レビュー

耳を塞がないイヤフォン「ambie」がワイヤレス化。日常に音楽がもっと近づいた

 耳を塞がない独特の装着方法で、音楽を“ながら聴き”できるイヤフォン「ambie」にBluetooth対応モデル「wireless earcuffs」が発売された。耳に挟む“イヤカフ型”で、今までの有線モデルよりも自由なスタイルで音楽を聴けるようになったので、生活のいろいろなシーンで試してみた。

ambie「wireless earcuffs」

 wireless earcuffsは、一般的なイヤフォンのように耳穴に挿し込むのではなく、耳の外側に挟んで装着する「sound earcuffs(サウンド イヤカフ)」の新製品。4月5日より発売され、価格は12,000円。

 普通のイヤフォンは、耳に着けていると周りの音を遮断して音楽に没頭できる一方、人に声を掛けられたり、周りで音が鳴った時には反応しづらくなる。ambieは、周りの音が聞こえる状態のまま、イヤフォンからの音も自分だけ聴けるようにしている。耳穴のすぐそばに自分専用の極小のスピーカーを置くようなイメージだ。

 ambieのコンセプトを簡単に説明すると、SpotifyやApple Musicなどストリーミング音楽配信サービスの浸透につれ、CDなどのアルバム単位で聴くより「どんなプレイリストをどんなシチュエーションで聴くか」が重視されるようになったことから、そんな時代にいち早くフォーカスし、“ながら聴き”に最適化した製品。詳細は以前の発表会記事でレポートしている

 カラーはAsphalt Black、My Heart White、Stamp Orange、Cactus Green、Pop Sky、Toypu Brownの6色。今回は“トイプードルの色”というToypu Brownを使用。'17年に発売した有線接続のsound earcuffs(5,500円)とも比べながら聴いた。

wireless earcuffsは、ネックバンドとイヤフォン部で構成
装着例

Bluetooth対応で変わったこと

 本体を上から見ると、ひらがなの「つ」に近い、勾玉のような形。耳穴すぐそばまで細い音導管が伸びており、そこから音を出すことで、周囲への音漏れを抑えつつ、装着している人にだけ聞こえるようにしている。

勾玉のような形状

 着け方はユニークながら、基本的な使い方はネックバンド型のBluetoothイヤフォンと同じ。首にバンドを掛けて、そこからケーブルにつながったイヤフォン部を左右の耳に装着する。ネックバンドは短めで、着るシャツによっては襟の部分に隠れるほど。あまり目立ちすぎないのはうれしいポイントで、軽いため長く着けていても邪魔に感じない。

柔らかいネックバンド
襟のサイズくらいの短かさ

 耳に挟むため、片手で着けるのは難しく、両手を使うのが確実。正しく着けられたか、最初は迷うかもしれないが、ズレていると再生音が聴こえないので、まずは音を流しながら、一番良く聴こえるポジションを探すといいだろう。慣れていけば、音を出さなくてもちょうどいい場所がつかめてくる。

耳に挟んで装着

 ネックバンドはシリコンのような柔らかい素材で、肌に直接触れてもサラッとして貼り付かないので不快にならず、Yシャツなど襟の外側に広げても違和感なく首周りにフィットする。

 有線モデルと比べて改善されているのが、音が出る先端部分(イヤーピース)の作り。有線モデルは、不意に力が加わったときなどの安全を考慮して先端が外れやすくなっている。安心感はあるが、毎回の着け外しの時にイヤーピースだけが取れたり、回転してしまう時があった。Bluetoothモデルはこの部分を接着し、「簡単には外れないが強い力が加わった際は外れる」ようにしたという。以前より着脱がかなり素早く行なえ、イヤーピースを無くす心配もなくなった。

左が新モデルwireless earcuffs、右が既存の有線モデルsound earcuffs。イヤフォン部の見た目はほぼ同じ
右が有線モデル。先端のイヤーピースが外れる

家の中でずっと着けていられる。ラジオにも最適

 手持ちのウォークマンNW-ZX300とBluetooth接続して聴いてみた。ペアリングはNFCで行なえ、ネックバンド右側にウォークマンの背面をタッチするとambieが起動、ペアリングを行なう。コーデックはSBC。

NFCですぐペアリング

 音の聴こえ方も独特で、イヤフォンのようにしっかり音は届くが、周囲の話し声や騒音も遮断しないので、それらが曲と混ざって耳に届く。この点が、“ながら聴き”イヤフォンの大きな特徴だ。ボーカル付きの曲だと、歌声を含む中域の部分が特にはっきり聴こえて、低音部分は少し弱まる傾向。密閉型ではないので、やはり低音もすべて余さず、というわけにはいかない。

 一方、Bluetooth対応になったことで、大きく2つの利点がある。1つは、Bluetoothなので当たり前だが、今まで以上に自由に動けるようになったこと。急に振り向いたり、とっさに手を動かしたりしてもケーブルに引っかかることはない。特に良かったのは、家の中で聴いている時は、プレーヤーやスマホを持ち歩かなくても使い続けられること。机で作業しているときに、ちょっと冷蔵庫へ飲み物を取りに行くなどの移動では、音は途切れず聴けた。

 もう1つは、ウォークマンでもリモコン操作が手元で行なえたこと。BluetoothのプロファイルはAVRCPもサポートし、ネックバンド右側の再生/一時停止ボタンだけでなく、左側にある音量+/-ボタンを長押しすると+は曲送り、-は曲の頭出しになり、-を連続で2回長押しすると前の曲を再生する。

 なお、従来の有線モデルにもケーブルにリモコンはついていたが、これはスマホ用のため、端子配列が独自であるウォークマンでは使えなかった。ウォークマン本体ボタンで操作してもいいのだが、ポケットやカバンに手を入れてウォークマンのボタンを探し、押す動作に比べると、ネックバンドだけで操作する方がかなり楽だ。

ネックバンドの右側。右側には再生/一時停止や通話応答、電源のボタン。NFCも
左側にボリュームボタン。長押しで曲送り/戻し

 ウォークマンに入れているのはハイレゾを含む音楽が多いが、過去にAMラジオを録音した音源や、ラジオCDからリッピングしたものも入っている。こうしたラジオ番組は、特にambieと相性が良い。

 前述したようにボーカルなど人の声の帯域はambieで最も良く聴こえるため、ラジオなどの話し言葉も同様に聴きやすく、ながら聴きでも内容がよく分かる。筆者は作業中に好きな曲を聴くと音楽に意識が行きすぎる場合もあるため、ラジオの何でもないトークや、知らない曲が流れるくらいの方が、作業するには一番はかどった。この製品のコンセプトに合ったコンテンツの一つだと思える。

 ラジオについては、NHKの番組をradikoでも実験的に配信する取り組みが4月12日から全国に拡大したほか、最近はPodcastも再び見直されていると聞く。ambieを「ラジオ用イヤフォン」とするのも、有効な使い道といえそうだ。

様々な“ながら”使用。実際の音漏れは?

 他にも、例えば料理しながらだと、フライパンからの音や、電子レンジが止まった時(メロディが鳴らないよう設定している)などもわかりやすい。スピーカーで大きな音を出せない深夜などにも気兼ねなく使えた。多くの密閉型イヤフォンのように音像の定位が頭の中心にあるのではなく、広めのステージで鳴っており、聴き疲れもしにくかった。

 通勤や移動など外出時にも使ってみた。静かな住宅街を歩いている分には問題なく音楽を聴けて、ラジオのトーク内容もわかるが、地下鉄の駅で電車が入ってくるなど轟音下では、さすがにambieから音がほとんど聴こえない。

 ambieを着けながら会社で記事を書くなどの作業もしてみた。周りの音を遮断しないので、話しかけられたりしてもすぐ応対できる。それに理解が得られるかは職場によって違うと思うが、少なくとも実用上は困らなかった。電話が掛かった時など、再生を止めたほうがいいケースもあるが、ネックバンドにボタンがあるので、とっさの一時停止も慌てずに済む。

 周りへの音漏れもどれくらいか気になるが、空調やパソコン、コピー機の動作音などが鳴っている社内で、ボリュームを最大(聴く本人も少しうるさく感じるほど)にしても、1mほど離れた隣席からは「音が鳴っているのは分かる」程度とのこと。隣から曲名が分かるほどではなさそうだ。

 電車などで座って聴くのは隣の人に気が引けるので控えたが、そもそも騒音が大きい地下鉄ではあまりボリュームを上げるのも耳に良くなさそうだ。細部までしっかり聴くというより、うっすら聴こえるBGMくらいのつもりで流すのがいいだろう。

普通のイヤフォンと音はどう違う?

 ambieは「原音に忠実な音を楽しむ」イヤフォンとは少し立ち位置が異なるが、実際のところ普通のイヤフォンとどう音が違うのかも、改めて触れておきたい。wireless earcuffsは、ソニーの高感度ドライバユニットを搭載し、長い音導管で耳穴の近くまで届けるという音響設計。これは有線モデルから変更せず引き継いだという。

内部構造

 ウォークマンで聴くと、ボーカルやトランペットなどの中域あたりの解像度は、耳を塞ぐ普通のイヤフォンにも近いレベルで伝わる一方、バスドラムなどの低音はやや軽めの音として聴こえる。かなりざっくり言うと普通のイヤフォンだと低音が「ドスドス」なら、ambieは「トストス」に近い。シンバルなどの高音も「ジャーン」が「シャーン」となる印象。

 ピアノをバックにした、ダイアナ・クラールや手嶌葵の静かなバラードなどを聴くと、ボーカルの息づかいなどもしっかり伝わり、細い管から鳴っているとは思えない、力強く輪郭のはっきりした音質。一方、編成の多いバンドサウンドだと、ボーカルや基本のメロディはしっかり分かるものの、前述した低音と高音の軽さが少し際立ち、元の音とは違う印象になる。ただ、普通のイヤフォンを耳から外した時のような、密度の薄い音ではなく、耳に刺さる不快な音でもないため、普通に聴き続けられる。fripSideなどのシンセサウンドのキラキラ感も損なわず、良い音で聴けた。

 有線のsound earcuffsでも改めて同じ曲を聴いてみると、傾向としてはほぼ同じだが、有線の方が少し高域部分が尖って聴こえ、ワイヤレスの方が温かみのある音質に感じる。音響構造が同じとはいえ、接続が有線とBluetoothで違うので、出る音も全く同じではないようだ。意図されたものかはわからないが、ワイヤレスの方が長く聴きやすかった。

比較した有線モデル

スマホと同時接続。充電しながらでも聴ける

 wireless earcuffsは、スマートフォンとウォークマン、またはスマホ2台など、2つの端末を同時にペアリングできるマルチポイント接続にも対応。購入時点ではシングルポイントだが、電源オフ時に、ネックバンドの音量+ボタンを押しながら電源ボタンを押すと、イヤフォン部からビープ音が2回鳴り、マルチポイントモードに移行する。

 筆者の場合はウォークマンとiPhone Xを同時にペアリング。ウォークマンで音楽再生中にiPhoneに着信があった時はネックバンドのボタンで応答し、終話すると自動でウォークマンの再生に戻った。

 イヤフォンを耳から外すと、左右を互いに噛ませるようにして1つにまとめることが可能。首にかけたままで、ケーブルが邪魔にならず持ち運べる。その場合もスマホへの着信に気付けるように、ネックバンド部にバイブレーション機能がある。

持ち運び時は左右が1つにまとまる

 音楽の連続再生時間は最大6時間で、通話は最大8.5時間。充電はネックバンド部のmicroUSB端子経由で行なう。

 充電しながらでも音は出せたので、その場合は充電のケーブルが邪魔にはなるものの、全く使えなくなるよりは良い。最近増えている完全ワイヤレスイヤフォンは、ケースに収めて充電するものがほとんどなので、一つの違いでもある。

モバイルバッテリでUSB充電しながらでも聴けた

自由なイヤフォンで日常にBGM

 しばらく使ってみて分かってくる良さは、意識的に曲をかけるというより、ラジオやBGMのように何となく聴こえてくる音として、身に着けるような感覚で音楽と付き合えること。店内BGMのように用意された曲ではなく、その時に良さそうだと思ったプレイリストや、ラジオ局などを選んで、適当に流しておく使い方がambieには合う。

 1つの曲、アルバムをじっくり味わう時に使いたいヘッドフォンというのも確かにあるが、そうした時間はあまり長くとれないのも正直なところ。そんな中でも、ずっと着けていられるambieがあると、ちょっとした時間でも音楽との接点が持てるようになる。

 新モデルのワイヤレス化によって、その自由さがさらに高まり、結果として音楽やラジオに触れる時間も増えた。いつもの生活にBGMがついて、ちょっと気分が上がるような、プラスの効果をくれるイヤフォンだと思う。

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wireless earcuffs

中林暁