レビュー

手の届くハイエンド。ELACスピーカー「CARINA」のサイズ感と音に満足

日本でも人気の高いドイツのスピーカーメーカーであるELACから、新たに「CARINA」シリーズが登場した。中でも「手の届くハイエンド・ブックシェルフ・スピーカー」と位置付けているペア16万円の「CARINA BS243.4」は、音質だけでなくコンパクトで設置性の高さも注目。その使用感をお伝えしたい。

CARINA BS243.4

JET搭載でも手ごろ。待望の“ELACらしい”スピーカー

CARINAシリーズはエンクロージャーの作りなどは上位の「400LINE/VELAシリーズ」の特徴を引き継ぐ一方、価格帯的には従来の「260LINE」を下回る、コストパフォーマンスに優れたシリーズといえる。またCARINAシリーズは、TADやKEFなど様々なメーカーを渡り歩いてきた著名なスピーカー技術者のアンドリュー・ジョーンズ氏が手掛けたスピーカーであることが前面に出されている。

CARINAシリーズ

アンドリュー・ジョーンズ氏はELACに移籍以来、「ADANTE LINE」「Uni-Fi SLIM LINE」「Debut LINE」といったシリーズを送り出してきた。しかし、いずれのシリーズも、採用するユニット等の点で従来のELACのスピーカーとは良くも悪くも性格を異にしており、「アンドリュー・ジョーンズが手掛ける、ELACらしいスピーカー」の登場が長く待たれていた。そんな流れのなかで登場したのが、CARINAシリーズというわけだ。

今回取り上げるBS243.4はCARINAシリーズのブックシェルフスピーカー。搭載するユニットはいずれも新設計で、高域用にELAC伝統の「JET」ツイーターの流れをくむ「JET folded ribbon」、低域用にコンパウンド・カーバチュア(複合曲率)135mmアルミニウム・コーンウーファーを搭載する。これらのユニットはCARINAシリーズのトールボーイスピーカー「FS247.4」とセンタースピーカー「CC241.4」にも搭載される。JET folded ribbonはJETツイーターのクオリティをより幅広いモデルにも搭載すべく、コストダウンを実現したユニットとのことで、結果的にCARINAシリーズはJETツイーターを搭載するELACのスピーカーとしては最も手頃な価格となっており、ペアで16万円。

BS243.4正面
JET folded ribbon
コンパウンド・カーバチュア(複合曲率)135mmアルミニウム・コーンウーファー

バスレフポートは後方斜め下向きに角度が付けられており、たとえ後ろにすぐ壁があるような場合でも、比較的影響が軽減できる構造といえる。また、バスレフポートを床から浮かせるという理由もあってか、本機は強固なスチール製アンダーベースと一体化した構造となっている。そしてこのベースは本機を直接置いた場合、実質的なスタンドとしても機能する。

バスレフポートやベースの構造、また奥行きが同クラスのスピーカーと比べて小さいということもあり、BS243.4は別途スピーカースタンドを用いて設置する本格的な環境だけではなく、例えばデスクトップ環境やテレビラックの両脇など、ある程度カジュアルな環境でも性能が発揮できるようにとの意図が感じられる。

ベース部。ちなみにこのベースには強力なすべり止め効果もある

スピーカー端子はバイワイヤリング対応で、大型でしっかりした端子が使われている。組み合わせるアンプ次第ではバイアンプ接続も可能であり、音質的な伸びしろが大きい。

スピーカー端子部
ジャンパープレートも付属する

仕上げに関して、CARINAシリーズは以前のシリーズとは異なり光沢のないマットブラック仕上げとなった。単に派手さという点では後退してしまった感が否めないものの、仕上げの質感そのものは悪くない。反射がなくなるので、使い方によってはむしろマットブラック仕上げの方が良い、という受け止め方もあるだろう。

天板・側面含めてマットブラック仕上げ

ちょうどいいサイズ感でデスクトップに最適。バイアンプもぜひ活用を

BS243.4の試聴は、PCデスクの上にそのまま設置するデスクトップ環境と、オーディオルームに別途スタンドで設置する環境の二通りで行なった。

最初にデスクトップ環境でBS243.4を聴く。組み合わせるアンプはマランツの薄型AVアンプ「NR1608」で、価格帯的にもちょうどいい。音源の再生には主にNR1608のネットワーク機能を用いた。

筆者のPCデスクは幅160cm/奥行き80cmで、31.5インチのPCデスクの両脇に置くスピーカーとして、BS243.4は大きすぎず、小さすぎずというサイズ感といえる。BS243.4の奥行きが小さいおかげで、作業スペースもあまり圧迫されずに済む。

PCデスクに設置したBS243.4

テレビアニメ「キャロル&チューズデイ」の前期オープニングテーマ「Kiss Me」を聴くと、清涼感たっぷりに音が広がって部屋を満たす。中域にぎゅっとエネルギーを凝縮した感覚があり、ボーカルには厚みがあって実体感に富む。JET folded ribbonによる高域は、鋭い伸びよりもむしろ穏やかさを感じさせる。それでも一音一音の芯はしっかりとしており、解像感も優秀だ。低域は少なくともデスクトップ環境で聴く限りでは量感の不足は感じられず、輪郭の描写も明瞭で「よく見える低音」が実現されている。音離れの良さもあり、曲本来の立体感が表現できていた。

映画「ボヘミアン・ラプソディ」のサウンドトラックから「Another One Bites the Dust/地獄へ道づれ」を聴くと、こちらは穏やかな印象が先立って、曲調からするとテンションが不足気味に感じる。あまりレンジ感を欲張らず中域の充実に焦点が当たっており、豪快さよりも緻密さが際立つ。JET folded ribbonによる高域が突出して存在感を主張しないという意味では、スピーカー全体でのまとまりの良さは見事なものだ。

ゲームコンテンツではどうかとPS4タイトル「モンスターハンターワールド:アイスボーン」もプレイしてみた。こちらは情報量とスケール感を両立しており満足度は高い。精緻に作り込まれた世界に満ちる細かな環境音から、大気を揺るがすモンスターの咆哮、激しく舞い散る死闘の轟音にいたるまで、ダイナミックレンジ豊かに描かれる。

BS243.4はバイワイヤリングが可能、そしてNR1608はバイアンプが可能ということで、標準のジャンパーケーブルを外してバイアンプ接続も試してみた。

バイアンプ接続では、シングル接続での印象をベースとして、高域と低域双方の伸び・空間の広がり・情報量など、ほぼあらゆる面で音質が向上する。「Another One Bites the Dust」で感じたテンション不足も見事に解消される。バイアンプ接続の音を聴いてしまうと、シングル接続時の音が途端に物足りなく思えてしまうほどだ。

AVアンプは、使用していないチャンネルを利用する形でバイアンプ接続が可能なモデルが多いため、ぜひ活用してほしい。AVアンプを使ってサラウンドシステムを構築する場合でも、やみくもにチャンネル数/スピーカーを増やすより、フロントスピーカーの音に注力する方が、結果的に優れた再生音をもたらすことはおおいにあり得る。バイアンプ接続で鳴らすデスクトップ環境のBS243.4は、音楽やゲームはもちろんのこと、PCで再生可能なあらゆるコンテンツを圧倒的な満足感の伴う音で楽しませてくれた。

幅広い人に薦めたい新しいELAC

続いて、オーディオルームにスピーカースタンドで設置する形でBS243.4を聴く。組み合わせるアンプはSOULNOTEのプリメインアンプ「A-2」(シングルワイヤ接続)で、先ほどと同じ曲をSFORZATOのネットワークプレーヤー「DSP-Dorado」で再生する。なお、BS243.4には純正のスタンドも用意されているが、今回は筆者所有のスタンドを用いた。

オーディオルームにスタンドで設置したBS243.4

この環境で聴くBS243.4の音からも、帯域的に突出したところのないまとまりの良さや穏やかさといった、デスクトップ環境で聴いた時と共通する印象を受ける。一方で、それほど空間の広がりを志向した部分は感じられず、低域の量感も相対的に控えめとなるため、部屋の広さを考えるともう少し再生音にスケール感がほしくなった。広い空間と大音量で鳴らすよりは、ある程度小さな空間で鳴らした方が、持ち前の精緻さがダイレクトに活きそうだ。再生環境の空間に余裕がある場合は、トールボーイ型のFS247.4の導入も検討したい。一方で、BS243.4の奥行きの小ささは、サラウンドスピーカーとして活用する際も大きな強みとなるだろう。

著名なスピーカー技術者とELAC伝統のユニットが出会った結果の製品が、高性能よりもむしろ穏やかさを意識させたのは少々意外だった。今回試聴したBS243.4は特にデスクトップ環境で鳴らした音が好印象だったこともあり、CARINAシリーズは「ELACのスピーカー」という先入観にとらわれず、幅広いユーザーに幅広い再生環境で聴いてみてほしいスピーカーだと感じた。

逆木 一

オーディオ&ビジュアルライター。ネットワークオーディオに大きな可能性を見出し、そのノウハウをブログで発信していたことがきっかけでライター活動を始める。物書きとしてのモットーは「楽しい」「面白い」という体験や感情を伝えること。雪国ならではの静謐かつ気兼ねなく音が出せる環境で、オーディオとホームシアターの両方に邁進中。ブログ:「言の葉の穴」