レビュー

KEFが放つ、ワイヤレス本命スピーカー「LSX」。映像&ゲームも迫力の音

イギリスには著名なスピーカーメーカーが多数あるが、なかでも1961年に創業したKEFは特筆すべきメーカーのひとつ。長きに渡る製品開発の結果、本格的なオーディオ/ホームシアターに用いるハイエンドなスピーカーから、カジュアルなBluetoothスピーカーやヘッドフォンに到るまで、KEFの製品ラインナップは多岐に渡っている。

KEFの新たなワイヤレススピーカー「LSX」

近年のKEFは本格的なワイヤレス・アクティブスピーカーにも参入。50周年記念モデル「LS50」をベースに、ワイヤレスをはじめとする各種機能とアンプを内蔵した「LS50 Wireless」を2016年に発売したことも記憶に新しい。

そして今回、ワイヤレス・アクティブスピーカーの新モデルとして、よりコンパクトな「LSX」が登場した。この記事では、上位機種にあたるLS50 Wirelessとの比較も踏まえつつ、「スピーカーメーカーが手掛けた本格的なワイヤレス・アクティブスピーカー」の機能や音について紹介していきたい。

LSX

コンパクト&ワイヤレスで自由度の高い設置性

LSXの本体サイズは155×180×240mm(幅×奥行き×高さ)で、上位機種LS50 Wirelessの200×308×300mm(同)から大幅にコンパクトになった。特に奥行が縮まったことで、設置性が増している。

LSX(右)は、LS50Wireless(左)に比べて小型化

カラーバリエーションは、グロスホワイト、マルーンレッド、デニムブルー、ブラック、オリーブの5色が用意され、グロスホワイト以外のモデルは天板と側面がファブリック素材で覆われている。それぞれのカラーではファブリック・フロントパネル・バックパネルだけでなく、スピーカーユニットまで色が異なる。

価格はオープンプライスで、実売価格はカラーによって異なり、グロスホワイトが129,980円前後、マルーンレッドとデニムブルー、ブラック、オリーブ(デザイナーのマイケル・ヤング氏による限定シグネチャーモデル)の4色が各149,980円前後(いずれもペアの価格)。

左からマルーンレッド、デニムブルー、オリーブ、ブラック、グロスホワイト
今回はブラックを試用した。上部と側面はファブリック素材となっており、質感が高い

底面にはインシュレーターが装着されて設置時の音質に配慮されているほか、別途スピーカースタンドとの接続用にネジ穴も用意されている。

底面

スピーカーユニットには11.4cmの2ウェイ「Uni-Q」ドライバーを搭載。Uni-Qは同一軸上にツイータとウーファーを配置することで、広い再生周波数帯域と点音源再生を可能とする技術。Uni-Qは長きに渡って改良が続けられ、名実ともにKEFのスピーカーの「顔」となっている。アンプは高域用に30W、低域用に70Wのものを搭載する。ユニットの口径やアンプの出力は異なるものの、LSXはアクティブスピーカーとして、上位機種LS50 Wirelessの特徴をそのまま引き継いでいる。

LSXに搭載されているUni-Qドライバー

LSXはBluetooth 4.2対応で、スマートフォンなどの各種デバイスとワイヤレス接続が可能。コーデックはaptXもサポートする。その他に光デジタル音声入力と3.5mmステレオミニ音声入力、サブウーファー出力を搭載する。一方でLS50 Wirelessの持っていたUSB DAC入力は省略された。

LS50 Wirelessと同様にUPnP/DLNA対応のネットワークプレーヤー機能を持ち、TIDAL(日本未サービス)、Spotify Connectにも対応するため、スマートフォンやタブレットさえあれば、別途PCやプレーヤーを用意しなくても、本機だけで音楽の再生が可能。Roon ReadyやAirPlay 2にも対応し、機能的にはかなり本格的だ(AirPlay 2は2019年対応予定)。

マスターの背面パネル。リアバスレフとなっている
スレーブの背面

LSXは、2台のスピーカーを「マスター」、「スレーブ」とし、接続を有線LANケーブルだけでなくワイヤレスでも行なえることが大きな特徴。再生可能な音源は有線接続では96kHz/24bitまでなのに対し、ワイヤレス接続では48kHz/24bitまでになる(入力そのものは有線・無線ともに192kHz/24bitまで可能)ものの、設置の自由度という点でワイヤレス接続のメリットは大きい。もっとも、いずれにせよ電源ケーブルの接続は必要で、完全なワイヤレスというわけにはいかない。

各種操作や設定は基本的にアプリから行なうが、入力切り替えやボリューム調整といった基本操作ができるリモコンも付属する。LSXを純粋にアクティブスピーカーとして使う際は、むしろリモコンで操作するほうが手っ取り早いのでありがたい。

リモコンも付属する

KEFはワイヤレススピーカー用に「KEF Control」、「KEF Stream」という2種類のスマホアプリを用意しており、初期設定を含むLSXの各種設定は「KEF Control」から行なう。

アプリのKEF Control(左)と「KEF Stream」(右)

最初に「KEF Control」アプリを起動すると初期設定が必要となるので、画面の指示に従い、LSXを選択する。

KEF Controlアプリで初期設定を行なう

マスター/スレーブの各スピーカーと電源を接続し、設定待ち状態にする。なお、LSXの入力や各種ステータスはユニット下のインジケーターから確認できる。

両スピーカーに電源ケーブルを接続して設定を開始

その後、いったんスマホなどをWi-FiでLSXと接続し、「KEF Control」からあらためて家庭内ネットワークと接続する。これで接続と初期設定は完了し、「KEF Control」から入力切り替え・ボリューム調整といった操作や、音質調整を含む各種設定が可能になる。

スマホをLSXとWi-Fi接続
家のネットワークと接続してスピーカー名などを設定
初期設定が終了

LSXのインジケーターは入力によって色が変わる。Wi-Fi(KEF Stream)は白、Bluetoothは青、光デジタルは紫、AUX(ステレオミニ)は黄色く発光する。

写真では少々わかりづらいが、Wi-Fi接続時は白く点灯
Bluetoothは青
光デジタルは紫
AUXは黄色

手軽なスマホ再生、ネットワークオーディオ&映画視聴にも満足の音質

実際の音楽再生操作は「KEF Stream」アプリから行なう。初期状態では「No Speaker」になっているので、ここから「KEF LSX」を選択する。

KEF Stream画面

左上にある(3本線の)ハンバーガーメニューから、端末に保存された音源の再生・ネットワーク再生・ストリーミングサービスといった機能を選択する。

メニューから機能を選択

ここで試しに「Media Servers」、つまりネットワーク再生を行なってみると、96kHz/24bitのハイレゾ音源を問題なく再生できた。UPnP対応のメディアサーバーから聴きたい曲を選ぶ流れは、通常のネットワークプレーヤーを使う場合と同様だ。

アプリからの操作でネットワーク再生
「KEF Stream」の画面から、LSX本体でのTIDALの再生もできた

昨今のワイヤレススピーカーの多くはBluetoothに対応して「手軽にデバイスと繋がる」ことが売りだが、このようにLSXはWi-Fiを用いてある程度本格的なネットワーク再生も可能で、事実上96kHz/24bitが上限となるとはいえハイレゾ音源も再生できる。スマートフォンに入っている音源を手軽に聴きたい時はBluetoothを使い、腰を据えてじっくり聴きたい時はネットワーク再生を使うなど、再生スタイルに合わせて様々な活用方法が考えられる。

Bluetoothスピーカーとしても使える

さて、LSXはワイヤレススピーカーであると同時に多彩な入力を持つアクティブスピーカーでもある。それを踏まえて現実的な設置スタイルを考えると、ノートPCやモニターの両脇に置く場合が多いのではないだろうか。もちろんその場合でも、状況に応じてBluetooth接続やネットワーク再生といった各種機能は活用できるし、「LSXで高いスペックのハイレゾ音源を聴きたい」と思わないのであれば、マスター/スレーブの接続をワイヤレスで行なえるため設置の自由度も高い。

というわけで今回は「PCと組み合わせてアクティブスピーカーとして使う」場合を想定し、LSXを31.5型のPCモニターの両脇に置く形とした。

PCと組み合わせて利用

LSXで「Luther Vandross/Never Too Much」(96kHz/24bit)や「すぎやまこういち・東京都交響楽団/交響組曲ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて」(96kHz/24bit)といった曲を聴くなかで、筆者は以前に取材で聴いたKEFのブックシェルフスピーカー「Q350」の音を思い出した。その時と今回では設置環境だけでなく組み合わせるアンプもまったく異なるが、PCデスクに置いてなおスムーズに広がる空間、細かい音の精密な描写といった印象はQ350と共通する。男性ボーカルのエネルギー感やオーケストラのスケール感、個々の楽器を描き分ける分解能も申し分ない。

音離れがよく明瞭な中高域に加え、必要十分な沈み込みと量感を伴う低音のおかげで、音楽だけでなく映像コンテンツを見た時の満足度も高い。ある程度音量を絞っても空間表現や音離れの良さは維持されており、内蔵アンプはしっかりとUni-Qドライバーの実力を引き出せているようだ。

なにより、LSXを使うと、「ノートPCやモニター付属のスピーカーでは聴こえなかった音」が大量に聴こえてくる。「この曲には、この映像には、これほど豊かな音が込められていたのか」という実感は、コンテンツの楽しみをより深く、大きくする。音楽だけでなく、「デビルメイクライ5」や「エースコンバット7」といった最新のゲームタイトルでも、音の情報量が増すことで、より深い没入感が感じられる。モニター付属のスピーカーとLSXでは、強大な悪魔と切り結び、大空を超音速で飛び回る際の興奮がまるで違うのだ。

ゲームも高音質で楽しめた

優れた再生機器による楽しさや感動の増大は、まさにオーディオの醍醐味だ。日常の中のPCを使った何気ない音楽再生や動画視聴であっても、その音がLSXから再生されるなら、日々の体験がより豊かなものになることは間違いない。

ちなみに、自宅のシアタールームにていつも大音量で映画を視聴している筆者からしても、LSXにパワー不足を感じることはなかった。例えば戦闘シーンの激烈な迫力で知られる「ガールズ&パンツァー 劇場版」では、戦車砲による瞬間的な大音量や戦車が疾駆する際の重低音も十分にこなし、窮屈な印象は受けない。

さらに、LSXの再生音は高音から低音までバランスよく、特定の帯域が不足したり突出したりすることがないため、音量を上げても「うるさくない」。設置環境に応じて、アプリで音質を補正できるのも大きな強みとなる。

デザインと利便性の高さに、確かな音質が魅力

10万円台半ばという実売価格が示すように、LSXは「PC用のアクティブスピーカー」としても、「Bluetooth接続に対応するワイヤレススピーカー」としても、一般的な製品とは隔絶した高いポジションにある。一方で、単に「機能」だけを見れば、より安価な製品とLSXの間にそれほど大きな違いがあるわけではない。

それでは、LSXのどこに魅力があるのか。もちろん、デザインや仕上げの良さから来る「所有する満足」もあるだろう。しかし、それ以上にLSXの本質的な魅力となるのは、やはり「音質」に他ならない。

LSXはUni-Qドライバーの使用が端的に示すように、KEFという歴史と伝統と確固たる技術を持つスピーカーメーカーが本気で手掛けたスピーカーである。小さなアクティブスピーカーやカジュアルなBluetoothスピーカーでは望みようのない再生品質は、本格的なオーディオの文脈で評価すべきものだ。

ワイヤレス接続がもたらす現代的な利便性と優れた音質の両立を、可能な限りシンプルなシステムで実現しようと思う人は、ぜひLSXに触れて、聴いて、体験してみてほしい。

逆木 一

オーディオ&ビジュアルライター。ネットワークオーディオに大きな可能性を見出し、そのノウハウをブログで発信していたことがきっかけでライター活動を始める。物書きとしてのモットーは「楽しい」「面白い」という体験や感情を伝えること。雪国ならではの静謐かつ気兼ねなく音が出せる環境で、オーディオとホームシアターの両方に邁進中。ブログ:「言の葉の穴」