レビュー

快適なネットワークオーディオのための正統派プレーヤー、LINNとLUMINの良さとは

 手持ちの大量の音源を1カ所にまとめ、スマホなどを操作して便利に楽しめるのがネットワークオーディオの良さ。しかし、「始めてみたいが設定など準備は面倒そうだ」、「使ったことはあるが、思い通りにいかず結局やめてしまった」という人もいるかもしれない。そんな人にも紹介したいのが「LINN」と「LUMIN」のプレーヤーだ。

LINN「MAJIK DSM」(右)、LUMIN「D2」(左)

 ネットワーク再生ができる製品ということであれば、パソコンや小型コンポ、AVアンプ、メディアプレーヤーなど機能も価格帯も幅広く存在する。しかし、“快適に音楽を聴く”ことをトータルで考えると、現状で一歩抜きん出ているのがLINNやLUMINの製品。具体的にどの部分が快適なのか、実際の製品を使いながら説明したい。

ネットワークオーディオを切り開いてきたLINN

 PCの周辺機器的な「便利アイテム」としてではなく、本格的なオーディオに用いる機器として初めて登場した「ネットワークオーディオプレーヤー」は、LINNの「KLIMAX DS」(2007年)だと言っていいだろう。

 ネットワークオーディオの規格として知られる「DLNA(団体は'17年に解散)」に対応したプレーヤーや、「Squeezebox」を利用する製品は当時も存在していたが、「ネットワークオーディオ」という領域を生み出した製品はやはりLINNのKLIMAX DSをおいて他にない。

 LINNはKLIMAX DSに続けてハイエンドラインの「AKURATE DS」、ミドルラインの「MAJIK DS」、エントリークラスの「SNEAKY DS」や「SEKRIT DS-I」を投入し、DSシリーズのラインナップを拡充。iPhoneやiPadといったデバイスを積極的に活用することで、音質はもちろんのこと、「快適に音楽を聴く」という点においても未踏の領域を切り開いていった。

 とはいえ、DSシリーズはエントリークラスの製品でもそれなりの価格がしたことは確か。また、LINN以外のオーディオメーカーから手に取りやすい価格帯の製品が一向に登場しなかったこともあり、「ネットワークオーディオは凄そうだけど、自分にはとても手が出ない……」と当時思っていたオーディオファンも多かったのではなかろうか。かくいう筆者も、そのひとりである。

 今回は、「ネットワークオーディオのいま」を知ってもらうべく、ネットワークオーディオならではの様々なメリットをもたらす優れたプレーヤーとして、LINNのDSシリーズ製品「MAJIK DSM」と、LUMINのプレーヤー「D2」の使い方を紹介していく。

LINN「MAJIK DSM」
LUMIN「D2」

 LINN DSは今なお進化し続ける元祖ネットワークオーディオプレーヤーであり、一方のLUMINはオーディオメーカーとしては新興のブランドながら、製品の完成度ではまったくひけをとらない。両社製品の使用レポートを通じて、ネットワークオーディオプレーヤーの進化を知ってもらえれば幸いだ。

世代が変わっても快適に使い続けられるLINN DS

 今回使用したモデルはMAJIK DSM。「DSM」はプレーヤーとしての機能に加えてプリアンプの機能も備えたモデルで、MAJIK DSMはアンプまで搭載する「ネットワークオーディオプレーヤー機能搭載アンプ」となる。

MAJIK DSM

 なお、アンプを搭載しない純粋なプレーヤーとして、MAJIK DSも用意されている。DSシリーズの基本的なネットワークオーディオプレーヤーとしての機能は、製品の世代と価格帯を問わず共通している。一方、新しいDACアーキテクチャを搭載する最新世代のKLIMAX DSとAKURATE DSのみ、DSDの再生が可能という違いもある。

MAJIK DSMの背面。スピーカー出力端子なども備える

 重要なのは、「プレーヤーの製品世代や価格帯が変わっても、音楽再生機器として共通のユーザビリティが提供される」ということ。しかし、これを実現している製品/メーカーは必ずしも多くない。その意味でも、初代KLIMAXから現在に至るまで、すべてのDSラインナップでアップデートを続け、共通のユーザビリティを提供してきたのがLINNだ。

 それでは、MAJIK DSMを筆者のシステムに繋ぎ、実際に使ってみる。なお、楽曲を収めるサーバーには、筆者のオーディオ用PCを使い、コントロール端末としてiPhone 8とiPad Pro 12.9インチを使っている。掲載するアプリの画像は基本的にiPad版だ。

 既にネットワーク環境を構築しており、ライブラリができ上がっている状況であれば、MAJIK DSMはネットワークに接続しただけで問題なく機能する。純粋なネットワークオーディオプレーヤーとして使えるのはもちろんだが、本機であればアンプも含めた一体型システムとして使われることが多いだろう。

 LINNは実際の音楽再生に使うコントロールアプリとして「Kazoo」を用意している。DSシリーズには素敵なデザインのリモコンも用意されているが、ネットワークオーディオプレーヤーとしては、あくまでもKazooを使うのが基本となる。Kazooの初期画面では、中央の数字が使用しているMAJIK DSMを表す。

Kazooの初期画面。画面中央の数字は使用しているMAJIK DSMを表す
リモコンも付属するが、ネットワーク再生には基本的にアプリを使う

 画面上部をタップして使用するプレーヤーを選択。ちなみにKazooはOpenHome対応のコントロールアプリなので、LINN DS以外にも対応するプレーヤーを操作可能だ。OpenHomeの詳細については、現状をまとめた記事を書いたので、参考にしていただきたい。

操作するプレーヤーを選択

 画面左上のアイコンをタップすると、使用するサーバーまたは各入力の切り替え画面になる。SpotifyやTunIn、TIDAL(国内ではサービス未提供)などのインターネットストリーミング配信サービスもこの画面から選択する。

サーバーや、入力の切り替え画面。音楽配信サービスも

 MAJIK DSMはアナログとデジタル双方で複数の入力を持っているが、その切り替えはKazooから行なえる。

 なお、ここで表示させるサーバーは画面右下の設定アイコンから選択することが可能。ネットワークにぶら下がった使わないサーバーで画面が混沌となることを防ぐ便利な機能である。

アナログやデジタルの入力切り替え
サーバー選択

 それでは、サーバーを選択してネットワーク再生を行なう。

 サーバーソフトのナビゲーションツリーに沿って選曲し、聴きたい曲を「プレイリスト」に登録して再生するというのが基本的な流れ。

「ミュージック」から、「アルバム」、「アーティスト」など絞り込みの項目を選択
アルバム選択
アルバム内の曲選択

 プレイリストは画面右上のアイコンから表示でき、曲順の変更やクリア・保存が行なえる。曲をプレイリストに登録する方法は、複数の選択肢が用意されている。

プレイリスト
プレイリストの曲順変更などが行なえる
プレイリストに楽曲を登録

 再生中の音源の情報は画面下に表示され、再生・停止・スキップ・音量調整のほか、タップすることで拡大もできる。

再生中の曲情報

 続いて、音楽ストリーミングサービスのTIDALを使ってみる。LINN DSはKazoo上でTIDALの音源をそのままブラウズ・選曲・再生することが可能。TIDALは日本向けにサービス提供していないが、アカウントがあれば日本からでも利用できる。

 TIDALにログインすると、TIDALの音源が画面に表示されるので、サーバーの中を見ていくのと同じ感覚で音源のブラウズと再生が可能になる。この時、ローカルのサーバーの音源とTIDALの音源を区別する必要はなく、プレイリストに混在させて再生できる。

TIDAL使用中の画面
ローカルとTIDALの音源をプレイリストに混在させて表示可能

 そのほか、音楽管理ソフトウェア/ソリューションの「Roon」が5月4日にRoon 1.5へバージョンアップされ、新たにLINN DSシリーズにも対応した

 LINNは自社製サーバーソフト「Kazoo Server」をリリースしており、これをKazooと組み合わせることによって、より洗練されたブラウズ画面とクラシック音源の柔軟な検索が利用できる。

アルバム
アーティスト
ジャンル
クラシック

 MAJIK DSMを含め、DSシリーズの各種設定はPC用のソフト「Konfig」から行なう。入出力の詳細な設定からディスプレイの明度調節にいたるまで、非常に多くの項目が用意されている。

 LINN独自の音響最適化処理「Space Optimisation」と、それに必要なスピーカーの設定もKonfigから行なう。

Konfig画面
Space Optimisation
スピーカー設定

 LINN DSを各種設定も含めて使いこなすためにはDS本体とKazooのほかにKonfigと、Konfigを動かすためのPCが必要になる。とはいえ、Konfigを動かすためのPC自体はオーディオ用途と無関係なPCで問題なく、一度必要な設定をしてしまえば日々の音楽再生はPCレスで行なえる。

 音楽再生機器に求められる機能を万全に備えていること、Kazooでの各種操作に対するレスポンスが優れていること、そして動作が非常に安定していることで、LINN DSはネットワークオーディオならではの音楽体験を存分に楽しめる。

豊富な機能と音源に対応するLUMIN

 今回使用した製品はLUMIN D2。LUMINの製品ラインナップの中ではアンプ一体型のM1を除き最も廉価な製品となる。LUMINのプレーヤーもLINN DSと同様に、価格帯や製品世代によって音楽再生機器としての機能が変わることはない。自社製品の「プラットフォーム化」による共通のユーザビリティの実現は、優れたネットワークオーディオプレーヤー/ブランドの条件と言える。

LUMIN「D2」

 LUMIN D2は純粋なプレーヤーであり、音楽再生に関して、LINN DS以上に豊富な機能を持っている。最たるものは再生可能なフォーマットで、PCM 384kHz/32bit・DSD 5.6MHzにおよぶ。MQA音源のデコードにも対応する。

 LUMIN D2もMAJIK DSM同様、ネットワークに接続するだけで使用可能になる。

背面

 純正コントロールアプリ「LUMIN App」は、右下に大きく音源のブラウズ領域、左にプレイリスト、上部に再生中の音源の情報表示と各種操作ボタンというレイアウトになっている。

LUMIN App

 LUMIN Appはサーバーから送られてきた情報をただ表示するだけでなく、アプリ自身に画像を含めたライブラリの情報をキャッシュするため、非常に軽快な動作が実現されている。特にアルバムアートの表示の速さは他のアプリの追随を許さない。

 ブラウズ領域は全画面表示にでき、またピンチイン/アウトによってアルバムアートのサイズを柔軟に拡大縮小が可能。聴きたい曲を選んでプレイリストに登録し、再生するという流れはKazooと変わらない。

アルバムアートのサイズを拡大縮小できる
プレイリストに曲を登録、再生

 プレイリストへの登録は基本的にアルバム内の一曲単位で行なうが、長押しタップすることで、アルバム/一曲単位で柔軟な挙動が選択できる。

 音源の長押しタップで表示される、アーティストやジャンルなどの情報をタップすれば、その条件でライブラリ内の音源を絞り込んで表示することもできる。

長押しして、アルバム/曲単位でプレイリストに追加できる
アーティスト「Helge Lien Trio」をタップした場合

 プレイリストの管理編集も自由自在だ。画面左上の再生中音源のアルバムアートをタップすると全画面表示に切り替わる。この状態でさらに拡大縮小も可能となっている。

プレイリスト画面
再生中音源のアルバムアートをタップすると全画面表示に

 LUMINのプレーヤーの本体設定は別途PCを必要としたLINN DSとは異なり、アプリ上で完結する仕組みになっている。画面右上の歯車アイコンをタップすることで設定画面が表示。

 使用するプレーヤー/サーバーの選択だけでなく、アプリの挙動/デザインの変更など、設定できる項目は多岐にわたる。

歯車アイコンから設定画面を呼び出す
プレーヤーの選択
サーバーの選択

 LUMINのプレーヤーを選択していれば、「Option」から詳細な機器設定が行なえる。ここで特徴的なのは、音源のアップ/ダウンサンプリングを明示的に行なえること。対象となる音源と設定可能なサンプリング周波数に制限はあるものの、音の違いを楽しむうえで有効な機能と言える。

詳細な設定が可能

 LUMINのプレーヤーは複数の音楽ストリーミングサービスに対応している。そのなかのひとつとして、TIDALを実際に使ってみる。LUMIN Appでは、ブラウズ領域に用意されたTIDALのアイコンで即座にTIDALの音源を表示できる。

TIDALに対応

 LUMINのプレーヤーはMQAのデコードにも対応しているので、TIDAL Mastersで配信されているMQA音源を完全な形で聴ける。LUMIN AppはTIDALの音源をブラウズする際、TIDAL Mastersの音源に関してはMQAのアイコンが付き、ひと目で判別できるようになっている。

 MQA音源の再生中はアプリ・プレーヤー本体のディスプレイに「MQA Studio」と表示される。また、もちろんTIDALの音源とローカルの音源を混在させてプレイリストに登録し、再生できる。

TIDAL MastersのMQAも再生できる
TIDAL Masters音源にはMQAアイコンが表示
MQA再生中はMQA Studioと表示
本体にもMQA Studio表示

 また、LUMINのプレーヤーはRoon Readyでもある(Roon解説記事)ため、RoonでTIDAL Mastersの音源を再生し、D2をRoon Readyプレーヤーとして使った場合でも、MQAの完全な再生が可能となっている。

Roon Readyでもある

 以上で見てきたように、レスポンスの速さ・安定性も含めてLUMINのプレーヤーはLINN DSに引けを取らず、Roon ReadyであることやMQA対応など、機能的には上回る部分も多い。「LINN以外」のネットワークオーディオプレーヤーのブランドとして、素晴らしい完成度を誇っていると言える。

 なお、LINN DSとLUMINのプレーヤーはどちらもOpenHomeに対応している。そのおかげで、今までの画像にも表れていたように、KazooでLUMINのプレーヤーを操作することも、LUMIN AppでDSを操作することも可能となっている。ただし、それぞれの独自機能をアプリ上で使うためには、純正の組み合わせが必要になる。

 また、プレーヤーとアプリの純正組み合わせ以外はあくまでも「使える」というだけであり、メーカーサポートの対象外であることには注意したい。

プレーヤー+アプリの高い完成度。それぞれに個性も

 まだ紹介しきれていない数多くの機能はあるが、それぞれのプレーヤーの特徴から両社の違いを挙げるとすれば、音楽に対する強固なポリシーを持って我が道を行くLINN、様々な新機能/サービスを貪欲に追求するLUMIN、といったところだろうか。プレーヤーだけでなくアンプやスピーカーも手掛けて「音楽のある暮らし」をトータルに志向するLINNと、あくまでもオーディオファンに向けたプレーヤー作りに特化するLUMINの方向性が製品に現れている。

 筆者が初めて買ったネットワークオーディオプレーヤーはLINN DSであり、その次に買ったのはLUMINのプレーヤーだった。筆者がネットワークオーディオの大きな可能性を確信できたのは、この2つのブランドの製品に出会ったおかげだと言ってもいい。

 LINNもLUMINも、それぞれに特徴こそあれ、難点と呼べるほどのものはなく、どちらも豊かな音楽体験をもたらしてくれるネットワークオーディオプレーヤーだ。

 もちろん、LINNやLUMIN以外にも優れたネットワークオーディオプレーヤーのブランド/製品は数多くある。今回取り上げたのはどちらもUPnPベースの製品だが、Linuxベースの製品など、市場には様々なネットワークオーディオプレーヤーが存在する。

 最終的な操作感を決定付けるコントロールアプリの完成度を含め、ネットワークオーディオプレーヤーの導入にあたって製品を比較検討する際に一助となれば幸いだ。

逆木 一

オーディオ&ビジュアルライター。ネットワークオーディオに大きな可能性を見出し、そのノウハウをブログで発信していたことがきっかけでライター活動を始める。物書きとしてのモットーは「楽しい」「面白い」という体験や感情を伝えること。雪国ならではの静謐かつ気兼ねなく音が出せる環境で、オーディオとホームシアターの両方に邁進中。ブログ:「言の葉の穴」