西田宗千佳のRandomTracking

「あらゆるところにAlexaを」。Amazonに聞く音声操作の可能性と音楽との再会

 スマートスピーカーの世界シェアトップであり、大本命でもある「Amazon Echo」とそのコア技術である音声アシスタント「Alexa」が、ついに日本でもサービスを開始する。8日に発表会も行なわれたが、その際、Amazon.comでAlexa担当シニア・バイス・プレジデントを務めるトム・テイラー氏に、短時間であるが話を聞くことができた。彼へのインタビューから、Amazonの戦略の一端が垣間見えてくる。

困難だった日本語対応、AVSはあらゆる機器への組み込みを狙う

−音声認識の能力は、言語の種類によってかなり異なってきます。日本語は特に難しい言語だと思いますが、どの点で苦労しましたか?

 日本語には多くの「同音異義語」があります。文脈や内容に応じて、同じ読みなのに違う意味を持つ言葉がありますよね?

Amazon.com Alexa担当シニア・バイス・プレジデントのトム・テイラー氏

 もうひとつの問題が、ソフトウェア的に「いかに正確に読みを記述するか」という点があります。日本語には漢字・カタカナ・ひらがな・英数と、多数の文字があり、さらに読み方も多数あります。その違いを理解して情報としてテキストとして書き込む必要があります。それらの点は苦労しました。

日本語対応に時間をかけた
Amazon Echo

-−日本語への対応はとても難しい。一方で世界には、日本よりも対応が簡単で有望な市場がまだあります。そこで、あえて日本に挑戦した理由はなんですか?

テイラー:我々はAlexaをあらゆる国のあらゆる言語に提供しようと考えています。その機会があれば、もちろん活用したいと思っていました。日本は、非常に市場の可能性が高く、それだけの価値がある、と判断したから、困難にチャレンジしたんです。

-−AmazonはEchoシリーズに多くのモデルを用意しています。なぜこれだけのラインナップを用意しているのでしょうか? 日本市場向けにまずこの3モデルを選んだ理由も教えてください。

Amazon Echoシリーズ

テイラー:我々には、多数の顧客がおり、それぞれが別々のデバイスを選んでいます。非常に面白いことに、顧客は「どれかひとつだけ」を選んでいるわけではないんです。なぜなら、家の中に複数のデバイスを置きたいと考えているからです。

 多くの人はまず音楽のことを考えてスタンダードなデバイスを買い、その後に色々な部屋に置きたいと考えて、小型の「Echo Dot」を買います。すでに良いオーディオを持っている人は、それらと接続することを前提に、プライマリーデバイスとしてEcho Dotを選ぶこともあるでしょう。

Echo Dot

 スマートホームは、音声コマンドがとても向いた用途です。そのために我々は「Echo Plus」を用意しました。

Amazon Echo Plus

 そして、我々のデバイスだけでなく、多数のメーカーから、Alexaを使ったデバイスが登場します。ですから、選択肢が広いことが重要なのです。

-−パートナーから多くのAVS(Alexa Voice Service)対応機器が登場します。それらとAmazonの製品の棲み分けをどう考えていますか?

テイラー:他の国での状況ですが……。多数の企業から様々なAVS対応機器が登場しますが、それらは非常にバラエティに富んでいます。スマートスピーカーもありますが、色々な家電に組み込まれていきます。コーヒーメーカーからエアコン、冷蔵庫に電子レンジ、さらには自動車へと……。Echoとは別に、そうした形で広がっていきます。

ハーマンのスケルトンスマートスピーカー「Allure」

 どのジャンルがどれだけ伸びるかはコメントできませんが、それぞれに大きな可能性があるでしょう。

-−海外での販売数量では、もっとも安価なEcho Dotが一番売れているようです。このことは、Amazonにとってはどういう意味をもっていますか? 特に問題ではないのでしょうか。

テイラー:我々にとって重要なのは、「まず、消費者がデバイスを使ってくれること」です。Echoはこれまでのデバイスとはかなり異なる性質のもので、新しい体験ですから、まずは使ってくれて、体験してくれることが重要ですね。

米Amazon広報担当:世界中で大量のデバイスが販売されていますが、我々から「どのデバイスがどれだけ売れている」ということはコメントしていません。この件についても、どのモデルがどれだけ売れている、ということを示したものではありません。

−-アメリカでは、「Echo Show」のようなディスプレイ付きのデバイスも販売されていますが、日本での展開の可能性はありますか?

Echo Show

テイラー:Amazonは今後も、幅広いデバイスを市場に提供する予定です。その体験がその市場の人々にとって良いものになる、と考えた場合には、美しいディスプレイを備えたデバイスも市場に投入することになるでしょう。

音声アシスタントの可能性。Echoは音楽に人を“呼び戻す”

-−Echoを発売したばかりの頃と今とで、音声アシスタントの使い方に大きな変化は生まれているでしょうか?

テイラー:色々あります。中でも一番興味深かったのは、(本来車載を考慮していない)Echo Dotを自動車に搭載してしまった例ですね。

 Echoを使った人々から様々なフィードバックをうけ、製品やサービスの改善を続けていますが、「ファミリーメンバーシップ」もそのひとつです。アーリーアダプター層のひとりが自分のために買い、気に入って家族のために買い足そう、プレゼントに買おう、という例が多いのです。そうした時には、ファミリーメンバーシップのような制度が必要になります。

 このような、自動車での例やファミリーでの利用例から、音声アシスタント機器の大きな市場の可能性を感じることができます。

--Echoがブレイクする上では、音楽が非常に大きな役割を果たしたと認識しています。しかし、日本では、ストリーミング・ミュージックが海外ほど普及していません。Echoはその中で、どのような役割を果たすと考えていますか?

テイラー:日本の消費者の多くがCDを買っていて、ストリーミングの普及率が低い、ということは、もちろん理解しています。

Echo国内展開に合わせて、新音楽配信サービス「Amazon Music Unlimited」を開始

 海外、特にアメリカの消費者は、ストリーミング・ミュージックとEchoの組み合わせによって、音楽市場に『帰ってきた』と評価されているんです。Echoによって、より多く、より頻繁に音楽を聴くようになっています。

 ですから、日本でも海外と同じように、Echoとストリーミング・ミュージックは、音楽消費に対するフライホイール(勢いをつけ、速度を安定させる仕組み)のような役割を果たすと考えています。素晴らしいスピーカーと素晴らしいミュージックサービスの存在は、音楽業界に必ず良い効果をもたらします。

Amazonで購入
Amazon
Echo
Amazon
Echo Dot
Amazon
Echo Plus

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41