西田宗千佳のRandomTracking

第432回

“最新VR体験”を凝縮、ついに届いたOculus QuestをAV視点で評価

5月21日に、Facebook(Oculus)から、新しいVR用機器である「Oculus Quest」が発売になった。

Oculus Quest

価格は64GBモデルが4万9,800円、128GBモデルが6万2,800円。Amazonが受け付けた予約分の配送が遅れる、という事態に巻き込まれたものの、Oculus公式サイトから再注文し、筆者も無事24日に手にすることができた。

他のVR機器と比較し、その特徴を確認してみよう。

Oculus Quest

スタンドアローン型VRの最新モデル、訴求は「ゲーム機」

Oculusは昨年以降、ハードウエアの本格的な刷新を進めている。昨年の5月には、もっとも安価なHMDである「Oculus Go」を発売した。本連載でもレビューを掲載している。2万円台と安価なこともあり、「動画ビュワー」としてのニーズも大きかったように思う。

Oculus Questは、Goの上位に当たるモデル。Goと同じく内部にプロセッサーなどを内蔵し、PCが不要な「スタンドアローン型VRデバイス」であるのが特徴だ。

つけてみたところ。PCとの接続も必要ないので、単に頭にかぶるだけだ
本体底面。IPD調整を行ってピントを合わせるためのスライダー(左)と、音量調節ボタン(右)がある。角にはそれぞれ、位置把握用のセンサーが
本体左側。中央に電源を兼ねたUSB Type-C端子が。5V・3Aで動作する。角には位置把握用センサーが。頭を止めるバンドの調整は面ファスナーで行なう
本体右側。こちらには電源ボタンがある。バンドの下には、本体左右それぞれにヘッドフォン端子があって、好きなヘッドフォンが使える
付属の「メガネ用アダプタ」。クッションを一旦外し、これを挟んで使うと、メガネのレンズとHMDのレンズが衝突するのを防げる

さらに、OculusはQuestと同時に、PCと接続して使うハイエンド向けデバイスである「Oculus Rift S」を発売した。こちらは今回レビューしないが、従来必要だった各種外部センサーをなくし、ディスプレイ解像度も向上させた「進化モデル」という位置付けである。

Questは、すでに述べたように、単体で使える「スタンドアローン型VRデバイス」であるのが特徴だ。バッテリーの充電さえしてあれば、ケーブルは一切つなぐ必要がない。

しかもGoとは異なり「6DoF」でのポジショントラッキングができる。

6DoFとは、簡単にいえば「顔の向きだけでなく、頭の高さや自分の位置も把握できる」こと、と思って差し支えない。一般的なスマホでのVRやOculus Goは、自分の向いている方向だけを認識する「3DoF」だ。3DoFでも没入感は出るが、6DoFではなにより「動ける」のが大きい。

ケーブルも付属機器もいらないQuestの特性は、6DoFで最大の効果を発揮する、といっても過言ではない。自分が部屋の中を歩き回ることが、そのまま「VR空間を歩き回る」ことになるからだ。6DoFはPlayStation VR(PS VR)やOculus Rift、HTC ViveのようなハイエンドVRの特徴であったが、やはりケーブルのないスタンドアローン型VRデバイスでこそ、より手軽さが光る。

昨年、Oculus Goと同時期に発売された「Mirage Solo」(こちらもレビューが掲載済み)も6DoF対応のスタンドアローン型だったが、Oculus Questはそれに続くものだ。

ただし、Oculus Questは後発だけあって、進化している。プロセッサーはより高速な「Snapdragon 835」を使っており、両手操作に対応した独自のハンドコントローラーにも対応している。

ハンドコントローラー。親指・人差し指・中指の位置にボタンがあり、アナログスティックも。左右それぞれに用意されていて、単三電池一本で動作する

PCの最新のVR機器に比べると処理能力や、それに付随するグラフィック性能では劣るものの、「体験」の面において、最先端の水準に匹敵している。

Oculus Goが「手軽さ重視」であったのに対し、Questは「VRとして最新の体験を、あますことなく実現できる」のがポイントである。その分、価格は倍近くになっているのだが、「最新のゲーム機を買った」と思えば、さほど違和感のない価格帯ではないだろうか。

詳しくは後述するが、実際、OculusもQuestを「新世代のゲーム機」としてアピールしている部分がある。それは、同社が公開したトレイラーを見れば一目瞭然である。

Oculus Questの初期トレイラー。「VRを使った新しいゲームデバイス」としてのイメージが徹底されている

「最新のVR」体験を凝縮、安全性にも配慮

では、「VRとして最新の体験を、あますことなく実現できる」とはどういうことなのか? それは、「VR空間の中で手を使った濃密な体験ができる」ことであり、「周囲の安全に気を配ってVRを楽しめる」ことである。

また、すでに述べたように、Oculus Questは「6DoF」に対応している。数年前から、ハイエンドVR機器では対応している要素だったが、自分の位置を把握するためには、室内にセンサーを配置する場合が多かった。だがQuestの場合には、本体の角にあるカメラを使い、外界を認識することで自分自身の位置を把握する。こうしたやり方を「インサイドアウト」と言うが、2018年以降に登場した製品では採用例がかなり増えてきた。Questもそのひとつだ。インサイドアウト方式だと、外にセンサーを置く必要がなく、非常に手軽に使えるのが特徴だ。

他のインサイドアウト対応HMDと比較してもQuestの位置認識精度はとても高い。初めて使った人でも、特に違和感を感じることはないだろう。これはけっこうスゴイことだ。ちなみに、Questと同時発売の「Rift S」も同様なインサイドアウト方式を採用しており、もはやVR用機器で、外部センサーを使うものは減っていきそうな雲行きだ。

Questでは左右それぞれの手にコントローラーを持って操作する。このコントローラーの認識も、インサイドアウト用のカメラで行っている。親指・人差し指・中指の位置にボタンが対応しているので、仮想空間の中で「なにかを掴む」「なにかを投げる」といった操作が簡単に行える。

すなわち、仮想空間を自由に動けて、自由に手を伸ばすことができるのが、最大の価値だ。

それは、セットアップ後からいきなり体験できる。セットアップ後に始まるチュートリアルで、コントローラーを使ってなにかを掴んだり、投げたりといった動作を確かめられる。この時点で、「6DoF+ハンドコントローラー」の価値の高さがわかるはずだ。

Oculus Questのチュートリアル。ハンドコントローラーを使って「VR内の物体に触れる」体験をする。こうしたことが現実感を高める効果があることを体感できる

そしてまた、安全性の面でも興味深い取り組みがなされているのがすぐに体験できる。

Oculus Quest(および、同時発売のRift S)では、「ガーディアン」というシステムが導入されている。自分で「プレイする領域」を決めておくと、自分が動いてその範囲を超えてしまった時、映像を「リアルのもの」に切り換えるものだ。

以下の動画をご覧いただきたい。これは、ガーディアンで設定した範囲の外と中を移動する時に自分に映像がどう見えるかを撮影したものだ。エリア外では白黒の世界だが、エリア内ではVR空間になるのがおわかりいただけるだろう。

Questの「ガーディアン」の様子。自分が指定したプレイエリアの外以外では白黒の実景が表示されるので、なにかを取ったり障害物を避けたりすることもできる

ガーディアンによるプレイエリアの設定も簡単だ。コントローラーを使い、地面に線を描けばいい。すると、線で囲まれた範囲内がプレイエリアになる。

現実空間に「VRになる場所」を設定し、その中でだけ、両手まで使って目一杯VRを楽しめる。

これが、Questの利点である。

なによりも素晴らしいのは、そういう体験全体を、セッティングとチュートリアルを通し、すべて自然に理解できることだ。この辺の設定の練り込み・ソフトの作り込みは驚嘆に値する。

実のところ、ハンドコントローラーはハイエンドVRではすでにあたりまえだし、ガーディアンに相当する機能も、HTC Viveに搭載済みだ。外部がシースルーになるという機能も、ソフトウエアアップデートによって、Mirage SoloやWindows Mixed Reality対応機器で実装済みである。ひとつひとつの要素を取り出せば、「最先端のVRでは珍しくない」ものだ。

だが、Questはそれらの要素をすべてうまく統合し、洗練したプロセスで楽しめるものへとまとめあげている。そこがすばらしい。

VRはまだまだ始まったばかりの市場だ。ハイエンドVRに触れたことのない人の方が多いだろう。そうした人々にとって、Questのセットアップ体験は、新鮮な驚きに満ちているだろう。その内容は、この4年ほどの間にVRで起きた進化を凝縮したものだから、面白くないはずがない。

こうした部分を見ると、Oculusが急速に「コンシューマ機器のメーカー」としての経験値を積んでいるのがよくわかる。数年前は拙いところもあったが、そろそろ、任天堂やSIEもうかうかしていられない「ユーザー体験」が作れる企業になりつつある。

画質は劇的に改善、「映像体験」も自然に

チュートリアルで体験できる機能の確かさは、ゲームの完成度にそのままつながる。これまではPCやPSVRでしかできなかったレベルのゲームが、スタンドアローン型VRデバイスで楽しめるようになっているのは大きい。

もちろん、CGの画質面ではまだ差がある。だが、その差は意外と小さいものに感じられるだろう。なぜなら、Oculus Goと比較して、ディスプレイとレンズの品質がぐっと上がっており、PSVRやPCのハイエンド製品に負けないレベルになったからだ。

ディスプレイの解像度は、1,600×1,400ドットの有機ELが両眼分で、実質3,200×1,400ドット。Oculus Goは2,560×1,440ドットの液晶が1枚で、両目分を構成していた。ちなみに、初代のOculus Riftが2,160×1,200ドットの有機ELを1枚、PS VRが1,920×1,080ドットの有機ELを1枚で、解像度はやはりかなり上がっている。

さらに、採用しているレンズの質もあがったのか、画面端でのにじみも軽減された。本体下部には目の幅(IPD)によるピントのずれを補正するレバーもあって、調整ができるため、フォーカスもずれにくく、鮮明さを向上させるのに一役買っている。

こうしたことから、同じ映像を見ても、Oculus GoとQuestでは、体験がかなり異なる。PSVRや初代Oculus Riftのように、発売からしばらく時間が経った機器との間でも、解像感ではQuestの方が良好である。最新の「Rift S」や「Vive Pro」との比較だと不利な部分はあるが、少なくとも、「手軽に手に入るVR機器」の中では、もっとも良い「VRホームシアターである」といって間違いない。

Oculus Questのホーム画面。Goのそれと機能などに大差はないが、実物で見ると精細でより見やすくなっている
Web閲覧画面。こちらも機能に差はないものの、解像度向上の効果を体感できるものだ

問題は、どの映像配信に対応しているかだ。この辺は、Oculus Goのレビューを行なった時と、あまり変化がない。

Netflixには専用アプリがあるし、YouTubeについてもアプリが用意されたため、これらについてはアプリから視聴できる。だが他のサービスについては、基本Webブラウザーからの視聴、ということになる。モバイル版のブラウザーを基本にしているが、Webの閲覧などは問題ないし、動画も再生できる。ただし、ブラウザからの視聴がうまくいかないサービスもあるので、留意が必要だ。やはり、動画系アプリの対応を進めて欲しい、と思う。

YouTube視聴アプリが登場。通常の動画はもちろんだが、360動画の視聴に最適だ。

なお、これは裏技になるが、Oculus Questを「開発者モード」にすると、Androidアプリのパッケージ(apk)を手動インストールすることも可能になる。どこかから映像配信アプリのapkファイルを入手すれば、それをOculus Questの中で動かすことも「できないわけではない」。だが、公式に配布されたのではないapkファイルを使うことには、著作権上もセキュリティ上も問題がある。筆者としては推奨しないし、その方法を示すこともしない。自己責任で行なうこともできるが、危険であるし褒められた行為でもないことを警告しておく。

なお、動画視聴については、画質以外にも面白い要素がある。Oculus Goが出た時「動画視聴に最高」と言われていた。そこでQuestで同じ事をしてみると……、面白いことに、Questの方が自然で快適な体験になる。NetflixのVR版は、暖炉のあるホームシアターを模した空間になっている。その中で映像を見るわけだが、奇妙なことに、GoよりもQuestの方がずっと見ていて「しっくり」くる。

解像度や発色の良さも効いているのだが、それだけが良さではない。6DoFであることの良さもあるようだ。

映画館で映画を見る時、首がまったく動かない、という人はいないはずだ。同様に、体がまったく前後に動かない、という人もいないだろう。3DoFのOculus Goでは「首の上下左右の動き」は再現されるが、位置や奥行きは再現されない。だが、6DoFではそれらも再現できるので、より「映画館やホームシアターで見ている時の感覚」に近くなる。

正直、そうした体の動きを再現することは、映像の質などには関係しない。だが、人間が体を持った存在であり、過去の映画館やリビングでの映像体験に引っ張られる存在である以上、「VRの映画館でも、現実の映画館で見ているのに近い見栄えが再現されている」方が快適で自然に思えてしまう。これは、ちょっと面白い現象といえるのではないか。

また、これはQuestだけでなくGoでも体験できるものだが、これまで紹介する機会がなかったので、せっかくなので説明しておきたい要素もある。それが「Facebookの3D写真」だ。

Facebookを使っている方なら、時々「立体に見える写真」がシェアされてくることをご存じのはず。あれは、iPhoneなどの「ポートレートモード」、すなわち奥行き情報を持った写真をFacebook側で処理して3D写真にしている。

QuestやGoではそれがいい感じに「3Dに見える」ので、非常に新鮮な驚きがある。ブラウザーから視聴可能なので、ぜひ試してみていただきたい。

映像を見るだけでも「イチオシ」VR機器、「ゲーム機」戦略は吉か凶か

冒頭に述べたように、OculusはQuestを「ゲーム機」としてアピールしている部分がある。そのため、Oculus GoとQuestでは、「アプリストア」の運営方針に大きな違いがある。

Goではスマホのアプリストアと同じく、登録すれば個人でも自由にOculus Go用のアプリを売ることができた。だが、Questではそれができない。企画書などをOculus側が審査し、彼らが認めたアプリだけが販売可能、というビジネスモデルになった。Oculusとしては、テスト的なものはPCの市場で行ない、Questは「ゲーム機的」な信頼性の高い市場をつくりたい……と考えているようだ。

そのため、Questのアプリストアには、Goのアプリストアほど品揃えはない。確かに、並んでいるものはどれも一定の水準を超えているし、面白い。だが一方で、「VRを信じられないことに使う」ような、突飛なアプリはないようにも見受けられる。

「ゲーム機」として位置づけるならそれでいいが、VRを新しい家電やコンピュータの世界と考えると、少々寂しいようにも思う。

そうした施策が吉と出るか、凶と出るか。唯一、Questに感じる不安はそこだ。

とはいえ、この価格で体験できるVRとして、Questの価値は図抜けている。VRホームシアターとしても、現状、PSVRと並ぶ存在だ。前者は「Blu-ray 3D」を快適に見られる環境として唯一無二であるが、すでに画質や解像感ではQuestに負けている。配信を楽しむならQuestに軍配が上がる。

ハイエンドVRにどっぷりハマっている人以外、すなわち「VRかぁ……」と遠巻きに眺めているような人には、Questをお勧めする。その体験の新鮮さに、驚いてほしい。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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