レビュー

B&W、ついに完全ワイヤレス参入。音質・デザイン・強力なNCを体験する

Bowers & Wilkinsの完全ワイヤレスイヤフォン「PI5」と「PI7」

完全ワイヤレスが“イヤフォンの定番”になりつつある昨今。多くのメーカーが参入し、まさに玉石混淆状態で「どれを選べばいいのやら」状態の人も多いだろう。そんな市場に、要注目の“大物”が登場した。オーディオスピーカーにおける人気メーカー、あの英Bowers & Wilkinsが参入したのだ。

モデル名は「PI5」と「PI7」の2機種。価格はどちらもオープンプライスで、実売はPI5が24,552円前後、PI7が39,600円前後と“本気”な価格帯で期待が高まる。どちらのモデルもカラーはホワイトとチャコールから選択可能だ。

さっそく試聴してみたが、結論から言うと、「さすがB&W」とうなる音質とデザイン性の高さ、そしてユニークな機能も搭載。末永く使えそうな“相棒と呼べる完全ワイヤレス”に仕上がっていた。

「PI5」
「PI7」

そもそもB&Wとは

B&Wが設立されたのは1966年。ピュアオーディオ市場において、“名機”と呼ばれるスピーカーを多数手がけているが、その代表格と言えば1993年に登場したオリジナル「Nautilus(ノーチラス)」だろう。

オリジナル「Nautilus」

まるで巨大な貝をスピーカーにしたようなデザインと、その先進的なサウンドでオーディオファンに鮮烈な印象を残した。単に“面白いカタチのスピーカーを作るメーカー”ではなく、“スピーカーの理想形を技術的に追求した結果”として、機能美溢れるオーディオ機器を生み出しているのがB&Wの特徴だ。

そんなスピーカーのイメージが強いが、B&Wは2010年に「P5」というエレガントな製品でヘッドフォンにも参入。現在はワイヤレスヘッドフォン/イヤフォンも手掛け、ポータブルオーディオ開発にも10年以上の経験を持つメーカーでとなっている。

そんなB&Wの初の完全ワイヤレスが「PI5」と「PI7」というわけだが、他社と比べると、“遅めの完全ワイヤレス参入”になったのは「B&Wが誇る絶対的なパフォーマンス“True Sound”を完全ワイヤレス・ヘッドフォン・カテゴリーにもたらすために、異例とも言える期間をかけて開発した」ため。

そして、音質チューニングはアビーロード・スタジオのモニタースピーカーとしても名高い「800 Series Diamond」を手掛けたチームが担当。つまり、長い時間をかけて完成度をあげ、音質もガチで追い込み、まさに“満を持して”投入したのがPI5、PI7というわけだ。

ユニークで考えられたデザイン

PI5

比較的購入しやすい価格のPI5から、詳しく見ていこう。カラーはホワイト/チャコールの2色で、今回はチャコールを使っている。

イヤフォンの筐体は、楕円形と円形が組み合わさったようなデザイン。完全ワイヤレスというと、“豆のような有機的なデザイン”をよく見るので、PI5のフォルムは斬新だ。

円形の部分が突起になっており、充電ケースを開くと、その丸い部分を指でつまみやすい。完全ワイヤレスでは、ケースから取り出しにくい製品も存在するが、PI5はよく考えられている。

楕円形と円形が組み合わさったようなデザイン
充電ケースを開けると、円形部分をつまんで取り出せる

楕円形と円形部分では仕上げが異なり、指で触れる円形部分は金属の質感が印象的。ハウジング部分もヘアライン仕上げで、安価な完全ワイヤレスとは一味違う高級感だ。

ちなみにケースも筐体と蓋の部分は仕上げが異なり、筐体はマットだが、蓋には光沢がある。この蓋はパタンパタンと軽やかに開閉でき、それが気持ちよくてつい何度もパタンパタンしてしまう。ジッポーライターの蓋を意味もなく開閉させる心地よさと似ている。

充電ケースの蓋は、光沢のある仕上げ

内蔵するドライバーは9.2m径で、B&W製カスタム・ダイナミックドライバーを搭載する。

対応コーデックはSBC/AAC/aptX。アクティブノイズキャンセリング(NC)機能も搭載しており、左右それぞれに2つのマイクを搭載。アンビエントパススルー機能を利用できるので、NCを有効にしながら音楽を楽しんでいる途中に、「駅のアナウンスが聞きたい」といった時でも、イヤフォンを耳から外さずに、外の音を聞く事ができる。

接続にはTWS+(True Wireless Stereo Plus)技術を採用しており、高品質かつ安定した通信が可能という。

設定用に「Bowers & Wilkins Headphones」アプリを用意。また、本体のボタンの長押しでSiri、Googleアシスタントを呼び出して、スマートフォンに触れることなく様々な操作も可能だ。

前述の充電ケースを使うと、イヤフォンを4回フル充電できる。イヤフォン自体に内蔵しているバッテリーでの持続時間は4.5時間だ。ケースを併用すれば、1週間くらいは、追加の充電をしなくても大丈夫そうだ。なお、ケース自体はUSB-Cで充電できる。

設定は「Bowers & Wilkins Headphones」アプリから

高いNC機能とユニークなサウンドスケープ

さっそくPI5を装着してみよう。ユニークな形状にも関わらず、耳に入れると、まったく違和感がない。フィット感も高く、NC機能をONにする前に、遮音性の高さがわかる。筐体の内側にゆるやかな傾斜がついており、それが耳穴周辺の空間にフィットするようだ。

また、前述の楕円形のパーツがイヤフォンを耳に固定するストッパーのように機能しているため、ホールド力も抜群。首を降ったり、軽く走ったりしても、まったく抜け落ちる気配がなかった。

なにもしなくても遮音性が高いが、NC機能をONにすると、さらに静かになる。自分の隣にデスクトップパソコンが「グォオオ」とファンの音を立てている室内で使ってみると、「グォオオ」の中低音がキレイに消え、注意して聞くと「フィイィ」というかすかな高音が残っているかな? 程度しかわからなくなる。最初からNC機能をONにしたまま部屋に入ったら、パソコンがONになっている事に気が付かないだろう。

より騒音が激しい地下鉄に乗ってみると、NCの強力さがわかる。「ゴォオオ!!」という激しい走行音が、NCをONにすると、中低域がバッサリ無くなり、「シュウウウ」というわずかな高音が残るだけになる。駅に到着した時にドアが開閉する「グォーガシャン!!」という音も見事にキャンセルし、「プシュー」という空気の音が聞こえる程度だ。

不快な中低音がカットされるため、スマホで電子書籍を読んでいても、まったく騒音が気にならない。騒がしい場所で集中して仕事や勉強がしたいという人にもピッタリだろう。

NCをONにしていると、駅に到着したアナウンスもかすかにしか聞こえないが、そんな時は「アンビエント・パススルー」をONにすれば、イヤフォンを耳に装着したまま、外の音が聞こえる。効果は「低い」と「詳細」から選択できるが、駅や車内のアナウンス程度であれば「低い」で十分聴き取れた。

「アンビエント・パススルー」の効果をアプリから変更しているところ

NCのON/OFFなどはイヤフォン単体でもできるが、より細かな設定や機能を使う時はアプリの「Bowers & Wilkins Headphones」をインストールする。起動時に、イヤフォンの操作方法なども教えてくれるので、説明書を読む前に、アプリをインストールした方がわかりやすいだろう。

アプリをインストールすると、基本的な本体操作方法などを教えてくれる

アプリで面白いのが「サウンドスケープ」という機能。アクセスすると、夕暮れの海や、森の中での焚き火などの写真が表示され、これらを選ぶと、そのシチュエーションで聞ける環境音がイヤフォンから再生される。夜に寝付けないとか、リラックスしたいけど音楽を聴く気分じゃない時などに便利だ。

高機能な耳栓に同様の機能が搭載されていたりするが、完全ワイヤレスイヤフォンのアプリにこの機能が搭載されているのは珍しい。前述のように、遮音性とNC機能が強力なイヤフォンなので、サウンドスケープ機能も単なるオマケではなく、重宝しそうだ。

「サウンドスケープ」
「サウンドスケープ」には自動OFF機能も

音を聴いてみる

Amazon Music HDで「宇多田ヒカル/花束を君に」を再生してみる。

音が出るとすぐにわかるのが、“中低域の分厚さ”と“空間の広大さ”だ。再生から1分ほど経過すると、ドラムが入ってくるが、量感のある低い音が「ズズンズズン」と響いて、胸を圧迫されているかのような迫力がある。ダイナミックドライバーは9.2m径だが、そのサイズを超えたパワフルさに驚く。

パワフルなだけでなく、適度なキレもあり、野太い低音の輪郭もしっかり見える。ダイナミック型らしく、再生音もナチュラルで、金属質な響きがまとわりついたりもしない。聴いているとホッとするサウンドだ。

低音の豊かさと同時に驚くのは音場の広さだ。低域の振動だけでなく、高音の余韻が広がっていく空間がとても広大だ。イヤフォンにありがちな、ボーカルや楽器といった個々の音が、ダイレクトに前へ前へと飛び出してくるタイプではなく、音像とリスナーの間に一定の距離があり、ステージ上で展開する音楽を“キッチリ鑑賞する”タイプの鳴り方だ。イヤフォンの音と言うよりも、ヘッドフォンの音に近く、もっと言えば“スピーカーで聴いている音”にも近いのがB&Wらしいところだ。

「ジョン・メイヤー/Waiting On the World to Change」のライブ盤((Live at the Nokia Theatre, Los Angeles, CA - December 2007)を聴いてみると、ベースの深みの気持ちよさと共に、観客の歓声の広がりが生むライブ会場の空気感もリアルで、ライブ盤ならではの気持ちよさがタップリと味わえる。

モニターライクなイヤフォンでは、歌手の口元に顔を近づけたような、ステージの上に頭を突っ込んだような聴こえ方の製品もあるが、PI5は、それとは逆の“音楽鑑賞タイプ”といえる。

空間の広さが特徴なので、「ゆったりと音楽に浸りたい」という人はもちろんだが、「普通のイヤフォンは音が頭の中に集まって苦手」という人にも、ぜひ聴いてもらいたい。今までのイヤフォンと一味違う世界が楽しめるだろう。

空間が広く、音が肉厚なので、映画やアニメなどの映像にもマッチする。最近、スマホのNetflixでワイルド・スピードシリーズを見返しているのだが、カーチェイスシーンでの唸るエンジンの迫力や、畳み掛けてくるような熱気あふれるBGMなどが、PI5では肉厚かつ、広い空間で再生してくれるので、映画館で見ているような楽しさがある。

スマホの画面で見る映画は、大画面テレビと比べると視覚的なインパクトは弱い。だが、イヤフォンでその迫力をカバーする事で、十分楽しめるものになる。FPSゲームアプリなどをスマホでプレイしてみたが、銃撃音の迫力も抜群だ。

普段使いをしてみて、「便利だなぁ」と感じるのは装着センサーが搭載している事。片方でも、イヤフォンを耳から取り外すと、それを検知して再生が自動で一時停止。イヤフォンを耳に戻すと、また自動的に再開される。いちいちスマホを触らなくてもいいので、実に快適。慣れてしまうと、この機能が無いイヤフォンでの生活は考えられなくなってしまう。

PI7も聴いてみる

PI7

上位機のPI7も聴いてみよう。カラーはホワイト/チャコール。こちらは、PI5と同様に9.2mm径のB&W製カスタム・ダイナミックドライバーを搭載するほか、高域再生用にバランスドアーマチュア(BA)ドライバーも搭載したハイブリッドタイプになっている。

また、各ユニットを専用のアンプで駆動するバイアンプ方式を採用したリッチな仕様も、上位モデルならではだ。

サイズや形状などはPI5と同じで、装着感もほぼ変わらない。

PI7の付属充電ケース
PI7

前述の通り、PI7はPI5と同様に、9.2mm径のB&W製カスタム・ダイナミックドライバーを搭載しているので、中低域は両者非常に良く似ている。低音が沈み込む深さや、肉厚さ、パワフルさは、PI5と同様に非常に聴いていて気持ちが良い。

PI7はそこにBAを追加しているだけあり、高域がよりクリアかつシャープに、細かな音もクッキリと描写する。「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best of My Love」を再生すると、1分すぎから入ってくるアコースティックベースの低音を、ゆったりと、重厚に描写しながら、女性ボーカルの口が開閉する細かな動きや、歌い出す前に「スッ」と吸い込む呼吸のリアルさといった部分がさらに際立つサウンドになっている。

ゲームの音をワイヤレス送信できる

PI7には、ステレオミニ-USBのケーブルが付属しており、これを使って充電ケースにアナログ音声を入力できる

ユニークな機能として、PI7の充電ケースには、Bluetoothの送信機能が内蔵されている。これは要するに、Bluetoothで音を送信する機能が無い製品、例えば、昔のラジカセやコンポ、最近では携帯ゲーム機のNintendo Switchなどのアナログ音声出力を、PI7の充電ケースに接続すると、充電ケース内でA/D変換して、Bluetoothでワイヤレスで送信。その音をPI7のイヤフォンで聴ける……というものだ。

Nintendo Switchのアナログ音声出力を、PI7の充電ケースに接続しているところ
アプリでも、ワイヤレス送信の方法を教えてくれる

製品には接続用に、片側が3.5mmステレオミニ、反対側がUSB-Cのケーブルも同梱している。ステレオミニをコンポやゲーム機に、USB-C側を充電ケースに接続する。

単にワイヤレス化して送信するだけでなく、変換・送信時にはaptX Low LatencyコーデックでBluetooth送信してくれる。これにより、遅延を抑えているわけだ。

試しに、Switchのサウンドをワイヤレス化して送信。銃で撃ち合うFPSゲームをプレイしてみたが、トリガーを引く操作から、「ズドン」と弾丸を発射するまでの遅延もほとんど感じず、快適にプレイできる。

遅延の少なさは、テレビ視聴でも便利。テレビのイヤフォン出力を、充電ケースに入力すれば、PI7が“テレビの音がハッキリ聞こえる”、手元スピーカーのように使えるわけだ。

まとめ

B&Wとしては初の完全ワイヤレスだが、装着感・音質・NC能力など、様々な面で完成度が高く、さすがはB&Wと唸る出来だ。デザイン性も高く、PI5、PI7のカラーバリエーションはどちらもホワイト/チャコールだが、ホワイトモデルのイヤーピースはホワイト、チャコールであればブラックと、付属イヤーピースのカラーも、本体カラーに合わせたものが同梱されている。

完全ワイヤレスは有機的なフォルムの製品が多いが、PI5、PI7はそこも独自性を貫き、“エレガント”な形状と色味に仕上げている。この高級感は、ユーザーの満足感を高めてくれる。充電ケースも含めて大人っぽい仕上げでもあるため、スーツなど、通勤時にもマッチしそうだ。

サウンド面では、パワフルかつ凄みのある低域と、広い音場で気持ちよく音楽を楽しみたい人はPI5、さらに中高域のクリアさを追求したい人にはPI7がオススメだ。PI7はBluetooth送信機能もユニークで、「これを待っていた」「その手があったか」と感じる人も多いだろう。

PI5とPI7には15,000円ほどの価格差があるが、Bluetoothトランスミッターは単体で買っても、そう安価なものではないので、ハマる人にはPI7が便利かつお得なモデルになるだろう。

一方で、そうした機能が不要という場合は、PI5は音のクオリティ、デザインや質感の良さ、そして価格の面でベストなチョイスになるだろう。完全ワイヤレスイヤフォン選びに、また強力かつユニークな選択肢が登場した事を歓迎したい。

(協力:ディーアンドエムホールディングス)

山崎健太郎