西川善司の大画面☆マニア

第182回:高輝度を武器にした映像表現新提案。東芝「55Z8」

第182回:高輝度を武器にした映像表現新提案。東芝「55Z8」

直下LEDのREGZA Z8は「優等生」か「異端の革命児」か

REGZA Z8シリーズ

 2013年は4Kテレビの新製品が各社から相次いでリリースされ、4K元年と言われるほどにまでなった。REGZAシリーズを有する東芝は2011年末に発表したREGZA 55X3より4Kテレビ製品に力を注いでおり、2013年は従来トップエンドモデルに付けていた「Z」型番の称号を4Kテレビに与えることとなった。それが、本連載でも取り上げたREGZA Z8Xシリーズだ。

 「それではもうフルHD(2K)モデルのトップエンドモデルはもう出ないのか」と心配もされもしたのだが、遅れること数カ月、フルHD版の「Z」型番モデルも投入された。それが、今回紹介するREGZA Z8である。

 東芝によれば、2013年モデルから、型式番の末尾に「X」が付くのが4Kモデルという命名規則になったそうで、今回紹介する55Z8はフルHDモデルのため「X」がない。ただし「最上位のフルHD REGZA」というブランディングを冠するために、このREGZA Z8には「プレミアム2K」モデルという称号が与えられている。

 2013年12月時点の実売価格は42型の42Z8が13万円前後、47型の47Z8が17万円前後、55型が26万円前後。58型で約40万円の4Kモデル「58Z8X」と55型の55Z8を比較では10万以上の価格差がある。

設置性チェック~さらに進んだ狭額縁&コンパクトデザイン。サウンド性能も向上

55Z8

 55インチサイズという数値から連想される大きさからはだいぶコンパクトに見える。外形寸法はスタンド設置状態で124.1×19×75.8cm(幅×奥行き×高さ)。ディスプレイ部の厚みはわずか6.7cmだ。

 今回も、筆者が自宅で使用している2011年発売「55ZG2」の前に置くような形で設置したが、左右で約6cm小さく、縦方向は約10cmも55Z8の方が背が低かった。数年前の50インチテレビの寸法を振り返ってみたところ、ほぼこの55Z8と同寸法であった。その意味では、数年前に50型のテレビを置いていた場所に、55Z8は55型で置き換えられるということである。

 このコンパクトさは、圧倒的な狭額縁デザインから来るものだ。額縁の幅を実測してみたところ、左右は約12mm、上が約11mm、下が16mmであった。狭額縁設計はデザイン的に見栄えが良くなるだけでなく、室内照明などからの照り返しが最小限で済むというメリットもある。また、暗室ではない照明下であってもほとんど額縁の存在が見えないため、映像が壁に浮かんで見えるような感覚も新鮮だ。

 なお、55Z8の額縁はディスプレイ表示面との若干の段差があり、ソニーのオプティコントラストパネルのようなシームレスデザインにはなっていない。ただ、額縁の段差部分は2mm強程度でつや消し加工がなされているため、表示面からの光がここで反射することはほぼない。

 重さはスタンド込みでも約17kg。ディスプレイ部だけならば15.8kg。安全のために2人以上で運ぶことが望ましいが、重量的には筆者一人でも問題なく運べてしまうほど軽かった。

 近年はどのメーカーの製品もスタンドが低背化が進んでいるが55Z8もこの流れをくみ、設置台面からディスプレイ部下辺までの隙間はわずか35mm。ちょうどDVD/BDパッケージ4つ分の厚みだ。スタンド部はディスプレイ部とがっちりとリジッド接合する構造となっており、首振り機構などの可動部分を持たない。この部分は導入時に留意すべきポイントとなる。

 スピーカーは3.0cm×9.6cmの角形フルレンジユニットを下部左右に埋め込んだインビジブルタイプだ。下向きインビジブル型だが、音質は悪くはない。音量を上げても再生の周波数特性のバランスは崩れないし、低音は力強く、高音の伸びもいい。ロックやポップスの楽曲を幾つか聴いてみた感じでは、スネアドラムやライドシンバルの初期アタック音のレスポンスも良好だった。

ラビリンスバスレフ型ボックス

 REGZA Z8シリーズ及びJ8シリーズでは、エンクロージャに新採用の「ラビリンスバスレフ型ボックス」を採用し、スピーカユニット自体も「高能率&高耐入力スピーカー」を採用したそうで、インビジブル型の割に良音質な理由はここにありそうだ。

 なお、音声出力は左右15W+15W、総出力30Wで、実は同型4Kモデルの55Z8Xよりも優れている。筆者としては「音声設定」-「音声調整」-「低音強調」を「弱」くらいにした方が、バスドラムの皮の質感などがリアルに聞こえて心地よいと感じた。55Z8には、5バンドのイコライジング機能も搭載されているので、さらに調整してより好みの音質に追い込んでいくのもいいだろう。

 定位感も問題なし。スピーカー開口部は下向きだが、デジタル音像補正技術を適用することで、ちゃんと画面中央付近で音像が定位している。

 定格消費電力は277W。年間消費電力量は150kWh/年。定格消費電力は、近年の同画面サイズ液晶テレビと比較すればやや大きめだ。これは、55Z8のバックライトシステムが直下型LED実装タイプを採用し、LEDの実装個数が多いためだろう。一方、年間消費電力量は、近年の同サイズ液晶テレビと大差無い。これは、映像表示を常に全バックライト点灯で表示しているわけではないためだ。

接続性チェック~タイムシフトプラス1機能利用のために必要な機材は?

背面の接続端子部。HDDユニット「THD-450T1A」を装着している。ぶら下がっているのはUSBハブだ。タイムシフトプラス1を使うにはUSBハブが必須

 接続端子パネルは画面正面向かって左側の側面及び背面側に配されている。

 HDMI入力は背面側に3系統、側面側に1系統を装備する。全てのHDMI入力は3D立体視、Deep Color、x.v.Colorなどに対応する。REGZAのx.v.Color対応モデルは久々だ。なお、ARC(オーディオリターンチャンネル)に対応するのはHDMI1、MHLに対応するのは側面側のHDMI4のみとなっている。

 PC入力はHDMI端子からのデジタルRGB接続が可能。HDMI階調レベルの設定は「機能設定」メニューの「外部入力設定」-「RGBレンジ設定」から行なえ、同じく、PCやゲーム機との接続時に問題となる「オーバースキャン」と「アンダースキャン」の切り替えは[クイック]メニューから[その他の操作」-「画面サイズ切換」-「フル」から「オーバースキャン」と「ジャストスキャン」(アンダースキャン)の選択で切り換えられる。

HDMI階調レベルの設定は「機能設定」メニューの「外部入力設定」-「RGBレンジ設定」から

 アナログビデオ入力はコンポジットビデオ入力端子のみ。ついにD入力やコンポーネントビデオ入力がREGZAから姿を消した。アナログ入力用の音声入力(RCA)は、HDMI3用のアナログ音声として排他利用することもできる。

 音声出力端子は光デジタルとアナログ音声(ステレオミニ)。このミニジャックはヘッドフォン端子兼用になる。ネットワーク機能は100Mbpsの有線LANと、IEEE 802.11a/b/g/n対応の無線LANを備えている。

 これまで多くのREGZAに搭載されてきたSDカードスロットは本機では省略された。デジタル写真などはSDカード経由ではなく、USB接続したデジカメ経由や、MHL接続した携帯電話経由で表示させて欲しい、と言うことかも知れない。

タイムシフト用の別売HDD「THD-450T1A」

 USB端子は背面に3系統、側面に1系統装備する。側面側のUSB端子はキーボードやUSBメモリ、デジカメなどの汎用機器接続用、背面側の方は録画関連用のUSB端子となっていて、仕様的にはZ8Xシリーズと共通だ。3系統のUSB端子にはA、B、Cの記号名が付けられており、USB AとBは最大6チャンネルの地デジ放送を自動録画する「タイムシフトマシン」専用のHDDを接続するためのもので、USB-Cは通常録画用の外付けHDDを接続するために用意される。

 録画用HDDとしては市販のUSB HDDも利用出来るが、Z8本体に合体できるランドセル設置スタイルの東芝純正HDDもリリースされている。容量が4.5TBの「THD-450T1A」(実売5万円前後)と、2.5TBの「THD-250T1A」(同2.5万円前後)が発売されている。

操作性チェック~D入力省略でゲーム向けSD映像関連機能が姿を消す

リモコン。機能割り付けが若干移動しているが、基本的にはZ7/Z8Xなどと同じ

 リモコンのデザインはREGZA Z7から大きな変更はなし。チャンネル切換用の数字ボタンの刻印が非常に大きく見やすい作りだ。

 細かい使用感を言うと[番組説明]ボタンがなくなったことで、番組表を表示したときに番組内容を確認する際に[クイック]ボタンを押してから「番組説明」メニューを選んでからでないと番組詳細が確認できなくなったのが少々寂しい。

 それと、[クイック]ボタンを押したとき、これまでは画質調整関連のメニューである「映像設定」がメニューリストの最上端にあったのだが、55Z8では最下段に移動させられてしまった。ただし、メニューを閉じても前回のカーソル位置は記憶されるので、普段から「映像設定」を使用しているユーザーであれば、[クイック]ボタンを押した直後であってもカーソルはちゃんと「映像設定」に合ったままメニューが開かれる。メニューリストの最下段だからといって何度も[↓]ボタンを連打する必要はない。

「映像設定」メニュー
「ヒストグラム表示」モード
「信号フォーマット詳細表示」モード

 電源オン操作から地デジ放送画面が出るまでの所要時間は約1.5秒。これはかなり高速だ。

 地デジ放送のチャンネル切換所要時間は約2.0秒。入力切換はHDMI→HDMIで約2.5秒。もう少し早いと嬉しいところだが「待たされている」と言う感覚はない。

 画調モードの切り替えは所要時間は切換元と切換先の組み合わせでゼロ秒から約2.0秒までとバラバラだ。時間が掛かるときは画面がブラックアウトし、音声も切れてしまうのがやや気にかかる。

 画調設定は、REGZA Z7から採用された「コンテンツモード」と「映像メニュー」の二段階組み合わせシステムがZ8でも継承されている。コンテンツモードは、表示映像の特性を「そのコンテンツが持つ特質」に最適化するためのもので、実質的には「映像エンジンの振る舞い」を決める設定に相当する。一方の「映像メニュー」は従来からあるプリセット画調モード的なもので「色調や画調の方針」を決めるものになる。一般的には、「コンテンツモード=オート」「映像メニュー=おまかせ」で使えばいいし、「コンテンツモード=オート」のまま、「映像メニュー」を従来通りのプリセット画調モード的に活用するのもアリだろう。

 アスペクトモードの切り替え所要時間も同様。切換元と切換先の組み合わせでゼロ秒から約2.0秒までと幅があり、こちらも時間が掛かるときは画面がブラックアウトし、音声も途切れる。

 アスペクトモードのバリエーション自体は歴代のREGZAから大きな変更はなし。

モード名概要
スーパーライブ/HDスーパーライブいわゆる疑似ワイドモード。4:3アスペクトの映像の外周を引き延ばして表示する
ズーム/HDズーム4:3映像に16:9映像をはめ込んでレターボックス収録した映像部分のみを切り出して16:9フル表示する
映画字幕ズームモードのバリエーションともいえるべきモードで、レターボックス収録された映像の字幕表示部を残しつつ拡大する。引き替えに映像の上部が若干切れることがある
フルパネル全域に表示する。16:9映像のためのモード
ノーマル4:3映像をアスペクト比を維持して最大表示する。左右に未表示領域ができる
Dot By Dot拡大解像度変換を行なわずに表示するモード。PCでデスクトップ解像度を1,920×1,080ドットとした場合にはこれを選択すべき
ゲームフル映像処理ロジックを可能な限りバイパスして表示遅延を軽減させた「フル」モード
ゲームノーマル映像処理ロジックを可能な限りバイパスして表示遅延を軽減させた「ノーマル」モード

 REGZAらしく、Z8でも、ゲーム向けアスペクトモードは充実しているが、コンポーネントビデオ入力/D入力が省略されたことで、今回、一部のゲーム関連アスペクトモードが姿を消している。なくなったのはPSPを全画面表示するための「ポータブルズーム」、スケーリング回路をバイパスさせるが自己合同性型、再構成型の超解像処理、色超解像処理を適用させる480p/480i映像向けのモード「DVDファイン」「レトロゲームファイン」「SDゲームファイン」などの「ファイン」系モード。

 ゲーム系ではないが、SD映像に最適化した超解像処理を施す「DVDファイン」は、Z8で生き残っている。こちらは、480p/480i映像入力時(HDMI入力時及びコンポジットビデオ入力時、共に動作を確認)に限って利用可能となるもので、自己合同性超解像による垂直2倍伸長のみ動作させ(通常のスケーラーによる拡大を行なわない)、斜めエッジの鮮鋭度を確保しながらジャギー低減を行なうもの。このため垂直解像度が960p相当となり、映像表示が若干小さくなるが、くっきりとしたボケ味のない表示が得られる。Z7までのREGZAに搭載されていた「『SDゲームファイン』の一般映像版」という捉え方でいいだろう。SDコンテンツをとにかくくっきりすっきり見たいという人は活用したい機能である。

 タイムシフトマシン機能とクラウド関連機能は、REGZA Z7をほぼそのまま継承している。タイムシフトマシン機能については「ざんまいプレイ」などの詳細に触れた記事を、クラウド関連機能についてはその代表的機能である「TimeOn」機能の詳細について解説した記事を参考にして頂きたい。

 なお、Z8シリーズは、REGZAとしては初めてBS/CSデジタル放送のタイムシフトマシン「タイムシフトプラス1」に対応した。タイムシフトマシンの地デジ6chに加え、通常録画用の地デジ、BS/CSチューナの1系統を録り続けられるというものだ。タイムシフトのほか、放送波を問わず1チャンネルを録画し続けられるというわけだ。

 ただし、この「タイムシフトプラス1」の利用には、USB HDDが1基とUSBハブが必要になる。USBハブが必要というのは少々ハードルが高い。

タイムシフトプラス1は、タイムシフトマシン録画とは別メニューから設定する。後から付け足した機能だということはこうしたメニュー構成からもうかがえる
タイムシフトプラス1で録画した1chの「週間番組表」

 というのも、Z8の録画用USB端子はA/B/Cの3系統だが、USB-A/Bは地デジのタイムシフト録画専用端子のため、タイムシフトプラス1の接続はUSB-C端子に限定される。ただ、USB-C端子は通常録画用HDDの接続用端子でもあるので、タイムシフトプラス1専用として提供してしまうと通常録画ができなくなってしまう。だからUSBハブが必要なのだ。また、USB-Cをタイムシフトプラス1のためだけに使う場合でも、システム側で通常録画HDDとタイムシフトプラス1用を判別するために、USBハブが必要というわけだ。こうした接続性のわかりにくさは、今後解消して欲しいポイントだ。

画質チェック ~ありそうでなかった「ハイダイナミックレンジ復元」とは?

画素形状は(逆)「く」の字型。REGZA Z7と同系と思われるIPS型液晶

 55Z8の液晶パネルはIPS型液晶を採用する。その関係からか、3D立体視は偏光方式での対応となっている。

 画素形状は(逆)「く」の字型で、REGZA Z7の画素形状とよく似ている。

 バックライトは白色LEDの直下型を採用している。今現在、直下型白色LEDバックライトを採用する液晶テレビは皆無というわけではないが、50インチオーバーサイズではかなり少数派となっており、近年のREGZAで振り返ると、REGZA S7が39インチモデルまでで採用していた程度。大型サイズのREGZAでは55X3以来の直下型白色LEDバックライトモデルということになる。

 もちろん、バックライトは、映像フレーム中の明暗分布にリアルタイム適応させて局所的に明度を調整するエリア駆動に対応する。なお、このREGZA Z8のオリジナルなエリア駆動技術には「ダイレクトLEDエリアコントロール」という名称が付けられている。

 映像を一目見て感じるのは圧倒的な明るさだ。これは大げさに誇張で言っているわけではなく、本当に明るい。

 東芝によれば同画面サイズで比較した場合先代のREGZA Z7の1.75倍の明るさと言うから強烈だ。

 最大輝度は、700cd/m2はあるとのこと。一般的な液晶テレビは400~450cd/m2なので、確かにそのくらいの倍率比にはなる。また、開発関係者によれば、今回の直下型LEDバックライトシステムは潜在能力的には1,250cd/m2までの輝度まで出せるとのことで、55Z8はとてつもない輝度パワーを秘めたモデルだといえる。

47Z8のカットモデル
LEDバックライトモジュール

 なお、LEDの個数自体は非公開となっている。2013年10月に開催されたCEATECでは47インチモデルのカットモデルが展示され、これのLED個数を数えた限りでは91個(横13×縦7)であった。42インチモデルや今回の55インチモデルでも、同等程度だと思われる。

 55Z8の輝度性能は、工場出荷状態設定のプリセット画調モード(映像メニュー)である「おまかせ」でも、相当明るく感じるが、55Z8の輝度性能を最大限に活用するためにはプリセット画調モードを「あざやか」に設定すると分かりやすい。

 室内が相当に明るくても、55Z8の明るさは引けを取らないし、それこそ強い陽光が室内に差し込んで55Z8に被ったとしても、映像表示に影響が殆ど無いと思えるほど明るい。筆者も、初めてプリセット画調モードを「あざやか」にしたときには、あまりもの明るさに思わず笑ってしまったほどだ。

 ただし、この圧倒的な明るさは、ただ画面全体を明るくして実現しているのではないということに、幾つかの映像を見ていて気が付く。

 映像中の高輝度部分に対して特に高い輝度を与えているのだ。

 例えば、暗い部屋から陽光溢れる屋外を見ているようなシーンや、画面全体的には中明度でもフレーム内に高輝度な照明やハイライトが出ている箇所は、そこが鋭く発光するのだ。映像中の自発光部分やハイライト部分が本当にリアルに輝いているような質感で表示されるのである。

 この55Z8の視聴体験は、以前、Dolbyのデモで、ハイ・ダイナミック・レンジ(HDR)ディスプレイ「PRM-4200」を見た時のことを思い起こさせてくれた。

 この55Z8のリアリティ溢れる高輝度表示特性には東芝は「ハイダイナミックレンジ復元」という技術名を与えている。

ハイダイナミックレンジ復元

 一般的な映像は、カメラで撮影した際に露出補正や階調圧縮が行なわれて、テレビやディスプレイで表示できる輝度レンジや階調特性に補正されたものになっている。PRM-4200のようなHDRディスプレイでは、HDR撮影された映像を、そのまま相対的に現実世界のコントラスト比に近い形の輝度比で表示するわけだが、55Z8の「ハイダイナミックレンジ復元」では、一般的な映像を元の現実世界の輝度比に復元するような処理を施して、疑似的なハイダイナミックレンジ表示を行なってくれるのだ。

 幾つかの映像を見てみた感じでは「フレーム内の明暗差が激しい映像」や「ハイライト表現がフレーム内に散見される映像」でこの「ハイダイナミックレンジ復元」機能の効果が大きいと感じた。逆に効果が分かりにくいのは全体的に暗い映像だ。

ハイダイナミックレンジ復元=オフ
ハイダイナミックレンジ復元=オン

 写真では、撮影時に階調が圧縮されてしまって実際の55Z8での見え方は伝えられないが、屋外の情景に広がりが感じられ、照り返しがとてもリアル。青い瓶のハイライトが外の陽光の強さを伝えると共に瓶のガラスの質感をリアルに見せてくれる。

 それでは高輝度性能に優れる55Z8は暗い映像の表示が不得意か…というと、プリセット画調モードを適宜切り換えてやれば、一般的な液晶テレビと変わらない暗部階調表現や黒の表現は行なってくれる。例えば「映画プロ」などの画調であれば、暗室での試聴向きの暗部階調重視の画調で黒浮きを抑え込んだ表示にはなる。ただ、プリセット画調モード「あざやか」はさすがに暗部や黒が浮き立ちがちとなる。ハイダイナミックレンジ感のリアリティと、暗部表現力がいいバランスでマッチしているのはプリセット画調モード「標準」あたりだ。ここは、映像中の高輝度部分をリアルに見せつつ、暗部の浮き立ちはほどほどに抑えてくれる。

 輝度ムラについては、直下型バックライトという構造的な優位性もあってか、ほとんど感じられず。輝度均一性レベルはなかなか優秀と言えそうだ。なお、本体が薄いせいもあり、評価機は、漆黒表示を行なった際に表示面の四つ角付近から若干の光漏れが確認された。

輝度の均一性は優秀
Z8採用の新白色LEDバックライトは色域もZ7比で14%拡大された

 輝度スペックばかりに目が行く55Z8だが、実は発色性能も向上している。筆者はいつも発色テストにはカラーチャートを表示させて確認しているのだが、純色では最初に赤の発色のダイナミックレンジの拡大に気がつかされた。赤の発色がとても深く鋭く、黒赤グラデーションを表示させると最暗部にまで赤味が残るほど色深度が深い。青や緑も良好で、中間色や二色混合グラデーションも非常に滑らかだ。東芝によれば今回の新直下型白色LEDバックライトシステムでは、色域がREGZA Z7比で14%も広くなっているとのことで、確かにその効果の片鱗は感じられる。

 肌色の発色も、新直下型白色LEDバックライトシステムの恩恵を授かっているようでとても自然な感じだ。半袖から伸びた腕の陰影はとてもリアルに丸く見えるし、皮膚の肌理に現れる肌色ベースの色ディテールなども鮮明でサラツルっとした質感までがイメージできる。こうしたリアルに見える肌の質感表現は、超解像処理などの効果との相乗効果なのかもしれないが、少なからず、今回の色域14%拡大の恩恵もあるに違いない。

 全てのシーンでハマるわけではないが、今回の筆者の評価では、屋外シーンで撮影された人物の顔や肌はプリセット画調モード「あざやか」で見るととてもリアリティに溢れていた。薄化粧の肌に乗るハイライトは、その場面の太陽の方向までが分かる感じがするほどリアルで、その人物の肌の透明感をも際立たせていた。瞳の上に映る鏡像も鋭く光るため、本当に生きている人間の眼のようにも見えてくる。

色域設定=x.v.Color
色域設定=色域復元
色域設定=標準
色域設定=x.v.Color
色域設定=色域復元
色域設定=標準

 映像はx.v.Color対応のものではないためx.v.Colorでの表示は参考まで。色域復元では色深度が深くなる。「色が濃くなる」というよりは色の階調表現が豊かになる感じだ。

過去フレームだけでなく未来フレームも参照しての超解像処理を採用

 超解像処理やノイズ処理については、REGZAらしい安定した高画質が55Z8でも再現されていた。

 55Z8では超解像処理は1フレーム分をバッファリングして、表示フレームに対して過去フレーム2フレーム分と未来フレーム1フレーム分の相関に配慮した超解像処理を行なう「3次元フレーム超解像技術」(レゾリューションプラス7)を採用している。これは、普段見ている地デジ放送の映像に対しても効果が分かりやすい。タレントが着ているニットシャツなどの網目がかなり先鋭に見えるし、その網目一つ一つに浮き立つハイライトは、前出のハイダイナミックレンジ復元で鋭く光るのでとてもリアルに見えるのだ。これは写真で見ても違いの分かる効果。好みに合わせて使っていきたい。

超解像処理(レゾリューションプラス)=オフ
超解像処理(レゾリューションプラス)=オン
カラーテクスチャー(色超解像)=オフ
カラーテクスチャー(色超解像)=オン

 ノイズ低減に関しては従来モデルでも信頼性の高かったMPEGノイズ低減機構に加え、新たに「パンニング検出対応3次元ノイズリダクション」が加わっている。これは、カメラが左右に動いて撮影したような、左右にスクロールする映像に対し的確なノイズ低減を行なう機能になる。ノイズ低減とは語弊を覚悟で喩えれば対象箇所にボカし(拡散)を与えるものだ。この機能は、映像全体が動いたときに、その動きを把握することで映像全体にノイズ低減が適用されるのを防ぐと同時に、的確なノイズ低減を両立させるものになる。「液晶テレビは映像が動いたときにホールドボケ(残像)が見えやすい」と言われるが、実は、ボケて見えるのは液晶本質のボケだけではなく、実はこのノイズ低減の副作用も含まれていたのだ。このアーティファクトが抑えられることで、動きの有る映像に対しても解像感とボケの少ない切れ味が増すことになる。実際、これは地デジ放送などでも効果が分かる。

 55Z8には、残像低減技術として「ダイレクトモーション480」と呼ばれる倍速駆動と補間フレーム技術が搭載される。「480」という数値から8倍速駆動のように思えてしまうが、実際には補間フレーム挿入は120Hzの倍速相当で、これに480Hz相当のLEDバックライトスキャニングを組み合わせて、残像を低減する仕組みとなっている。

 補間フレームの精度を評価するために、いつものようにBD「ダークナイト」のオープニングのビル群の飛行シーンを再生してみたところ「倍速モード」を「クリアフィルム」「スムーズ」「クリアスムーズ」のいずれにおいても、左奥のビルの窓がブルブルと振動してしまっていた。ブルーレイ映画視聴などで、こうしたピクセル振動に怯えたくないというユーザーは「倍速モード」設定を補間フレームなしで毎秒24コマ相当の表示を忠実に行なう「フィルム」モードを活用するのがオススメだ。

 アニメ再生に関してはZ8では、パナソニックが独自に規格化したMGVC(マスターグレードビデオコーディング)ベースの最高36bit高階調アニメの再生映像を受けられる「ハイビットBD」モードが「コンテンツモード=アニメ」に追加されたが、今回はこの評価は行なえていない。そこで、いつものように「星を追う子ども」を「コンテンツモード=アニメ(BD)」として「画質モード」は「標準」や「あざやか」で見てみてた。

 アニメ映像の大胆な陰影の塗り分け部分の「陰」の部分が、過度に沈み込まないのが近年のREGZAのアニメモードの特徴だが、「画質モード=標準」では、この特性が分かりやすい。変にハイコントラスト化されず、アニメの柔らかい陰影が維持されるのは、アニメ専用にカスタマイズされた「カラー階調リアライザー」が効果的に働いているためだ。

 それと「あざやか」でも見てみたが、アニメにも、ハイダイナミックレンジ復元が効くくようで面白い。アニメは、その場面で見て欲しいキャラクタ等を演出として明度の高い色調で描いているようで、こうした表現に対しハイダイナミックレンジ復元が効いて、とても立体的に見えるのだ。見慣れたアニメならばあえて「あざやか」で見てみると、新しい発見があって面白いかも知れない。

 3D映像は「怪盗グルーの月泥棒」を視聴。55Z8の3D映像表示方式は偏光方式なので、2組の1,920×540ドットの映像を左右の眼に振り分けて見せる方式になる。3Dメガネは別売で、純正オプションとしてレグザシアターグラス「FPT-P200(J)」が設定されている。実際にこのFPT-P200を使用して3D映像を見てみたが、偏光方式で気になる「歯抜け」感のはほとんど感じられなかった。斜め線のジャギー感もほとんど気にならない。ただし、注意したいのはクロストーク(二重像)だ。視聴距離や表示面と目線位置関係によっては結構強く二重像が知覚される。筆者の視聴実験では視聴距離が2m未満では二重像が出やすい。また、目線位置は画面中央付近からずれるほど二重像が出やすい。逆に、視聴距離を2m以上取って、目線位置を画面中央付近に合わせると二重像はほとんど知覚されなくなる。スイートスポットが存在するというわけだ。

 55Z8はスタンド部の背が低いため一般的なテレビラックやローボードに設置するとややもすれば画面中央が目線よりも下に来てしまいがち。今回の筆者宅の評価ルームでもまさにそういう位置関係になってしまったのだが、3D映像を本格的に楽しみたいというユーザーは、55Z8の設置の高さ、あるいは着座位置の高さには熟慮した方がよいかもしれない。

 ゲームモードは、前述したようにSD映像に関連したモードが省略された以外に変更はなし。低表示遅延機能であるゲームダイレクトに関しての仕様変更はないとのことなので表示遅延測定は今回は省略している。実測値等に興味がある方は本連載Z7の回を参照して頂きたい。

プリセット画調モードのインプレッション

 「コンテンツモード=オート」にしてのプリセット画調モード(映像メニュー)ごとのインプレッションを簡単に記しておく。

 Z8の「ハイダイナミックレンジ復元」の効果が最も分かりやすいのは「あざやか」。ただし、暗い映像では黒が浮き気味になるので、それが気になるときは、階調バランスにも配慮した「標準」がオススメだ。暗室で映像鑑賞をするならば、Z8の高輝度パワーを絞って"普通"のエリア駆動付き液晶テレビとして動作してくれる「ライブプロ」「映画プロ」がオススメだ。「PC」や「ゲーム」は映像エンジンの介入を最小限にしたHiFi的モード。モニター的に活用するならばこの2つのモードがオススメだ。

「映像メニュー」=あざやか
「映像メニュー」=標準
「映像メニュー」=ライブプロ
「映像メニュー」=映画プロ
「映像メニュー」=ゲーム
「映像メニュー」=PC

おわりに~高輝度力が液晶テレビの画質に新しい価値を与える?

 55Z8は、久々の「大型サイズ×直下型LEDバックライトシステム」モデルだ。この「触れ込み」から連想される性能はちゃんと期待通りでているわけで、最初は面白みのない優等生モデルかと思っていたのだが、どうしてどうして。

 700cd/m2の高輝度パワーを駆使した「ハイダイナミックレンジ復元」機能が強烈で、実は優等生モデルどころか、優等生の表の顔と、異端の革命児の裏の顔を持つ二極的なモデルであった。

 ハイダイナミックレンジ復元は、いわば「輝度方向の情報復元」であり、液晶テレビにありそうでなかった機能だ。

 映像とは視界の再現が究極目標だが、実際にはカメラで撮影した映像はその撮影段階で人間が見やすいように輝度情報を切り取ったり圧縮してしまっている。だから、カメラで撮影された映像は、現実世界とはだいぶ異なる輝度分布情報を見ていることになるのだ。これを疑似的に現実世界の相対に戻してしまおうというのが、今回のZ8用オンリー機能の「ハイダイナミック復元」なワケだが、その復元映像は疑似復元とはいえ、その光を満たしていた空間の広がりまでを再現しているようで驚くほどリアルである。いうなれば「ハイコントラスト」という評価キーワードの向こう側を見ている感覚だ。

 店頭では恐らく、「一番明るい液晶テレビ」として訴求されるだろうが、是非とも明暗差の激しい映像やハイライトが点在するような映像を見てみて欲しい。映像はアニメでも映画でもOKだ。筆者の言わんとしていることが伝わるはずだ。

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トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちら