本田雅一のAVTrends

BS 4Kの先陣、東芝REGZAはエントリー機「M520X」に注目。'18年の有機EL画質は?

出そろった新OLEDテレビの注目ポイント

 ソニーパナソニック、東芝の3社がそろって新型4Kテレビを発表した。すでに製品発売済みのLGと合わせ、注目は価格が下がってきた有機EL(OLED)テレビだろう。いずれもLGディスプレイ製のOLEDパネルを採用しているが、パネルの使いこなし、映像エンジンの違い、そして絵作りや映像処理に対するアプローチの違いなどにより、メーカー間の画質差は驚くほど大きい。

東芝REGZA X920シリーズ
ソニーBRAVIA「KJ-65A8F」

 まだすべてのメーカーに関して、詳細な検討・比較をやりきれていないため、各社の特徴比較は避ける。しかし、ピーク輝度や色再現領域、表面処理などで大きな違いはないはずだが、今年仕様のパネルにはいくつかの特徴があり、その特徴を活かすか、合わせ込むかによって画質が大きく変わる。

 まず、ピーク輝度に変わりはないが、もっともよく使われる中間領域の明るさが向上している。パナソニックが映画モードでの明部の再現性が高くなったとコメントしているのは、そうした特性を応用したものだろう。これは主にOLEDパネルとセットで提供されるドライバ部の部品「T-CON」(タイミングコントローラ)側の変更で達成しているものだ。

パナソニックVIERA「TH-65FZ1000」

 また、昨年仕様の課題だった、黒に近い“光っているのがわかるかわからないかギリギリの明るさ”の階調を出せるようになった。とはいうものの、画素ごとに自発光するOLEDの場合、ギリギリの暗い発光を安定化させるのは極めて難しい。

 面全体の均一性や階調表現の安定性を引き出すため、各メーカーは一工夫せねばならず、ここでのメーカー間の違いは大きくなるはずだ。業務用のマスターモニターにも使われている極めて高価なシステムでも、最暗部の階調は安定しない(ためある輝度以下は消灯して黒が潰されている)。

 他にも画質面には影響がないアップデートもあるが、画素構成がRGBW(白画素がある)という点をどう使うのかなど、パネルそのものの仕様変更とは別の視点でも画質改善の要素がある。

 RGBWの場合、ある輝度領域まではRGB画素で画素を作るが、それ以上の明るさを出す際にはW、すなわち白画素を光らせる。白画素が光れば光るほど色純度は下がるため、徐々に色再現域が狭くなっていく。単に色が薄くなるだけと思われがちだが、色ノイズが多い映像などでは本来は異なる色の画素が、明るい領域で揃ってしまい、ノイズ粒度が大きくなるなどの問題が出てくる。

 他にも様々な事情はあるが、OLEDテレビの画質は“比較しがいのある”テーマといえるだろう。

BS 4Kチューナ搭載のREGZA。「Z」も投入予定

 今回は次世代放送対応のBS/CS 4Kチューナを内蔵した新型REGZAシリーズについて、企画・開発陣に取材してきた。

 すでに発表されているように、新型の4K REGZAはすべて4Kチューナが内蔵されている。インターネット上の申し込みページにアクセスし、顧客情報を入力すると、入力した住所にACASチップを内蔵する「BS/CS 4K視聴チップ」が10月以降、順次送付される。なおネット環境がない顧客に対しては、電話やFAXでの申込みにも対応している。

 先日発表されたのはOLEDテレビのX920シリーズ、液晶4KテレビミドルクラスのBM620XシリーズおよびM520Xシリーズだ。いずれも映像エンジンには新型のレグザエンジン Evolutionが採用されているが、X920シリーズには処理LSIを2個搭載して並行処理を行わせることで、より掘り下げた映像処理を4K映像に対して行なえる“Pro”版が採用される。

 BM620XシリーズとM520Xシリーズの違いはデザインとスピーカー。前者には東芝伝統のバズーカスピーカーが搭載され、低域まで伸びた迫力ある音を出すことができる。映像処理やパネルメーカーは同じとのことだ。

43BM620X
REGZA M520Xシリーズ

 液晶パネルの駆動方式は昨年モデルに引き続きVA型。パネルメーカーは非公開とのことだったが、画素形状をルーペで確認したところ、台湾AUO製であることがわかった。昨年も同様にAUO製であったことを考えると、年次による仕様違いの可能性はあるものの、基本的部分では同一と考えて良さそうだ。

 なお、X920シリーズにはタイムシフトマシンが搭載されているが、液晶の2シリーズに関しては非搭載。タイムシフトマシン搭載の液晶上位モデルが発表されていないことについてTV商品企画担当 参事の本村裕史氏に質問すると「今回の製品は第一弾です。OLEDの“X”やミドルクラスの“M”に加え、今後、“Z”の冠が入った液晶上位モデルを発表する予定です」と話した。

 なお、タイムシフトマシン搭載のREGZAは、Xシリーズおよび未発表の液晶上位モデル。従来と同様に地上デジタル放送のみの対応だ。

OLEDは「最新パネル」を採用

 冒頭でも述べたように、OLEDテレビに関しては各社とも同じ世代のパネルを採用している。昨年は表面処理の仕様が異なるものを採用していたメーカーもあったが、今年はおそらく全社同一仕様。東芝も「新世代4K有機ELパネル」と表現している。

65X920

 なお、昨年までは部品メーカーであるLGディスプレイの生産プロセス名でパネル世代を区別していたが、今年からはLGディスプレイの方針転換もあり、外部には公表しないことになったそうだ。パネル生産プロセスだけでは、そのパネルの仕様を表すことができないためだ。たとえば昨年はV17パネルに対して、前述したように表面処理が異なるパネルが存在した。

 では東芝視点での最新パネルは、どういった違いがあるのだろう。同社TV映像マイスタの住吉肇氏は「新採用のセル構造とフィルタ構造、それに明るさだ」と話す。

 東芝が昨年発売したX910シリーズは、パネルの生産プロセスは昨年仕様だったが、フィルタ仕様はその前年のパネルに使われたものと同じだった。これは調達時期を前倒しにしたいからだったようだが、今年はより反射が抑えられた最新版になっている。

 明るさに関しては「ピーク輝度が1,000nitsという点や、ピーク輝度を出せる条件として輝点が占める割合が5%以下という部分も同じです。しかし、平均輝度がパネル能力の半分ぐらいの時、従来よりもパネル全体の光量は増えます(住吉氏)」

 なお、画素構造が変更されたとのことだが、これによる画質差はないという。具体的にどう変化したのかは未公表とのことだが、ルーペで確認したところ、R(赤)画素がG(緑)やB(青)よりも大きくなっていた。

BS 4K対応でお買い得価格? 「M520X」に注目

 前述したようにミドルクラスの2モデルは、スピーカーとデザインが異なるだけで、画質に関しては基本的には同じだ。映像エンジンが更新されているものの、パネルの基本仕様や画質コンセプトは昨年モデルを引き継いでおり、HDRの処理が改善されているなどの違い、スマート機能の違いなど年次更新による機能違いはあるが、清く正しい後継機種だ。

 いずれも下部エッジに配置されたLEDバックライトは分割駆動ではなく、4Kテレビの普及を狙った製品で、暗部の階調や色再現性などでは限界がある。しかし、X920と同じぐらい注目されるべき製品だ。

 東芝ダイレクトでの価格を見ると、M520Xは昨年のM510X登場時よりも安価に抑えられている。量販店での実勢価格は、モデル末期のM510Xの方が安いが、ほぼ“同価格帯”といえる。50型「50M520X」は発売直後の現時点でも20万円を切る。その上、43型から65型と幅広いインチ数が並べられている。

55M520X

 この価格帯の製品に放送開始直前のBS/CS 4Kチューナが内蔵されるというのは、(同様に放送開始前に製品投入された)BSデジタル放送開始前夜には考えられなかった、異例のことだ。

 BSでの4K放送が、どのような内容になるかまだ予想しにくいものの、NHKは近年、ほとんどの映像を4K、6K、あるいは8Kで撮影しており、かなり力の入った内容になることは間違いない。民放も使用するカメラの4K化は以前から進んでいる。

 4K放送には左旋波を受信可能なアンテナなどが必要と思われがちだが、NHKと在京民放キー局は右旋波に集中しており、それらはすべて現在のBSアンテナで受信できるのだ。左旋波のBS放送で重要なチャンネルというとWOWOWの4Kがあるが、こちらは2020年のサービス開始だ。

 さらにCSを通じた4K放送では、スカパー!が左旋波で4K放送を行なうが、スカパー!プレミアムに1年以上加入することを条件に、左旋波に対応したBS/CSの受信システム(CSチューナおよびアンテナ、取付工事などのセット)一式を無料で提供している

 このような状況の中で、テレビ市場全体で言ってもミドルクラス、4Kテレビとしてはエントリークラスの製品に4Kチューナが内蔵されている意味は大きい。

「ほとんどの家庭に置かれているテレビという商品は、新製品のたびに買い換えるものではありません。以前の製品が壊れたり、あるいは引っ越し時に新調したりといった、商戦期や放送サービスの動向とは無関係に買い替えしたい場合があります。そのような”普通の買い替え”の時、来年になればすべてのメーカーがチューナを内蔵するだろうことがわかっているのに、チューナ内蔵モデルを買えないという状況を避けたかった」と本村氏。

 一般的に、こうした最新機能は上位モデルから順次導入されるものだが「来年になれば基幹放送が始まり、全員が見れるはずなのに見られないという残念な体験は避けたい」との意図で、全モデルへの搭載を決めたという。

「4Kチューナ内蔵モデルが欲しければ高いのを買ってね、ではなく、欲しい機能・画質・サイズを予算と相談しながら選べるようにするのが最大の狙い」(本村氏)

 確かに東芝が主張するように、来年になれば“入っているのが当たり前”で、誰も内蔵しているか否かを話題にすることもないだろう。だからこそ、現時点では“レグザだけ”という部分が効いてくる。

 ローカルディミングなどのフィーチャーはないため、照明を落とした環境でプレミアムな映像を楽しむといったマニアックな使い方には向かないが、エントリークラスの4Kテレビを選ぶのであれば、M520Xは最初に視野に入れるべき製品だ。

新エンジンにみるREGZA画質の進化

 さて、最後に新しい映像処理エンジンについて触れておきたい。「レグザエンジン Evolution」と名付けられた新エンジンは、前述したようにLSIを2個使いするPRO版(現時点ではX920シリーズのみ搭載)と無印版(Mシリーズに搭載)がある。それぞれに従来と同じ考え方をさらに発展させた映像処理を行なうが、能力が高くなる分、各処理には「PRO」という名前が付けられる。

レグザエンジン Evolution PRO
X920のみ上位の「レグザエンジン Evolution PRO」を搭載

 たとえば、レグザエンジン Evolution PROは4K放送に対して超解像技術を施す
「BS/CS 4KビューティX PRO」という機能が盛り込まれている。4K放送を毎秒30フレーム、24フレーム、60フレームに分類し、フレーム数ごとに適切な時間軸で参照フレームを選択。前後1枚づつのフレームを参照しながら、複数フレーム超解像とノイズリダクション処理を行なう。

BS/CS 4KビューティX PRO

 また「地デジビューティーX PRO」も、横1440ピクセルしかない地デジを意識した特別な処理。水平方向のみ4/3に引き伸ばす再構成法超解像を施してフルHDとなった映像に対して、自己合同性超解像で水平方向に2倍伸長、その上で垂直方向に2倍伸長の自己合同性超解像を行ない4Kの映像を得る。

地デジビューティX PRO

 “PRO”ではないレグザエンジン Evolutionは、処理能力の関係で複数フレーム参照が行なわれなかったり、解像度の伸長も一回の処理になるなどの違いがある。ただし、地デジに特化したノイズ処理や字幕周辺に現れるノイズ処理、色解像度の向上など、“地デジ最強画質”を目指していた従来の手法は、すべてノーマルのレグザエンジン Evolutionにも搭載されている。

 今回もっとも注目しているのが、「HDRリアライザー PRO」の画質。これはSDR映像のHDR復元処理ではなく、HDR映像をパネル性能に合わせてリアルタイムに合わせ込む機能だ。

HDRリアライザー PRO

 映像内の輝度分布などを分析し、局所(というよりも映像オブジェクト)のコントラストを最適にすることで立体感を高めるというもの。とりわけ明るい部分、パネル性能を超えた明るさを要求される部分で、通常ならばロールオフで失われる情報が表現できていた。効果的であるだけにその動作については、さらに詳細を掘り下げてみたいと感じた部分だ。

 最後に“まだチューニング前”というX920の映像も視聴したが、なるほど中間輝度領域のエネルギー感が増しているというのは、確かにその通りだろう。まだ細かな調整が進んでいないため、暗部の表現力や明部の階調性などについては評価できないが、ポテンシャルの高さは感じる。

 OLEDテレビとしては最後に出てくることになるが、一方で4Kチューナ内蔵モデルとしては最初の製品。その完成時に、他社製品との違いを改めて比べてみることにしたい。

本田 雅一

PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。  AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。  仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。  メルマガ「本田雅一の IT・ネット直球リポート」も配信中。