レビュー

ELACから注目のDACアンプ内蔵スピーカー。50kHzカバーのJET搭載「AM200」を聴く

 ドイツのELACから、ハイレゾ対応のアクティブモニタースピーカー「AM200」が登場した。ELACでは数少ないアンプ内蔵というだけでなく、DACを備え光/同軸デジタル入力にも対応するため、デスクトップオーディオを含む幅広い使い方ができるのが特徴だ。国内ではユキムが1月より発売し、価格はペアで20万円。

ELAC AM200

 “モニタースピーカー”と位置付けられてはいるが、実際に使ってみたところ、プロだけが使うというのはもったいないほど、音楽リスニング用としても魅力があったので、その詳細を見ていこう。

久々のJETツイータ搭載小型スピーカー

 ELACといえば、かつてTADやKEFでスピーカー開発を手がけたエンジニアのアンドリュー・ジョーンズ氏が手掛けたDebut LINEの製品が近年のモデルでは多く、筆者も印象に残っている。一方、今回のAM200はELAC独自のJET5ツイータを擁した久々の小型スピーカー(フロア型では90周年モデルCONCENTRO/860万円が同軸ユニットVX-JETを採用)で、しかもDACとアンプを内蔵していることもあって、注目している人も多いことだろう。

 ユニットは、150mmアルミハイブリッドコーンウーファとJET5ツイータが各1基の2ウェイ。JETツイータについて改めて説明すると、ELACがリボン型ツイータやハイルドライバーの技術を元に改良を重ねたオリジナルのユニットで、ハイスピードや低歪み、周波数レスポンスの高さなどが特徴。ELACのスピーカーを象徴する技術の一つといえる。

 最新のJET5は、JETIIIの5ギャップから4ギャップの形状に変更し、放射特性を改善。振動板の素材はカプトンで変更はないが、アルミ電極パターンをより細くすることで表面積を20%増加させレスポンスと能率を向上させた。磁気回路も強力なネオジウムマグネットに変更しているといった違いがある。

特徴的なJET5ツイータを搭載

 アンプはAB級のアナログアンプ。各スピーカーにTI製のDAC「LM4780TA」モジュールを搭載し、ツイータとウーファはそれぞれ専用アンプでマルチドライブする。XLRバランスとRCAアンバランスのアナログ入力のほか、光/同軸のデジタル入力も搭載し192kHz/24bitまでのハイレゾ信号に対応している。なお、USB入力には対応しない。

XLR/RCAアナログに加え、光/同軸デジタル入力も装備

 DACチップはシーラス・ロジック製「CS4392」で、レシーバは「CS8416」を使用。エンクロージャには、木の繊維を粉末状にしたものを圧縮して固めたHDF材を使用。HDFはMDFに比べて高密度で伸縮率も低いのが特徴。外観は、サテンブラックとホワイトのバイカラー仕上げ。

サテンブラックとホワイトを組み合わせている

 さっそく、自宅にある防音仕様の試聴室に置いてみた。手に持つと7.5kgの本体はズッシリ重いが、アンプも入っていると考えるとむしろ軽量かもしれない。

 ウーファはフロントバッフルと同色で、溶け込んで見える一方、JET5のツイータはデザイン的にも存在感がある。サイドパネルはホワイトで、エンクロージャのシルエットを際立たせている。

 まずは机に置いてみる。外形寸法は198×280×292mm(幅×奥行き×高さ/ヒートシンク含む)で、幅1mのデスクには大きめな印象。できれば机の後方にスタンドを使って設置するのがベストだろうが、机の幅が広ければ直置きでもよさそうだ。なお、底部用にゴムスペーサー(計8個)が付属している。

机の上に置いたところ

 背面には、モニタースピーカーならではの入力端子やノブが充実。プロ用途だけでなく、オーディオユーザーにも気軽に使って欲しいという意図があるのだろう。前述の光デジタル/同軸デジタル端子に加え、アナログ入力はXLR/TRSのコンボジャックがオーディオインターフェイスからのモニターアウトを、RCAは民生オーディオからの入力を接続できる。

背面
ヒートシンクも備えている

 電源スイッチの他に、ノブが2つある。1つはアナログ入力向けのゲイン(3段階)。2つめは、リスニング環境によって最適な音響特性が得られるようにフィルタリングを行なうノブだ。なお、電源はインレット端子で、よりハイグレードなオーディオ向け電源ケーブルも使用可能だ。

ゲインやフィルタのノブ
電源端子部

PC接続で聴いてみる。デジタル入力には注意点も

 まずはデジタル入力で、PCの音源を再生。AM200はUSB入力を持っていないため、音を出すためにNuPrimeのUSB DAC「uDSD」をDDコンバータとして使い、同軸デジタルケーブルで右スピーカーに接続した。

PCからuDSDを介して接続

 左スピーカーには右スピーカーから同軸デジタルで信号を送るのだが、まずは出力端子近くのスイッチに気を付けたい。スイッチは「LEFT」と「RIGHT」の切替えができるようだが、送りたいのは相手方のチャンネルだと思って「LEFT」を選んだら音がモノラルになってしまった。このスイッチは出力端子の信号ではなく、単にLRどちらの音を担当しているかを選ぶものだった。信号の送り元は右スピーカーだったので、「RIGHT」を選ぶとちゃんとステレオで聴くことができた。英語が苦手な人に向けて、日本語の説明書があると嬉しいところだ。

右スピーカー(送り側)
左スピーカー(受け側)

 フィルタリングの切替えつまみは、NF/COが筆者環境ではベストマッチだった。フィルタリングは全部で5種類。スタンド置きはLIN(リニア)。試聴位置1m未満のNF(ニアフィールド)、 2m程度のMF(ミドルフィールド)。また特殊な環境としてMF/OW(ミドルフィールド/オンウォール:壁際の棚などに設置)、NF/CO(ニアフィールド/コンソール:スタジオコンソールなどに設置)がある。スイッチの変更によって、主に中低域の量感が変わって聴こえた。筆者の環境では、机のすぐそばで聴くためNF/COが最も低域がクリアで聴き心地も良くなった。リアバスレフであり、口径の大きいパワフルなウーファを搭載しているが、このフィルタリング切替えをうまく利用することで、設置場所を限定せず使えるようになっている。

 PCの再生ソフト「HQPlayer」でUSB DACのASIOドライバを選んでネイティブ出力したため、プレーヤーのボリュームは基本的に操作できない。最初はかなりの爆音が出た。AM200のゲインはアナログ入力専用で切り替えても効果は無い。慌ててPCの音量を下げた。これはWindows側のボリュームを変えたわけだが、ここは元の音質を保持するためにはできれば触りたくない部分だ。

PCで再生

 また、曲が変わってサンプリング周波数も変わると、やや大きめの「ブチッ」というノイズが聴こえた。再生ソフトを変えても同じだった。音の印象は後述のアナログ接続に比べて、高域が少し鋭敏になったが特別な癖は無く、普通に楽しめたが、やはりデジタル入力時もスピーカー自体の主音量が可変できるとよかったと思う。アナログソース向けのゲインがあればモニター用途ではほぼ困らないだろうが、あったほうが便利だ。

 以上のような事情もあり、音質チェックのメインはアナログ接続で行なった。手持ちのハイレゾポータブルオーディオプレーヤーからステレオミニからRCAの変換ケーブルで接続。DAPはナチュラルなサウンドのCOWON「PLENUE M」。ケーブルはPC-Triple C単線導体の特注品を使用した。

 プレーヤーのPLENUE Mは、ボリュームを最大にすると2Vrmsまでの出力が得られる。スピーカーのゲインは3種類のうち、真ん中の+4dBuが最適だった。DAPのボリュームは最大まで上げなくても適切な音量が得られる。DAPのボリュームを操作することで急激に爆音が出たり、とたんに小音量になることもない。ゲイン設定さえ適切に行なえば実用上困らないのがありがたい。アクティブスピーカーは、製品によっては入力レベルに対しての出力特性がリニアにならないものもあったりするので、AM200はモニター機として適切と言える。

PLENUE Mから再生

 ただ、最初に何も音を出していない状態ではヒスノイズが気になった。入力するケーブルを全部抜いてみたが変化なく、ゲイン設定も特に影響していない。アクティブスピーカーはどれも一定のヒスノイズはあるので故障ではないが、穏やかな劇伴やドラマCDなどを聴くのには惜しいと感じた。十分な音量を出せばまったく気にならないレベルではある。

 ハイレゾ音源をいくつか聴いた。H ZETTRIOの「光のヒンメリ、輝く街」(96kHz/24bit)は、生楽器の豊潤な低域が余裕のドライブ力で浪々と鳴っている。筆者がプロデュースする音楽ユニットBeagle Kickの「EVERYTIME」(192kHz/24bit)は、サックスを吹く瞬間のブレス、音の立ち上がりが生々しく録音当時を思い出した。打ち込みトラックも含めて非常によく見える音なのだが、分離は良くても音楽としてバラバラではなく、調和は取れている。

 机へ直に置いた状態では解像度や音場の透明感が物足りなく感じ、手持ちのヒッコリー材のオーディオボードを敷いてみた。すると、中低域がクリアになるだけでなく、音像すべてが解像感を増してハッキリと聴こえるようになった。振動対策で確実に化けるスピーカーだ。

デジタル接続もボード有りで試いた

“モニタリング”だけでなく、楽しく聴かせてくれる

 トリオの演奏とストリングスのコラボレーションは、JET5ツイータの効果か、とてもクリアで迫真の演奏。音色や周波数バランスに癖が少なく、モニターサウンドとしての基準を満たしつつも、音楽の味わいも魅せてくれる。スクウェア・エニックスの「サガオケ! 」から、「時代の幕開け」(96kHz/24bit)を聴くと、ホールの天井だけでなく、周りの壁まで見えるような空間描写に驚いた。ストリングスも実に繊細で人間が演奏している躍動を確かに伝えてくれる。「閃の軌跡III O.S.T」から「嘆きのリフレイン」(96kHz/24bit)は、女性ボーカルの実在感が抜群だ。激しいビートが刻まれる熱いロックサウンドながら、ボーカルがオケに埋もれない。分離性能の高さや音場の透明度が優れている証だ。現代的な音作りのポップスでも相性がよいと感じた。

 次はDAWから出力し、音声素材を鳴らしてみた。筆者は音響エンジニアでもあり、部屋の吸音特性を変えて録った実験的なボイスサンプル(192kHz/24bit)をチェックしてみた。音声だけで厳密にチェックすると、やや中域が盛り気味だと感じたが、それはモニターとして支障があるレベルではない。ともかく解像度が優れているので、そちらが魅力的だ。吸音特性の違いは如実に分かった。自分が録音していたので、現場の空気感は覚えている。響きの長さだけでなく、部屋の広さまで見えてきそうなリアリティだ。モニターとして十二分に使える音の良さといえる。

 モニタースピーカーには、「地味」とか「味気ない」といったイメージがどうしても付いて回り、それは筆者も否定しない。好みでいえば、「その地味さがいい」という意見もあると思うが、オーディオファンは音楽を楽しみたいのであって音をチェックしたいわけではないだろう。

 AM200は音楽を聴いていて楽しかった。中域がしっかり出ているというのもあるが、何より本当に優れたバランス・音響特性で鳴っているモニタースピーカーは、音楽を聴いても楽しいもの。作り手の込めた原音(音源)をそのまま受け取れることは魅力的だ。

 ペア20万円と決して安価ではないが、それに見合った実用性と高いサウンドクオリティを持つAM200は、シンプルなシステムを組むにはもってこいだ。PCを中心としたヘッドフォンで聴くのがメインの人や、普段はポータブルプレーヤーだけのスタイルだが家ではグレードの高い音で楽しみたい人も、ぜひ選択肢に入れて欲しい。

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ELAC AM200

橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト