鳥居一豊の「良作×良品」

第95回

定番機が“ブラックホール”で進化! KEF「LS50Meta」×「GUNDAM SONG COVERS 2」

KEFのスピーカー「LS50Meta」

新型ドライバーの採用でさらに表現力を高めた新モデル

今回はKEFのスピーカー「LS50Meta」(実売ペア15万9,500円)を取り上げる。「LS50」は2012年にKEF 50周年記念の限定モデルとして登場した。かつてBBCで使用されたニアフィールドスピーカー「LS3/5a」を現代の技術で蘇らせることを目指して設計されたモデルで、KEF独自の同軸型2wayユニット「Uni-Q」を搭載。ブラックのボディにオレンジ色に近い赤銅色のユニットの配色が独特な印象だった。

2012年にKEF 50周年記念の限定モデルとして登場した「LS50」

その優れた音場感の再現などで一世を風靡し、その年のオーディオ賞を数多く受賞した。限定モデルの終了後もファンの要望に応えてレギュラーモデル化し、さらにはD/Aコンバーターやアンプを内蔵したアクティブ型モデルの「LS50 Wireless」という派生モデルも発売されている。

「LS50Meta」は、そのフルモデルチェンジとなる製品。最大の特徴は一新されたドライバーユニット。同軸型2wayの「Uni-Q」ドライバーは最新世代の第12世代型となり、そこに新たに開発された技術「MAT」を搭載したものだ。これに加えて、背面に備わっているバスレフポートも、新開発されたフレキシブル・ポートとなっている。

パッシブ型のLS50Metaが発売された後、少し遅れてアクティブ型の「LS50 Wireless II」も発表された。内蔵するD/Aコンバーターは有線接続ならば192kHz/24bit、ワイヤレス接続時は96kHz/24bitの入力に対応。AirPlay2やChromecast Built in対応でスマホなどとの連携が可能。専用のアプリでセットアップや操作も行なえる。ニアフィールドスピーカーということもあり、デスクトップに近い環境でパソコンなどを再生機器として使用する人も多いモデルだけに、こちらも人気となりそうだ。LS50 Wirelessも非常に完成度の高い音に仕上がっていたので、LS50 Wireless IIの出来も実に楽しみだ。

LS50 Wireless II

今回は、既存の「LS50Standard」と、新モデル「LS50Meta」の両方をお借りし、自宅で試聴を行なっている。箱から出してみると、外観はそっくり同じで、配色が同じだったら間違えそうなほど。取材用にお借りした製品はカラーが異なっているのでその心配はないが、前方から見ると、ドライバー周囲の型番の名称が違っている以外はほとんど同じだ。

左がLS50Standard、右がLS50Meta。配色を別にすれば、型番くらいしか違いがない。なお、LS50Metaもブラックのほか、グレイ、ホワイト、ブルーの4色のカラーバリエーションがある

背面を見てみると、新採用となったフレキシブル・ポートは形状が大きく異なっているのがわかる。LS50でも数値流体力学(CFD)を用いたシミュレーションによる設計は行なわれていたが、フレキシブル・ポートも最新のシミュレーションで設計されたもの。ポートを通過する音波の乱れを遅らせることを目的に設計されているようで、バスレフ型でよく言われる低音の遅れを低減するもののようだ。このほか、背面板の取り付け方も少し変わっている。

それぞれの背面。左がLS50Standard、右がLS50Meta。こちらも大きな違いはないが、背面の板を止めているネジ穴がなくなるなど、組み立て方法が異なっているのがわかる。一番の違いはバスレフポートの形状。スピーカー端子は従来と同じくシングルワイヤリング用となる

バッフル面が大きく湾曲した形状は従来と同様。KEFの最上位モデルなどのノウハウを継承したもので、ドライバーユニットから出た音が不要な反射をせずに空間に広がることを目的としたもの。バッフル板は射出成形されたものだが、樹脂系ではあっても見た目の感触や軽く叩いたときの音から、単なるプラスチックではないとわかる。触れた感触は硬めだがカンカンと鳴くようなこともなく、木材のようにコツコツと心地良い音がするのとも違う。ちょうどその中間にあるような感じだ。なお、キャビネットの内部構造は従来と同様のようで、内部には十字型の補強板が組み込まれており、キャビネットの不要な振動を抑えている。

LS50Metaの側面。バッフル面がかなり湾曲し、球面の近い形状になっていることがわかる。形状自体は旧モデルとまったく同様だ
同じく天面から見たところ。こちらもバッフル面は緩いカーブを描いている。バッフル面の厚みがかなりあることにも注目

ツイーターの背面から出る音の99%を吸収するMATを採用

外観からはわからないのが残念だが、LS50Metaの新しいUni-Qドライバーに搭載されたMAT(Metamaterial Absorption Technology)が実にユニークだ。このMATはUni-Qドライバーの後端に取り付けられているパーツで、分解図などを見るとウーファーの振動板と同じ(130mm)かやや小さいくらいに見える。この円盤状のパーツの内部は、まさしく円形の迷路のような構造になっていて、ツイーターの振動板の背面から出た音はこの迷路へと導かれる。迷路は通り道ごとにさまざまな異なる長さに設計されていて、ツイーターのあらゆる帯域の音波のエネルギーを熱へと変換、つまり減衰させてしまう。MATはいわばツイーターの吸音材というわけだ。KEFでは“音のブラックホール”と表現している。

MAT(Metamaterial Absorption Technology)
Uni-Qドライバーの構成。一番右にMATが見える

ここでちょっとスピーカーのお勉強をしよう。スピーカーの振動板が動くと音が出るが、その音は振動板の前と後ろの両方から出る。ただし音波の形状はまったく逆になるので、前からの音と後ろからの音が混ざってしまうと相殺されてしまい、得られる音量が減ってしまう。そこで前からの音と後ろからの音を混ざらないように仕切っているのがバッフル板だ。理屈のうえではバッフル板があれば、スピーカーのキャビネットは不要なのだが、それだとバッフル板がとても大きくなってしまう。そのため、バッフル板にキャビネットを組み合わせて後ろから出た音が外に出ない(前からの音と混ざらない)ように閉じ込めてしまう。これが基本的な考え方だ。

閉じ込められた後ろからの音は当然エンクロージャーの中で暴れ回る。どのくらいのエネルギー(音量)かと言えば、スピーカーの前から出てくる音のエネルギーとほぼ同じだ。スピーカーの設計で使用するドライバーユニットの大きさに釣り合った容積が必要となるのはこのため。バスレフ型とかバックロードホーンとか、エンクロージャーにはさまざまなものがあるが、これは後ろから出た音をうまく利用してスピーカーの能率や特性を高めようとする工夫の産物だ。

エンクロージャー内で暴れ回る音波はエンクロージャー自体を振動させてしまうので、音を濁らせてしまう。エンクロージャーは素材や構造を工夫して不要な音が出ないように高い剛性が求められる。なにより、振動板自体の動きにも影響する。振動板の後ろから出た音がエンクロージャー内で跳ね返ってきて、振動板を押してしまうと、振動板は入力された信号に対して正しく動くことができなくなってしまう。音が歪んだり、不要な色づけが加わってしまうのだ。

それを解決するのが吸音材だ。多くの場合、吸音材は綿やフェルトのような素材であることが多く、エンクロージャーの中に詰め込まれている。吸音材も振動を熱に変換して音のエネルギーを減衰させるもの。これの素材や詰め込む量で音質はガラリと変わるので、その変化を測定したり、シミュレーションを行なう、あるいは耳で確かめて、最適な量を決めている。詰め込みすぎて、より多くのエネルギーを吸収してしまえば、それはそれで振動板の動きに影響し音が変化してしまうわけだ。

この役割をMATは構造によって実現している。MATの迷路は音のエネルギーを熱に変換して減衰させる仕組みで、これに近い手法として、テーパー状に出口に近づくほど口径が狭くなるパイプをツイーターの背面に備え付けるものがある。この場合、吸収したい音波の帯域やエネルギーにもよるがパイプの長さがある程度必要になるので、小型スピーカーにはあまり向かない。

MATの特徴はこうしたドライバーユニットに合わせた最適な吸音を最小のサイズで実現できること。この実現には精密なシミュレーションなどの解析技術が不可欠だろう。スピーカーの歴史は古く、基本的な技術や理論はすでに完成していると考えていいが、それだけにさらに優れた特性を実現するためには素材の力に頼ることになる。高級スピーカーが稀少な素材をドライバーやキャビネットなどに贅沢に採用して必然的に高価となるのはそれが理由。しかし、MATは素材ではなく構造でそれを実現しているので、破格に高価になることはない。この点においても画期的と言える技術なのだ。

大人気に応え制作された第2弾も素晴らしい! 森口博子「GUNDAM SONG COVERS2」

さっそく視聴だ。今回聴いたのは森口博子の「GUNDAM SONG COVERS2」。機動戦士ガンダムシリーズのさまざまな作品の楽曲を森口博子が歌ったカバーアルバムで、第1弾はNHKの番組で行なわれたガンダムソングのランキングの上位10曲をカバーしたもの。ご存じの通りの大ヒットで、発売直後はCDが品切れになったほど。CD盤のほかハイレゾ盤もリリースされ、どちらも好セールスを記録している。本作はそのヒットを受けての第2弾で、森口博子に歌ってほしい曲をファンが投票して決まったようだ。総投票数は10万票を超えたという。とはいえ、制作が始まってすぐにコロナウイルスの影響で緊急事態宣言が出て、制作は一時中断。当初は6月の予定だった発売も9月に伸びた。筆者自身も首を長くして待っていたが、なかなかにドラマチックな展開だ。

「GUNDAM SONG COVERS 2」
(C)創通・サンライズ

今回は新旧の2モデルをお借りしたので、両者の比較もしながらLS50Metaの音を紹介していこう。再生機器はアンプがアキュフェーズのA46。D/AコンバーターはCORDのHugo2でプリアンプを介さずに、Hugo2で音量を調整し、A46に直結している。再生するのはMac Mini+Audirvana Plus。CD音源をリッピングした44.1kHz/16bitのデータを再生している。なお、本作もハイレゾ版の配信が始まっているが、取材時期のタイミングでハイレゾ版は間に合わなかったので、CD版のみで視聴している。

まずはLS50Standardから聴いた。実際に聴くのは久しぶりだが、音場の定位が見事なのはかつての印象通り。左右の広がりだけでなく、奥行きも深く、ステージが立体的に再現される。この立体感はなかなかのもので、ツイーターとウーファーの音の軸が揃った同軸型ユニットならではのもの。優秀なフルレンジユニットの帯域をさらに広げたようなイメージだ。音色は不要な色づけのない素直な音だが、中音域の密度が高くボーカルの再現性は極めて優秀。

余談だが、位相を調整して音に包まれるような音場感を狙った楽曲やサラウンド音声のソフトをバーチャルサラウンドで再生してみると、真後ろに近いところまで後方の音が再現されるのには驚いた。周波数特性や指向性はもちろん、位相特性まで精密に設計されていることがよくわかる。実際のところ、今聴いても大きな不満を感じないほどよく出来ている。

LS50Metaもそれは同様で、音場感の豊かさはほぼ同等。大きく違っていると感じたのは、高音域の滑らかさ。音の鳴り方がふくよかで、一見柔らかい感触に感じるほどだ。ごく小さな響きの余韻まで明瞭に聴き取れるので、なおさらなめらかな音に感じる。かといって、高音域の情報量が劣っているというわけではなく、声の質感や細かな音の情報量はむしろ増えていると言っていいほど。これに比べると旧モデルは高域特性の十分でないところに少しアクセントを付けているように感じる。いわば“スパイスを効かせて味をピリッとさせる”ような感じだ。そのぶん、元気のよさ、勢いの良さを感じる。

LS50Metaの場合はそうした味付けは最小限として、素材の良さで勝負する感じ。ちょっと聴くと自然そのものでやや地味にも感じるが、色づけのない素直な音、味わいの深さといった要素が大幅に進歩している。このあたりの違いはMATによるものが大きいだろう。

低音域は最低音域の伸びなどは大きく変わらない印象だが、中低音域の厚みが増し、なかなかエネルギー感豊かな音になっている。中低音域の厚みが増したせいもあるし、フレキシブル・ポート採用の効果とも思えるがベースの音階がよりはっきりと出るなど低音域の情報量もやや増していると感じた。LS50Standardがやや若く、元気の良さや溌剌さをアピールしていたのに対し、LS50Metaは少し年齢を重ねた落ち着きを感じさせ、なおかつ表現力や音楽性で大きく進歩した熟成された印象になっている。

例えば2曲目の「銀色ドレス」。これはZガンダムの挿入歌で、本編ではたった一度だけ流れた曲だ。原曲を歌うのは森口博子。井荻麟(富野由悠季のペンネーム)の歌詞もフォウ・ムラサメの気持ちを歌っているようで、実はカミーユがフォウへの想いを綴っているのではと思わせるのも印象的。露出度の少なさのわりに人気が高いことがよくわかる。そしてセルフカバーだけに、彼女の歌手としての成長もよくわかる。オリジナル曲は当時の歌謡曲で歌われるような曲調で、カバーされたここでの演奏も可愛らしさを感じるものだ。実際オリジナル曲はかなりアイドル色の強い歌い方になっているが、ここでは可愛らしさや若々しさを感じさせつつも、実にしっとりと大人びた歌声になっている。

そんなアレンジや歌唱の違いがLS50Metaは如実に現れる。声の伸び、フレーズとフレーズのつながりの美しさなど、さらに豊かになった歌唱力の違いが実によくわかる。きめ細やかに、豊かな音で彼女の今の歌をじっくりと楽しめる表現力だ。この比較で言うと、LS50Stanndardは原曲の元気の良さや若々しい歌唱の方がフィットする印象だ。森口博子の熟成とLS50Metaの熟成が絶妙にマッチして、なおさらにカバー曲の良さを感じさせてくれた。

今度は4曲目の「いつか空に届いて」。OVA「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」の主題歌だ。ロボットアニメの主題歌に似合わない原曲の優しいイメージをきちんと受け継ぎながら、口笛にも似たティン・ホイッスルの音色が爽快さを感じさせる気持ちのよい曲だ。ここでのやさしくじんわりと染みるような歌声もまさにありのままというイメージで再現。音場の広さもあいまって、広々とした草原で気持ち良く風に吹かれているような感覚になる。高音域の表現は無色に近いからこそどんな色も表現できる感じで、イントロのピアノソロや歌声の透明感のある声の伸び、ティン・ホイッスルの軽やかな音を自然に描いている。

最近のスピーカーは解像感の高い音を求められていることもあり、高域の再現はどれもスムーズで歪み感の少ないものになっているが、LS50Metaはそれよりも一段上のレベルになっていると思う。LS50Standardは今も愛用しているユーザーが大勢いると思うのであまり悪い言い方はしたくないのだが、高音域の自由闊達な鳴り方、表現力の向上は大きく差を感じてしまう。

今度は10曲目の「MEN OF DESTINY」。OVA「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」のオープニング曲で、ハードロック調の曲調の楽曲だ。イントロでのエレキ・ギターのフレーズもカッコいいし、決してハイテンポではないがテンションの高さやスリリングさを感じさせてくれる。原曲のMIO(現在は歌手名をMIQとしている)のエネルギッシュな歌唱と比べると、さすがにハードなシャウトでは差を感じるところもあるが、ぐっと力を込めた感じの厚みのある低めの声もよく出ていて、それだけにシャウトに近い高音域の伸びが印象的。

こういう曲ではツイーターとウーファーの音の繋がりの良さがよくわかる。ツイーターとウーファーで声色が違ってしまうようなスピーカーはほとんど存在しないが、高い声になると感触が変わってしまうのはよくある。それはツイーターの反応の速さにウーファーがついてこれない場合にありがちだが、さすがUni-Qはそうしたつながりの良さはよく出来ている。これはLS50Standardでも感じる美点だが、LS50Metaは高域の表現力が抜群によくなっているので、音のつながりの良さがわかる。ウーファーの反応がいいので、エレキ・ベースとドラムが刻むリズムのキレもよく、エッジの効いたハードさがよく出ている。小型スピーカーなので、かなり低いところの力感や重量感は多少もの足りないところもあるが、反応がよく量感とのバランスもよいのであまり不満を感じない。このスピード感のある低音再現もLS50Metaの進化点だ。

実は今回の試聴では、再生機器がパソコンであることも利用して、手持ちの音源やYouTubeなどで探してオリジナル曲も聴いている。それは、試聴記事には直接関係がないが、「GUNDAM SONG COVERS2」を聴いていると不思議とオリジナル曲を聴きたくなってしまうのだ。「GUNDAM SONG COVERS」も同様だったが、原曲の持ち味を尊重し、ファンの覚えているイメージを大きく変えることのないアレンジなので、「やっぱり聴き慣れたオリジナル曲の方がいいよね」というものではなく、本作を聴くと原曲の良さが改めてわかる。

原曲の良さを踏まえて聴くと、改めて本作の良さがわかってくるように感じる。歌い方にしても編曲にしても、変えている部分と変えていない部分がわかることで、本作の作り手の意図とか思い入れが理解できる。オリジナル曲とカバー曲に優劣をつける必要も意味もないのだが、両方の曲を一緒に聴きたくなるというのはなかなか楽しいし、カバー曲はかくあるべし、なんて偉そうなことを言ってしまいたくなる。

締めくくりは個人的にも思い入れの強い曲「月の繭」、「限りなき旅路」

最後は9曲目の「月の繭」とボーナルトラックとなる12曲目「限りなき旅路」で締めくくろう。まとめた理由はご存じの通り、「ターンAガンダム」の後半のエンディング曲と最終話のエンディング曲だからだ。個人的には「ターンAガンダム」はガンダムの最高傑作だと思っていて、ガンダムという作品や世界はこれからもますます広がって行くし、新作も増えていくだろうが、その締めくくりが「ターンAガンダム」だと思えばすべて受け入れられるという境地にある(個人の見解です)。

イデオンのように全滅で終わらない限り、人々が生きている限り戦いもまた終わらないという命題を、ガンダム作品は大人気シリーズゆえに抱えているが、それでもこれだけ安心できる、心安まる締めくくりができるのだ。最終話を見てそれに気付いたときの衝撃は、初めてガンダムを見たときとはまた違った衝撃を覚えた。よけいな話が長くなったが、菅野よう子の民族音楽を取り入れたどことなく郷愁を帯びた楽曲と合わせて、音楽も主題歌も印象に残っている。

「月の繭」は森口博子自身もライナーノーツで触れているように、なにもかも美しい曲。情景が浮かぶような歌詞とともに、優しいメロディーが続くが、サビの部分では一転して静かではあるが熱を帯びた調子になり、古い謡曲や原始的な音楽を感じるニュアンスがある。こうした曲調の変化も豊かに描くし、音場の広さ、歌い手と数々の楽器の配置が立体的なこともあり、お祭りのある神社で神楽舞を見ているような感じがある。時間は夜。いくつかの焚き火で照らされて、神楽の舞台だけが明るく見えている。そんなイメージまで感じさせる表現力というか、描写力がLS50Metaの一番の魅力だと思う。

「限りなき旅路」は、まさに祭りのフィナーレという印象。生き生きとしたメロディーにコーラスが重なり、どんどんテンションが上がっていく。大型スピーカーのような雄大さや迫力を求めるとさすがに及ばないところもあるが、それでもLS50Metaのサウンドステージは雄大だ。エネルギー感はしっかりとあり、芯の通った音は非力さを感じないし、生き生きとした反応の良さもある。強いていうならば、出力音圧レベルは85dBとやや低めなので、しっかりと鳴らしきれる質の高いアンプを組み合わせたいところ。アンプの選択に迷うならば、最適に調整されたパワーアンプを内蔵したアクティブ型のLS50 Wireless IIを選ぶといいだろう。

今回はボーカル曲で試聴をしたし、ボーカルの表現力の高さは随一だと思う。そのうえ、この優れた表現力ならば、どんなジャンルの曲も自然な音で楽しめると思う。じっくりと音楽と向き合えるスピーカーは数多いが、決してそれを強要されず、「今日はたっぷり音楽を楽しむぞ!」なんて体調や気持ちを作る必要もなく、お酒でも飲みながらなにげなく聴いているうちに気持ち良く音楽に浸れるスピーカーはそう多くはない。MATという画期的な技術も実に興味深いが、LS50Metaの最大の魅力はこの限りなき音楽性だと思う。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。