レビュー

工事の騒音の中でも二度寝したい。夜型人間の頼れる“寝ホン”はどれだ?

二度寝のお供として、4種類5モデルを試しました

大変です。自宅がうるさいです。近くのマンション工事の音で毎朝9時に叩き起こされています。夜型生活の私には早すぎる目覚めです。雨の日はお休みのようですが、隣近所でリフォーム工事も行われており、全天候型のサラウンド環境となっています。

そんな窮状をAV Watch編集部にこぼしたところ、「“寝ホン”という文化もありますから、それで二度寝したらどうですか。試用機を送ります」と編集Nさんからのご提案。嬉しさで目が覚めました。

そのラインナップというのが、今回ご紹介する4アイテムです。私自身、楽器演奏が趣味ですし、通勤にはANCイヤフォンが欠かせず、イヤフォンについて多少は知っているつもりでした。しかし“ASMR用”など、こんなにも多様化していたのかという事実には正直驚きです。そんな浦島太郎的な感動もお伝えします。

  • ag「COTSUBU for ASMR 3D/MK2」 3D:直販8,480円、MK2:直販7,980円
  • AZLA「ASE-500 ASMR」 スタンダード:6,600円、DACケーブル(USB-C or Lightning)付き:8,800円
  • ソニー「WF-1000XM5」 実売4万円前後
  • AZLA「POM1000」 実売4,000円

ちなみにプライベートの私はiPhone 14 ProとAirPods Pro(第2世代)の組み合わせをメインに使っていますが、今回はAndroid端末のGalaxy Z Fold5で、ワイヤレスイヤフォンについては開発者モードのコーデック表示を確認しながら試聴しました。

試聴端末はGalaxy Z Fold5。普段はiPhoneユーザーなので、音楽再生にはAppleMusicを使いました

ケースも音も、とにかく“触感”:ag COTSUBU for ASMR 3D/MK2

まず“ASMR専用イヤフォン”、しかもワイヤレス、という新世界に驚きです。この2機種はどちらもケース外装、イヤフォン外装ともに「粉雪塗装」というサラサラの表面仕上げで、美観的にも滑り止めの機能的にもイイ感じです。色味の繊細さもイイモノ感があります。これだけでも、1万円未満という価格が魅力的に映ります。

左がASMR 3D、右はASMR MK2

いわゆるノイズキャンセリングなどの最強性能をウリにしている製品ではありませんが、それゆえに、装着時の物理的な軽さ、仕上げの上品さなどトータルバランスのレベルが高そうという第一印象を持ちました。調べてみると、このagは株式会社finalの中にある「ちょうどいい」ワイヤレス製品を提案するブランドだそうで納得です。

さてASMR音源。といってもジャンルは多様ですが、YouTubeで検索すると女の子のイラストに、ささやき、耳かき、といった言葉が並びます。この扉、開けてしまっても大丈夫でしょうか?

【ASMR】新感覚!超寝れる最強の不眠解消! the Most IMMERSIVE Triggers Ever Recorded! Sleep & Tingles GUARANTEED【周防パトラ】

というわけで「このチャンネルで試聴すれば、一定の納得感があります」「もしくは“ノイマンKU100”(ダミーヘッド型マイク)と書いてあれば手堅いです」との前情報を編集部から得たため、Patra Channel / 周防パトラ「【ASMR】新感覚!超寝れる最強の不眠解消! the Most IMMERSIVE Triggers Ever Recorded! Sleep & Tingles GUARANTEED【周防パトラ】」を再生。

水中にいるような背景音の中から、「(息を)吸って〜、吐いて〜」という、健康診断の腹部エコー以来の指示が、右耳左耳に交互に飛んできます。それも女性のささやき声で。「どんどんどんどん、ゆーっくり、眠くなってくるー」とささやきは続けます。プロなら速やかに入眠できそうですが、素人の私はなんだか逆に目が覚めてしまいました。「まだまだ修行が足りぬ」(by石川五右ェ門)という心地です。不覚。

ASMR 3D(aptX)

「とにかく広がり感がすごい!」という前情報の製品。ASMR 3DとASMR MK2の2機種を聞き比べながら、“3D”の意味するところを探してみることにしました。

装着イメージ

前述のささやきコンテンツを聞き比べてみると、音域的な違いがわかりやすかったです。ASMR 3Dでは、ささやき声を直接聞いたら本来は存在しないであろう中低音(息が当たっているようなボフボフ感)がついてきません。ここに、生の声っぽさがあるように感じました。

この余分な中低域が生まれない仕組みを知りたくて、聴き慣れたバンド音楽を再生してみました。するとバスドラムの主成分である胴鳴り感、軽く歪んだエレキベースの唸り感が主張してこないことに気付きました。

バスドラムのビーターが打面にヒットする音と、ヒットした後に聞こえてくる空気の唸る音はあるので、ASMRコンテンツの生々しさを損ねる部分を局所的に抑えて、聴覚をサワサワと撫でる音域に特化したチューニングなのかな? と想像しました。特に中高音〜高音域寄りの触感が大事なコンテンツを聴くと気持ちよさそうです。

ASMR MK2(aptX)

こちらはASMR 3Dに比べると、より音楽も自然に聴ける音作りと感じました。ステレオのセンターに配置されている音はビシッと真ん中から聞こえてきます。比較すると先のASMR 3Dは、通常のステレオ音場を真ん中で割って、左右方向に押し広げたようなイメージなのかなと感じます。

外観上の2モデルの違いは、カラーと機種名の記載

音域的にこちらは、ASMRコンテンツの触感に完全特化という感じではなく、バンド音楽を聴いてもバスドラムの胴鳴り、エレキベースの唸りまで聞こえます。東京事変の楽曲を聴くと、ちゃんと亀田師匠のベースが存在感を取り戻していました。ASMRコンテンツを楽しみたいけど、普通にワイヤレスイヤフォンとしても使いたい、という場合はこちらが合いそうです。ただ、日常用途だとfor ASMRではないMK2(今回試用したものとは別モデル)の豊富なカラバリにも惹かれます。

ちなみに使い始めの頃は、フィッティングのつもりでイヤフォンに触れた際に、タッチセンサーが反応してしまうことが多々ありました。ハウジングが小さいゆえにセンサーを避ける周辺部が狭くなっているようで、片側のタッチセンサーを5回タップすることで操作をロックできる「ASMRモード」を常用しました。こうした機能も細やかです。

モチモチ大好き:AZLA ASE-500 ASMR(有線をUSB Type-Cアダプターで接続)

AV Watch編集Nさんから「このイヤフォンは、モチモチです」という前代未聞の説明を受けました。ドライバーとケーブル以外をシリコーン製としているのが特徴で、ハウジング部分をつまむと確かにモチモチ(物理)。150cmのケーブルにはマイクも備わります。

ハウジングの柔らかい感じからして“寝ホン”向きだな〜と思いつつ、ASMRという商品名なので、ささやきASMRコンテンツを再生してみます。音の触感に作用しそうな明瞭な中域〜高域にフォーカスした音質を持っていることを、音楽の試聴でも確認しました。いわゆるASMR用というのは、こういう方向性の音質のことを指すのですね。

このイヤフォンは、耳からハウジングの突出が大きくないため、今回試した製品の中では最も顔を横向きにできました。ただ、音の出口が塞がるぐらい横を向くと、音が聞こえなくなります。これはこのイヤフォンに限ったことではありませんし、イヤフォンや耳穴に変な力が掛かってしまうかもしれないので自己責任。どの製品であっても、左右45度ぐらいの寝返りがいいところでしょう。

そもそも“イヤフォンしたまま横になる”、というのはこちらで勝手に試していることですが、輸入元のWebサイトを読むと「着けたまま眠ってしまっても耳への負担を極力少なくする」というイヤーピースを採用しているそうで、音質的にもASMR専用設計のものだとか。それがSS〜Lサイズまで6ペアも同梱されています。すごいです。

上がLightning変換ケーブル、下がUSB Type-C変換ケーブルとC→Aアダプター
ケースもモチモチ。これ、結構スマートです。口は開いたままですが中身が滑り出ません

今回はAndroid端末で、最大96kHz/24bit対応のUSB Type-C変換ケーブルとC→Aアダプターが同梱されたモデル(UC)を試しました。ほかにもiOS端末用に最大48kHz/24bit対応のLightning変換ケーブルを組み合わせたモデル(LT)と、4極プラグの単体版(Standard)があります。お値段は単体版が6,600円、変換ケーブル付きが各8,800円です。

小型化に注目:ソニー WF-1000XM5(LDAC)

最強ノイキャンと呼ばれて久しいシリーズですが、小型化により“寝ホン”にもいけるのでは?との理由で参戦となりました。私自身、これの旧モデルであるWF-1000XM3、M4と使ってきたので気になる存在でもありました。価格帯的にも先のASMR用とは別枠ですね。

ハウジングの小型化で、凝縮感が増した印象を受けます

M4に比べて更に小型化したとはいえ、先のag COTSUBUやAZLAのモチモチ(ASE-500 ASMR)に比べるとハウジングの突出量は大きいものの、高ビットレートのLDAC転送で密度ある音質に気を取られているうちにスンナリと二度寝できました。これぐらいANCの効きが強いと音楽を流さなくても耳栓的に使えます。こうした最強ノイキャン系のイヤフォンには、旅行で大部屋に泊まったとき、同行者のイビキで寝つけないという局面を何度か救われています。

音楽を聴けば、騒がしすぎないけれど元気な音作り。仕事帰りに乗り込む満員電車、このイヤフォンを耳に入れさえすれば、もう全てをシャットアウトして自分の世界に逃げ込める気がします。その静寂にお気に入りの音楽が量感タップリに流れ出すわけで、人気の理由がわかります。

願わくば耳への装着時、片手で簡単にベストフィットが得られるようになると嬉しいです。これは耳穴の形状とか差し込む深さの好みもありそうですが、私は反対側の手で耳たぶを引っ張りながらハウジングを奥に押し込んだり、親指と人差し指&薬指で耳たぶを引っ張り、中指でハウジングを押したり(タッチセンサーが反応しがち)しています。この手間が省けたら最高です。

番外編? 趣味用に買います:AZLA POM1000(耳栓)

こちら、4,000円の耳栓です。というとビックリするかもしれませんが、“ライブの音質を犠牲にしない耳栓”と言われている製品です。上で紹介したモチモチイヤフォンでお馴染み、AZLAが手がけています。

近年、家電量販店のオーディオコーナーに耳栓コーナーを見かけます。コンサートの大音量から聴力を守るための耳栓で、なるべくライブの音質を変えずに音量を下げることを目指したものです。この製品もそのトレンドに沿ったものですが、金属製のハウジングである点と、イヤーピースがイヤフォンのそれになっていることが目を引きます。

というわけで、ドラムの個人練習に持参してみました。私は20年ぐらいドラムなどバンド楽器の演奏を趣味にしていますが、常に耳栓を使います。耳がオーバーロードしつづける疲労感がなく、他の楽器の音も聞きやすく感じるからです。長らくEtymotic ResearchのER20というモデルを使い続け、近年は高音までバランス良く聞こえるというのがウリのフィルターが入ったものを愛用しています。新しいものほど演奏性と楽しさが向上し、ありがたく感じていました。

ドラム練習に連れ出してみました。左右をつなぐストラップが滑りにくい素材なので便利です

POM1000を使ってみます。まずはイヤフォンらしい装着しやすさに感激します。3段フランジの耳栓だと、耳穴にスンナリ入る時もあれば、摩擦でなかなかうまく入らない時もあるからです。楽器のセッティングに忙しい場面で、耳栓のフィッティングに時間を取られることをわずらわしく感じていました。

イヤーピースは、音質的にも装着感的にもSednaEarfit MAXのLサイズに落ち着きました。もう1セット同梱されているSednaEarfit XELASTECも試しましたが、スムーズな装着と、期待するドラムの音っぽさ(自然さ)から、私はMAXが好みです。

演奏しながらイヤーピースを取っ替え引っ替え、一通り試しました

普段の音楽用耳栓よりかなりワイドレンジな音が聞こえて、クラッシュシンバルの華やかな高音も耳に飛び込んできます。「これ、ちゃんと遮音されてるのか?」と思ってPOM1000を外してドラムを叩いたら、ビックリするぐらいの爆音。ちゃんと音量は下がっていました。嬉しいのは、フロアタムやバスドラムの低い音も音符ごとにハッキリ聞き取れることです。3段フランジの耳栓ではボワボワと低域が膨れるため、叩いた感触から出音を推測していました。

あと、この耳栓にはオープン/クローズモードがあり、ハウジングをひねると内部のポートが開閉する仕組みになっています。基本はクローズ(−)ですが、オープン(●)にすると、ライドシンバルのピング音(シンバルの平らな部分をスティックの先でチン! と叩いた音)が耳によく届きます。繊細なタッチを聞きたい音楽のときは、オープンモードが良さそうです。ロックバンドの音量なら迷わずクローズです。私がドラム単体で聞き比べた限りでは、オープンとクローズで音量の変化はあまり感じられませんでした。

一応、工事の騒音でも試してみましたが、予想通り騒音が原音に忠実なまま小さくなりました。優秀です。こういう用途には、薬局でも買える昔ながらの“The 栓”みたいな耳栓のほうが合いそうです。

「没入できる音質」と「物理的な寝やすさ」どちらを取るか

試した中で、最も贅沢感ある二度寝に誘ってくれたのは、高いノイキャン性能+LDACの高音質で音楽に浸れるソニーWF-1000XM5でした。形状的に“寝ホン”も案外いけた、という印象です。

寺井尚子のアルバム「Hot Jazz...and Libertango 2015」を再生すると、バイオリンの弦だけでなく表板が「ヴン」と響く雰囲気まで感じ取れ、各楽器のディテールを追っているうちに気持ちよく眠ってしまいます。とはいえこの魅力(高音質)は高級ワイヤレスイヤフォンに共通する部分でもあるので、同クラスの他製品も聞き比べたいところ。

寝やすさで言えば、間違いなくASMR用の2製品(ag COTSUBU ASMR 3DとAZLA ASE-500 ASMR)です。どちらもハウジングの突出量が少なく、寝る姿勢の自由度が高いため、多少ウトウトしたい程度の昼寝でも使えそう。

試聴に使わせてもらった「Patra Channel / 周防パトラ」もチャンネル登録したし、ASMR入門用にどちらか1つ欲しいなと思いました。音としてはag COTSUBU ASMR 3Dの全振り具合が印象的で、AZLA ASE-500 ASMRは「ね?モチモチでしょ?」って仲間に自慢したいです。

耳栓のAZLA POM1000は、工事とか二度寝とか関係なく音楽用に買います(買いました)。

というわけで個性派揃いのイヤフォン+耳栓の世界、ありがたく勉強させていただきました。そして、マンション工事はまだまだ続きます。

鈴木 誠

ライター。デジカメ Watch副編集⻑を経て2024年独立。カメラのメカニズムや歴史、ブランド哲学を探るレポートを得意とする。インプレス社員時代より老舗カメラ誌やライフスタイル誌に寄稿。ライカスタイルマガジン「心にライカを。」連載中。日本カメラ財団「日本の歴史的カメラ」審査委員。趣味はドラム/ギターの演奏とドライブ。 YouTubeチャンネル「鈴木誠のカメラ自由研究」