本田雅一のAVTrends

いい音豊作の2015年。久々に自宅メインシステムを変える

OPPO「JAPAN LIMITED」の万能高音質をAVプリで64bit処理

 毎年のように主要なオーディオ&ビジュアル製品のテストを行なっているが、とりわけ今年は“欲しい”と思える製品が多かった。と、書くと「本当に?」と訝しむ方もいるかもしれない。

 活況を呈しているヘッドフォンやヘッドフォン周辺のデバイス、ハイレゾ関連機器などは、日米欧にアジアのメーカーも入り乱れ、低価格帯からハイエンドまで実に多くのバリエーションが登場しているが、“AV機器”という括りで言えば4Kテレビも登場から数年が経過し、放送の多くはフルHDのままで、ブルーレイも4K化は果たしたものの対応ソフトが本格的に登場するのは来春以降。そんなに大きなターニングポイントがあったっけ? と感じるのは普通の感覚だろう。

 しかし毎年、年に何度も一斉テスト的にいろいろな製品に触れていると、カタログに掲載される数字や機能のアップデートを越えて「これはイイ!」と驚きながら唸る品質の製品に出会うことがある。そういった製品は、製品評価の基準として自分のシステムに取り入れてきたが、今年はメインシステムの機材を3台も入れ換えた。この10年、ここまで一気にシステムを変えることはなかった。

本田家のシアターシステム。メインのAVシステムに2つの新製品が

 そのうちひとつは(まだ自宅への導入はこれからだが)世界初のUHD Blu-ray再生機能を持つパナソニック「DMR-UBZ1」。画素が4倍に増え、色深度やHDR、新しいコーデックへの対応などの要素があるにもかかわらず、映像処理を簡素化することなく期待通りの品質を実現している。とはいえ、1号機なのでいわば特別枠のようなものだ。

 しかし残り2機種は、AV機器のジャンルとしては昔からある、いわば成熟した製品カテゴリだ。ひとつはAVアンプのヤマハ「CX-A5100」、もうひとつはOPPO Digitalの「BDP-105D JAPAN LIMITED」である。

OPPO Digitalの「BDP-105D JAPAN LIMITED」

 両者とも少しばかり驚くほどの音質改善が遂げられていたが、とりわけBDP-105D JAPAN LIMITEDには驚かされた。この2製品、とりわけBDP-105D JAPAN LIMITED(以下、JAPAN LIMITEDと略す)について、なぜこのタイミングで機材を入れ換えたのかをお伝えしたい。

もはや“BDプレーヤー”ではない

 米OPPO Digitalは、“同じ製品の価格を下げない”ことに強くこだわってきたメーカーだ。これは「最初に買ってくれたユーザーが、もっとも良かったと思える製品に」というこだわりから来るものだという。同社の製品はAV機器としては長めのモデルサイクルを採用し、ソフトウェアなどのアップデートで機能や対応サービスがつねに追加されていく。そのために、最初から計画してハードウェアの性能や外部インターフェイスの仕様を決めているのだ。

BDP-105D JAPAN LIMITED

 同社が最初の製品であるBDP-83というブルーレイプレーヤーを発売したのは2009年のことだが、当時はまだ米国の新しいベンチャーが安価な価格を武器に参入しただけだと思われていた。

 ところが、BDP-95を発売する2012年頃には、日本メーカーが高級ブルーレイプレーヤーを出せない時期が長かったことや、OPPO製プレーヤーのコストパフォーマンス、最新機能への対応意欲が高かったこともあって、グローバルにおけるプレミアムクラスのBDプレーヤー市場の大多数(正確な数字は持ち合わせていないが、当時のメモによると8割近く)を占めるようになっていた。

 最新の高級DACチップを搭載したり、電源やアナログ出力を強化したモデルを用意するとともに、ファームウェアを更新することで次々に新しい機能を取り入れた。機能だけで言えば、高級モデルも普及モデルも同等になるように作られているのも特徴だ。

 こうしたアップデートをハードウェアの世代が変化しても続けてきたこことで、再生機としての機能はユニバーサルディスクプレーヤーを遙かに超え、USB DACであり、ネットワークオーディオプレーヤーであり、ネットワークビデオプレーヤーでもあり、各種動画・音楽ストリーミングサービスへの接続端末としても機能するようになっている。

 “BDP”という型番こそ引き継いでいるが、ブルーレイディスク再生機能は、そのうちのごく一部になったとも言えるだろう。先日も高音質音楽ストリーミングサービスのTIDALに対応した。TIDALを日本から利用するにはちょっとした工夫が必要なのだが、継続的な新サービスへの対応姿勢に感激したのもはるか昔のこと。今では当たり前のように感じているが、ここまでやるメーカーは他に思い浮かばない。

 さて、そんなOPPOのBDプレーヤーだが、JAPAN LIMITEDは従来のOPPO製品とはまったく異なる方向での進化をしている。その方向性の意外さと、伝統的なオーディオ機器のチューニング手法と最新素材を用いることでここまで変わるのか? という音質改善効果の大きさもあり、完成品を試した時には思わず唸ってしまった。

JAPAN LIMITEDにおける“チューニング”

 OPPO Digitalというメーカーは、まるでスマホやタブレットのように、AV機器のファームウェアをアップデートすることで機能を増やしたり、不具合を直したり、最新トレンドに対応させたりする実に現代的なメーカーだ。

 音質や画質に対するアプローチも、伝統的な振動対策や電源ユニット、グランドラインの引き回し、メカ設計の堅牢性やインシュレータの違いによって“質”をコントロールしようという姿勢は(まったくないわけではないが)さほど強くない。

 その分、高級なDACチップを贅沢に使ったり、音質などに効きやすいと思われる基板を分離したり、比較的わかりやすい手法でグレードアップを図ろうとしてきた。これはこれで今の時代にはマッチしているのだろう。ネットでよく言われる「そんなのオカルト」などと切り捨てられるような音質・画質チューニングのアプローチは採用してこなかった。

 一方で、日本法人のOPPO Digital Japanでは、“これだけの高級部品を使っているのだから、もっといい音が出るはず”という気持ちがあったようだ。本社側が手を付けない、“AV機器としてのチューニング”が行なえるよう交渉したという。「JAPAN LIMITED」という名前からも判るとおり、日本向けに出荷された製品を、日本のファクトリーで仕様を改変して、日本向けだけに販売する製品だ。

BDP-105D JAPAN LIMITED

 かつて高級オーディオブランドのGOLDMUNDは、パイオニアからユニバーサルディスクプレーヤーを購入し、それに独自の電源ユニットと筐体を組み付けるなどして高級プレーヤーに仕立て上げていた(実際に音質も良かった)。価格帯はまったく違うが、JAPAN LIMITEDもそれに近いやり方で作られたものと考えてほしい。

 ベースモデルとなったBDP-105DJPは、実は筆者もこれまで使ってきた製品である(よって我が家のJAPAN LIMITEDは新品ではなくバージョンアップ版だ)。基本性能は高くBDの操作も応答性が高く、さらに機能面では前述したようにライバルが見あたらないほどの万能ぶりだ。さらにESSのハイエンドDACを搭載したり、回路に使っている部品も量産Blu-rayプレーヤーとして高いグレードのものを使っている。

 その結果、(ESS製DACの特徴でもあるが)音像がシャープでメリハリのある音質を実現。画質もダービー・ビジュアルプレゼンスの効果により、押し出しの強い絵を出すプレーヤーに仕上がっていた。しかし、反面では繊細さな描写は不得手で、とりわけ音質面ではS/Nが今一歩。

 “複合機である”ことを考えれば致し方ないのだが、音楽を聴くためのプレーヤーと比較すると描かれる演奏の表情が浅く、また音場を埋める空気感も損なわれていた。低域の力感を表現するのも不得手な分野だろうか。

 ところが、JAPAN LIMITEDは聴き始めてすぐに判るほど、圧倒的にS/Nがいい。ノイズが少ないことで、これまで感じられなかった音場全体に漂う“気配”が感じられるようになり、低域の力感がグッと増してくる。いや、そうした“少し良くなった”という類のものではなく、まったく別製品のように音質も画質も良くなっている。

 最初に体感した時には、あまりの違いに同じハードウェアがベースとは思わなかったほどだ。

音質改善が“ユニバーサル・ハイレゾ・プレーヤー”としての価値を高めた

 実はJAPAN LIMITEDは、その開発過程において感想を求められ、何度か自宅で試聴していた。最初からS/Nはずば抜けて良かったことをよく憶えている。当初はどのような出自の製品なのか知らなかったため、プラットフォームを新たにした、まったくの新製品だと思っていたほどだ。

 その後、何度かのチューニングを経ていくうちに、音の品位だけでなく“質感”までもが整っていった。単にノイズが少ないと感じさせるだけでなく、演奏の表情を感じさせる質感表現が磨かれ、説得力のある音へと仕上がっていった。

 その理由を当初は知らなかったのだが、施されたチューニングを説明されて納得した。

TAOC製のインシュレータ

 TAOC製のグラデーション鋳鉄インシュレータやアルミ製のボトムプレートによる強化、ドライブをシュラウドですっぽり覆うことで振動やノイズを抑制するなどの、メカニカルな強化を行なっているだけでなく、電磁波吸収素材や高精度クロックジェネレータを使っていたのだ。

 電磁波吸収素材とは旭化成せんいの“パルシャット”というもので、元々はスマートフォンなどを設計する際にノイズを遮断するために使われるものだ。オーディオ機器の場合、”遮断”する素材は同時にある程度の反射もするため、ノイズ源をシールドで覆ってしまうとかえって音質を悪くする場合がある。

 しかしパルシャットは遮断するのではなく吸収する。特に高周波によく効くため、デジタルオーディオ信号を扱うパーツに使うと、それぞれのLSIなどが輻射する高周波ノイズを吸収してS/Nが良くなるのだ。

 当然ながら筐体内部のノイズは激減しており、測定機材でも数字がキッチリと表れる。たとえば低域としてパンチがあるように感じられる100Hz付近の周波数帯は、10dBもの大幅なS/Nの向上が見られるという。

 さらに高価な高精度クロックを用いることで、クロックジッターの影響が大きいESS製DAコンバータの実力をより引き出すことが可能になり、情報量の増加と低域のしっかり大地を踏みしめるような揺るぎなさを得たのだろう。

 色々なことを試し、結果的に“これが良くなったように聞こえる”という程度の違いではなく、明らかに測定機に出てくる改善として数字が出てくるとは想像もしていなかった。言い換えれば、そうした測定データを公表できるほど、自信があるということなのだろう。

 JAPAN LIMITEDのアナログ音声は、2チャンネルステレオのみXLR端子によるバランス接続が可能。マルチチャンネルのアナログ音声はRCA端子のアンバランス接続のみとなる。

背面。アナログ音声出力のバランス接続にこだわり

 さて、アップグレードして戻って来た我が家のJAPAN LIMITEDだが、まずはステレオの音楽プレーヤーとして、どこまでの実力かを探るため、LINN ProductsのKlimax DSM(音質重視のためHDMI機能は無効にしている)をプリアンプとして使い、LINNのAkubarik(1本あたり6パワーアンプ内蔵のアクティブスピーカー)から音を出し始めた。

 やはりS/Nが圧倒的に良い。

 ノーマルのBDP-105DJPは、高性能DACにも助けられ、解像感に溢れシャープな音像を描けるプレーヤーだったが、前述したように音場表現は得意ではない。音楽の抑揚が押さえられ、暖かい/冷たいといった雰囲気も希薄で、よく言えばサラッと聴けるが物足りない音だった。

 もちろん、ブルーレイプレーヤーとしては優秀なのだが、音質だけで勝負するプレーヤーとは差が大きい。複合機なのだから当たり前と言えば当たり前だ。しかし、JAPAN LIMITEDになって、その質感表現の好き嫌いはともかく、“品位”という面では、音楽専用に開発されたプレーヤーと肩を並べるほどになった。

 とりわけ優秀なのがCD/DVD-Audio/SACDといった、音楽専用光ディスクメディアの音質が秀逸で、不要回路などをオフにするPure Audioモードで聴いていると、価格が倍ぐらいの専用CD/SACDプレーヤーに匹敵する音が愉しめる。アンバランス出力とも比較したが、バランス出力の品位は特に良いので、できればバランス出力端子を使う方がいいだろう。

 オーディオマニアは、JAPAN LIMITEDの音が”薄い”というかもしれない。薄いというのは、特徴が希薄でキレイだけれどグッと来る音ではないという意味だ。しかし、ここまでS/Nが良ければ、あとはセッティングでカバーできると思う。

 さすがにネットワークオーディオプレーヤーとしてKlimax DSMの再生機能と比較してしまうと、そこには越えられない壁はある。しかし、240万円のプライスタグが付いた製品が相手と考えると見方が変わるだろう。

 しかも、JAPAN LIMITEDはベースとなっているBDP-105DJPと等しく、ネットワークオーディオプレーヤー、USB DAC、TIDALクライアントなどとして機能する。ここまで質が高まると、BDプレーヤー以前にハイレゾオーディオプレーヤーとしても”ユニバーサル”と言える。

 極端な言い方をすると、“オマケ”としてBDプレーヤーやNETFLIX再生機能(現時点では日本語に非対応だが、日本のアカウントでログインして日本語吹き替えの映像を楽しむことはできる)も使える……と考えてもいいほど、音楽プレーヤーとして充実した。

 試作段階から聴いていたため、大幅な音質改善が得られていることに確信を持っていたが、“このぐらいの音にはなるだろう”との予想を良い意味で裏切ってくれた。これだけ多様な場面で使えるプレーヤーの音質が底上げされると、使用する場面が劇的に増える。

 しかし、筆者のシステムではさらにプラスαもあって、Klimax DSMの活躍の場さえ奪いそうな勢いになってきた。

CX-A5100との組み合わせで至福の空間を

 このJAPAN LIMITEDとほぼ同時期に入れ換えたCX-A5100は、AVプリアンプという商品の位置付けこそ先代モデルのCX-A5000と同じ。デザインもほとんど変化がないが、実は音質という面では驚くほど違う。JAPAN LIMITEDと同様、S/Nが明らかに向上し、低域のシッカリ感も出て、過去のハイエンドAVアンプとは一線を画す音質を実現している。このクラスの製品を試聴せずに購入する人は少ないだろうから、まずは試聴会などに参加することを勧めたい。AVファンなら、少し聴いただけで驚くと思う。

ヤマハ「CX-A5100」

 このCX-A5100、オーディオ機器としての素の音質もいいのだが、一番驚かされたのは音場補正機能の精度だ。

 音場補正は向かい合った多数のスピーカーが配されているサラウンドの場合、必須とも言える機能だ。しかし、ステレオ音声の場合は向かい合ったスピーカーの音波が干渉することがないため、音場補正はしない方が音が良いというのが定説になっていた。

 ところが、CX-A5100の場合、アナログ入力であったとしても一度デジタルに変換した後に音場補正処理を行なって再生させた方が良い結果が得られる。デジタルとアナログの相互変換に関しては、クロックを同期させているので質は高いのだが、これまで問題だったのは内部演算精度。CX-A5100は完全64ビット処理により、演算処理を行なっても情報を捨てずに済むようになったのだ。

 これはもちろん、マルチチャンネル音声によるサラウンド音場にも大いに効いているが、驚くべきはステレオ再生で、音場補正をオンにしても情報量が落ちたように感じない。こんなことは本機が初めてのことだ。

CX-A5100
背面

 すなわち、BDP-105D JAPAN LIMITEDのアナログバランス出力をCX-A5100に入力し、音場補正処理を通した後にスピーカーに送った方が、半円球状の整った音場に心地よいバランスで音楽が届いてくる。

 もちろん、Klimax DSMで聴く方が情報量だけでなく、音楽的表現、表情の深さがある。しかし、音域バランスが揃い音場の整い方もきれいなので、ゆっくりリラックスして音楽を楽しみたい時に魅力的な音がする。一般的なグレードのオーディオ機器ならば、いかにステレオ専用でも(AV機器に)ノックアウトされそうな勢いだ。

 CX-A5100は多彩な機能を持っているが、単純に“デジタル機器としての機能”ならば、他のAVENTAGEシリーズにも実装されている。しかし、64ビット高精度処理による情報ロスの少ない音場補正、シネマDSP処理はこのモデルだけだ。

 これだけ高性能なDSPユニットを搭載できたのは、中央に余裕のある電源を置き、四隅に異なるパートの回路を可能な限り離して配置するなど、電流消費の影響と輻射ノイズの影響、両方を遮断する、パワーアンプを内蔵しないAVプリアンプならではの設計を徹底して行なっているためだ。

 両製品とも単純に“音がいい”という部分を追求することで、他の機能(も充実しているのだが)を忘れるほどに魅力的になっている点は共通する。UHD Blu-ray再生機が登場するこの年末、「今さらブルーレイプレーヤー?」、「今どきハイエンドAVアンプ?」と言わずに、一度は体験してみてほしい。

 筆者の場合は、この二台のおかげで久々に“自分自身のシステムをアップデートする”というテーマで盛り上がることができた。

サラウンドスピーカーを並列に並べて-3dB(半分の音量)で再生するサラウンドA/B配列を用いた9.1チャンネル構成をそのまま、前側サラウンドスピーカーをフロントプレゼンス兼ATMOSのトップミッドに設定。今後はサラウンドA/Bに戻した上で、フロント/リアプレゼンスを追加した11.1チャンネル/13.1スピーカー構成に変更する予定

(協力:OPPO Digital Japan)

本田 雅一