本田雅一のAVTrends

第212回

壮麗なる映像美!「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」はAVファン必見

CGに頼らず極力、実写の映像で表現している。「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」より
2022年9月2日(金)よりPrime Videoにて独占配信予定
(C)Amazon Studios

Prime Videoで2日から配信開始している連続ドラマ「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」。先日、製作総指揮のJ.D.ペイン氏に加え、主要キャストへのインタビューから、この新しいドラマシリーズが描こうとする世界観についてコラムを掲載したが、いずれも「指輪物語」、そして「ロード・オブ・ザ・リング」の世界をある程度理解している人たち向けの応答で、やや難解と感じたかもしれない。

2日10時配信「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」。制作責任者に聞いた

しかし実際の作品は、どの時代にも共通する喜びや愛情、怒り、葛藤、立ち上がる勇気や対話の重要性といったテーマに加え、社会性の強いメッセージもストーリーの中に浮かび上がってくる実に“人間臭い”社会派のドラマでもある。

そして、それと同時に本誌読者に注目して欲しいのが、その壮麗なる映像美だ。

(C)Amazon Studios

最新技術と“レンズを通した映画表現”の華麗なるハイブリッド映像

ニューラインシネマ製作、ピータージャクソンが監督し、興収と関連商品売上だけで60億ドルを超えたメガヒット作の映画「ロード・オブ・ザ・リング」から20年が経過し、当時これ以上ないと考えられた映像も表現の幅が大きく広がっている。

「力の指輪」は4K/HDR配信されているが、筆者がインド・ムンバイのワールドプレミアで観たバージョンはシネスコサイズのDCP(デジタルシネマパッケージ)版。上映されたシアターはIMAXデジタル対応だったが、そのスクリーンサイズや音響設備に負けないどころか、数年先に最新の環境で見直したいと切実に願いたくなるほどの超高画質・高音質だった。

全50話構成のうち、8話となるシーズン1の制作費だけで約640億円と言われる本作だけに、コンピュータにより生み出された幻想的なシーンが素晴らしいことは当然予想できるだろう。

裂け谷でモーフィッド・クラーク演じるガラドリエルがエルフ王に冠を賜るシーンは、まるで宗教絵画のような美しさ。幻想的でありながらも現実感を伴い、HDRならではの光に包まれながらも幸福感に溢れる彩りに包まれた場面だった。

第三紀では慈愛に溢れていたガラドリエルは本作でエルフ社会の殻を破る存在
(C)Amazon Studios
(C)Amazon Studios

しかし、こうしたコンピュータグラフィックスによる特殊効果だけに頼っていないところが、本作を“映像作品ファン”として観る場合の注目点だ。

ドラマの冒頭、幼い時のガラドリエルが兄に、後の展開を示唆する特徴的な言葉を投げかけられるシーンがある。この情景描写は大きなフォーマットのセンサーと味わい深いレンズ描写を組み合わせ、幼き日のガラドリエルが心に刻む思い出を美しく表現していた。

衣装や道具にも“ホンモノ”が多用される。

バックステージの様子。ガラドリエルが漂流するシーンも、実際に荒れた水面の上で演じられた
(C)Amazon Studios
「力の指輪」のロゴも実際に鋳造して作られている
(C)Amazon Studios

指輪を鍛造することになる独創的エルフ鍛冶・ケレブリンボールを演じるチャールズ・エドワーズとエルフ社会における若き政治的指導者エルロンドを演じるロバート・アラマヨは「キャット・ホールがデザインした衣装はレジェンダリウム(トールキンが長年作り上げてきた巨大な神話群、伝説体系、世界観のこと)を衣装デザインに流し込んだかのように、物語にピッタリのイメージを引き出している」と話した。

指輪の鋳造者となるケレブリンボールと若き日のエルロンド
(C)Amazon Studios

一方で「僕らが着たクロークはものすごく重く重厚なデザインなので、演じているときに周りの道具を引き倒していく」「半分に切り落としたくなるほど」と困難も伴ったようだが、CGや後処理での質感描写に頼るのではなく、衣装そのもので世界観を表現しようとする部分に、一人の映像作品ファンとしては共感せざるを得ない。

こだわりのコスチュームも見どころ
(C)Amazon Studios

つまり、古き良き時代に本物にこだわって撮影された昔のラージフォーマット映画の素晴らしさと、最新技術とコンピュータを駆使したグラフィクスの世界、それに特殊メイクなどの技法などを組み合わせた、最高のハイブリッド映像が「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」では楽しめるというわけだ。

AVファンでPrime Videoを視聴できる環境を持っているならば、この作品を見ないという選択肢はない。そう断言しておきたい。

注目の“ヌーメノール”映像は?

さて、本作のパイロット版を観るにあたって最も注目していたのは、映像化が初となる「人類がなし得た文明の極致」を表現した島国ヌーメノールの映像と、そこに住むヌーメノール人(ヌーメノーリアン)の表現だ。

遠い島国に建国されたヌーメノールは初の映像化
(C)Amazon Studios

実は、9月2日公開の第2話まではヌーメノールが描かれているシーンは登場しない。

プレミア上映された映像も同様で、まずは物語の進行上、鍵となる人物たちの置かれた状況がオムニバス的に表現されている。もちろん、その中にもアクションやドラマがあるのだが、いずれにしてもヌーメノールが“発見”される直前の状況を描いたものだ。

しかしながら、そこにはホビット族と同じ祖先を共有しているものの、世界を放浪しながら定住先を持たずサバイバルを続けるハーフット族。第三紀で馴染み深い名前のエルフ族の若き日の様子が伺え、まだ指輪が鍛造される前、束の間の平和と闇の台頭への予感などを感じさせる展開となっている。

流浪の民として描かれるハーフットは、ホビットと共通の祖先を持つ別種族
(C)Amazon Studios

もちろん、小説に登場しないブロンウィンとテオの母子にも注目だ。恵まれない境遇の人間が集まる町・サウスランドでの二人は、現実社会に住む我々視聴者の目線をトールキン世界にリンクさせるためのものだ。

新たに追加されたキャラクタ、癒し手のブロンウィン
(C)Amazon Studios

公式映像としてヌーメノールの街を描いたシーンがあるので参考にしておいてほしい。帆船が入港するシーンはエルフがこの島を発見し、港へと入っていく場面だと推察される。

「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」予告編6 | Amazonプライムビデオ

キャストへのインタビューでも紹介したが、ヌーメノール人は極めて背が高く2.4メートルにまで達する。一方でドワーフやハーフットは1メートル前後。

異なるスケールの種族を実写で自然に撮影、演技できるよう立ち位置や演じ方にかなり気を配ったそうだ。例えばハシゴで登った上に背の高い共演相手に立ってもらい、会話の様子をバストアップで撮影するといった具合だ。

このあたりも“実写での演技”の良さを大切にしようと言う製作陣の気遣いが垣間見える。ケレブリンボール役のチャールズ・エドワーズ氏は「さまざまな工夫でシーンの質を高めていた。おかげでテニスボールに向かって“やぁ元気かい?”と演じる必要がなくて助かったよ」と話している。

“大人が楽しめる深み”と“暴力や性的描写に依存しない”を両立した全年齢ファンタジー超大作

ところでファンタジー超大作のドラマとしては過去最高傑作と言われるHBO製作の「ゲーム・オブ・スローンズ」、そして、その前日譚を描く「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」との比較をしたがる読者もいるかもしれない(ハウス・オブ・ザ・ドラゴンはU-NEXTで独占配信中)。

「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」
U-NEXTにて独占配信中
(C)2022 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.

筆者としてはその両方を楽しんでほしいと思うが、「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」もきわめて中身の濃い作品だけに、両方を深く楽しむのはちょっと……と尻込みする方もいるかもしれない。

しかしこの二つは同じファンタジー超大作といっても、かなりテイストが異なる。

「ゲーム・オブ・スローンズ」と「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」は、誰も信じられなくなるような陰謀や策略が絡みつき、英雄と思われていたキャラクターが裏切りによってボロボロとなり、あるいは謀殺され、隅から隅まで容赦ない暴力に埋め尽くされている。そしてそこには子供にはとても見せられない、過激なまでの性的描写がある。

「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」
(C)2022 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.
「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」
(C)2022 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.

そうした刺激の強い表現もゲーム・オブ・スローンズの魅力ではあるが、ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪は、そうした過激表現に頼るのではなく、人間の心の深い部分に刺さるメッセージ性あるいは社会性に魅力があると感じる作品だ。

何度も繰り返し視聴しているうちに、どんどんその奥深さに感じ入る。そんな全年齢ファンタジー超大作の配信開始と今後の展開に期待したい。

本田 雅一

テクノロジー、ネットトレンドなどの取材記事・コラムを執筆するほか、AV製品は多くのメーカー、ジャンルを網羅的に評論。経済誌への市場分析、インタビュー記事も寄稿しているほか、YouTubeで寄稿した記事やネットトレンドなどについてわかりやすく解説するチャンネルも開設。 メルマガ「本田雅一の IT・ネット直球リポート」も配信中。