藤本健のDigital Audio Laboratory
第715回
高音質/低遅延の実力はホンモノ? DSD 11.2MHz再生/録音対応「RME ADI-2 Pro」
2017年3月13日 13:29
ドイツのRMEによるDSD対応オーディオインターフェイス「ADI-2 Pro」。PCMで768kHz、DSDにおいては11.2MHzと、既存のオーディオインターフェイスとは明らかに異なる高サンプリングレートの製品として、各所で話題になっている。このADI-2 Pro自体は昨年6月に発表され、12月にはシンタックスジャパンから国内でも発売になったのだが、かなりの人気で品薄の状態が続いている。先日、そのADI-2 Proを借りることができたので、これがどんな製品なのかチェックした。
DSD 11.2MHzやPCM 768kHzまで対応、オーディオ向けにも
実売価格が税込み20万円程度というオーディオインターフェイスのADI-2 Proは、見た目は1Uハーフラックのシンプルな機材。フロントにはバランス型接続のヘッドフォン端子が2つあり、右側にはFFT表示などもできるディスプレイが搭載されている。
リアにはXLRとTRSの入力を兼ねるコンボジャックが2つ、メイン出力としてXLRのキャノン端子、TRSのフォン端子が2つずつあるほか、オプティカルのデジタル入出力端子とD-Subのコネクタが用意されている。デジタル接続用にはブレイクアウトケーブルも用意されているが、アナログのみで見れば、2IN/2OUTのオーディオインターフェイスであり、マイクプリアンプも搭載されていない、極めてシンプルなオーディオインターフェイスだ。
単に2IN/2OUTのオーディオインターフェイスなら数千円の機材も存在している中、20万円もする超高級機が注目されているのは、これまでに見たいことのない高サンプリングレートに対応したオーディオインターフェイスであると同時に、RME側が超高音質であることを謳っているためだ。オーディオインターフェイスの世界では一般的にPCMは192kHzまでとなっているなか、384kHzはおろか、768kHzにまで対応したというのは民生用機としてほかに類を見ない。しかもDSDにも対応していてそちらも2.8MHz、5.6MHzはもちろん、さらにその上の11.2MHzにまで対応している。USB DACとしては他にも対応機器はあるが、USBオーディオインターフェイスながら、出力性能を求めるオーディオファンにとっても、かなり注目の製品となっている。
発売元のシンタックスジャパンからは「最高性能を引き出すためには、ぜひ最新のファームウェア、ドライバで使ってほしい」と説明を受けていたので、2月7日版のドライバをインストールするとともに3月3日版のファームウェアに更新するところからスタート。こんなすごいスペックの機材ではあるけれど、USB 2.0接続であり、しかもUSBクラスコンプライアントの機材になっているため、Macであればドライバ不要で動く。Windowsの場合はRMEからドライバをダウンロードして使う形となっている。
このADI-2 Proを借りるという話を何人かの知人にしていたところ「RMEが言っている性能がホントかどうか調べてほしい」と言われたのと同時に「foobar2000で再生できるか試してほしい」と言われていたので、まずは、このfoobar2000を使った再生から行なってみる。また、よく「foobar2000での設定がさっぱり分からない」と質問を受けることがあるので、再生させるまでの手順も含めて簡単に紹介しておこう。
まずfoobar2000のサイトから最新版をダウンロードして、インストールする。ここではASIOドライバを使うのと同時に、DSDでも再生するため、ASIO用のコンポーネントとDSD再生用のコンポーネントもそれぞれダウンロードして、foobar2000へインストール/適用する。
ASIO用はfoobar2000のサイトのComponentsのところから、ASIO supportをダウンロードし、ダウンロードしたファイルをダブルクリックすれば、foobar2000が起動して、本当にインストールするのか尋ねられるので「はい」と答えた後、さらに、Applyボタンを押して適用させるのがミソ。
DSD用はsouceforgeからSuper Audio CD Decorderの最新版をダウロードして、いまと同様の方法でインストールする。その上で、foobar2000のPreferecesのPlaybackにある、Outputの設定を「DSD:ASIO:ASIO MADIface USB」に設定するとともに、ToolsのSACDのOoutput ModeをDSDに設定しておけばOK。
あとは、PCMでもDSDでもファイルをfoobar2000に読み込んで再生すれば、ADI-2 Proから再生することができ、かなりクリアな音で鳴ってくれることを確認することができた。ADI-2 ProのディスプレイパネルにはFFTでのグラフィックが表示され、SETUPボタンを押すと、PCMで再生させている場合、DSDで再生させている場合で、それぞれのサンプリングレートなどが表示される形になる。
ハイサンプリングレートの録音を試す
続いて試してみたのが、ハイサンプリングレート、またDSDでの録音が本当にできるのか、ということについて。現時点でDSDの録音ができるソフトというのは、まだまだ少ないのが実情。業務用ソフトとしてはPyramixがあるのが知られているが、民生用としてはコルグのAudioGate 4.0、そしてつい先日紹介したSound it! Proがあるので、この民生用の2つを試してみた。
まず試したのがAudioGate 4.0。とりあえず、ASIOデバイスとしてADI-2 Proを認識させることができ、PCMは192kHzのものまで再生できた。が、ASIOでのDSDはどうも通らないようでDSDファイルは再生できても、DSDネイティブではなく、PCMとなってしまう。同様に録音のほうも、192kHz/24bitでのレコーディングはできたが、それ以上のサンプリングレートに上げることはできず、DSDでの録音もできないようだった。
では、Sound it! 8 Proのほうはどうだろうか?こちらは、ADI-2 Proのスペックをフルに発揮できる仕様になっており、PCMでは768kHzまでの再生と録音、DSDでは11.2MHzまでの再生と録音に対応しているはずなので、これを試してみたのだ。先ほどと同様、ASIOドライバを設定した上で、再生してみると、PCMはもちろん、DSDもネイティブでの再生ができた。
一方で、録音のほうはというと、PCMで768kHzまでしっかり動作する一方で、Sound it!PROでDSDを指定して録音すると、「ザー」というホワイトノイズになってしまう。
この現象、どう考えてもDSDではなくPCMで録音してしまった結果であると想像できるので、マニュアルを見ながら調べてみたところ、アナログ入力の設定に「AD Conversion」という項目があり、ここでPCMとDSDを切り替えられるようになっていた。
ここはSound it! Pro側からコントロールはできないため、手動で切り替える必要があるのだ。これをDSDに設定した上で、改めて録音してみると、しっかりと11.2MHzまで録音できることを確認できた。
測定でもかなりの好成績。ほぼ“ゼロレイテンシー”
次は、RMAA Proを使ったテスト。RMEでは、入出力性能について、さまざまなデータを示して、高音質性を謳っている。昨年6月にシンタックスジャパンでADI-2 Proの発表会を行なった際も、SNなどの数値を示した上で「これは“カタログ値”ではありません。実際に測定してみてください」と自信を見せていたが、それが本当なのかをチェックしていく。方法としては、ADI-2 Proのアナログの入出力をXLRのキャノンケーブルを用いてループ接続した上で、RMAA Proで各サンプリングレートごとに試してみた。結果は以下の通り。
これを見る限り、RMEが言っていた通りの数値が出ているといってよさそうで、その評価も各項目すべてExcellentと出ている。全部がExcellentなのに、総合評価がVery Goodになっているのは、もしかしたらRMAA Pro側のバグなのかもしれないが……。ただ、見てのとおり、ここに示したのは44.1kHz~192kHzまでの結果だ。本来ADI-2 Proは352.8kHz、384kHz、705.6kHz、768kHzとハイサンプリングレートに対応しているので、これらについても測定したいところだったが、RMAA Pro自体がやや古いソフトであり、その後のアップデートが行なわれていないため、測定することができなかった。
同様にRMAA ProはDSDにも対応していないので、DSDにしたときの性能も測れたわけではないが、少なくともアナログ系の回路は抜群の性能を持っているとみてよさそうだ。
さらにテストしてみたのが、レイテンシーについて。これもRMAA Proと同様に、入力と出力を直結した状態でインパルス信号を発生させて、出力から飛ばし、それが入力にどれくらい遅れて戻ってくるかを測定するという実験で、CentranceのASIO Latency Test Toolというフリーウェアを使っている。こちらもちょっと古いソフトであるために、192kHzを超えるサンプリングレートは選択項目として現れなかったが、あらかじめドライバ側で設定してしまえば、測定することができ、384kHz、768kHzまでチェックすることができた。その結果は以下の通り。
これまでDigital Audio Laboratoryでは各オーディオインターフェイスのレイテンシーチェックをしてきたが、これまで最小のレイテンシーを記録していたのはズームのUAC-2/UAC-8だった。読者からの報告で、「RMEの最新ドライバを使えば、ズームを超える値を出すようだ」と連絡はもらっていたが、ADI-2 Proで試した結果、まさに最小記録が塗り替わっていた。RMEのFireface UCXやUFXなども同じドライバ、同じFPGAファームウェアを使っているので、これに近い数値になることが予想されるが、96kHzで2.11msecというところまでくれば、もう“ほぼゼロレイテンシー”といっていいだろう。実際、32sampleの設定で録音、再生してみたが、音が途切れるといったトラブルはなく、スムーズに使えた。
いつも通り、この記事においては聴感上の評価ではなく、あくまでも数字で見る結果を示した次第だが、この結果を見る限り、超高性能なオーディオインターフェイスが誕生したといって間違いはなさそうだ。
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