小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第906回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

安くてライトに使える“ミラーレス用”スタビライザー、DJI「RONIN-SC」

プロ用機もミラーレスの時代

映像のプロ向けの機材展としては、4月のNAB(ラスベガス)、7月のCineGear(ロサンゼルス)、8月のBIRTV(北京)、9月のIBC(アムステルダム)、11月のInterBEE(幕張)と続く。プロ機メーカーはこれらの展示会のうち、どこで新製品のデビュー戦を飾るべきか、作戦を練るわけである。

DJI「RONIN-SC」今回はLUMIX G7と組み合わせてみた

昨年登場したDJIの小型ジンバル「RONIN-S」は、NABで発表、7月に発売というタイミングでデビューしている。

元々RONINシリーズは、一眼レフクラスのカメラを搭載できるツインハンドルの大型機として登場したが、それに続くRONIN-Sは一眼レフ対応のワンハンドル機として登場した。実はワンハンドル機は非常に競争が激しい分野で、競合他社も沢山ある。そんな中、去年満を持してDJIが参戦してきたわけだ。

そんなRONINの今年の新作が、「RONIN-SC」である。昨年のRONIN-Sをさらに軽量化し、ミラーレス機にターゲットを絞ったモデルだ。7月17日発表後すぐにオンラインストアでは発売が開始されており、公式サイトでの価格は51,300円(税込み)。そのほかフォーカス用のリモート機構が付属した「RONIN-SC Proコンボ」が62,100円となっている。

フルセットである「RONIN-SC Proコンボ」の中身

ミラーレス用ジンバルの平均価格はおよそ4万円~8万円なので、ターゲットプライスとしてはど真ん中よりやや低価格だ。RONIN-Sは発売当時92,800円(税込)だったので、他社もまだ勝負できたが、この価格だと他社はなかなか苦しくなるだろう。

もちろんDJIの事なので、単に廉価版というわけはなく、1年分の研究成果も当然に盛り込んできているはずだ。1年ぶりの新作を、早速テストしてみよう。

撮影イメージ

大幅に軽量化されたボディ

RONIN-SCはミラーレス用という謳い文句だが、何が一体その根拠なのかというと、積載量の違いだ。つまり“どれぐらいの重量のカメラが乗っけられるのか”というところである。前作RONIN-Sが3.6kgまでだったのに対し、RONIN-SCは2.0kgまでとなっている。昨今はフルサイズミラーレスも多数登場し、レンズ込みで2kgはなかなか難しいケースもあるが、マイクロ4/3やAPS-Cクラスなら余裕で2.0kgに収まるだろう。

ケースもかなり軽量

ジンバル自体も重量が1.1kgで、前作1.85kgからだいぶ軽量化されている。元々作りがシンプルであまり削るところがないボディの中、750g削るのは結構しんどかっただろう。

構造としてはRONIN-Sとだいたい同じで、ジンバル部とグリップ兼用のバッテリー部が分離できるスタイル。そのほか底部に三脚にもなる延長グリップも付属している。

RONIN-SC Proコンボの全容
ジンバル部とバッテリー内蔵のグリップ部は分離できる
バッテリ用のグリップ部
底部には2サイズの三脚穴
三脚兼用の延長グリップも付属

コントロール部はジョイスティックと録画ボタン、モード変更ボタンがある。電源は側面だ。アクセサリーポートが左右にあり、ここにスマホホルダーを取り付けたり、「RONIN-SC Proコンボ」の場合はフォーカスコントローラを取り付ける。

使い勝手のいいジョイスティック
前面には位置リセット用のトリガーボタンがある

「RONIN-SC Proコンボ」の場合は、RONIN-SCとカメラをUSBケーブルで接続し、制御を受け付けるカメラが必要だ。あいにく今回使用したカメラはRONIN-SCと接続できないタイプだったため、フォーカスコントローラは使用していない。コントロール可能なカメラの一覧はここ(リンク先はPDF)にあるので、購入を決心する前にチェックしていただきたい。

フォーカスコントローラ
レンズを支えるY字サポートも樹脂製となり、軽量化されている

また録画ボタンも、当然ケーブルコントロール可能なカメラしか使えない。ただ最近のミラーレスはアプリから録画開始できるものも多いので、リモート録画はそちらを使ってもいいだろう。

フル機能を使うにはカメラとアーム部間でケーブル接続が必要

前回RONIN-Sのレビューの際も触れた話が、ジンバルの良し悪しとは何か。補正力に関しては、すでにどのメーカーもそれほど大きな差はないと思っている。最も差が付くのは、バランスを取る際にどれだけ効率良く作業できるかの仕組みが備わっているかかがポイントだ。なぜならば、最初にバランスを取る際に、ネジを付けたり外したりカメラが倒れたりを延々と繰り返すような設計では、現場に入ってバランス調整まで、30分格闘しても終わらないような事になりかねないからである。

その点、RONIN-SCは良くできている。バランスは、まずカメラを装着して前後のバランス(チルト方向)を見るわけだが、この際、パンやピッチのアームが動かないよう、3軸それぞれにロック機構が備わっている。その後順次ピッチ、パンとロックを外していきながら、順番に調整できる。

3軸それぞれにロック機構がある

加えて、それらの調整が上手くいっているかどうかのチェック機構も備わっている。専用コントロールアプリ「Ronin」を使うと、調整したバランスのどこが甘いのかを教えてくれる。

アプリを使うとバランス調整の結果がテストできる

筆者も2015年に、当時としては格安だった6万円弱でミラーレス向けジンバルを購入したが、調整の効率が悪く、あまり稼働率が高くなかったという苦い経験がある。RONIN-SCはそれよりも安いのに、調整機能の使いやすさは比較にならない。

加えてカメラがスッと着脱できるかもポイントだ。バッテリーやメモリーカード交換の際にいちいちバランス取り直しになるような設計では、実用的ではないからである。

その点、RONIN-SCは、レールをスポッと抜いてバッテリー交換などしたあと、またレールをはめ直すだけだ。同じ位置に固定できるよう、マーカー兼用のスライドストッパーがあるので、ストッパーに突き当たるまで差し込んでネジ留めするだけで、元のポジションに復帰できる。廉価版でもこうした機構を省略しなかったのは、なかなか好感触だ。

レールを抜き取るだけで簡単にカメラが取り外し可能

高い補正力はそのまま

では早速撮影テストしてみよう。今回使用したカメラは、私物のPanasonic LUMIX G7だ。レンズは軽量化を図るため、G F2.5/14mmパンケーキレンズを使用した。

補正力だが、歩いても走ってもあまり変わらないという、高い補正力を誇る。多少の上下感はあるが、そのあたりは撮影者の技量次第であろう。

補正力テスト。歩き途中から走り出しても、補正力が変わらない

手持ち撮影時のFIX感も、なかなか高い。特に調整もなく、人の動きに対して滑らかに追従していくアルゴリズムはさすがのできばえだ。サンプルのラストカットは、地面にカメラを固定して、スマホアプリからチルトをコントロールした。こうしたゆっくりした動きは、ジョイスティックよりもスマホアプリのほうがコントロールしやすいようだ。

人の動きに対して綺麗に追従する
動きの滑らかさなどもアプリから設定可能

なお追従モードに関しては、3種類を切り換えることができる。どのような動きにするかは、スマホアプリのほうで設定できる。

3モードの動きは、スマホアプリで設定

多彩なクリエイト機能

Roninアプリには、パンチルトのコントロール以外にも多くの機能がある。今回はカメラコントロールケーブルなしで動作する2つのモードをテストしてみた。

Force Mobileはシンプルだが、使い出のある機能だ。スマートフォンとジンバルをBluetooth接続しておき、このモードをONにすると、スマホの動きに合わせてジンバルが動く。パンチルトコントローラよりも柔軟に、機敏にもゆっくりにも動かせるので、ジンバルを固定しておいてカメラマンがアングルをコントロールするという使い方が可能だ。重たいカメラとジンバルを振り回す必要がなく、振り回すのはスマホだけなので、長時間の被写体フォローでは楽できるだろう。

ForceMobileの動作

ただコントロール用のスマートフォン側で撮影中の映像が見えるわけではないので、遠隔で使用する場合はまた別途、モニター用のスマホかなにかを用意してカメラと接続しておく必要がある。しかし以前なら大がかりな機材を用意しなければできなかったことが、スマホでワイヤレスで可能になった点は大きい。

Active Trackは、Osmo Mobileでも採用されている機能だ。ある被写体をマークすると、それに対してずっと追従し続けるという、お馴染みの機能である。だがこれを、ジンバルとは独立したカメラでどうやってやるかがポイントになる。

まずスマホとカメラを一体化しないといけないので、付属のスマホホルダーを使って、カメラのアクセサリーシューにスマートフォンを固定する。その状態でジンバルに搭載し、バランス調整を行なう必要がある。

Active Trackはなかなか大がかりだ

と、書くのは簡単だが実際やってみるとなかなか大変だ。今回はiPhone XRを装着してみたが、XRはiPhoneの中でも大型機で重量もある。これをアクセサリーシューの上に装着すると、重量バランスがかなり上の方に行ってしまうので、まずチルト調整が合わない。

今回はカメラ下にカウンターウエイトを載せてバランスを取ったが、軽いカメラとレンズの場合、何らかのウエイトを用意して置いた方がいいだろう。スマホ側にはモーターパラメータの自動調整機能があり、それを使うとかなり安定する。いずれにしてもこの機能を使うには、カメラおよびスマートフォンの重量バランス、それからカメラ自体の高さなど、様々な要素を考慮に入れる必要がありそうだ。

モーターパラメータの調整は必須

実際に撮影してみると、結果的にはOsmo Mobileで撮影しているのと似たような結果が、ミラーレスカメラの撮影で実現する事になる。これはこれで非常に画期的なのだが、スマホカメラの見た目とミラーレスでの見た目のパララックス調整も行なう必要もあるので、ちゃんとやろうとすると意外に調整に時間がかかる機能だ。これだったら正直、人が見ながらジンバル側でマニュアル操作するか、前出のようにそのショットだけスマホとOsmo Mobileで撮影した方が全然早い。

Active Trackで撮影

「クリエイト」のこれ以外の機能は、カメラ側のシャッターを制御する必要があるため、コントロールを受け付けるカメラが必要になる。これらの機能は、すでに昨年RONIN-Sのレビュー時にテストしているので、詳細はそちらをご覧頂きたい。

総論

昨年リリースのRONIN-Sは、ワンハンドジンバルとしてはやや高級機であったものの、機能的にはさすがDJIと思わせる出来であった。今年のRONIN-SCは、その廉価版という位置づけにはなるが、機能的にはほぼ同じか、場合によってはちょっと上がっており、1年の進化が感じられる。

毎年これだけ良くなるなら、ずっと待ってた方がお得ではあるのだが、待ってるだけではいつまでもその恩恵に預かれない。RONIN-SCは価格的にも、「そろそろもうこんなもんか」と思い切れる価格設定となっている。

ただ、積載量がおよそ2kgまでなので、手持ちのカメラと使いたいレンズの組み合わせで重量がどのくらいになるか確認してからのほうがいいだろう。加えてActive Trackも使いたいなら、それにスマホの重量も足しておくべきだ。

マイクロ4/3やAPS-Cのカメラとレンズであれば、1kgを超えることもそれほどないだろうが、昨今はミラーレスでもフルサイズになってきている。そうなるとボディやレンズもほぼほぼ一眼レフ並みになってくる。加えてフォローフォーカスを追加するなら、モーターや固定用シャフトなどの重量も加算されていく。そういうところで、RONIN-SCとRONIN-Sの違いが見えてくるだろう。

ただそれでもライトに使えるジンバルとして、RONIN-SCは注目に値する。リモート雲台としても使える本格的ワンハンドジンバルが手軽に使えるようになったことは、映像業界としてもかなり大きなインパクトがある。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。