小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1108回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

今、CDが新しい。全能感がすごい! バランス出力ポータブルCDプレーヤー、SHANLING「EC Mini」

SHANLING「EC Mini」

再評価が始まったCDクオリティ

ネットの音楽配信が日本で本格化したのは2015年の事だった。なんと半年の間でAWA、LINE MUSIC、Apple Music、Google Play Music、Amazonプライムミュージックと5つもサービスが立ち上がり、ようやく日本が世界に追いついた年だった。

筆者も聴きたかった古い楽曲が聴けるようになり喜んだわけだが、1~2年後に「そう言えばちゃんとしたCDプレーヤーを今のうちに確保しておいた方がいいのではないか」と思い立ち、色々調べたのだが、昔あれほど沢山あった高級オーディオCDプレーヤーが全く市場から消えていて衝撃を受けた。

もちろん、パソコンからCDをリッピングして聴けばいいのだが、CD直で再生するという文化が無くなっていいのか、という思いもあった。それから数年、昨年あたりから配信技術やBluetoothコーデックの向上により、CDクオリティでロスレス、という流れもできていた。今となっては16bit/44.1kHzは高いスペックではないが、CDに記録されたデータをそのままDAコンバートして聴くという世界もあっていい。

そんな折、バッテリーを内蔵し、バランス出力もできるCDプレーヤー、SHANLING「EC Mini」が登場した。昨年12月6日から発売が開始され、店頭予想価格は54,450円前後と、それほど高くない。

CD再生だけでなく、メモリー再生とDACでは最大384kHz/32bitまでのPCMとDSD 256にも対応する。“CDも聴けるハイレゾ音楽プレーヤー兼DAC”という本機を、さっそく試してみた。

スロットイン型のシンプルボディ

EC Miniはシルバーとブラックの2モデルがある。今回はブラックモデルをお借りしている。

EC Miniブラックモデル

かつてのポータブルCDプレーヤーは、上蓋をパカッと開けてCDをセットするスタイルが主流だったが、本機はスロットイン型ドライブを採用している。従って横幅は昔懐かしい5インチベイサイズ相当ではあるが、高さは35mmとだいぶ低い。ボディは筒型の金属シャーシだ。

CDドライブはスロットイン方式

重量は約1.2kgで、6,800mAhのバッテリーを内蔵し、CD再生は約7.5時間、メモリーカードからの再生は約25時間となっている。ただしファイルフォーマットによって多少変動するようだ。

フロントパネルには電源およびCD操作ボタンとボリュームがあり、ヘッドフォン端子は3.5mmのアンバランス出力と、4.4mmのバランス出力の2つを備える。

最低限の操作は前面ボタンで可能
バランス型イヤフォンが使えるのが強み

上部にはスキップボタンと、タッチ式カラー液晶パネルがある。CD操作はボタンのみで行なえるが、それ以外の操作はすべてこのタッチパネルでコントロールする。

ほとんどの機能はタッチディスプレイで操作する

背面にはBluetoothのアンテナがあり、Bluetoothイヤフォンも使用できるほか、スマホと接続してリモートでの再生操作にも対応する。USB-C端子は充電用とDAC用の2つが装備されている。DAC用のほうはUSBメモリーも挿すことができるため、あえて充電端子と分けたのだろう。

背面端子

その右にはmicroSDカードスロットがある。アナログアウトはRCAのみで、XLRはない。DACとしては若干物足りないが、ポータブル機であることを考えるとそこまではやらないという事だろう。

車載モードへの切り替えスイッチもある。車載モードではCDの音飛び防止機能がONになるほか、USBからの給電と連動して電源がON・OFFするようになる。

メモリーカード再生時のフォーマットは多彩で、ほとんどのものは再生できると考えていいだろう。対応サンプリングレートは、384kHz/32bit、DSD 256となっており、DAC動作時も同様だ。

メモリカード再生対応フォーマット

DSD (".iso",".dsf",".dff") / DXD / APE / FLAC / WAV / AIFF / AIF / DTS / MP3 / WMA / AAC / OGG / ALAC / MP2 / M4A / AC3 / OPUS / TAK / CUE
※ISO形式のDSTエンコードは非対応

クオリティの高いCD再生

まずはCDをベースに、再生機能を試してみよう。本機はCD再生、DAC、メモリー再生など複数のモードを持つが、CDモードへの切替はフロントパネルにボタンがある。またCDをスロットインするとCDモードになる。

ローディングに数秒かかるが、あとは再生ボタンを押すだけだ。今回は同社からバランス型イヤフォン「MG600」もお借りしているので、バランス接続で聴いてみる。

試聴に使用したのは、配信音源化されていないものがいいだろうということで、ドイツのPropagandaがZTTレーベルから離れて1990年に発表した「1234」である。無名のシンガーBetsi Millerをオーディションで獲得し、Simple Mindsのドラムとベースが合流する形でレコーディングされたものだ。当時まあまあヒットしたので、聴いたことがある人もいるだろう。

バランス接続できちんとアースが落ちているということもあり、完全無音状態から音が立ちあがってくるのは気持ちがいい。「MG600」の特性もあるだろうが、音質としては硬質で輪郭がはっきりした音だ。オリジナルに忠実な再生なのだろうが、昨今の音楽バランスからすると低音がやや弱い。

CD再生中の画面表示

本機にはEQも内蔵されている。CD再生中にはホームメニュー画面には戻れないが、液晶画面を上から下にスワイプすると、サブメニュー画面にアクセスできる。ここの「再生設定」から「EQ」を選ぶと、グラフィックEQが使える。音楽ジャンル別に8種類、カスタムとしてオリジナルEQが3つプリセットできる。ゲインはプラスマイナス6dBだがバンドが細かいので、多くの人は満足できる音質に補正できるだろう。

音楽再生中にもアクセスできるサブメニュー
グラフィックEQも使用できる

Bluetoothヘッドフォンも使用できる。LDAC / aptX/ AAC/ SBCに対応しており、ハイレゾ再生にも対応できる。今回はEDIFIERのSTAX SPIRIT S3を接続してみたが、接続コーデックがディスプレイ上で確認できるのは親切だ。LDAC接続では音質優先や接続優先といったモードもあり、音楽プレーヤーとしても十分な機能を備えている。

なおBluetoothで接続すると、有線ヘッドフォン端子はミュートされる。排他仕様になっているようだ。バランス端子は抜き差ししても優先順位が変わらないようだが、アンバランス端子は接続するとBluetooth側の再生が止まり、アンバランスのほうに切り替わる。アンバランスを抜けばBluetoothに切り替わるので、アンバランスとBluetoothは同位プライオリティのようだ。使用頻度からしても妥当な順番だろう。

なおネット接続機能がないので、CDを挿入してもCDDAからジャケットを引っぱってきたり曲名を表示する機能はない。CDプレーヤーとしてはいたってシンプルだ。

高機能なハイレゾ再生機能

続いてはCD以外のソースとして、ローカルファイル再生機能を試してみる。かつてハイレゾ音源配信は今のようにストリーミングではなく、購入してファイルダウンロードする方式が主流だった。今でもそうしたファイルを保有している人もいるだろう。今回はそうしたファイルをmicroSDカードにコピーして、聴いてみる。

モード選択で「Local Files」を選択すると、ファイルライブラリへのアクセス画面となる。「フォルダ」からファイルを探して再生できるほか、ファイルにメタデータがあればアーティスト別やアルバム別に再生することができる。今回は24bit/96kHzのWAVや24bit/88.2kHzのFLAC、DSD 128のファイルしか用意できなかったが、どれも問題なく再生できた。

メタデータがあればジャケットなども表示できる

ただファイル再生は、本体の小さな液晶画面で操作するのは面倒と言えば面倒だ。そこでEC Miniでは、スマホで再生をコントロールするためのツール「Eddict Player」に対応させた。

本体でBluetooth設定をSyncLinkに設定すると、スマートフォンと本機がBluetoothで接続される。この上で「Eddict Player」を使用すると、メモリカード内のファイルをスキャンしてファイルのメタデータを読み取り、アーティスト別、アルバム別などでファイルの再生が可能だ。

「Eddict Player」での再生画面

その代わり「Eddict Player」使用時には、Bluetoothイヤフォンと共存できないので、有線イヤフォンとライン出力のみ使用できる事になる。

SyncLinkがONになっている時は他のBluetooth機能は使えない

次にDAC機能を試してみた。パソコンとUSB-Cで接続することで、最高384kHz/32bit、DSD 256まで対応するDACとして機能する。今回はM2 Pro版MacBook Proと接続しているが、Mac側で384kHz/32bitに設定しても、EC Miniでは48kHz/24bitという表示から変わらない。マニュアルの記載によれば、正しいサンプリングレートが表示できないのは「仕様」となっている。なお本機側にはアップサンプリング機能はないので、パソコン側で設定したサンプリングレートそのままで動くだけ、という事だろう。

DAC使用時のサンプリングレートは正しく表示されない

背面のLINE出力からパッシブスピーカーに繋げば、ミニマムなデスクトップオーディオが完成する。ハイレゾ音源をわざわざメモリーカードに移して聴くより、DACとして聴いた方が取り回しはいい。電源もUSB-Cということで、デスクトップ回りで非常に使いやすい設計となっている。

そのほか音源としては、スマートフォンに対してレシーバーとしてBluetooth接続し、スマホの再生音を鳴らすという使い方もできる。パッシブスピーカーがBluetooth対応でない場合や、ちゃんとしたオーディオセットでスマホ音源を鳴らしたいといった際には、中継機としても使える。

総論

最初はハイエンドCDオーディオプレーヤーとしての期待が高かったのだが、使ってみるとそれ以外のファイル再生やDACなど、なんにでも使えるオーディオハブといった方向性の製品であることがわかった。

ホコリを被っていたCDを改めて引っ張り出して、バランスイヤフォンで聴きまくるというのも楽しい使い方だが、日常的にデスクトップオーディオとしても使える製品に仕上がっている。ただバッテリー内蔵のポータブル製品というコンセプトなので、LINE出力がRCAのみなのが惜しまれる。

ポータブルCDプレーヤーとしてはバッテリーだけで7時間ぐらい再生できるので、「持ち歩く」ということも考えられなくもない。ただ重量が1.2kgあるので、こんなずっしりしたCDプレーヤーをカバンの中に入れて聴くというケースが実際あるのかどうか。まあ持ち歩く人の根性次第という事だろう。

個人的には、ハイレゾ音源配信サービスには加入しているが、ちゃんとハイレゾで聴ける環境がないという方へ向けた、“万能DAC”という使い方をお勧めしたい。これと良いヘッドフォンがあれば、十分ハイレゾが楽しめる。

一点惜しいのは、操作のメインである液晶ディスプレイの反応が今一つ良くないところだ。左スワイプで前の画面に戻るのだが、うまく戻れず表示中のメニュー内に進んでしまうことが何度かあった。サッと操作するのではなく、ゆっくりめに操作するといいだろう。

価格の割には非常に高機能で、コスパの高い製品である。他にこれといった競合製品もなく、もう少し注目されてもいい製品だ。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。