小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1094回
長焦点ホームプロジェクタ初Dolby Vision対応、XGIMI「HORIZON Ultra」使ってみた
2023年9月27日 08:00
今年プロジェクターが熱い?
AV機器としてホームプロジェクターは昔から注目度の高いジャンルだ。とはいえ、家庭内にホームシアター的な部屋を確保し、きっちりとしたプロジェクターを設置できる方は限られるのもまた現実である。
ところがここ数年、Ankerやemotnといった中国メーカーがハンディかつ廉価なプロジェクターを次々とリリースし、プロジェクターで動画鑑賞という敷居をグッと下げてきた。
XGIMIは2021年発売の「XGIMI Halo+」で注目されたメーカーで、2022年にはシーリング型プロジェクターの走りであった「popIn Aladdin(現:Aladdin X)」を傘下に収めるなどして、事業拡大を続けている。
今回ご紹介する「HRIZON Ultra」は、4K対応のホームプロジェクターで、新開発の光源による明るさと高色域を武器に、一般的な長焦点ホームプロジェクターとしてははじめて「Dolby Vision対応」となった。価格は直販サイトで279,800円。すでに9月22日から販売が開始されており、早速貸し出し機をお借りすることができた。
2,300 ISOルーメンを叩き出す新光源「Dual Light」の威力を、さっそく試してみよう。
ハイエンド感のあるボディ
Dolby Vision対応ともなると、外寸1m近い巨大プロジェクターが天井から吊ってあるイメージだが、「HORIZON Ultra」の外寸は265×224×170mmと、それほど大きくない。ボディカラーもオフホワイトで表面にPUレザーが貼られており、ロゴやエッジ部分にはミスティゴールドを採用。一見すると高級アンプかスピーカーのようにも見える。
正面からはレンズが見えないが、電源が入るとレンズカバーが自動的に下に降りてレンズが出現するという演出だ。
新開発の光源「Dual Light」は、3色のLEDと赤色レーザー光源を組み合わせたもので、今年5月に発表されていたものだ。HORIZON Ultraはこの「Dual Light」が採用された初のプロジェクターということになる。
これまでLED光源は安価で安定した色再現性が可能として多くのプロジェクターで採用されてきたが、輝度が稼げないという欠点がある。一方レーザー光源は輝度が稼げるものの、光源としては高価で、レーザースペックルと呼ばれるランダムノイズが発生するという弱点がある。レーザースペックルは性質として利用すれば非接触測定などへの応用も可能だが、映像鑑賞という点では問題になる。
XGIMIのDual Lightは、この両方の欠点を補完するために、LEDとレーザーの両方の光源を組み合わせることで、輝度を稼ぎつつ高い色再現性を確保した。HORIZON Ultraの輝度は2,300 ISOルーメンとなっている。
ディスプレイチップは0.47インチのDLPで、表示解像度は3,840×2,160ピクセル。投影サイズは40インチから200インチで、最良の環境としては60インチから120インチが推奨されている。
スピーカーは表面からは見えないが前面下部にあり、12W×2のHarman/Kardon製。ドルビーデジタルプラスおよびDTS Virtual:X対応となっている。
端子類は全て背面で、DC電源、LAN端子、USB2.0×2、HDMI入力×2、光デジタル音声出力、3.5mmアナログ(ヘッドフォン端子)となっている。一番右は電源ボタンだ。消費電力は300Wで、かなり大きめのACアダプタが付属する。映像対応形式としては、HDR10、HLG、Dolby Visionに対応する。
搭載OSはAndroid TV 11.0で、ワイヤレスまたはワイヤードでネット接続すれば、映像配信サービスから直接配信が受けられる。そのままではNetflixはインストールできないが、先に「Desktop Launcher」というアプリをインストールし、そこからインストールできる。
リモコンもボディ部はミスティゴールドで統一。操作ボタン部のみ黒となっている。操作としてはAndroid TV標準ボタンが並ぶが、一番下にオートフォーカスボタンがある。
「明るいは正義」が実感できる
本機は底面に三脚穴があり、天井など設置場所を固定して設置することも可能だが、サイズ的にはそれほど大型でもなく、重量も5.2kg程度なのでそれほど重くはない。したがって普段は棚にしまっておき、使いたい時に机やテーブル等によっこらせと設置するといった使い方ができる。
底部には仰角を付けるためのスタンドがなく、平置きとなる。ただ投影方向はやや上向きになっており、だいたい本体の位置が投影画面の下限になるぐらいと思っていただければいいだろう。本体側で仰角を付けなくてもあまりは問題ないと思われる。
テンポラリ的な設置だと使うたびに微妙に位置が変わるわけだが、Intelligent Screen Adaption 3.0という機能がサポートしてくれる。フォーカスや台形補正といった調整がすべて自動化されており、投影面へ向けて電源を入れればあとは自動で調整される。もちろんマニュアルでの微調整も可能だ。
また光源とスクリーンの間に物体を検知すると、自動的に投影をOFFにする「自動視力保護」機能も搭載されている。不意に子供が入ってきて光源を見てしまい、目にダメージを与えるといった事故を防ぐ機能だ。
Turbo Lightという機能も面白い。環境光が強い場合に光学ズームを使って投影面積を縮小し、輝度を上げるというものだ。電子的な縮小ではなく光学処理なので画質劣化もなく、投影面積を絞れば物理的に輝度は上がる。この価格で光学ズームを備えているプロジェクターは珍しい。
投影する壁の色を検出して色を補正するため、オフホワイトの壁などに投影しても色がシフトすることなく、正しい色再現性が得られる。このあたりは、どこに置いてもどこに射ってもいいという、ポータブルプロジェクター的な発想が感じられる。
実際2,300 ISOルーメンがどれぐらいの明るさかというと、夜間に照明を消した部屋でプロジェクターから白が投影されると、その反射光だけで部屋の様子や手元がほぼ見えるぐらいである。さすがに映画館のプロジェクターには適わないが、プチ映画館的な光量がある。
規格上Dolby Visionのコンテンツは、明るさ10,000nits、暗さ0.005nitsと規定されている。プロジェクターで表示する場合、暗さは部屋の遮光次第という事になるわけで、いくら明るい光源とはいっても、Dolby Visionの映像を体験したいのであれば、やはり夜間に見る方がいいだろう。
YouTubeで公開されている4K・HDR映像を投影して写真を撮ってみたが、プロジェクター投影としては十分なダイナミックレンジと発色が得られているのがお分かりいただけるかと思う。今回はAmazon Prime Videoで4Kコンテンツを各種試してみたが、およそ100インチの投影面積ながら映画館のような没入感が感じられ、コンテンツに集中できた。ストーリーを追うだけといった視聴スタイルではなく、ちゃんと絵作りを鑑賞したいなら、これぐらいの表現力は必要だろうと感じさせる。
オーディオに関しては、 Harman/Kardonの12W×2ということで、低域までバランス良く鳴るが、スピーカーが前向きなので、本機の後ろから視聴する場合は若干音がOFFになる。また正面から聴けるように本機を設置できるわけでもないので、いくらドルビーデジタルプラスやDTS-Virtual:X対応とはいえ、効果は限定的だ。音にもサラウンド感をを求める場合は、オプチカル出力やHDMI ARCもあるので、別途サウンドバーを用意した方が確実だろう。
「Dual Light」とはどういう技術か
本機で採用されている「Dual Light」とは、色域はDCI-P3で95.5%、BT.709で99.9%をカバー、色精度としてはDelta Eが約1と、プロ用カラーモニターに匹敵する性能を誇る。RGBのLEDと赤色レーザーを組み合わせた技術であるということは公式発表にもあるが、逆に言えば公式発表以外のことがよくわからない。例えばなぜ赤色レーザーだけを足せば輝度が上がるのか。あるいは赤色だけ光源が二重になるのに、どうしてカラーバランスが壊れないのか。
そこでXGIMIの技術者にメールで質問してみたところ、回答をいただけたので、以下に掲載する。
Q:レーザーは赤色だけのようですが、赤色だけでなぜ全体的に輝度が上がるのでしょうか。Rだけ強いとRGBのバランスが壊れるように思えますがが、どのようにしてバランスを取りつつ、全体の輝度を上げているのでしょうか。輝度を上げるなら、色差信号の例もあるように、Gを追加するのが妥当のような気がしますが、なぜ赤色のレーザーを採用したのでしょうか。
A:赤色レーザーの選択は、投影技術の背景にある光学原理と特性に基づいています。
緑色レーザーと緑色LEDの波長が比較的重なっているのとは異なり、赤色レーザーとLEDの波長は比較的開いています。赤色レーザーはもっとも容易にLEDと結合することができ、これらの波長分離が光源の共同作業の助けになり、プロジェクター全体の輝度を向上させることができます。さらに、赤、緑、青のLEDの輝度はそれぞれ異なる速度で減衰し、赤色LEDが最も速く減衰するため、赤色レーザーを使用することで、この輝度差を効果的に補完し、RGBのバランスをよりよく把握することができます。
輝度を上げるために緑色レーザーを使うというアイデアにも一定の合理性があると考えています。ただし、私たちは輝度だけでなく、色彩など画質の指標も考慮した結果、我々の研究開発チームは詳細な技術分析と検証を行った結果、赤色レーザーを選択しました。XGIMIのデュアルライトテクノロジーはLEDの欠点を補うために赤色レーザーを使用しており、光学効率と技術的実現可能性の面で、現段階では家庭用スマートプロジェクターに最適な技術選択であると考えます。
なるほど、投影結果も赤色の表現に濃さと深みがあり、人間の目には効果がわかりやすい。このあたりが赤色レーザーを併用するメリットと言えそうだ。
そのほか技術的な解説については、英文だがここに解説がある。興味のある方はご一読いただくと、LEDやレーザー光源の課題が整理されているので、参考になるだろう。
総論
モバイル、あるいはポータブルプロジェクターという文脈から見れば30万円弱という価格は高く見える。だがこれをテレビベースで考えると、80インチ越えともなれば30万円ではとても買えないわけで、輝度としては100万円を超える本格的な設置型プロジェクターと遜色なく、さらにLEDとレーザーのいいとこ取りをした新光源ということを考えれば、十分に安いと言える。
昨今は「テレビ」を買っても、「テレビ放送」を見ない人も増えた。アニメなども今は配信サービスで一気見するという流れもあり、それならチューナーなしのプロジェクターのほうが断然目的に適う。ただ昼間は低コントラストでしか見えないという難点はあるが、カーテンを遮光タイプに変えるなどすれば、ある程度はカバーできるだろう。
Dolby Vision対応は1つの目安となるものの、HORIZON Ultraは輝度、発色、本体サイズ、価格という面で競争力がある。今後Dual Lightは、プロジェクタ業界のゲームチェンジャーとなる技術でもあるのではないだろうか。