レビュー

神サービス「Amazon Music HD」を、デノン&マランツの気になるHi-Fiコンポで聴く

個人的な話だが、「Amazon Music HD」にどっぷりだ。もともとAmazonプライム会員だったので、月額1,780円(税込)、つまりCDアルバム1枚買うより安い値段で、44.1kHz/16bitのCD音質サウンドが6,500万曲以上聴けてしまう。さらに最大192kHz/24bitのハイレゾも数百万曲。スマホでもPCでも聴けるとなれば、聴かないわけにはいかない。それまで使っていたSpotifyアプリはほとんど起動しなくなってしまった。

要するに、サービスに加入すると6,500万曲のCDを持ち歩いているような状態になる。「気になってはいたけど買ってなかったアルバム」や、「ヒット曲は知ってたけど、他にどんな曲を作っているのか知らなかったアーティスト」など、興味が広がるままにどんどん聴けて、新しい曲との出会いがある。しかも最低でもCD音質でフルで聴ける。いやぁイイ時代になったものだ。

ただ、欲望は尽きないもので、不満な点も出てきた。屋外ではスマホとペアリングしたBluetoothイヤフォン、室内ではPCに接続したUSB DAC+ヘッドフォンや、第1世代のEcho PlusでAmazon Music HDを楽しんでいるのだが、もっとこう、本格的なコンポ+スピーカーで聴きたくなってきた。いちいちPC使うの面倒くさいし、第1世代のEcho Plusは持っているが音がイマイチだし、そもそもAmazon Music HDには対応していない......と、フラストレーションが溜まってきたのだ。

Amazon Music HD

Amazon Music HDをHi-Fiコンポで聴きたい

Amazon Music HDの対応機種をチェックすると、パソコンとスマホ以外では、Amazonの端末としてAlexa対応のEcho端末(第2世代以降)、Fire TV、FireタブレットがCD音質の再生に対応している。

これはこれでイイのだが、小さなスマートスピーカーのEchoで再生しても、せっかくのCD音質が本格的に楽しめるかというとちょっと厳しい部分もある。それにどうせなら、192kHz/24bitのハイレゾデータも楽しみたい。

オーディオの試聴イベントなどでよく使われる楽曲も、Amazon Music HDで配信されている

AV機器で対応しているのは、Sonos、パイオニア、McIntosh、ゼンハイザーなどの一部製品。さらにディーアンドエムホールディングスのデノン/マランツ製品では、ネットワークプレーヤー機能のHEOSに対応した全機種がAmazon Music HDに対応しているそうだ。

スタートしたばかりのサービスなのに、全モデルで対応しているというのはユーザーにとってありがたいし、わかりやすい。ディーアンドエムのマーケティンググループでマランツブランドを担当している髙山健一氏は、「HEOSでは、できるだけ多くのサービスに対応しようと考えています。しかし、新しいサービスに対応するためには、それなりのリソースを割かなければなりません。ただリソースにも限りがありますので、どうしてもプライオリティは必要になります。今回のAmazon Music HDは非常にインパクトのあるサービスだと感じましたので、以前からAmazonさんの協力も得ながら、対応を進めて来ました」と語る。

マランツブランドを担当している髙山健一氏

国内営業本部 営業企画室でデノンブランドを担当する田中清崇氏は、デノンとマランツ、両方のブランドにおいて、小型ネットワークスピーカーからサウンドバー、AVアンプ、そしてハイエンドなHi-Fiコンポに至るまで、同じHEOSモジュールを使っている事が“HEOSの強みの1つ”だと言う。「多くの機種で採用する事で、量産効果が生まれ、高機能なHEOSモジュールを、価格を抑えて生産できます。そのため、エントリーモデルにも搭載できる。これがHEOS対応機の全てがAmazon Music HDに対応できた背景にあります」という。

デノンブランドを担当する田中清崇氏

【デノンのAmazon Music HD対応機器】

  • ネットワークCDレシーバー RCD-N10
  • ネットワークオーディオプレーヤー DNP-800NE
  • プリメインアンプ PMA-150H
  • AVアンプ AVR-X2600H/X1600H、AVC-X8500H/X6500H/X4500H/X2500H/X1500H、AVR-X6400H/X4400H/X2400H/X1400H、AVR-X6300H/X4300H
  • サウンドバー DHT-S516H/HEOS HomeCinema
  • ネットワークスピーカー HEOS 3/HEOS 1
  • ワイヤレスアンプ HEOS LINK

【マランツのAmazon Music HD対応機器】

  • ネットワークCDプレーヤー ND8006
  • ネットワークオーディオプレーヤー NA6006
  • AVアンプ AV8805/SR8012/NR1710/NR1609/NR1608
  • ネットワークCDレシーバー M-CR612

マランツとデノンのHi-FiコンポでAmazon Music HDを聴いてみる

では、そのHEOSに対応したお手軽なコンポとして、マランツのステレオアンプ「NR1200」と、デノンのアンプ「PMA-150H」を用意。実際にAmazon Music HDを聴いてみた。

左からデノンのアンプ「PMA-150H」、マランツの「NR1200」

「NR1200」は高さ約10cmの薄型2chアンプながら、5系統の“HDMI”入力を搭載した、新しい試みのHi-Fiアンプだ。10月中旬発売で、価格は78,000円。

マランツのステレオアンプ「NR1200」

Hi-Fiアンプというと、CDプレーヤーやレコードプレーヤーを繋ぐイメージだが、NR1200はそれに加え、HDMI入力にゲーム機とか、Fire TVとかApple TVとかを接続。テレビ用アンプとしても使えるのが最大の魅力。

また、DACに、旭化成エレクトロニクス製の8ch DAC「AK4458VN」を搭載。L/Rそれぞれに2ch、合計4chのDACを、2ch再生に使う、ダブル・ディファレンシャル構成を採用するなど、同価格のAVアンプと比べ、Hi-Fiならではのハイクオリティなパーツを使ってるのもポイントだ。

デノンの「PMA-150H」

デノンの「PMA-150H」は、コンパクトな“デザインシリーズ”の新アンプ。12万円で9月下旬から発売している。

増幅回路に、Qualcommのデジタルアンプ「DDFA」の最新バージョンを搭載。クラスDアンプだが、高速かつ、高精度なデジタル・フィードバック・ループを備えているのが特徴で、クラスDアンプの課題である歪の多さや、電源変動による音質劣化を解消している。

また、PMA-150Hでは、スピーカー1台につき、2つのパワーアンプで駆動するBTL構成を採用。デジタルアンプらしい高精細なサウンドと、高い駆動力を両立させている。

2つのコンポと組み合わせるスピーカーは、Bowers & Wilkinsの600 Seriesのブックシェルフ「607」(1台9万円)だ。

Bowers & Wilkinsの600 Seriesのブックシェルフ「607」

まず、マランツの「NR1200」で「宇多田ヒカル/花束を君に」のAACバージョンを再生する。NR1200は、Hi-Fiアンプらしく、筐体内でフルディスクリートパワーアンプをL/Rチャンネルで左右対称に配置。専用設計のブロックコンデンサーや、大型電源トランスなどアンプの肝となる電源にも注力した製品だ。

その効果が音にもよく現れており、音場が広く、そこに音像がクリアに出現する。ロッシーの音楽配信のように音が痩せるような事もなく、中低域に迫力と押し出しの強さがあり、音がこちらに迫ってくるようなパワフルさが気持ちいい。

そのままNR1200で、「花束を君に」のハイレゾ版(Ultra HD版)を再生すると、音像に厚みが出て、より立体的になる。その音像から発せられる音が、音場に広がっていく様子も、ハイレゾ版の方がより広くて深い。よくわかるのがサビの前「ハァーッ」と深い吐息が入るが、その息が音像の奥へと広がっていき、スーッと消えていく様子がハイレゾ版の方がより奥深く、より明瞭だ。そのため、音像自体の奥深さもよくわかり、音楽がより立体的に感じられる。ヘッドフォン再生では味わえない、この自然なステレオフォニックとハイレゾが組み合わさると、アーティストが部屋の中にやって来て、目の前で歌ってくれてるようなリアリティが感じられるようになる。

デノンの「PMA-150H」に変更。Hi-Fiアンプとしては薄型のNR1200と比べても、150Hはさらに小さいが、奏でるサウンドは、このサイズからは信じられないほど雄大でスケール豊かだ。

特筆すべきは、スピーカーからの音離れの良さだ。試聴したのは、ラックの上に150HとB&Wの607を一列に並べただけの、特にセッティングで追い込んだり何もしてない状態だが、ブワッと広大な音場が展開。そこに様々な音像が飛び回る。手掛けたデノンサウンドマネージャー・山内慎一氏が掲げる「Vivid(ビビッド) & Spacious(スペーシャス)」なサウンドが、この小さなアンプからも飛び出してくるのがスゴイ。

デジタルアンプのDDFAをBTL構成で使っているため、駆動力が高く、ユニットをキチッとドライブできており、それがトランジェントの良い、キレのあるサウンドに現れている。一方で、デジタルアンプにありがちな“カリカリシャープなだけのサウンド”ではなく、アナログアンプのような“熱っぽいパワフルさ”も感じられる。低域の分解能も高く、ビートの中身を細かく描写してみせるが、そのビート自体で体が思わず動いてしまうような熱い気持ちよさも兼ね備えている。Amazon Music HDの情報量の多さを味わいながら、音楽自体も気持ちよく楽しめるアンプと言えるだろう。

夢のような時代を、しっかり楽しむために

実際にAmazon Music HDを使ってみると、タイトルラインナップが多いため、「ラジオで耳にして気になってメモっていた曲」とか、「昔好きだったけど、最近の曲は聴いていなかったアーティスト」とか、あれこれ聴く時間が増えていく。

そうした能動的な聴き方だけでなく、「お金払っているのだから、いっぱい使わなきゃ損だ」という気持ちも心の中であるため、家で他の作業をしている時でもBGM的に流しておきたくなる。その際に、PCを立ち上げたり、音の良くないBluetoothスピーカーを使うより、やはりAmazon Music HDに対応したHi-Fiコンポがあると便利だ。

CDを1枚1枚再生しながら、スピーカーの正面に座ってじっくり楽しむような聴き方ではない、受動的な、いわゆる“ながら聴き”だが、そのBGMがハイクオリティだと、生活がなんだかリッチになった気分になる。今まで興味を持たなかったアーティストも、良い音で流れてくると、聴き入ってしまい、いつの間にか好きになるという事もある。

そうした使い方を想定すると、書斎や自室に置くだけでなく、リビングにもAmazon Music HD対応のコンポを置きたくなる。その点では、今回紹介したマランツの「NR1200」や、デノンの「PMA-150H」は、薄型・小型で圧迫感も少ないため、設置しやすい機器と言えるだろう。

HEOSは昨年からAmazonのAlexaに対応しているので、「アレクサ」と話しかける事で、Amazon Music HDからの音楽再生もできる。スマホやタブレットが苦手だという家族がいる家庭でも、声の呼びかけで音楽が再生できるとなれば、使用頻度はさらに増えるかもしれない。特にHDMI入力付きのNR1200は、テレビの音がうるさいと感じた時に、リモコンに手をのばす必要すらなく「アレクサ、リビングのボリュームを下げて」で音量が下げられる。こうした製品のように、“趣味の製品”というイメージが強かったHi-Fiコンポも、Amazon Music HDの登場により、“リビングでの使い勝手の良さ”が求められるようになるかもしれない。

また、古い曲から最新の楽曲まで、膨大なライブラリを“スピーカーで聴く”という体験自体が、「オーディオ業界の未来にとっても、非常に重要な事」とデノンの田中氏は言う。若い人の中には、スマホやタブレットでYouTubeを再生する事が“音楽を聴く”メインになり、コンポは無く、たまにイヤフォンを使うくらい……という人も増えている。

もちろん、それでも音楽を楽しむ事はできるが、より良い音で、なおかつステレオスピーカーで再生すれば、音楽はもっと楽しくなり、きっとより好きになる。それがオーディオ機器に興味を持つキッカケになれば……というわけだ。

音楽は好きだがお小遣いには限りがあるので、悩んで悩んでCDアルバムを1枚選んでいた一昔前からすると、「CD音質で6,500万曲以上、ハイレゾも数百万曲、好きなだけ聴いていい」なんてサービスは、まさに夢のようだ。だが、そんな夢のサービスが来てくれたのに、音の出口が“昔よりチープ”になってはいないだろうか。

最近はスマホとBluetoothイヤフォン、Bluetoothスピーカーでしか音楽を聴いていない……という人も、Amazon Music HDをキッカケとして、最新のHi-Fiコンポに注目して欲しい。間違いなく、こうしたコンポで聴かないと“もったいない”サービスだ。

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山崎健太郎