西田宗千佳のRandomTracking

第591回

Google「Pixel 9」触って感じる進化ポイント。Google TV Streamerも発見

発表会が行なわれたGoogle本社

Googleの新製品発表イベント「Mede by Google」の取材で、米・マウンテンビューにあるGoogle本社にきている。

すでに製品は日本でも発表・予約が始まっているが、写真とともに現地からのファーストインプレッションをお送りする。

スマホからイヤフォンまでフルラインナップ刷新

今回Googleが発表したのは、同社のスマートフォンである「Pixel 9」シリーズと、スマートウォッチの「Pixel Watch 3」シリーズ、そしてノイズキャンセル対応イヤフォンの「Pixel Buds Pro 2」だ。

左からPixel 9 Pro、Pixel 9 Pro XL、Pixel 9(カラーはPorcelain)
左からPixel 9、Pixel 9 Pro、Pixel 9 Pro XL(カラーはRose Quartz)
Pixel 9 Pro Fold
左からPixel 9、Pixel 9 Pro Fold、Pixel 9 Pro XL
Pixel Watch 3。左が41mmモデルで、右が45mmモデル
バンドなどのアクセサリは41mmと45mmで変わる。これまで同様、バリエーションは豊富
Pixel Buds Pro 2。カラーはPorcelain

例年ならもう少しあとの発表だが、今年は暑い最中の8月に発表された。スマートフォンの発売自体は「Pixel 9」「9 Pro XL」(8月22日発売)と、「9 Pro」「9 Pro Fold」(9月4日発売)の二回に分かれる形になる。

昨年のPixelは初夏に「Pixel Fold」が、秋に「Pixel 8」「Pixel 8 Pro」が出るという構成だった。

しかし今年は前出のように、一気に4機種が登場する。

昨年の「Pixel 8 Pro」と同じサイズ感のものは「Pixel 9 Pro XL」(6.8型)となり、新しく6.3型ディスプレイの「Pixel 9 Pro」が登場する。同じ名前でサイズが変わるので多少まぎらわしくはあるが、Pixelの「Pro」はサイズが大きすぎる……という声も聞こえてきていたので、これはこれでアリだと感じる。

左から、Pixel 9 Pro・Pixel 9 Pro XL・Pixel 9。同じサイズで「スタンダードとPro」ができた感覚

折りたたみ型である「Pixel Fold」は、縦横比を変えて「Pixel 9 Pro Fold」になった。

カメラ性能ではPixel 9 Proに見劣りするが、薄く持ちやすい、という意味では前モデルより「Pro感」「進化」の度合いが強い。個人的にはPixel Foldの縦横比が気に入っていたのだけれど、「より普通のスマホらしい」ものが求められたのかもしれない。折り畳んだ際のディスプレイサイズは6.3型でPixel 9 Proと同じ。そこが今回のウリでもある。

Pixel 9 Pro Fold。エッジが立った薄さを強調するデザイン
筆者私物のPixel Foldと、Pixel 9 Pro Foldを比較。縦横比が変わり、Pixel 9 Pro Foldは「Pixel 9 Proが折りたたみになった」感覚に

どれもディスプレイがかなり明るく、見やすい印象だ。

Pixel 9 Pro Fold。画質は表側も折り畳む側もかなり良好
Pixel 9。スタンダードモデルだが、画質面では上位モデルと大きな差異を感じない

デザインについては大きく方向性が変わったようにも感じる。

カメラ周りのデザイン処理は似ているが、全体形状はかなり“スクエア”な印象だ。並べてみると、Pixel 8シリーズよりもiPhone 15シリーズに近い。別にアップルに近づいたという話ではない。Galaxyもスクエアなデザインになってきているので、「薄さなどを強調するためにスクエアデザインを採用する」というのが今のスマホのトレンド……と考えた方が良さそうだ。

Pixel 9 Pro XLの側面。スクエアで光沢のある仕上がり
Pixel 9 Proの上面。仕上げとしては他のモデル同様
左からiPhone 15 Pro Max、Pixel 9 Pro XL、Pixel 8 Pro。こう並べると、テイストがより“板状”になったのがよくわかる

ハイエンドスマホの新製品では、カメラの進化が常に注目される。Pixel 9シリーズの場合には、特にビデオ周りの強化と超広角用センサーの強化が目に付く。メインのセンサー以外の画質を向上することは特に動画画質の向上につながるため、これもまた今年のトレンドをなぞる動きと言えそうだ。

今年のカメラ強化は、加工系機能を除くとビデオや超広角撮影時の暗部表現強化などに集中している

「Geminiのスマホ統合」に本腰、日本ではまだ使えない機能も

同じくトレンドをなぞる動きではありつつも、Googleとしての強さを発揮しているのが、同社のAIである「Gemini」の活用だ。

Gemini活用が今回のテーマ
発表会全体のまとめスライドを見ても、中心にあるのはGemini

以前はGoogleの中でも、AndroidとPixelは別々の部隊が担当していた。だが現在は組織が1つにまとまり、「幅広く使われているOSであるAndroid」と、「Androidを使った最新のデバイスであるPixel」を同時にアピールする体制になっている。

GeminiはAndroidへの統合が進められている最中。今回の発表会でも、Pixelだけでなく、サムスンやモトローラのデバイスも紹介された。Pixelの進化と同時に「GeminiによるAndroidの強化」も進んでいる、というアピールだ。

よく見ると、ドロイドの周囲に「Gemini」を表すキラキラが。統合がテーマだからだ
サムスンやモトローラのデバイスでのGemini活用もアピール

Geminiは、GoogleのクラウドとオンデバイスAIを生かした「ハイブリッドモデル」で供給される。ただその中でも、特にプライバシーを重視する必要がある機能はデバイス内で動作する「Gemini Nano」で動く。

Googleで開発された多くの要素がレイヤー状に重なってGeminiを構成
中核を担うのはオンデバイスAIである「Gemini Nano」

Pixel 9は、スペック的には「Pixel 8シリーズからの正常進化」というところだが、特に強化されているのが「オンデバイスAI処理」だ。

Pixel 9シリーズに搭載されたプロセッサーである「Tensor G4」について、Googleは「マルチモーダルAIについて、過去機種より3倍の有用性があり、毎秒45トークンを処理する」と説明している。メインメモリーが12GBもしくは16GBへと強化されているのも、オンデバイスAI活用のためだ。

差別化要因は「Tensor G4」
マルチモーダルAIを念頭に、Tensor G4はAI処理能力を強化
メインメモリーが増えているが、主な狙いはオンデバイスAIの処理だという

今回でいえば、通話音声を自動的に書き起こしてサマリーを作る「Call Notes」や、スクリーンショットに含まれる文字や内容を認識、検索・分類する「Pixel Screenshot」はオンデバイスのGemini Nanoで動作しているという。

通話をデバイス内でGeminiが書き起こし、サマリーを作る「Call Notes」
スクリーンショット内の文章・内容を認識、検索・分類する「Pixel Screenshot」
「Call Notes」や「Pixel Screenshot」はプライベートな情報なので、全てデバイス内で処理が行なわれる

どちらも現状英語向けであり、そこが残念ではある。しかし、この先で日本語対応するのは間違いなく、その時には、強力なプロセッサーが必要になる。

同じくGeminiが絡む機能としては、自然な音声で対話する「Gemini Live」に注目が集まった。

こちらはオンデバイス処理ではなくクラウドによるものだが、対話の素早さ・自然さはかなりのもの。同様の音声対話をOpenAIも「GPT-4o Voice」として発表しているが、かなり印象は近い。

ただ、GeminiはGoogleの各種サービス、そしてAndroidと連携していることが強みであり、Google側も「スマートフォンとの関係を再定義するもの」(同社 シニアバイスプレジデントのリック・オステルロー氏)とかなり力が入っている。英語以外の言語への対応予定はアナウンスされていないが、開発は進められているという。

Google シニアバイスプレジデントのリック・オステルロー氏

新しいイヤフォンである「Pixel Buds 2 Pro」も、Gemini Liveのような対話形式での利用が増えてくるとすれば、さらに重要なものになっていくのは間違いない。

また、こちらも現状アメリカのみの機能となるが、Pixel 9シリーズは、衛星を介したSOSにも対応する。仕組みは違うものの、アップルも同様の機能を持っており、こちらは日本でも対応が開始された。だとすれば、Pixel 9の衛星SOS機能についても、「いつかの段階では日本でも使えるようになる」と予想できる。

Pixelもアメリカ国内から「衛星SOS」に対応。日本での対応も待たれる

Google TV Streamerも展示

なお、会場にはPixel 9シリーズなどだけでなく、今回の発表の直前に公開されたスマートホーム製品も展示されていた。

特にAV的に注目は「Chromecast with Google TV」の後継となる「Google TV Streamer」だろう。

「Chromecast with Google TV」の後継となる「Google TV Streamer」

テレビに挿しておくのではなく“前に置く”デバイスに変わったからだろうか、思った以上に薄くなっている。写真からイメージされるサイズよりコンパクトでスマホを一回り大きくしたようなサイズ。イーサネットコネクタがあるのでその分端が分厚くなっている印象だ。

Google TV Streamerはテレビの“前”に設置
本体裏にはイーサネットコネクタとHDMI、USB Type-C端子(主に電源用)が。左にあるのはリモコンを探すボタン
専用リモコン

今回のイベント内ではあまり言及されなかったものの、スマートホームの中核として使われる。英語の場合、ここでもGeminiによるAI機能がフィーチャーされており、年末に向けてテストが始まるとされているが、日本語についてはまだアナウンスはない。

この辺は、PixelでのGeminiと同じく、もうしばらく時間がかかりそうだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Xは@mnishi41