小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第770回 学習リモコンはどこまで進化した!? ソニー「HUIS」、ラトック「REX-WFIREX1」
学習リモコンはどこまで進化した!? ソニー「HUIS」、ラトック「REX-WFIREX1」
2016年8月31日 10:00
ネット機器としての学習リモコン
学習リモコンは、今も尚ニッチなニーズを的確に捉え続けている分野である。2つ3つのリモコンをまとめただけでリビングやAVルームがずいぶんスッキリするし、うっかりリモコン無くしちゃったという緊急事態に対応するものとしても、地道なニーズがある。
昔の学習リモコンは、本当にリモコン型をしており、既存のリモコンの赤外線コマンドを記憶させて、それをボタンにアサインし、照射するというスタイルであったが、IT時代になりどんどん様変わりしていった。
当連載でも、2011年にiPhoneでコントロールする「iRemocon」をご紹介したことがある。あれから5年、もはや“学習リモコン”という言葉自体が古くさく感じられるようなイカした製品が幾つか出てきた。今回はこの中から、ラトック「REX-WFIREX1」とソニー「HUIS」を試してみたい。
最近AV機器では、赤外線リモコン以外にも、Wi-FiやBluetoothを使ってスマートフォンのアプリで機器をコントロールできるものも増えてきている。ただそれはあくまでも1つの機器と1対1対応している機能であり、複数のメーカーを跨いで使えるものでもない。
学習リモコンとは、汎用性の高さが一つのポイントだ。あらゆる機器を手元で動かせることにメリットがあるわけだが、それに加えて複数の機器を連動させたり、タイマーで動かしたりすることもできる。機器個別の利便性から、システムへの利便性へ変化させるものという見方もできる。
最新の学習リモコンとはどういうものだろうか。早速試してみよう。
低価格ながら高機能、ラトック「REX-WFIREX1」
「REX-WFIREX1」は昨年12月に発売された製品だが、この6月にファームウェアとアプリがアップデートし、機能追加された。価格はオープンプライスで、発売開始当初は14,800円前後(税込)だったが、現在通販サイトでは1万円ちょいぐらいで売っているところもあるようだ。
直径約10cmの円筒形をしており、上部が半透明になっている。この半透明部全体からドーム状に赤外線を照射するため、特定の方向に向けて置く必要がない。半径10mぐらいは届くようなので、部屋の真ん中あたりに置いておけば、大抵の家電製品までは届くだろう。ただし本機よりも低い位置にある家電には届かない可能性があるので、床置きしているレコーダやアンプなどを動かすためには、そこそこ低い位置に設置する必要がある。
上部には一箇所凹みがあるが、ここは照度センサーとなっている。電源は単三電池4本でも駆動するため、どこにでも置ける。長期で同じ場所に置いておくなら、microUSBで給電するほうがいいだろう。
本機は家庭内のWi-Fiルータに接続する必要がある。リモコンコードを送るのはスマホアプリ「WiFiリモコン」からとなるが、スマホと本機はルータを経由して繋がることになるからだ。WPSにも対応しているので、接続はボタンを押すだけだが、手動で接続したい場合は、スマホアプリからも設定できる。iOS/Android版のアプリがあり、今回はiPhone版を使っている。
機器に対するリモコンボタンは、メニューの「家電製品の追加」から行なっていく。家電製品がジャンル別になっており、テレビやエアコンはもちろん、ロボット掃除機も一つのジャンルになっている。ジャンルからメーカー名、型番へと進むと、事前にレイアウトされたリモコン画面が表示される。ここで電源のON/OFFなどテストしてみることも可能だ。
ここにないものは、手動でボタンに赤外線信号を覚えさせていく。このあたりは過去の学習リモコンと同じだ。筆者の仕事部屋にはかなりの数のリモコンがあるが、幸いにしてプリセットされているもので無事に動いた。そのものずばりの型番はなくても、年数的に、あるいは機能的に近いものであれば、リモコンコードが同じである可能性が高い。
登録してみたのは、LEDのシーリングライト、エアコン、4Kテレビである。以前も記事でご紹介したが、筆者はMac Miniを4Kテレビに接続してディスプレイとして使っているので、仕事開始時にはこの3つのリモコンを使って順次電源を入れていく“儀式”が必要となる。毎朝いちいちリモコンを持ち替えるのがなかなか面倒なので、これが手元のスマホ一つで済むのは大きい。
さらに、よく使う機器である「Amazon Fire TV」を手動で登録しようと思ったのだが、よくよく見るとFire TVのリモコンはBluetoothで、赤外線での学習機能が使えなかった。
設定したリモコンは、機種別にアイコンが割り当てられ、ホーム画面に並ぶ。よく使うリモコンのボタンは、iOSでは「通知センター」にボタンを追加することができる。他のアプリを使用中でもすぐ使えるのがメリットだ。Androidの場合はホーム画面にウィジットとしてボタンを設置できる。
また組み合わせて使う機器は、1つの画面に機能の一部を集めてオリジナルリモコンを作る事ができる。これはこの6月のアップデートで可能になった新機能だ。エアコンの温度設定と、テレビの電源まわりだけで1つのリモコン画面を作るなど、細々調整するものだけを集めることも可能だ。
学習リモコンの強みとして、マクロが組めることが挙げられる。これは1ボタンで複数の機器を連続して動作させるのに便利だ。例えば仕事の開始時には【照明をつける】、【エアコンを機動】、【テレビの電源をONにする】といったアクションを、1ボタンで実行できる。
各コマンドの“間”も決められる。例えば各種機材の電源を落としたあと、“部屋を出て行く間の10秒間だけ照明を落とすのを待つ”といった設定も可能だ。
ただ、マクロには赤外線リモコンならではの弱点もある。それは、電源のON/OFFが逆になっていても、リモコン側はそれを検知できないという事だ。赤外線リモコンは1方向だけの通信なので、リモコン側は今現在、対象する機器の電源が入っているのかどうかわからない。つまり、どれかの機器だけ逆アクションになる可能性があるわけだ。例えばエアコンだけつけっぱなしにしておいた場合、マクロで一斉に電源を入れると、エアコンだけは逆に電源が切れることになる。
リモコンもゆくゆくはBluetoothやWi-Fiを使った双方向になる時代が来るとは思うが、コストや必要性の面では、まだまだ先のことになるだろう。現時点では、何らかのセンサーで機器のステータスを読み取る必要性がある。
REX-WFIREX1の本体には温度、湿度、照度センサーが組み込まれており、このステータスをスマホのアプリ上で確認する事もできる。本機の目玉として、宅外からでもクラウド経由でリモコン操作ができるのだが、部屋のステータスを見て、「あれ照明が付いてるな」とか、「エアコン入ったままにしたのかな?」、という予測が立てられる。帰る前にエアコンを入れておきたいというニーズもあるだろうが、消し忘れもチェックできるわけだ。
さらに本機は、タイマーによって複数の機器を操作することもできる。起きる時間に合わせて照明とテレビをつけるなど、複数の機器がONになるようセットすることも可能だ。
Bluetoothにも対応したソニー「HUIS」
クラウドファンディングで資金を集め、今年2月から販売を開始したソニーの学習リモコン「HUIS」(税込27,950円)は、そのビジネスモデルと、電子ペーパーを使ったユニークな作りで注目を集めた。西田宗千佳氏によるミニレビューも掲載しているので、よく知らないという方はまずそちらを読んでいただくといいだろう。
こちらも登録したい機器をメニューから選んでいくだけで、美しくデザインされたリモコン画面と共に機能が使えるようになる。全方位に赤外線を放射するタイプではなく、操作したい機器に向けて操作する、ある意味オーソドックスな学習リモコンと言える。
「カスタムリモコン」の作成機能もあり、複数の機器の一部の機能を1つの画面に集めることもできる。ここでマクロが使えないのは残念なところではあるが、全方位に赤外線が飛ぶわけではないので、マクロがないのもある意味当然だろう。
今回改めてこの製品を取り上げたのは、8月30日から“Bluetoothブリッジ”としても使えるクレードル「HUIS BLUETOOTH CRADLE(HUIS-200CR/実売6,900円前後)」が発売されたからだ。今回はこれをいち早くお借りすることができた。
HUIS自体が充電式なので、クレードルは充電台として機能する。さらにクレードルとHUISをペアリングしておくことで、HUISから受けた指令を、クレードルがBluetooth信号で送信。Bluetooth機器もコントロールできるようになる。赤外線タイプの学習リモコンでは操作できなかったFire TVも、HUISからコントロールできるのだ。
クレードルそのものはUSB給電が必要なので、どこかの場所に固定することになるだろう。クレードル背面にはボタンがあり、これを押すとHUIS本体からアラートが鳴る。いわゆる「リモコンどこいった問題」がこれで解決できるわけである。
ではクレードルで可能になったBluetoothリモコン機能を見てみよう。通常赤外線リモコンの場合、リモコン側からある意味勝手に機器を登録していくわけだが、Bluetoothリモコンの場合は逆だ。すなわちコントロールされる親機(この場合はFire TV)側から、HUISをBluetoothリモコンとして登録するのである。
従って操作としては、HUIS側をBluetoothのペアリング待機状態にしておき、FireTV側で操作する。ペアリングには6桁のPINコードが発行されるので、これをHUIS側で入力すると、ペアリング完了となる。ベアリングされたのち、機種名を手動で選択する。
Fire TVの専用リモコンもそこそこ使いやすいのだが、テレビの入力切り換えも含めて手元のHUIS 1つで完結するのは便利だ。映画を見たい時も、HUISから照明を落とす事もできる。
なかなか便利なのだが、残念なことにBluetoothリモコン機能は、同時に1台の機器にしか使えない。別のBluetooth機器をコントロールする場合は、いったんFire TVとペアリング解除しなければならない。次回使う時はまたペアリングし直しなのは面倒過ぎる。今Bluetoothリモコンの機器はそれほど多くないが、例えばPlayStation 4も操作したいとか、今後もBluetooth操作機器が増えてくるようであれば、現行のHUISでは間に合わなくなる時が来るかもしれない。
もう一つ、8月30日から提供が開始されたのが、HUISのリモコン画面をパソコンから編集できる「HUIS UI CREATOR」だ。これはWindows7/8/10用のアプリケーションで、これまで機器を選ぶと事前にプリセットされたデザインのUIしか使えなかったものを、好きなUIにカスタマイズできるものだ。
こちらもお借りできたので、試してみた。HUISとPCをUSB接続しておいてアプリケーションを起動すると、すでに登録済みの機器のUIを編集できる。ボタンのサイズや位置の変更だけでなく、名称の変更も可能だ。さらにアイコンも、画像を作って流し込む事もできるようだ。
例えばテレビのリモコンは、各社メニューボタンや「戻る」ボタンの位置が微妙に違うので、HUISのテレビ向けUIのボタンの位置と合わなかったりする。そのあたりを本物のリモコンボタン配置と合わせるだけで、ずいぶん使いやすくなった。あるいはよく使うボタンを集めたりするのもいいだろう。
総論
今回は異なるアプローチの学習リモコン2種を試してみた。ラトック「REX-WFIREX1」は、赤外線リモコンで動く機器を集めてシステム化するという役割においては、低価格で導入しやすい製品だ。
本体内に温度計や照度センサーも備えており、エアコンや照明など、家電製品の宅外からのリモート操作にも対応できる。例えばお年寄りがいる家庭では、室温が暑すぎないか寒すぎないか、外出先からもチェックしてエアコンの温度を調節するという使い方もできるだろう。
ただスマホアプリのリモコン画面は、わかりやすくはあるが多少野暮ったいところがあり、好みが分かれるデザインだろう。また今回の試用では接続の安定性に欠けるところがあり、一晩経つとWi-Fiと接続できなくなっていたり、計測に必要とされる30分以上経ったのに温度センサーにアクセスできないといった現象も見られた。このあたりは今後のアップデートに期待したい。
ソニーの「HUIS」は、従来の学習リモコンにありがちな、いかにも高齢者向けや初心者向けであったりする部分をスマートに割り切り、スタイリッシュな姿に汲み上げた点で評価できる。クレードルの追加で、1台だけではあるがBluetoothリモートにも対応できるようになり、アプリではなく追加ハードウェアによる進化ながら、拡張性を感じさせる作りとなっている。
またUIの編集ツールも登場し、ボタン配置やデザインを思い通りに作れるのも面白い。元々の機器付属のリモコンがダサいと感じている人は、思う存分こだわって納得いくものを作ることができる。
機器それぞれにリモコンがあり、手元に3つも4つもリモコンが並んでいる様は、決して格好のいいものではない。この状況はすでにもう20年以上前から存在しており、いつか上手い方法で解決するものと思っていたが、実際には全く変わらないままである。たぶん、生活の中で思ったほど、一度に利用する機器が増えてないというところはあるのかもしれない。
ただその反面、頻繁に使う組み合わせの機器のリモコンがバラバラという状況が、一番不便である。特にFire TVやApple TV、Chromecastといったネット系のSTBを利用する場合は、テレビにそれらの機能が組み込まれていないために、別々に操作する状況が続いている。
そのあたりを一元化する手段として、昔懐かしの学習リモコンが一周回って、新しい意義を持ち始めているのかもしれない。
ラトックシステム REX-WFIREX1 | ソニー マルチリモコン HUIS HUIS-100RC | ソニー HUIS BLUETOOTH CRADLE HUIS-200CR |
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