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新生シャープの“察する”テレビ。8K技術でAQUOS 4Kの画質を磨く

 シャープは、AQUOS 4Kの主力モデルを大きくリニューアルした。「UH5」、「US5」シリーズは、OSにAndroid TVを採用し、自社のクラウドAIoTサービス「COCORO+」と連携する「COCORO VISION」を内蔵する。2018年中には、AQUOS 4Kの80%をCOCORO VISION対応とする計画である。

直下型LEDバックライトを採用した「LC-60UH5」

 AQUOS UH5/US5で採用された技術基盤の変更は、これまでのシャープのテレビの歴史の中でも大規模なものだ。また、COCORO+も、大きな力を入れたシャープの全社的な取り組みである。

 それらの狙いはどこにあるのだろうか? そして、「テレビ」にどのような価値をもたらすのだろうか? 開発・商品企画担当者に話を聞いた。お話いただいたのは、シャープ・TVシステム事業本部 国内事業部 第一商品企画部長の指出実氏と、IoT通信事業本部 IoTクラウド事業部 サービスマーケティング部 部長の松本融氏だ。

シャープ・TVシステム事業本部 国内事業部の指出実氏(右)と、IoT通信事業本部 IoTクラウド事業部の松本融氏(左)

VODの時代に合わせてAndroid TVを採用

 UH5・US5の第一の特徴は、OSがAndroid TVベースに変わった、ということだ。シャープはこれまで、国内向けのテレビでは独自のLinuxベースのプラットフォームを採用してきた。しかし、今回からAndroid TVが軸になる。国内大手としては、ソニーに続く採用となる。

 選択の理由を、指出氏は「VODが増えたことと関係がある」と話す。

指出氏(以下敬称略):従来は、新たなサービスが登場するたびに、SoCにあわせて組み込んでいくスタイルで、サービス毎に毎回カスタムしていました。

TVシステム事業本部 国内事業部の指出実 第一商品企画部長

 ですが、VOD(映像配信)サービスは増えてきています。いろんなVODが参画しているわけですが、もはや、すべてを(従来型の)組み込みLinuxでやるのは苦しい。それが、去年・一昨年にははっきりしていました。ですから、2年くらい前から、「プラットフォームを切り替えていかないと、限られた開発リソースの中では対応に限界がある」と考えていました。

 実際のところ、ネットサービスはもはやインフラのようなものです。多くのお客様にとっても、放送だけでは満足できない時代になっています。

 これは、多くのテレビメーカーがまさに直面している問題であり、ソニー(Android TV)やパナソニック(Firefox OS)など、テレビの開発プラットフォームを切り替えた企業が、一番に挙げる理由である。その点では、シャープも例外ではなかった。

 ただ、シャープはテレビのOS切り替えに、他社よりも長い時間を必要とした。実際には、アメリカ向けのAQUOSブランドの製品や中国向けの製品では、2年前にAndroid TVを採用しるし、日本でも'16年にAndroid TVセットトップボックスの「AQUOSココロビジョンプレーヤー(AN-NP40)」を発売している。

AQUOSココロビジョンプレーヤー「AN-NP40」

 AN-NP40はCOCORO VISONを搭載した、今年のAQUOS 4Kの先駆けとなったようなモデルである。だから、シャープとしてAndroid TVの開発経験がまったくなかったわけではない。指出氏も「それらが下地になってる」と話す。一方で、決して簡単でない、ということもよくわかっていた。

指出:日本では、ARIB規格に沿った放送対応が、必要になります。その準備期間を要した、のは事実です。それでも「オープンプラットフォームに移行せねば」という課題認識はあったので、まずはAQUOSの中でも上のラインから、ということになりました。

 Linuxベースでできていたことは、網羅すべきと考えて開発は行ないました。残念ながら、放送同士の2画面表示など、Android TVでは一部できていないこともあります。しかし、基本的にはこれまで出来ていたことに、ネットサービスを追加した、という形を目標にしました。

日本仕様への対応に時間、「長く使える」ことを狙って差別化も

 日本向けのAndroid TVでは、ソニーが2年前から他社に先駆ける形で製品化をしている。一方で、OS基盤の変化は、機能開発の面でリスクも大きかった。特に初期のモデルは「動作が遅い」「わかりにくい」などと批判されることも多く、ソニー側も「大きな代償だった」と苦労を隠さない。

 2年遅れたことを、シャープはどう判断しているのだろうか?

指出:ベンチマーク対象とする商品があったことは、同じOSを使うものとして、大いに参考になったのは事実です。

 確かにAndroidベースでの作り込みは大変ですが、妥協するわけにはいきません。製作の途中段階で、責任者も入れて、開発チーム全体で状況のレビューを繰り返しつつ開発を進めました。

 シャープのAndroid TVは、シャープは表だって公表してはいないものの、SoCのパートナーとしてMediaTekを選んでいる。これはソニーも同様であり、現状、日本向けのAndroid TVの殆どが採用している状況だ。

 だがもちろん、テレビとしての構成では、ソニーとシャープは大きく違う。同じになっては差別化ができない。オープンプラットフォームの採用は均質化につながりやすいが、テレビという製品において、均質化はもっとも避けたいジャンルである。

 そこでシャープが意識していることが2つある。

 それは、「シャープのテレビは利用層が広い」ということと、「テレビは長く使われる商品になっている」という点だ。

 同じテレビでも、メーカーによって購買層は違う。大手メーカーはどこもそれなりに広い層をカバーしているものだが、それでも、若い層に強いところ、都市部に強いところ、高齢層に強いところ、地方で強いところなど色々だ。特にシャープとソニーは、真逆の部分がある。ソニーは比較的年齢層が低く都市型だが、シャープは年齢層が高めで、地方に強い。別の言い方をすれば、「テクノロジーには詳しくない層」により広いのがシャープの顧客の特性でもある。

 また、現在のテレビは過去のものに比べ、製品の買い換えサイクルが長くなってきている。ブラウン管時代、アナログ時代よりもはるかに壊れにくいこと、経済状況の影響などがその理由だ。一方で、「技術に詳しくない人にも長く使ってもらえる製品を作る」ことが、シャープとしての差別化につながる、というのが、現在の同社の考え方になっている。

指出:使い捨てのようなテレビもありますが、我々はやはりコストをかけてやっています。長く使っていただけるのが当たり前、という考え方です。

 ですから「当たり前にやっていることをもう一度やろう」という意識があります。そのひとつが、「電子取扱説明書」の進化です。Androidベースになって、表示を作り込みやすくなりましたので、その利点を使って作ったのが「お困り解決ナビ」という機能です。

 この機能は、利用中に起きた問題点・疑問点を、画面の図版などから似た症状を選ぶことによって問題を切り分け、解決の糸口を見つけやすくしよう、というもの。過去には紙のマニュアルにあった項目だが、Android TV内にウェブ技術を使って実装できるようになったため、情報量が格段に増した。内容の更新もできる。

UIはAndroid TV標準に近い。なのでこれらの点では、先行製品と大きな差はない。
「お困り解決ナビ」。ビジュアルを見ながら不具合の状況などを確認できる

 それだけでなく、音量表示なども、いままでのAQUOSやAndroid TV標準のものとは異なり、画面中央にボリューム的に表示されるようになっている。こうしたユーザーインターフェース面でも、「差別化」にかなり気をつかっていることがわかる。

ボリューム表示。アナログチックで非常にわかりやすい。ロゴの位置にLEDがあり、操作の状況などがわかりやすくなっている点にも注目

 ちょっとしたことだが、シャープのロゴの部分には控えめな明るさのLEDがついており、リモコンを操作すると、それに合わせてこれも光る。リモコンを使っていると、なぜか反応しないことはよくあるもの。テレビの側が軽く反応することで、「相手に伝わっている感」が生まれ、操作する上でのストレスが減る気がした。リモコンの反応が悪くて振りながら何度も押す……みたいなシーンは多いが、そうなるのも、操作に対するインタラクションが足りないせいだ。こうした配慮も、評価したい点である。

「ゼロタッチ」のレコメンド。”煩わしくない”のための工夫

 そして、差別化における最大のアプローチが「COCORO VISION」の導入だ。COCORO VISIONは、視聴履歴や行動履歴から、テレビ番組・ネット配信・音楽・ゲームなど多彩なコンテンツのレコメンデーションを行うサービスだ。昨年発売した「AQUOSココロビジョンプレーヤー(AN-NP40)」で導入していたものだが、それをブラッシュアップし、本格展開した形になる。

 レコメンドやネット配信というと若い層向け、というイメージがあるが、シャープの判断はけっしてそうではない。高齢者も含む、より広い層への入り口と想定して開発がなされたものだ。

COCORO VISIONのレコメンド画面。番組やネット配信などが、4つずつシンプルな表示でおすすめされる

指出:本質的には「テレビとのタッチポイントを増やしたい」ということがあります。テレビをもっと使っていただきたいんです。レコメンドを4つの色に分けて提示しているのも、リモコンの4色ボタンに対応させているから。こうすることで、気軽に、簡単に使えるように考えています。

 レコメンドというとテレビ番組かネットか、という切り分けがあるように見える。もちろん、COCORO VISIONも両者の違いがわかるようにしてはあるが、提示の仕方として、テレビ番組を多く出すわけでも、ネット配信を多く出すわけでもない。あくまでベースになるのは「利用者の趣味趣向」である。

 特徴的なのは、COCORO VISIONの「現れ方」だ。テレビ内のレコメンドといえば、テレビの電源を付けた時に「これからなにを見たいですか?」といった趣きで出てくるものを思い浮かべる。しかし、COCORO VISIONの場合には、そうした使い方だけが想定されているわけではない。

 新AQUOSの下部には、人がテレビの前に来たかどうかを感知する「人感センサー」が搭載されている。要は人の発する熱を感知しているのだが、これによって、テレビの前に人が来た時、画面にサッとCOCORO VISIONを表示することができる。そこで気になるものがあれば見るし、そうでなければそのまま無視してもいい。テレビの前に来る=テレビでなにかを楽しみたい時であろう、と判断し、テレビの側から「語りかける」ようなイメージで対話する、という考え方である。

 COCORO VISIONを開発したチームを率いたのは松本氏だ。松本氏はシャープのネットワークサービスを長年開発してきたコアメンバーの一人であり、現在シャープが全社を挙げて開発中の「COCORO+」プロジェクトを率いる立場でもある。

松本:今後の家電のあり方について、特にテレビのチームとは議論を重ねました。その中で「今後はテレビ放送を見るだけでなく、ネットコンテンツも合わせて自分が楽しみたいものを見る、COCORO VISIONに変わるんだ」と考えたわけです。今はネットサービスであったり製品の名前だったりするわけですが、あくまで「新しい存在になる」のだろう、と想像しました。今回の製品はその一号機です。

COCORO+などクラウドサービス側を担当する松本融氏

 シャープはAV機器から白物家電まで、様々な機器に同じネットサービスを搭載して連携する「COCORO+」というコンセプトを進めている。COCORO VISIONもそのひとつなのだが、開発過程では、携帯電話でのコミュニケーションサービスである「エモパー」や、コミュニケーションロボットである「RoBoHoN」の開発が非常に大きな役割を果たし、多数の知見が使われている、という。

シャープは全社を挙げて「COCORO+」を展開。多数の製品に同じクラウド基盤を使ったサービスを提供し、家電の付加価値にしようとしている

松本:今回のAQUOSの考え方にもっとも近いのは「エモパー」です。センサーを使ってお客様の日常を把握しながら、いやらしくないタイミングでお客様に語りかける、という発想です。テレビにも人感センサーを入れて「ゼロタッチ」(リモコンやテレビに触らない状態)でのUIを入れました。センサーでお客様を感じて、その時に必要なコンテンツをそっと差し出すようなイメージです。

 Android TVでも他のテレビでもそうですが、今はコンテンツのビッグバンが起きています。リモコンでいろんなことを楽しむ時代ですが、コンテンツの多さが「煩わしさ」にもなってきています。

 だいたいのお客様は、最後につけたテレビ放送のチャンネルを付けっぱなしで、見ていないけれどなんとなく聞いていて、興味があるものがあったら目を向ける……という感じです。そこにはあまり「選択」という意識がありません。そこに「おすすめ」という形で選択の機会を与えているのが、我々の提案です。

COCORO+では、映像配信や音楽、ゲームといったサービスも展開。テレビ番組とともに、COCORO VISIONを通じてレコメンドすることで、多数のコンテンツとの出会いを演出する

 面白いのが、レコメンデーションは、あくまで利用者が「自分で呼んだとき」か、「なにもしていない時」に出てくる、ということだ。リモコンでチャンネルを選んでいる時や、テレビ番組やビデオなどを熱心に視聴している時には「絶対に出てこない」(松本氏)という。それでは人を邪魔してしまうからだ。

 チャンネルを付けっぱなしにして、流れてくる番組からなにかを得ていたのが過去のスタイルだが、そこには「楽である」という良さもあった。それをスポイルすることなく、適切にコンテンツとの出会いを増やすことはできないか……という発想で開発されているわけだ。

自社だけでは閉じない「COCORO+」。将来はGoogle連携の可能性も

 ここでひとつ、気になることがある。

 映像のレコメンドは数多くある。だが、その精度はなかなか高くならない。理由は、「ひとの好みを知るための情報が少なすぎる」からだ。これまでに見た番組のジャンルや出演者の情報から番組を勧めるのは論理的である。だが、人の好みとは「これまでに見たもの」だけで出来上がるものではない。たまたま流れてきた情報に刺激されたり、時間帯のような生活シーンに影響されたりもする。だが、映像のレコメンドは、結局のところ「その人の年齢などの属性」や「これまでに見たもの」程度の情報でしか推測できず、適切な提示が難しい。だから、Netflixなどの企業は背後で大量のデータベースを作り、可能なかぎりの「ビッグデータ」でレコメンドをしよう、としている。

 こうした部分で、日本企業は不利だ。またそもそも、テレビ内の番組情報や、ネット配信から提供されるジャンル情報だけでは、レコメンドの精度を高めるには情報が不足している。

 だから筆者は、シャープのアプローチにも限界があるのでは……と感じた。そこでその点を問うと、松本氏は次のように答えた。

松本:確かに、テレビ関連は情報量が少なく、レコメンドの精度があがらないだろう……という懸念はおありでしょう。

 しかし我々のAIの特徴は、テレビにクラウドつながっていることで、24時間の生活が透けて見えることです。何時から何時まで起きているのか、どの時間帯に出かけていることが多いのか、といったことを推測できるようになっています。24時間の情報を活用し、ライフスタイルを「察する」ことで、偶発的なコンテンツとの出会いを生み出せれば、と思います。

 現在のテレビは、操作のログを残している。また、新AQUOSの場合、人感センサーによって「テレビを見たいと人がテレビの前にやってきたタイミング」もわかる。それらの情報はきわめて個人的な情報だが、それが蓄積され、シャープ内で作られた推論エンジンと比較されることで、「この人はこういう生活スタイルの人だ」ということが見えて来る。これによって、先ほど挙げたような「データの不足による不適切な推測」を防ぐことが可能になる。長時間使ったわけではないので、現状のレコメンドの精度について断定的なコメントはできない。しかし確かに、数日・数週間と利用するうちに、COCORO VISIONが「家族を知って」レコメンドしやすくなるのは事実だろう。

 一方で、シャープならではの要素はまだある。

 COCORO+は横断的なプロジェクトであり、白物家電とも連携している。だから、「この人はどのような食事を好むのか」といったデータも集め、連携してテレビのレコメンドに活かすことも、今後可能になっていく。

松本:COCORO+は「IoTの時代にどう生き残っていくか」を考えて作ったプロジェクトです。テレビやスマホのように賢い機器も、シンプルでCPUがないに等しい機器でも、どう同じようにクラウドサービスとつなげるかを考えるところからスタートしました。シャープ自身がやることで、それぞれの商品に新しい価値が生まれますが、それをつなげることで「スマートホーム」にしていくのです。

 ここで気になる点がある。

 シャープはCOCORO+のインフラを使い、音声認識・合成や意味分析、レコメンデーションといった様々なことを行っている。一方で、いまITの世界では、クラウドの巨人達がやはり、様々なプラットフォームを打ち出して戦おうとしている。スマートスピーカーやそこで使われる音声アシスタントの世界は、まさにその最先端だ。シャープも音声認識を組み込んだ家電を多数作っているが、ここで「シャープの家電だけを集めたプラットフォーム」と「クラウド・ジャイアントのオープンプラットフォーム」が戦うと、やはりビジネス的には不利にも思える。この点について、松本氏は方向性を詳しく教えてくれた。

松本:その点はかなり議論したところです。

 フィーチャーフォンの時代には垂直統合的な作り方をしていて、OSまでシャープがLinuxをカスタムして作っていました。しかしスマートフォンの時代になると、OSなどはオープンになっていきます。しかし実際には、スマートフォンは1つのプラットフォームではなく、「様々なプラットフォームの集合体」といった方が良いものです。決して、アップルやGoogleがすべてのレイヤーをもっているわけではなく、ハードウエアまで含めれば、きわめて多様なプラットフォームの集合で形作られています。

 スマートホームもそうなるのではないか、と我々は考えています。ハードに接続、アプリケーションに相互接続と、多数のレイヤーで構成されることになるでしょう。

 我々も過去には、「シャープの家電群」だけでやろうとしていましたが、開発メンバーですら「全部の家電をシャープで揃えています」と胸を張れるものはなかなかいない。ですから考え方を変えました。

 そういいつつ、松本氏は一枚の画像を示す。

シャープの考えるスマートホームのあり方。クラウド側で他社サービスと連携する形になっていることに注目

松本:インターフェースは、画像と音声の両方があるでしょう。我々の提供していない住設のようなものも、どんどんIoT化することによってクラウドに情報が上がっていきます。我々としては、上がっていた情報を解析して、お客様になんらかの価値として提供するのが、家電メーカーとして行なうべきことだ、と考えています。いまはひとつの機器でやっていることが、多数の機器の連携になることで「スマートホーム」になっていくことになります。

 他のプラットフォーマーとの連携は、クラウド側で行ないます。例えば、我々のサービスとGoogleの音声アシスタントであるGoogleアシスタントやネット検索が連携することはないのか、というと、そういうわけではありません。他社プラットフォーマーとクラウド側で連携することは十分にあり得ます。例えばスマートフォンやテレビ、スマートスピーカーのような製品は、もしかしたらフロントには「OK、Google」がきて、クラウドの向こうに我々のCOCORO+につながる……という世界になるかもしれません。

 しかしそもそも、機器によってUIは違います。白物家電すべてにGoogleアシスタントを載せられるかというと、なかなかそうはいかない。そのためには、我々がハードウエアレイヤーまで降りて設計開発し、クラウド側と一緒に開発しないとできません。

 現在のスマートホーム連携は、インテリジェントな「ハブ」を置いてやることが多くなっている。例えば照明のようにシンプルなものでも、ハブを介して動く。しかしそうでなく、機器がそれぞれつながるシンプルなネットワークの世界があるかも知れない。そのためには専用のハードウエア開発もクラウドも必要だし、そうしたことが苦手な企業には、シャープがパートナーとなって手助けをする必要もある……。

 松本氏の言う構想は、そういうことなのだろう。

 テレビに入ったCOCORO+は、シャープにとってこれからの大きなチャレンジの一端なのである。

プラットフォーム刷新で、実は画質が大幅改善

 肝心の画質の話もしておかなくてはならない。今回の製品は、OSを含めた機能面が大きく変わったため、どうしてもそこに注目が集まりがちだ。しかし、筆者のみるところ、画質面でも、ここ数年のシャープのテレビの中ではもっとも大幅な進化が見られた製品だと感じる。

 指出氏も「プラットフォームレベルでは2年半くらい大きな変化はありませんでしたが、今回の製品では画質・音質両面で大きく変わりました。特に地デジでの改善が大きいかと思います」と認める。

指出:今回はSoCが大きく変わったこともあり、大きく変わっています。

 特に「LC-60UH5」は直下型LEDバックライトを使ってローカルディミングもしていますので、コントラストが非常に良い。コントラストの改善は前々から考えていしたが、特に60UH5では差別化ができました。ピーク輝度も1,000nits出ます。液晶は明るい部屋で見ることが多いものですから、そうした明るい場所でもコントラストが出ることを狙いました。

 また今回は、特に色域が変わっています。フィルターとLEDでそれぞれ10%くらい、前機種の「US40」に比べて、特に赤側の色域が拡大しました。BT.2020で70%程度、DCIでは100%の色域が確保できています。かつては「シャープの赤って朱色っぽいね」と言われていましたが、今回は赤の成分がしっかりとれましたので、改善できたと思っています。これは肌色の作り込みにも有効です。メリハリも効き、色の解像感や飽和度にもプラスに働いていると思います。

 アップコンバートを含めた精細感については、地デジを見る場合、過去のモデルは少し甘めに見える傾向がありました。そこで、精細感はかなり高めています。特に、ワイプの中の顔などを見ると、ずいぶん印象が違うはずです。

 アップコンバートについては、8Kの技術を一部入れました。8K製品で使っている、2Kから4K、さらにはそこから8Kに変えるためのアルゴリズムを少し入れ、特に尖鋭化のアルゴリズムは8Kのものを応用して作っています。

 今回の製品は、機能面で大きな進歩を遂げた新世代である。だがそれだけでなく、画質面でも、シャープとしては「新生代」プラットフォームになったことが大きい。画質・機能面で久々に「シャープが攻めた」製品といえるのではないだろうか。

 ようやく経営基盤が落ち着き、次を目指せる体制になったシャープ。今回大幅に商品性を向上させることが出来た裏には、技術の進歩だけでなく、「攻められる企業体質」への変化が現れているのではないだろうか。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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