レビュー

AK×Campfire驚異のサウンド「パスファインダー」を“白銅DAP”で聴く

A&ultima SP2000T Copper Nickelの上に置いたPATHFINDER

Astell&Kernと言えば、ポータブルオーディオプレーヤーの代表的なメーカーだが、実はイヤフォンやヘッドフォン作りにも積極的で、最近では「AK ZERO1」や、完全ワイヤレスの「AK UW100」を手掛けている。

一方で、AKは他社とのコラボにも積極的。beyerdynamicやJH Audioといった、イヤフォンのトップメーカーとも共同で製品を開発し、こちらでも名機を送り出している。

そんなAK×他社コラボモデルの新製品が、今回紹介するCampfire Audioとのコラボ第二弾「PATHFINDER」(パスファインダー)だ。7月16日に発売されたばかりで、価格は319,980円と、かなりのハイエンドモデルになっている。

結論から先に言うと、このPATHFINDER、音がとにかく“スゴい”。ちょうど同時期に、AKのDAP新製品としてフラッグシップモデルの筐体に、銅とニッケルの合金「白銅」を採用した限定モデル「A&ultima SP2000T Copper Nickel」も登場したので、2つを組み合わせて聴いてみる。

Campfire Audioとのコラボ第二弾「PATHFINDER」

ポータブルオーディオファンにはもはや説明不要だが、Campfire Audioは米国のIEMブランドだ。高音質なリケーブルやポータブルアンプを手掛けていたALO audio、それを率いるKen Ball氏が、ケーブルやアンプに飽きたらず、自分で理想とするイヤフォン/ヘッドフォンを作るために設立したのがCampfire Audioである。

イヤフォン/ヘッドフォンとしては新興ブランドとなるが、ポータブルオーディオの音を知り尽くしたメンバーが手掛けているため、短期間でこだわりの名機を続々と発表。イヤフォン/ヘッドフォンでも一気に人気ブランドに成長し、現在に至っている。

そんなCampfire AudioとAKは、既にコラボイヤフォン「AK SOLARIS X」を開発しており、これも高い評価を得た。PATHFINDERはそれに続く、コラボ第2弾というわけだ。

シェルは高品質なアルミニウムを精密切削加工

まず筐体に注目。シェルは高品質なアルミニウムを精密切削加工したもので、表面はアルマイト処理による漆黒の「Night Sky」カラーになっている。手にした瞬間に質感の高さがわかるのは金属筐体ならでは。筐体のつなぎ目の滑らかさや、フェイスプレート部分の直線形状の高工作精度も印象的。Campfire Audioといえば、金属筐体を得意とするメーカーなので、その強みが発揮されている。

フェイスプレート部分のデザインは、“原音の純粋さを「光と影」で表現する”というAstell&Kernのデザインテーマを強く感じさせるもの。山のような形状になっているが、光と影だけでなく、「マウンテンピーク」もデザインモチーフになっているそうだ。

この部分はステンレススチールからひとつひとつ製作されている。アルミニウム筐体とステンレスのパーツを組み合わせる事で、耐久性の高さだけでなく、不要な振動を抑えてノイズを低減させる効果もあるという。

「マウンテンピーク」もデザインモチーフになっているフェイスプレート

内部設計には、3D Printed Interiorテクノロジーを活用。搭載するドライバーが最高の音質を発揮できるように、音響学的に最適化された内部構造になっている。

世界初のデュアルチャンバー・ドライバー・テクノロジーとは?

「The Hybrid IEM Redefined」(ハイブリッドIEMを再定義する)というスローガンを掲げて開発したそうで、当然搭載ユニットの構成はハイブリッド。

高域用には、カスタム・デュアルBAドライバーを採用。専用設計の音響技術で、高域を聴き疲れしない伸びやかな表現にするという「T.A.E.C.」(Tuned Acoustic Expansion Chamber)を採用している。このT.A.E.C.は、Campfire Audioの特許技術で、ドライバー前面の空間の容積を調整することで、ドライバーの性能を最適化するというもの。一般的なチューブ+ダンパーよりも優れ、ドライバーから耳へ直接通路を確保することで、「比類のない透明度と伸びやかさを実現する」という。

中域用には、ハイブリッド型IEMとしては世界初と謳う「デュアルダイアフラム・BAドライバー」を採用。Knowlesのドライバーで、1つのコイルで2つの個別の振動板を動作させるというもの。「まるでツインシリンダーエンジンのように、大きなピストン1つでより大きな馬力とスムーズな動作を実現する」という。

1つの大きな振動板を持つBAドライバーと比べ、どっちが良いのか? という話だが、2つのチャンバーと個別の振動板を用意し、それを1つのコイルで駆動するデュアルダイアフラム・BAドライバーの方が、“小型ながらよりパワフルな出力を実現できる”という利点があるそうだ。

中低域/低域のユニットは、「デュアル・カスタム・ダイナミックドライバー + Radial Venting Technology」というもの。10mm径デュアル・カスタム・ダイナミックドライバーの振動板は、PU + LCPのハイブリッド素材。3Dプリントされたチャンバーに格納される。
このアコースティックチャンバーに使われているのが、Campfire Audioの最新技術「Radial Venting Technology」。「不必要な音圧や低域の誇張、膨らみを増すことなく、より速く、よりパワフルな低域レスポンスを作り出す」というもの。「各ダイナミックドライバーは、ドライバーのフェイスに位置する特別設計の開口部から排気される」とのことで、「ダイナミックドライバーならではの個性的なサウンドを保ちつつ、雄大な低音域を作り出すことが可能になった」という。

ケーブルは着脱可能でMMCX端子

ケーブルは着脱可能で、端子はMMCX。コネクターはカスタムベリリウム/銅仕上げで、真鍮製コネクターよりも摩耗や損傷に強く、嵌合機構を強固なものとしている。

銀メッキOFCリッツケーブル

ケーブルは銀メッキOFCリッツケーブルで、入力端子はなんと、3.5mm/2.5mmバランス/4.4mmバランスの3種類が最初から付属している。さすがは高級モデルだ。ケーブル自体は新開発のフラットデザインで、銀メッキOFC線の導体にエナメル加工を施しており、「よりクリアで伸びやかなサウンドになった」という。プラグやコネクターは耐久性を高めるためにオーバーモールド加工を施し、金属製のハウジングで仕上げている。

3.5mm/2.5mmバランス/4.4mmバランスの3種類が最初から付属している

イヤーピースは、フォームタイプのMarshmallowイヤーピースを3サイズ(S/M/L)、final Eタイプを5サイズ(XS/S/M/L/XL)、シリコンイヤーピースも3サイズ(S/M/L)同梱と、よりどりみどり。イヤーピース&ケーブル収納ポーチ、レザージッパーキャリングケース、イヤフォンプロテクションスリーブと、付属品も充実している。

付属品も充実

管楽器と同じ素材で作られた「A&ultima SP2000T Copper Nickel」

A&ultima SP2000T Copper Nickel

組み合わせるDAP「A&ultima SP2000T Copper Nickel」も簡単に紹介しよう。ベースとなるのは既発売のハイエンドモデル「A&ultima SP2000T」だが、そのハウジングに銅とニッケルの合金「白銅」を使った限定版となっている。7月16日に発売されており、国内限定150台。価格は449,980円と、通常のSP2000T(329,980円)よりも高価だ。

オーディオ機器で「白銅」という言葉はあまり耳にしないが、管楽器に使用される素材で、深みのあるふくよかな音を生み出すことで知られている。しかし、加工が難しい事でも知られ、そのため数量限定生産になるそうだ。

左からA&ultima SP2000T Copper Nickel、通常のA&ultima SP2000T

素材として美しいだけでなく、高い耐食性と抗菌性、耐汚染性も備えているのが特徴。実際に手にしてみると、通常モデルよりもズシリと重く、“金属のカタマリ感”がスゴい。筐体の剛性も非常に高く、手にしているだけで「あーこれは良い音がしそう」と予想してしまう。

実際に音質も優れているそうで、「さらに高い導電性と低い磁気シールドにより、アルミニウム製ハウジングであるオリジナルSP2000Tとは異なるサウンドを体感できる」という。こちらのサウンドも楽しみだ。

筐体以外の特徴は通常モデルと同じ。ESSの「ES9068AS」を4基搭載している、ハイエンドDAPらしい仕様だが、最もユニークなのは「トリプルアンプシステム」を搭載している事。

「OP-AMP(オペアンプ)」、「TUBE-AMP(真空管アンプ)」、それらのサウンドの特徴を兼ね備えた「HYBRID-AMP(ハイブリッドアンプ)」の3つのモードを切替え可能で、ユーザーの好みでサウンドを変更、調整できる。

アンプモードの切り替えで、背面のLEDカラーが変化する

音を聴いてみる

ではPATHFINDERの音を聴いてみよう。SP2000T Copper Nickelは2.5mm、3.5mm、4.4mmの出力端子を備えているので、今回は主に4.4mmのバランス出力を使用。ハイレゾファイルや、Amazon Music HDのストリーミング楽曲を再生した。なお、SP2000T Copper Nickelのアンプモードはオペアンプとしている。

藤井 風 - "まつり" Official Video

「藤井風/まつり」を再生した瞬間、「ああー! Campfire Audioのイヤフォンだ」とわかる。この「まつり」は陽気で雅な楽曲なのだが、かなり低音が深く、全体的にヘビーなバランスになっている。そのため、低音をパワフルに再生できても、その振動に負けてしまう筐体だと、筐体の振動や、内部で低音が膨らみすぎて、ボワボワした音に聴こえてしまいがちだ。

だがPATHFINDERではそんな心配が一切ない。低域用のユニットには、10mmのデュアル・カスタム・ダイナミックドライバーが使われているが、ダイナミック型らしい自然で量感が豊かな重低音が迫力満点に飛び出してくる。だが、低音の輪郭は非常にシャープで、「ズズーン」と地を這うようなベースラインも、単に「ズーン」というゆるんだ音ではなく、弦の振動が「ブルブル」と震えて響きが生まれ、それがスッと消えていくという時間軸の変化もキッチリ聴き取れる。

この深くてタイトな低音は、Radial Venting Technologyを用いたアコースティックチャンバーと、アルミニウム+ステンレスで剛性が高い金属筐体ならではのものだろう。溢れ出るようなパワフルな低音が、破綻したり、暴れたりしないように、ガッチリした筐体で制御するようなサウンドに、Campfire Audioらしさを感じる。

YOASOBI「ハルカ」Official Music Video

低域のクオリティの高さにしばし驚いてから、次の曲として「YOASOBI/ハルカ」を聴くと、今度は中高域のクリアさに驚かされる。ボーカル・ikuraの高音が、スッと伸びていって、空間に消えていくあいだに、ハウジングの壁みたいな制約を感じない。開放型ヘッドフォンにも似た爽やかさがある。この素直で抜けの良い中高域だからこそ、パワフルな低域に負けずに耳に届き、全体として良いバランスを実現できているのだろう。

Aimer『カタオモイ』MUSIC VIDEO(FULL ver.)

質感描写を聴くために、「Aimer/カタオモイ」を聴くと、Aimerのクールながらも、感情豊かな声の表現を微細に描写してくれる。中高域がBAのイヤフォンだと、どうしても人の声が金属質な、硬い表現になってしまいがちだが、PATHFINDERはの高域にあまり不自然さはなく、逆に、Aimerのボーカルのかすかな表現の変化をシャープに描写してくれるので、聴いていてゾクゾクするような、中毒性がある。

さらに面白いのはここからだ。前述のように、SP2000T Copper Nickelにはオペアンプ、真空管アンプ、それらのサウンドの特徴を兼ね備えたハイブリッドアンプの3モードを切り替えられる。

今まではオペアンプで聴いていたが、「Aimer/カタオモイ」を聴きながら、真空管アンプに切り替えると思わずニヤけてしまう。オペアンプ時の、シャープでソリッドな感じは薄れる代わりに、真空管らしい、ウォームでゆったりとした声に変わるのだ。先程までは声の細かな描写にゾクゾクしていたのだが、真空管ではAimerの声が寄り添うような優しさに満ちていて、聴いているとホッとする。

SP2000Tは、このように聴く曲に合わせて、好みの音にカスタマイズできるのが最大の魅力なのだが、アンプモードによる音の違いがここまでバッチリと、克明にわかるのはPATHFINDERの実力あってこそだろう。

ちなみに、真空管の優しさと、オペアンプのソリッド感のちょうど真ん中くらいが欲しい時は、ハイブリッドモードでその“配分”を調整する事もできる。「もうちょっと真空管ぽさを増やそうかな」「ああーこれだ! この設定だ!」とか深夜に自室で1人盛り上がっているのだが、理想とするサウンドが出た時は実に気持ちが良い。ポータブルだが、まさにオーディオの楽しさだ。

A&ultima SP2000T Copper Nickelはどう音が違うのか?

左から通常モデル、A&ultima SP2000T Copper Nickel

オマケで、SP2000Tの通常モデルとCopper Nickelで、どのように音が違うがもチェックしておこう。ぶっちゃけ「筐体の素材が違うだけで、音にそんなに違いがあるの?」と思われるかもしれないが、実際に聴き比べると結構音が違って面白い。なお、比較はどちらもオペアンプモードで行なっている。

「藤田恵美/camomile Best Audio」の「Best OF My Love」の2分あたりから再生して聴き比べたが、まずアコースティックベースの「ズシン」という低域の沈み込みが、Copper Nickelの方が深いというか“重い”。ズシンという音の輪郭がどちらも明瞭なのだが、Copper Nickelのサウンドは、その音像の中にある芯が、より強固に1本通っている印象だ。

さらに、シンバルがシャラララ~♪ と鳴り響き、美しい余韻を残して空間へと広がっていくシーンでは、明らかにCopper Nickelの方が響きが豊かで、高域のキラメキが鮮烈で、聴いていて「ああああー!!」と謎のうめきが漏れるほど気持ちが良い。通常モデルも非常に高解像度で抜けも良く、美しい高域なのだが、響きの芳醇さ、そしてそれが背後の空間に広がって消えていく様子まで、Copper Nickelの方がじっくりと見渡せる。

管楽器と同じ素材を使っているならばと、「マイルス・デイビス/Kind of Blue」から「Flamenco Sketches」を再生すると、トランペットの音圧豊かなサウンドがゾクゾクするほどリアルでありつつ、高域に滑らかさもあり、聴いていて惚れ惚れする。

決して高音のエッジを強調したり、低音を膨らませたような“演出”を加えた音ではない。高域の響きや、低域の“低重心さ”がさらに進化するイメージなので、通常モデルのサウンドが気に入った人は、Copper Nickelのサウンドはさらに気に入るかもしれない。

ポータブルオーディオ歴が長い人は、AKのDAPがこれまで筐体の素材違いのモデルを沢山リリースしている事をご存知だろう。これまでは主に、ステンレススチールを使ったモデルと、ブラス(真鍮)に金メッキコーティングを施したモデルを展開する事が多く、モデルによって程度は異なるのだが、ザックリ言うと“ステンレスのモデルがシャープで硬質”“真鍮モデルがナチュラルでウォーム”な音という傾向があった。

ただ、今回のCopper Nickelと通常モデルの違いは、それとは異なり“シャープで鮮烈ながら、響きの美しさ”も兼ね備えている。通常モデルと比べるとやや高価ではあるが、SP2000Tが気になっている人は、Copper Nickelも試聴した方が良いだろう。

まとめ

SP2000Tの通常モデルとCopper Nickelを聴き比べながら、改めて感じるのはPATHFINDERの基本的な再生能力の高さだ。

ドライバーが高解像度なサウンドを再生するだけでなく、強固な筐体で余分な響きが少ないため、繊細な描写の違いが聴き分けやすい。さらにSP2000Tは、アンプモードの違いで音の質感を変化させられるので、その変化の具合も聴き取りやすい。PATHFINDERと、非常に良いマッチングと言えるだろう。

市場では完全ワイヤレスイヤフォンが話題になる事が多いが、ハイエンドなDAPで、PATHFINDERのような実力派有線イヤフォンをドライブすると、TWSではどうやってもかなわない高音質の世界に圧倒される。作業をする手がとまり、読んでいた本の内容が頭にはいらなくなり、ただ、耳から入ってくる味わい深い音楽の世界に意識の全てが奪われる。PATHFINDER×A&ultima SP2000T Copper Nickelで、ハイエンドなポータブルオーディオの世界ならではの楽しさを、改めて実感した次第だ。

(協力:アユート)

山崎健太郎