レビュー

バキューム洗浄でレコード/CD/BD蘇る。家庭向けクリーナ「Prodigy」を試す

キース・モンクスのレコードクリーナー「Prodigy」

英キース・モンクスのレコードクリーナーは、レコードファン憧れの存在だ。普通のクリーナーで掃除しても取り切れない細かいチリや頑固な汚れまで見事に取り去る洗浄パワーは、放送局などプロの現場の定番モデルだけのことはある。だが、サイズが大きく高価なので家庭用としては導入しにくく、その威力を享受できるレコードファンはごく一部に限られていた。

そのキース・モンクスが家庭向けの廉価モデル「Prodigy」(195,800円)を発売した。レコード人気が復活した絶好のタイミングでの登場だ。しかも今回はレコードだけでなくCDやBlu-rayなど光ディスクのクリーニングにも活用できるというから、用途は一気に広がる。筆者の試聴室でじっくり使ってみた結果をご報告しよう。

一部手動式にすることで価格抑制。レコード1枚の洗浄は約2分半

盤を回転させながらアーム先端のノズルで洗浄液を吸引する機構は従来のキース・モンクスと変わらないように見えるが、実は大きな違いがある。

歴代モデルは専用の糸と一緒に洗浄液を吸引する仕組みだったが、Prodigyは糸を一切使っていない。アーム先端の吸込口には形と大きさを吟味した特殊樹脂製のチップを配置し、洗浄液が作り出す薄い層を介して先端部が盤面に直接触れないように工夫しているのだ。液を吸引するための真空ポンプの圧力を微調整することで、バキューム音を最小に抑えつつ、盤面に洗浄液や汚れが残る現象も避けることができるという。

この最新機構は洗浄液の塗布まで自動化した上位機種「Redux」(638,000円・年内発売予定)にも採用しているが、Prodigyは付属のエコローラーに洗浄液を垂らし、盤面に塗る作業を手動で行なうため、ユーザーの手間は少し増えてしまう。

ただし、後で紹介するようにこの作業はそれほど難しいものではなく、レコード4〜5枚のクリーニングを終える頃には使用する液の量や塗り方が大体わかってくるので、苦になることはないはずだ。少しばかり作業が増えるとはいえ、クリーニング効果に差はなく、使用する洗浄液の種類も変わらない。

本体と同じ木製でできたカバーを付属する。右にあるのが洗浄ブラシ

本体とカバーどちらも竹素材で組んだProdigyはとてもコンパクトで、部屋の雰囲気にもなじみやすい。レコードを載せるターンテーブルはレーベルと同じぐらいのサイズで、吸引した洗浄液がたまるタンクと洗浄液ボトルを置くスペースを合わせても横幅は50cm強、奥行きは22cmしかない。ラックの上か部屋の片隅に無理なく収まるので、いかにも業務用という体裁だった従来モデルとは雲泥の差がある。

電源を入れると点灯するイルミネーションは付属リモコンで好みの色を選べるが、クリーニング機能とは連動していない。たんなる装飾の機能とはいえ、周囲の家具や照明にコーディネートする楽しみがある。遊び心が伝わる面白い演出だ。

本体右側にある電源ボタン
付属のリモコン
リモコンのカラーボタンでイルミネーションが変更できる(写真はブルー)

LPレコードのクリーニングは次の手順で行なう。

1. レコードを載せてクランプで固定
2. エコローラーで液が飛び散らないようガードし、盤面に洗浄液を塗布
3. アームを動かしてレーベル上に載せる
4. 内側から外側に向けて吸引スタート。必要に応じて吸引力を微調整
5. 外周部断面に液が残っている場合はティッシュなどで拭き取る

アームを載せてから吸引完了までの時間は2分30秒前後で、糸を用いた従来モデルの約半分の時間で終わる。モーター音とバキューム音は鳴るが、こちらも従来機に比べると体感的には半分以下だ。静かと言うほどではないが、夜中に使っても隣室で寝ている家族が目を覚ますことはないと思う。クリーニング中でも普通の声で会話ができる程度と考えていただければわかりやすいかもしれない。

アーム先端の吸引部が、盤の上の洗浄液と共にヨゴレや埃などを吸い取ってくれる
写真では分かりにくいが、洗浄済み(盤の内側)の部分が洗浄前(盤の外側)よりもキレイになっている

以前のモデルもそうだったが、洗浄液は少し多いかなと思うぐらいでも正常に吸引されるし、吸引力(=ポンプの圧力)を適切に調整すれば、盤面に液が残る心配もない。真空を作り出す力の加減は動作音で確認するのがお薦めだ。A面が終わったらクランプを外してB面で同じ作業を繰り返す。Prodigyのターンテーブルはレーベル面と同程度なので、裏返しても音溝の部分が触れず、そこでホコリが付着する心配がない。

レコード用の洗浄液

クリーニング後の盤面はまるで新品のように美しい。新品のレコードを内袋から出した状態でも静電気の影響でホコリやチリが付着していることがあるので、むしろ新品よりもきれいに見えるぐらいだ。帯電しにくくなる効果があるので、クリーニング後の盤面はしばらくクリーンな状態に保たれている。

CDとBlu-rayのクリーニング作業も基本的に同じ手順で行なうが、成分がLPレコードとは若干異なる専用の洗浄液「discOvery Digital」を使うことをお薦めする。光ディスクの素材や構造に最適化された成分を調整しているので、安心して使えるからだ。

英キース・モンスクのレコードクリーナー「Prodigy」で、CDクリーニングしてみた

クリーニング時間は20秒かからないほど短く、アッという間に終わる。LPレコードと同様に外側のエッジ部に液が残っていたらそれを拭き取れば完了だ。

手持ちのディスクを何枚かクリーニングしてみると、ディスク上に細かい擦り傷が付いている場合を除けば、指紋やこびりついた油分などはきれいに消えて、美しい光沢を取り戻す。レコードと同様、除電効果も高いため、帯電したディスクで起こりがちや画質や音質の劣化も防げる可能性がある。

鮮度の高いサウンドが蘇った印象。光ディスクの洗浄にも効果有り

クリーニングの前後でレコードの音がどのぐらい変わるのか、実際に確認してみた。筆者が試聴盤として常用しているアルネ・ドムネラスの「ジャズ・アット・ザ・ポーンショップ」は、外見上は目立つホコリは付いていなかったが、Prodigyで洗浄後に同じトラックを聴くと、わずかに残っていたサーフェスノイズがほぼ消えて、目に見えないほど小さなチリなどで発生する「パチッ、パチッ」という耳障りなノイズもほぼ消失。

さらに、ノイズが一掃されることでライヴ空間の見通しが良くなり、サックスやドラムの立ち上がりがクリーニング前よりも鮮明になる効果もある。この録音の長所である一音一音が前に出てくるアグレッシブな感触がより強く実感できるようになって、まさに鮮度の高いサウンドが蘇った印象だ。

同じような効果はシカゴ・プロムジカの「もうひとりのティル・オイレンシュピーゲル」やリッキー・リー・ジョーンズの「マガジン」でも聴き取ることができ、普段聴いているレコードが本来の価値を取り戻したように感じられた。手元にたくさんレコードがあり、再生する機会が多い人ほど、このクリーニングマシーンの真価がわかるはずだ。

次にCDとSACDで音の変化を確認する。光ディスクの場合、普段の保存状態が良ければ本来は汚れにくいはずなのだが、携帯用のCDケースに入れて持ち歩くときに指紋が付いたり、ケースに戻し忘れてホコリが付くこともある。

ひと目で汚れが目立つようなディスクを選んでクリーニング前後の音を聴き比べてみると、さすがにレコードのようなノイズはどちらも聴こえない。ただし、編成の大きなオーケストラ作品では金管楽器のアタックや声の発音が鮮明になり、スピーカー後方まで余韻が深々と広がるなどの変化を聴き取ることができた。

クリーニング前
クリーニング後

ホコリや汚れがひどい場合は読み取り時に発生するエラーの頻度が高くなり、データの補間やピックアップの位置を微調整するサーボ電流が変化するなど、音質が変わる要因はいろいろ考えられる。汚れのひどいCDはリッピングが正常に完了しない場合もあるほどだから、盤面の状態が音質に影響を与えることは意外に多い。

Blu-rayは音楽ディスクに比べて強めのコーティング処理が行われているため、汚れにくいとされているが、実際には指紋をはじめとする僅かな油分の汚れで読み取りエラーを起こすことが少なくない。

あるプレーヤーでは再生できても、別のプレーヤーでは同じディスクの読み込みすら始まらないという体験がある人もいると思うが、そんなときはBlu-rayの盤面に僅かな汚れが付いていることが多い。不織布などで普通はきれいになるが、頑固な汚れを取り除くには強めにこする必要があり、そのときに細かい擦り傷が付いてしまうこともある。

そんな頑固な汚れが残っていたディスクを発見したので、早速Prodigyでクリーニングを行なった。作業の手順はCDと同じで、液が盤面に残ることもなく、20数秒で洗浄が完了。洗浄後の盤面は本来の光沢を取り戻し、角度を変えながら細かくチェックしてもほぼ無傷の状態を保っていることに気付く。また、1箇所だけ円周方向に数cmほどこすり傷のような痕跡があったのだが、それもすっかり消えていたのは予想外だった。軽く拭いても取れなかったので、傷だと思い込んでいたのだが、樹脂の成分かなにかが偶然に盤面に付いてしまったようだ。一方、別のディスクでは表面の汚れは一掃されたものの、汚れでマスクされていた細かいこすり傷の存在に気付くこともある。その点はCDと同じだ。

汚れていた当該ディスクの一枚は「グランド・ブタペスト・ホテル」のBlu-rayだった。

不覚ながら別のBlu-rayのケースの間に挟まった状態で行方不明になっていたものだ。そのままでも一応再生はできたが、クリーニング後に同じシーンを見直すと、一見してコントラストが向上し、背景のノイズ感が一段階収まっていることに気付いた。音楽CDとはピックアップの波長も変調方式も異なるとはいえ、盤面の汚れが画質や音質に影響を及ぼす事態はBlu-rayでも起こり得るということなのだろう。

盤が蘇るなら、クリニーニングマシンへの投資も価値あり

映像も音楽も本格的なストリーミング時代を迎えつつあるが、そんなときだからこそ手元のライブラリを大切に維持したいという気持ちが募る。

LPレコードのなかには小学生の時に購入したものもあるので、その歴史はなんと半世紀近い。CDも最初期のものはすでに40年近い年月を経ていて、ケース内の緩衝材がディスクに張り付いてしまったものもある。そんな過酷なコンディションに晒してきた手持ちの盤が蘇るのであれば、専用クリーニングマシンへの投資は十分な価値があると思う。

山之内正

神奈川県横浜市出身。オーディオ専門誌編集を経て1990年以降オーディオ、AV、ホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、現在も演奏活動を継続。年に数回オペラやコンサート鑑賞のために欧州を訪れ、海外の見本市やオーディオショウの取材も積極的に行っている。近著:「ネットオーディオ入門」(講談社、ブルーバックス)、「目指せ!耳の達人」(音楽之友社、共著)など。