本田雅一のAVTrends
OPPO Digital新規製品開発終了の衝撃とディスクプレーヤー市場の転換点
2018年4月3日 09:18
米OPPO Digitalが、今後、新製品の企画・開発を行なわないと発表した。これに伴い、日本法人であるOPPO Digital Japanも新たな製品ラインナップを追加することはなくなる。
ただし、今回のアナウンスは事業が傾むいて会社が存続できない、あるいは今後、既存製品のメンテナンスやアップデートを行なわないといったアナウンスではないことだ。むしろ売上は好調で、とりわけ主力製品のUltra HD Blu-rayプレーヤーなどは、競合が少ないこともあってグローバルで人気を集めている。
また、ファームウェアアップデートや既存製品の販売、追加生産も行なわれ、既存製品のサポートも継続される。あくまでも、"新製品の開発”を行なわないということだ。
しかしながら、業界内での成功者とも言えるOPPOが新規製品の開発を行なわないという発表は、かなりの驚きと混乱の反応があることだろう。高品位なユニバーサルプレーヤーの開発に力を入れるメーカーが少なくなってる中、OPPO Digitalは残存者利益を享受する立場にあったからだ。
ブルーレイプレーヤー、DAC内蔵ヘッドフォンアンプ、USB DAC、ポータブルヘッドフォンアンプなど、時流に合わせてコストパフォーマンス抜群の製品を開発、供給。ファームウェアアップデートでによって、製品のライフタイムサイクル内に大幅に機能を追加、新しい技術トレンドへ対応するなどの積極性によって、近年ではもっとも成功し、ブランド力を高めてきていたメーカーは、なぜ撤退を決めたのだろうか?
好調のうちに終息という判断、その理由
前述したように、米OPPO Digitalはブルーレイプレーヤーをスタート地点に、大手メーカーが徐々に上位モデルの開発を諦める中、継続して高品位な部品の採用や、積極的なデジタル・オーディオ技術トレンドへの対応(多くはソフトウエアアップデートでの対応)などで評価され、瞬く間にグローバルで知られるブランドとなった。
主戦市場は米国ながら、日本ではエミライ(のちにOPPO Digital Japan)とのパートナーシップにより、質の高い日本市場対応を進めてきた。たとえば、日本の放送録画をDLNA経由で正しく再生できるなど、利用者から見れば当たり前、しかし大手メーカーでもきちんと対応できていないケースもある、といった事案に、きちんと代理店がコミュニケーションを取って対応してきたという歴史がある。
その魅力は、決断と開発の速さ、それに低コストで安定した品質の製品を生産し、提供できたからに他ならない。たとえば昨年、もっとも多く売れてUSB DACのSonica DAC。ESSのSABRE ES9038PROを搭載するこのDACは、実は日本市場向けにコンセプトを10分ぐらいで決めたものだったという。
日本でDACが売れているという話題が、出張先のホテル朝食で出たとき、こんなコンセプトの製品が出れば、きっと売れるに違いない。そう話した少しあとには、すでに製品コンセプトが仕上がっていたという。
製品開発を行なうことが決まればあとは早い。すぐに設計・試作して量産まで持ち込める。
OPPO Digitalの製品は、エンスージアストも納得するスペックや部品を採用し、十分な(かなりマニアックでもある)品質の音や映像を、少し高価であっても、分かる人にはわかるリーズナブルに購入できる価格帯に収めているところが大きな魅力だった。
もっとも、マニアックな消費者の心を理解しているものの、しかし右肩上がりを描けない場合、どのように今後のビジョンを考えればいいのか。それがOPPO Digitalの直近におけるもっとも大きなテーマだった。
なぜなら、USB DACなどシンプルな構成の製品は、参入障壁が低いため、すでに多くの中国メーカーが参入しているように、今後はどんどん競争が激しくなる。OPPO Digitalは高級BDプレーヤーの開発を通じ、それら製品の開発で先行してきた歴史がある。言い換えれば、OPPO Digitalの競争力の源となっていた高級BDプレーヤー市場の先行きを考えて、今後、新たなハードウェアを開発せず、ソフトウェア・アップデートにのみに社内リソースを集約することに決めたのだろう。
現状ではなく将来を見据えての判断
グローバルなビジネスの中において、とりわけマニアックな高画質を重視する層に対して、いまだにUHD BD、あるいはBDであっても、優れたプレーヤーは重要な存在である。しかしながら、主戦場である米国はNetflixやAmazon Prime Videoなどを始めとするネット配信業者の映像を見る機会が増え、相対的に物理メディアの売上は下がっている。
このトレンドが急変することは考えにくく、UHD BDに新たな機能や規格拡張が行われることも、おそらくはないだろう。ならば、新ハードウェアをさらに企画していく積極的な理由はない。
つまり、前向きに新製品に投資をしていける積極的な理由が見えてこないというのが、今回の発表における根本の理由なのだと推察される。
また、公式な発表は行なわれていないものの、現在確保している生産拠点からの撤退を余儀なくされた背景もあったようだ。OPPO Digitalは、より生産規模が大きい他の電子機器ジャンルで知られるメーカーの工場敷地内に生産拠点を構えてきた。しかし、方針転換などによりその維持が難しくなった。
新工場への投資余力はもちろんある。しかし、現状の市況から見ると規模の大きな拠点を再構築することは難しく、OPPO Digitalが得意とした“豪華仕様だが価格は抑えめ”という高コストパフォーマンス路線が維持できなくなる。同社は「高品質な製品を多くのお客様に提供すること」が目標だと話していたが、新工場ではそれが達成できないという背景もある。
他メーカーにまで目を向けると、高級UHD BDプレーヤーを開発するメーカーは、他にパナソニックぐらいしかない。欧州で発表された「DP-UB9000」はバランス仕様のアナログ音声出力を持ち、DSD再生にも対応するなど音質に拘ったモデルだが、日本での発売は未発表。またパナソニックは、ストリーミングビデオへの市場転換が最も進んでいる北米市場でAV製品を展開していないという背景もある。
日本で市場向けには、従来と同様、高級BDレコーダーにDP-UB9000相当の品質を詰め込んだ製品が登場する可能性もあるだろうが、おそらく“プレーヤー”という単機能モデルでは勝負しにくいのではないだろうか。
今後、インターネットを通じたストリーミング映像配信サービスが高画質化したとしても、100Mbpsを超える転送速度を持つUHD BDは当面の間、もっとも高い画質を実現するメディアであり続けることは間違いないだろう。
ハードウェアプラットフォームの更新は行なわれないが、ファームウェアアップデートを継続していくためのエンジニアは確保。継続的に改良を加えていける体制は整えているという。HDR-SDR変換の品質などHDRまわりの改良も続けられるようだ。OPPO Digitalが得意とするファームウェアの工夫によるアップデートに、今後も期待をかけたい。