれる光線が色の過剰さが抑えられたせいか、より鋭く輝いている感じになるし、暗いシーンでの色の再現がよりリアルな感触になっていた。アニメは基本的に派手な色彩で制作されることが多いが、表示するテレビ側が派手な色作りだと余計に過剰な色になりやすい。筆者も色の濃さ自体はアニメではやや盛り気味にしているので、このあたりには好みの差もあるが、カラーバランスが自然なものとなることで過剰さが抑えられ、リアルな感触を目指した作品ほど相性はよくなると思う。

 X910シリーズの画質は、2度の画質アップデートを経て、さらに熟成度が増し、忠実感に優れた映像となった。こうした画質アップデートが行なわれるだけでもユーザーとしてはありがたいし、安心して長く愛用できる。決してお手頃な価格の商品ではなかったのだが、筆者も、良い買い物だったと改めて感じている。こだわる人はもちろん、地デジの“アナログ感”など多くの人が楽しめる高画質が実現されている。

スカパー! 4KのHDRコンテンツで、HLG方式の画質アップデートも確認

【追記】HLGの画質インプレッションを追加(12月11日)

 12月11日、「X910」、「Z810X」シリーズの放送アップデートが実施された(ネットワーク接続によるサーバーダウンロードは12月12日17:00~の実施)。さっそく、自宅の55X910もアップデートを行ない、チェックできていなかったHLG(ハイブリッド・ログ・ガンマ)方式のHDRコンテンツの画質アップデートを確認してみたので、記事を追加した。

 HLGは「スカパー! 4K」で採用されているほか、来年12月に開始予定の4K/8K放送でも採用される予定のHDR方式。従来の映像(SDRコンテンツ)との互換性を保つことが容易なことが特徴。すでに登場している4K HDRの動画撮影が可能なデジタル一眼カメラやビデオカメラでも採用されているなど、今後はコンテンツが増えていくことが期待できる。

 HDR番組の「通学路 #3」を見てみたが、まず感じたのは今までよりも落ち着いた感じの映像になっていたこと。タイトル通り著名人が自分が通った母校を訪ね、校内や通学で通った道をたどる内容だが、京都市の自分の知らない街だというのに、自分が通った通学路や校舎の感じに近いと感じた。これはきっと、校舎内に差し込む光の感じが自分の記憶とよく似ていたためだと思う。その学校を卒業したあと、自分が大人になってからその学校や校舎を見ると、妙に狭く感じたり、懐かしいような、当時とは違う違和感などを感じるが、そんな不思議な感覚さえある。

 校舎内で思い出を語る場面は、窓からの光で逆光気味の撮影となるが、窓の外の明るい景色と対照的にやや薄暗い室内の感じがリアルだ。逆光気味の人物は見づらく潰れることもなく、肌のトーンまで丁寧に再現されている。肌の色や陰が落ちた部分のトーンは実にリアルで、中間色の再現がさらにきめ細かくなっているとわかった。

 通学路の道の景色も実にリアルで、光のトーンが柔らかい。明るい空の階調はもちろん、陰になっている建物の陰影も実にスムーズで、まさしく自分の目で見ているよう。これまでの視聴でも、こうしたリアルさは感じていたが、アップデート後はさらに生々しい感触が増えたと思う。

 続いて、比較的よく見ている「HDR都市紀行」を見た。ニューヨークと長崎の街並みや夜景などを映した番組で、映画以外のHDRコンテンツをじっくり見る機会も少なかった購入当時は、その映像の鮮やかさと光のリアルさに驚いたものだ。

 しかし、今回見てみると、全体に滑らかで優しいトーンになっていると感じた。HDRのギラりと光るようなトーンはしっかりと出ているのだが、かつて感じた強烈な光という印象はやや少ない。これは、その後HDRコンテンツを数多く見て、目が慣れてしまったところもあるだろうが、明るさ方向の階調性がより滑らかになっているようにも感じた。

 だから、ニューヨークの夜景では、街灯やビルの窓の灯り、スタジアムの照明といったさまざまな光が、それぞれに異なる強さの明るさになっていることがはっきりとわかる。白熱灯やLEDといった色味の違いもはっきりとわかる。それ以上に驚くのは、暗く沈んだビル街の見通しの良さ。薄暗いながらもビルの形がしっかりとわかるし、路地の様子まで見えるようだ。

 明暗の階調表現も調整されているようにも感じるが、どちらかというと再現される色の数がより増えた印象だ。明るい鮮やかな色はもちろん、くすんだ色や暗い色がより丁寧に描かれている。このため、コントラスト感がスムーズになり、よりリアルで肉眼視に近い映像になっていると感じた。

 長崎の景色では、ネオンの派手なピンク色が輝きつつも、階調がスムーズで強烈な派手さは抑えられている。まさしく、自分が眺める夜の街の景色のようだ。街の灯りで夜空がぼんやりと明るくなっている様子もよくわかる。昼の海の風景を見ていると、海の浅さや深さによって海の色が変わっていることが今まで以上によくわかる。シアン系の色がよりすっきりとし、細かな色の違いがはっきりと出ている。これは大きな違いだった。また、昼の街並みでは、明るい日差しのもとの鮮やかな色だけでなく、時を重ねた建物の古びた感じやくすんだ色がしっかりと出て、実に生々しい雰囲気になる。

 これらの印象をまとめると、基本的にはすでに紹介したHDR(HDR10方式)のチューニングと同様に、HDRによる色再現の調整が中心となっていることがわかる。主に赤が濃くでる傾向を微調整した結果、ブルーからイエロー付近の色がより自然になり、結果として色数も増えた印象になり、より落ち着いた感触に仕上がっている。

 「スカパー! 4K」は、映画などのコンテンツもあるが、ドキュメントタッチの番組が多い。今後スタートする4K/8K放送も現在のテレビ放送に近い番組が中心になると考えると、こうした生々しい表現ができたことはユーザーとしてはうれしい。実際で見た景色に近いリアリティーを感じる映像は、映画とはひと味違った面白さがある。放送系コンテンツでは、ドキュメントだけでなく、スポーツ中継も魅力あるコンテンツだが、これらもより生々しい映像が見られるようになると思うと、2020年の東京五輪がますます楽しみになってくる。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。