小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第970回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

完全ワイヤレスで人気のAVIOT、ピエール中野コラボも含む3種を聴く

今回テストした3モデル。左からTE-D01m、TE-BD21j、TE-BD21j-pnk

安定した人気のAVIOT

近年の完全ワイヤレスイヤフォンブームのスタート地点は、2016年初頭のEpickal AB「EARIN M-1」だったと思う。世界中から市場の拡大を予想して数多くのスタートアップが参入したが、認知度を決定づけたのは同年12月発売のApple「AirPods」であった。

AirPodsはそこから2年ほど不動のトップポジションを築いたわけだが、その間も多くのスタートアップが優れた製品をリリースしている。今回ご紹介するAVIOTも、そんなメーカーの一つである。

筆者が初めてAVIOTの名前を聞いたのは、2019年の「Qualcomm TWS Plus」対応デバイスとしてであった。左右別々にペアリングすることで左右間の音切れをなくす技術だが、当時いち早く対応イヤフォンをリリースしたのがAVIOTとNUARLだった。

そこから名前だけは知っていたのだが、今回は同時に最新モデル3つを試す機会に恵まれた。同社初ノイズキャンセリング搭載モデル「TE-D01m」、ハイブリッド・トリプルドライバー搭載の「TE-BD21j」、TE-BD21jのアーティストコラボモデル「TE-BD21j-pnk」だ。

AVIOTといえば数多くのアーティストコラボモデルもあり、今回のTE-BD21j-pnkで7シリーズ目となる。ベーシックモデルとコラボモデルの違いも含め、じっくり違いを確認してみよう。

マイルドなノイズキャンセリング?! 「TE-D01m」

同社としては初となる、アクティブノイズキャンセリング(ANC)搭載モデルがTE-D01mだ。オープン価格だが、同社オンラインストアでは12,375円。完全ワイヤレスかつANC対応としてはかなりリーズナブルだ。カラーバリエーションとしてコーディナルレッド、ブラック、ネイビー、パールホワイト、アイボリーの5色があり、加えて店頭モデル専用カラーとして、ヤマダ電機限定のロイヤルブルー、ビックカメラ限定のシルバーがある。今回試聴したモデルはネイビーだ。

TE-D01m製品パッケージ

ANCは複数のマイクが必要になるため本体部が大型になる傾向があるが、TE-D01mは日本人に合わせた小型モデルとなっている。形状はボディの一端がオーガニックに長く伸びて音導管を構成し、耳穴に深く挿入するスタイル。先端に小さめのイヤーチップを搭載するあたりは、Noble AudioのFALCOMシリーズに似た構造となっている。

耳にフィットしやすいオーガニックな形状

交換用イヤーピースは、SS、S、M、Lの4サイズ。タイプとしてはシリコン型のみだ。ボディ表面のゴールドの部分がタッチセンサーになっており、曲の再生・停止ほか、曲のスキップやボリュームのアップダウンに対応する。タッチセンサーの上にある穴がANC用マイクで、ボディ下部にある穴が通話用のマイクである。

付属イヤーチップはシリコンタイプのみ
中央ロゴ部分がタッチセンサー

内部は6mm径のシングル・ダイナミックドライバー。Bluetoothバージョンは5.2で、最大4デバイスまでマルチペアリング可能。対応コーデックはAAC、SBC、aptX、aptX Adaptiveとなっている。

ケースはかなり小さいが、コロンとしていて平たいわけではないので、カバンのポケットには収まりにくいかもしれない。充電時は本体を磁石で引き込むので、ピタリと吸い付く感じが心地よい。

ケースは小型だがコロンとした形状
キャリングポーチと充電ケーブルが付属

またスマートフォンとのペアリングに際しては、2020年3月に発表されたQualcomm TrueWireless Mirroringに早くも対応。これはQualcomm TrueWireless Plusの後継とも言える技術で、片方がペアリングすると、もう片方はその信号をミラーリングして受信する。TrueWireless Plusと違い、スマートフォンのペアリング画面上は1つしか表示されないが、ちゃんと両方に直接接続している。

TrueWireless Mirroring対応SoCは上位の「QCC514X」とミドル/エントリー向けの「QCC304X」だが、本機搭載SoCは「QCC3040」となっている。本機搭載のANCも、QCC3040のノイズキャンセリング機能を利用している。本機の連続再生時間は10時間と非常に長いが、これも新SoCの能力によるところが大きい。

AVIOTは音質面での評価が高いシリーズだが、TE-D01mは昨今のイヤフォンには珍しく、中音域に厚みのある音作りとなっている。ベースのハイトーンからストロークギター、男性ボーカルぐらいまでの音域で密度の高いサウンドを楽しめる作りだ。高域がうるさくないので、長時間のリスニングでも耳が疲れない、ある種優しい音と言えるだろう。'70~80年代初期ぐらいの、アナログマスター時代の音源では多少中音域過多に聴こえる事もある。一方最近の音源はかなりドンシャリになってきているので、それと組み合わせるとだいぶフラットに聴こえるはずだ。

音質は、「AVIOT Sound XXX」というアプリでイコライザー調整できる。いくつかプリセットがあるが、現時点では「Natural」と「Custom」設定でフルフラットにした状態で音質が同じになってしまうなど、バグがあるようだ。またイコライザの可変範囲が、最大で±3dBとかなり小さい。昨今のグラフィックイコライザでは±10dBから12dbぐらいまで可変できるのが普通だろう。微調整ができるという意味ではこれもアリだが、音質を大きく変えるにはかなり思い切って動かす必要がある。

専用アプリで音質がいじれる

本機のノイズキャンセリングは、アクティブ型とパッシブ型を組み合わせたものだ。ボディそのものが耳のくぼみ全体にぴったりフィットして外音の侵入を抑制し、耳奥にあるシリコンイヤーピースが耳栓の役割を果たすので、ANCをONにしなくてもかなり遮音性が高い。ANCは補助的な役割で、パッシブで防ぎきれなかった低音域のノイズを軽減する。AVIOTでは「マイルドANC」と呼んでいる。

交通量の多い道路脇にいると、ANCが「ドー」というロードノイズや「ゴー」という風切り音のような低域ノイズをカットしているのがわかる。完全に無音になるわけではないが、音楽を再生すれば十分にノイズはマスキングされる。

外音取り込み機能も備わっており、L側のセンサーを2秒押すとアンビエントマイクがONになる。この時音楽レベルが下がるが、どれぐらい音楽を下げるかは前出の「AVIOT Sound XXX」で設定できる。

外音取り込み時の音楽ボリュームも設定できる

トリブルドライバの2作目「TE-BD21j」

完全ワイヤレスとして初めてハイブリッド・トリプルドライバを搭載したのが、2019年発売の「TE-BD21f」であった。なぜハイブリッドと呼ぶのかというと、低域用にはダイナミック型を、中・高音用に2基のBA型を搭載しているからである。

11月下旬から発売が開始された後継モデル「TE-BD21j」では、同様にハイブリッド・トリプルドライバを搭載しているが、更なる高音質を目指して内部設計からドライバまで新規設計となっている。カラーはシャイニングレッド、ブラック、シルバー3タイプ。公式サイトでの価格は14,652円。

TE-BD21j製品パッケージ

ダイナミック型ドライバは9mmから8mm径にすることで、応答性を重視。BAドライバもそれに合わせて再チューニングされている。ボディ形状も単純な筒状だったものが、後部が卵型形状となっており、着脱時の指がかりが良くなっている。

指がかりをよくしたボディ形状

Bluetoothバージョンは5.2で、最大4デバイスまでマルチペアリング可能。対応コーデックはAAC、SBC、aptX、aptX Adaptive。TrueWireless Mirroring対応など、この辺りのスペックは今回の3モデルとも共通である。

イヤーチップはシリコン型3サイズ、フォーム型3サイズが付属する。ANCを搭載していないので、遮音性を求める場合はフォームチップに交換、というスタイルだ。ANCはないが外音取り込み機能は装備されており、L側の2秒押しという操作はTE-D01mと同じである。連続再生時間は9時間で、TE-D01mより1時間短いのは、おそらくドライバが多いせいだろう。

付属イヤーチップは6タイプ

表面のロゴ部分がタッチセンサーとなっており、再生・停止、ボリュームアップダウンなどに対応する。卵型先端の穴っぽく見える部分はステータスLEDで、卵型底の方の穴が通話用マイクとなっている。また本末転倒感はあるが、完全ワイヤレスにありがちな「片方どっか行った」問題を解決する、左右を繋ぐためのストラップが付属するのはユニークだ。

ロゴ部分の窪みがタッチセンサー
左右を繋ぐストラップも同梱
キャリングポーチと充電ケーブル

充電ケースも新設計となっている。TE-BD21fのケースよりもスマートな長方体で、外装はジュラルミン製となっている。強度のある素材を使ったため、丸みを持たせてなくてもよくなったのだろう。上蓋はスライドして開くスタイルだが、開き幅が狭いのでイヤフォンを取り出すには若干コツが必要になる。

ケースも新設計

サウンドの方は、低音の沈み込みも十分で、トリプルドライバの良さを感じさせる、レンジの広い音だ。特にライブ音源特有の、ドーンと低音の余韻が広がる空気感の表現は、これまでシングルドライバ機が多かった完全ワイヤレスではなかなか得られなかったところである。

トライアングルのような高域の金属音も綺麗に抜け、表現に無理がない。マルチドライバではともすれば高域の突き刺さるような出方が期待されるところではあるが、出過ぎてうるさい感じがなく、バランスをかなり念入りに調整しているようだ。若干中音域は控えめだが、表現力が低いわけではない。どフラットから、近年好まれる低音重視方向の音の方へ寄せたという印象だ。

本機は現在AVIOTシリーズとしては最も売れ筋モデルとなっており、執筆時点ではどの店舗も在庫切れの表示が目立つ。公式サイトでは1月25日以降お届け予定となっているので、その頃には在庫切れは解消されそうだ。

「ピヤホン」としては3作目、「TE-BD21j-pnk」

AVIOTのアーティストコラボモデルとしては7作目となる本機は、「凛として時雨」のドラマー、ピエール中野氏とのコラボだ。これが3作目のコラボであり、ピエール中野モデルは通称「ピヤホン」と呼ばれている。1人のアーティストで3回もコラボしているのは中野氏だけで、それだけ過去モデルも評価が高かったということだろう。

ベースとなったモデルは「TE-BD21j」で、ハードウェアスペックは全く同じだ。カラーはブラックにピンクゴールドのラインを組み合わせた、オリジナルカラーのみとなっている。

またパッケージもオリジナルで、キャリングポーチではなくしっかりしたキャリングケースが付属するのは、このモデルだけだ。付属イヤーピースは種類、サイズともTE-BD21jと同じだが、シリコンチップはボディカラーに合わせて黒になっている。

パッケージもオリジナルデザイン
キャリングケースも付属
イヤーピースは黒で統一

加えてTE-BD21j-pnkだけの機能として、専用アプリを使うことでアナウンスボイスを変更できる。デフォルトはアニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」の常守朱(CV:花澤香菜)だが、ドミネーター(CV:日髙のり子)も選択できる。

専用アプリでアナウンスボイスが変えられる

なおアーティストコラボモデルは公式サイトでは販売しておらず、一般の販売店のみとなるようだ。発売予定日は1月29日ごろとなっており、価格は2万円前後。

一番の違いは、サウンドだ。TE-BD21jと同じハードウェアだが、チューニングが全然違う。ベースの低音の膨らみは抑えて、ソリッドな仕上がり。バスドラとシンクロしていても、音的にはよく切り分けてある。低域は音切れを重視して、よりスピード感のあるサウンドに仕上がっている。

また中低音部を整理したことで、中音域の音の密度感が増している。また高域の伸びがよく、金物系の鳴りの良さはTE-BD21jよりもこちらの方が上だ。音楽の美味しいところをうまく捉えた、洗練されたチューニングと言えるだろう。シングルドライバと違ってトリプルドライバは、各々のカバーレンジや鳴り方を決めなくてはならず、いじるところが沢山あってチューニングはさぞや大変だっただろう。

総論

高音質で人気の高いAVIOTの最新モデル3つを聴いたわけだが、どれも特徴がある音で甲乙つけ難い。TE-D01mは遮音性が高く、音質的に注意をひく音ではないので、仕事に集中するためのイヤフォンとして使いたいところだ。ケースも小型でコロンとしているので、邪魔にならない。

TE-BD21jは、トリプルドライバを贅沢に使ったサウンドが魅力だ。低音の深い表現は特筆すべき部分があり、古い音源を聴いても今風に聞こえるという良さがある。高域は伸びがあるが派手ではないので、長時間のリスニングでも聴き疲れしない音である。

TE-BD21j-pnkは派手さを追求せず、分離感や粒立ちを重視したタイトなチューニングとなっている。TE-BD21jとハードウェアは同じなので、イコライザー設定で近いイメージにはなるだろうが、10バンドで±3dBでは可変領域が足りないので、全く同じにはならない。音楽に集中したいときにいい音質だが、注意を引く音なので、仕事中に使うにはあまり向いていないかもしれない。

なお今回はGoogleのPixel4a 5Gをリスニングに使用したが、3台ともBluetoothの再接続に不安定なところがあった。メーカーに確認したところ、Pixel4a 5Gは今回の3モデルをGoogle Fast Pair非対応なのに対応端末だと誤認識するようで、他のGoogle Fast Pair対応スマートフォンでは問題ないという回答を得た。実際手持ちのウォークマンA100シリーズでは再接続に問題は見られなかった。

今回の3シリーズは、作りの良さに反して意外に低価格で販売されており、音質面を考えれば非常にコストパフォーマンスが良いモデルとなっている。リモートワークの増加でイヤフォンに求められる性能も変わってきているところだが、ちょっと音で気分を変えたいという場合にいい選択肢となるのではないだろうか。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。